※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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エピソードとしては十六章の頭からここまでが一塊でした。
分けてますのでちょっち切りが悪いところがあるかもです。
エロシーンはありません。


内緒の会話と改造開始

「阿呆。出来ないことをしようとするからだ。大人しくおれに最初から言えばいいものを」

「だってぇ。水輝ちゃん、優一郎くんとらぶらぶだったじゃーん。そんなヒマなさそうだったしさあ」

 

 間延びした言い方をしつつ順が頭の後ろで手を組む。ふん、と鼻で嗤って水輝はソファに戻った。伸びた煙草の灰を灰皿に落としてから静かに腰掛ける。水輝を追って来た順も身軽にソファの背を飛び越えて腰を降ろした。ちゃっかりと手付かずだった佑のマグカップを取る。

 

「それで? 桜はどうなんだ。捌けそうか?」

 

 結界内にもう一枚の結界を注意深く張ってから水輝はそう問い掛けた。ああ、と苦笑した順が何ともなあと頭をかく。

 

「難しいね。なまじ経験あるからやっぱ上手いよ。ああいうのこそ放し飼いにしないでくんないかなあ、もう」

 

 不服を唱える順に悪い、と苦笑して水輝は唇に煙草を挟み直した。ホントだよ、とぼやいて順が温くなった紅茶を喉に流し込む。

 

「こっちは何とか抑えたぞ。……まあ、必要だったしな」

 

 渚の力は予定通りに佑の身体に注がれた。胎の珠はストレートにそれを吸収している最中だ。順がおっけー、と笑って目を上げる。

 

「しかしまあ、結局のトコ、オレと水輝ちゃんってどうも離れられないね」

 

 ひょっとして運命の恋人かしら、いやーん。と勝手なことを言ってはしゃぐ順を水輝は呆れた顔で睨みつけた。冗談だよ、と順が笑って手を振る。

 

「仕方ないだろ。元々、青龍神と火龍神は表裏だからな。それも他の属性よりずっと強い結びつきがある。……出来ればおれは女相手の方が良かったな」

「ありゃ。意外とつれないね」

 

 あはは、と笑って順が変にしなを作る。水輝はしかめ面で阿呆、と貶してからソファにもたれかかった。今ごろ佑は怒りに燃えて作業中だろう。

 

「まあでも正直なトコ、男同士でよかったんじゃないの? 男女の組合せだとロクなことにならない気がするよ」

「……よく考えたらお前は変態だからどっちでも関係ないのか」

 

 苦悶の表情を浮かべて呟いた水輝に順がえー、と不満そうに声を上げる。水輝はその通りだろうが、と眉を寄せて呟いた。現に順は取り引きを持ちかけた水輝を嫌というほどに抱きまくったのだ。

 

「龍神の性別がナンボのもんだよ。どうせ気にしちゃいないくせに、なに気取ってんのさ」

 

 肩を揺すって笑いながら順がポケットから煙草を抜く。火を点けて美味そうに一口吸ってから順は細く煙を吐き出した。

 

「そんで? 奈月ちゃんはどうすんの? アレ、ちょっと予定外だよ」

「別に問題ないだろ。そのうち座位はまた変わる」

「そりゃどうかなあ……」

 

 いつもなら笑って同意するところなのに、順は珍しく顔を曇らせて異論を唱えた。訝りつつ促した水輝に頷いて順が言葉を継ぐ。

 

「魔法がねえ……。キミ、ちょっと不注意過ぎるよ。魔法ってのは、こっちじゃフツー使えないのにさあ。まあ、そのおかげで紫ちゃんが手に入ったようなもんだから、オレはいいんだけど」

 

 ぼやくように言って順が頭をかく。水輝は咥え煙草で口許に薄い笑みを浮かべた。

 

「保険はかけておく方がいい。万が一ということがあるしな」

「あまーっ。やっぱり水輝ちゃんってオンナには甘いね」

 

 呆れたように言って順が深々とため息を吐く。そんなんでいざって時にオンナを斬れるの? そう問われて水輝は事もなげに頷いた。

 

 もの凄い勢いで気配が近づいてくる。水輝は指を鳴らして結界内に張り巡らせた結界を解いた。その瞬間に部屋のドアがけたたましい音を立てて開く。まだ怒りに燃えているのか、荒い足取りで佑が部屋に入ってくる。

