※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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ここから十六章です。
エロシーンはありません。


十六章
やっぱり酔ってる多輝


 うええ、と呻きながら多輝が床にへたり込む。水輝は阿呆、と呟いて疲れた身体をソファに放るようにして腰掛けた。すっかり夜が更けた屋敷の中は静まり返っている。奈月は先にベッドに入るように言ったから今ごろはいい夢でも見ているだろう。

 

「気持ちわりぃ」

 

 しかめ面で言って多輝が胸を押さえる。それを横目に水輝は鼻で嗤った。

 

「慣れないのにがっつくからだ。お前の場合は力酔いだな」

 

 嗤いながらの水輝の言葉に多輝が顔をしかめて何事かを言い返そうとする。だが言葉を口にする前に気持ちの悪さに襲われたのか、口許を押さえて青い顔をして床にへたり込む。

 

「水輝さん。助けに来てくれて、わたし、嬉しかったです」

 

 屋敷に戻ってすぐにシャワーを浴びに行っていた佑がそう言いながら部屋に入ってくる。おう、と声に答えて水輝は佑に手招きをした。ガウンに身を包んでタオルを頭に巻いた佑が心配そうに多輝の顔を覗きこむ。

 

 あれから屋敷に戻った後、多輝はしばし呆けていた。あんな風に誰かと交わったのは初めてだったからだろう。水輝と佑がいつも通りに戻っても多輝はしばらくぼんやりとしていた。その間に佑はシャワーに、水輝は汚れた服を着替えてメイドに茶を運ばせた。夜間だというのに生真面目なメイドは三人分の茶と菓子をきっちり用意して運んできた。ソファの前のテーブルにはそれがきっちりと並べられている。

 

「多輝、ごめんね。わたし、龍神に成った渚さんが、あんな不注意な言動をするとは思わなかったから」

 

 頭から信じてしまって……。心底申し訳なさそうに佑が詫びる。すると青い顔をしつつも多輝は何とか笑いに見えるものを浮かべて平気だと頷いた。

 

「しかし渚もどうにかならないもんかな。あの阿呆、人の防御壁も綺麗に壊してくれたし」

 

 そうぼやきながら水輝はため息を吐いた。多輝を支えてソファに歩み寄った佑が静かに腰掛ける。その隣に座らされた多輝はやはり気分が悪そうに胸を押さえている。

 

「いくらなんでも、これで当分は大人しくしてると思うけど」

 

 覚悟してたとはいえ、けっこうショック受けてたみたいだし。子を気遣う母親よろしく多輝の手にマグカップを一つ押し付けつつ佑が言う。そうだな、と呟いて水輝は肩を竦めた。性交時に処女血を啜るのは水輝にとって特に珍しいことではない。噛み付いて血を啜るのは相手が限定されるが、これもまた水輝にとってはごく当り前の行為だ。が、それを実際に目にした祐は驚いたのだろう。それも判る。だが水輝があの二人に行動を遮られたというのも事実なのだ。

 

「祐については水輝さんが気にする必要はないわ。必要ならわたしが処置するし」

「あいつは渚の所有物だから、渚が大人しくしていれば特に問題はないだろ」

 

 まあ、耳は勝手に治してくれやがったらしいが。そう呟いて水輝は左の耳を押さえた。聞こえなかったはずの耳は今ではもうごく普通に音を捉えることが出来る。だがそれは同時に立城の声が二度と聞こえないということでもある。

 

「やっぱり、忘れてたのね。あれ、一応、まだ水輝さんのものなのよ?」

「核の属性はさっき書き換えたぞ」

 

 しれっとした顔で告げて水輝はマグカップを取った。漸く少し冷めた紅茶を用心深く啜る。

 

「システムのほうも書き換えないと、壊れるわ……って、もういいか。運が良ければ助かるだろうし」

 

 疲れたようにため息を吐いて佑がソファに背中を預ける。水輝はそうだな、と答えて何気なく多輝を見た。相変わらず気分の悪そうな顔はしているが、少しは落ち着いたのだろう。多輝は少しずつ紅茶を飲もうと努力している。だが、時折、その顔が歪む。

 

「お前の方もそろそろ何とかした方が良さそうだが……外で人間をあんな風に食うなよ」

 

 一応の忠告を口にすると多輝は不服そうな顔をして水輝を睨む。だが特に文句もなかったのか、黙ってまた紅茶を啜ろうとする。

 

「今回は特別だったんだから。見境なくああいう行為を繰り返せば、祐が言ってたように外道と化すわ」

 

 子を叱る親のように佑が淡々と多輝を諭す。多輝はカップを口につけたところで手を止めて判ってる、と呟くように答えた。だがそこで顔をしかめて唇を引き結ぶ。どうやら多輝には渚の力は少し強すぎたようだ。

 

「じゃあ、あいつの論法だとおれは外道ってことか」

 

 笑いながら言って水輝は佑をちらりと見た。多輝の背を撫でながら佑が眉を寄せる。

 

「水輝さんは別よ。境界を知り尽くしているから」

 

 だからこそ、外道を狩る事ができるんだし。納得顔で言った佑に笑いかけて水輝はマグカップを両手に包み込んだ。

 

「……境界に生きる者、か」

 

 何となく呟いて水輝はふと目を上げた。多輝が怪訝そうな目で水輝を見つめ、佑はそんな多輝の背を撫でながら不安そうな顔をしている。ああ、と呟いて水輝は何でもないと首を横に振った。

 

 順の力を借りる代わりに水輝は自身の夢を売った。夢といっても漠然としたものではない。夜毎に見る夢のうちの幾層かを実際に引き渡しただけだ。人の夢とは異なり、龍神の見る夢はそれそのものに力が宿る。結果的に順の元にいる克人が水輝の夢を食い力を増し、そして夢魔の力は紫の身体に卵を産む。やがて紫は卵から孵った蟲を産み落とす。

 

 この場合、誰が悪いんだろうな。水輝はぼんやりとした目でカップを見つめて胸のうちでそう呟いた。

 

「決めるのは奈月さんよ。本人に自覚があるかないかは別として」

 

 って、渚さん、思考障壁破ってくれたのはいいけど加減ってものを知らないのね……。そう続けた佑に水輝は苦笑してみせた。初めて水輝の意識を垣間見たからだろう。多輝は気分の悪いことも忘れたように目を見張っている。

 

「あー、まあ読まれて特に問題は……ああ、お前の場合はあるが」

 

 多輝を見つめて水輝は言葉を濁した。だがもう、多輝はただ守られるばかりの赤ん坊ではない。そう、水輝が考えたと同時に多輝は青白い顔をしつつも頷いた。

 

「おう。おれだって何か出来るだろ。それに、先に知ってれば余計なこともしなくて……済むかもだし」

 

 途中で顔を曇らせて多輝がちらりと佑を伺う。だが佑はそんな多輝の背を優しく撫で続けている。

 

「でも、プライベートな部分を避けたりとか器用なことはできないでしょうから、わたしが、八大クラスとして一般的な範囲で防壁張っておくわ」

「逆流さえ防げば問題ないだろ」

 

 そう言って肩を竦めて水輝はじっと多輝を見つめた。ざっと力の流れを読んで眉を寄せる。確かに多輝の封印は少しずつとけている。それも蒼を鍵に設えた筈の封印が立城の不在によって思った以上に早く解けつつあるのだ。

 

「参ったな……。道理で渚の力に酔うはずだ」

 

 今の多輝には外からの力を得るには支える力が足りなさ過ぎる。水輝は渋い顔でマグカップ置き、腕を組み合わせた。

 

「宇田川さんがあるから大丈夫よ。あれはある意味安定化装置だから」

「彼女じゃ少しサイズが追いつかないんだ。覚醒はしつつあるが」

 

 そこまで言って水輝はふと視線に気付いて目を上げた。多輝が青い顔をしつつも嫌そうな表情を浮かべている。器用な奴め、と呟いて水輝は顎をしゃくった。

 

「あれは巫女だ。お前もその属性はあるが、あっちはもっと典型的なんだよ。お前からはみ出した力を彼女が引き受けてる訳だが」

 

 特に隠す必要もないだろう、と水輝は説明をした。これまでその手のことの一切から遠ざけていただけあって、多輝の驚き方は強かった。息を飲んで絶句した多輝を宥めるように佑が背を撫でる。

 

「だからといって、わたしと交わるのもリスク高いし……。正直、わたしでさえ正気を保ってる自信ないから……」

 

 考えるようにしばらく唸ってから佑がそうだ、と明るい声を上げる。水輝は言ってみろ、と苦笑して佑を促した。

 

「女にして、水輝さんが抱くっていうのはどうかしら?」

「おれのを食らったらこいつ、酔うだけじゃ済まないぞ」

 

 苦笑したまま言って水輝はまじまじと正面に並ぶ二人を見比べた。多輝は話題にされているのが自分だからなのか、妙に小さくなっている。佑は不思議そうな顔で水輝を見つめ、首を傾げる。しばらく二人を見つめてから水輝は組んでいた腕を解いた。




エピソードがまた長いので分割します。
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