 

「とりあえず、措置はすませました。今は顔面部分の作成に入ってます。もし……、もしも」

 

 そこまで言って佑が唇を引き結んでガウンを握り締める。すっかり乾いているだろうに、頭にはまだタオルを巻いたままだ。

 

「彼女の恋愛感情に関する話が嘘だったら、ただではすませませんよ?」

 

 佑がきらりと目を光らせて水輝と順とを見る。水輝は片手を上げてそれはない、と保証した。少なくとも呉羽の思惟はさっき言った通りだ。それに優一郎にずっと力を貸し続けたいという呉羽の願いは純粋で、そこに曇りは存在してはいなかった。

 

「ヤだなあ、優一郎くん! オレのこと疑うのぉ?」

 

 茶化した口調で言いながら順がへらへらと笑う。だから疑われるんだ、と低い声で言って水輝はテーブルの上に足を伸ばした。膝を蹴られた順が大袈裟に痛がってみせる。

 

「わかりました。水輝さん。信じます。あと、どうして隠していたのか聞きたいのですけど、彼女を襲撃したのは、桜さんですね?」

 

 真剣な表情で佑が言ったのを受けて順が大仰に驚いてみせる。だがすぐに順はごめんね、と素直に佑に詫びた。

 

「多輝ちゃんとかにあんまり聞かせない方がいいかなって思ってさ。やっぱ、あのコってそういう血生臭いの、嫌でしょ」

 

 だからごめん、と順が片手を立てて佑を拝むようにして詫びる。すると佑は深いため息を吐いて順を睨んだ。

 

「確かに、その判断は正しいですね。偶然だったとしても」

 

 冷ややかに言って佑が静かにベッドに歩み寄る。おやおや、と苦笑した順を目で制してから水輝は腰を上げた。ベッドに近づいて手を伸ばしかけていた佑より先に呉羽を抱え上げる。

 

「運ぶんだろ?」

「水輝さん、ありがとうございます」

 

 やっぱり女性体だと体力がどうしても劣ってしまってるから。そう続けて佑が自身の身体を見下ろす。そうだな、と呟いて水輝は歩き出した。順に大人しくしているように言い置いて部屋を出る。

 

「あんまり無理をするなよ。おれは今のお前でもさっきまでのお前でもどっちでもいいんだから」

 

 廊下を並んで歩きながら水輝は穏やかな声でそう告げた。

 

「どちらも僕ですよ。性格が違って見えるのは、立城さんの干渉による記憶と感情をシンクロさせるかさせないか、それによってますから」

 

 隣を歩きつつ佑が淡々と告げる。なるほど、と苦笑して水輝は唇に挟んだ煙草を力を使って取り上げた。宙を漂った煙草に力をかけて一気に分解し、消滅させる。それから水輝は素早く身を屈めて佑の頬に口づけた。するとそれまで冷静でいた佑が頬を染める。

 

「水輝さんってば!」

 

 頬を膨らませて声を少し荒らげつつも佑は恥ずかしそうに周囲を見回す。水輝は味見、と笑って仄かな明かりに照らされた階段を降りた。広々とした階段を降り、一階の廊下の突き当たりまで行くと、唐突に地下に続く狭い階段が現れる。水輝は迷う事なく暗い階段を降りた。

 

 かつて立城が由梨佳の修理等に用いていた部屋は当時のまま残されている。地下の部屋に入って水輝はつい懐かしさに目を細めた。台の上に横たえるように言われて呉羽を降ろす。

 

「脳には損傷はないから、とりあえずは維持したほうが良さそうですね」

「魂だけ移動させるのか?」

 

 不思議に思いつつ水輝は訊ねた。顔色は悪いしかなりのダメージを食らってはいるが、呉羽はまだ生きてはいる。だが、このままにしておけば確実に潰えてしまうだろう。

 

「逆です。とりあえずは脳を機体に移動して、魂の移行負担を減らします」

 

 呉羽を検分していた佑が真剣な表情で告げる。確かに魂だけを移動させるのは難しい。何か、依代となるものがなければ魂が壊れてしまう恐れがある。

 

 ふむ、と呟いて水輝は隣に立つ佑をまじまじと見つめた。順は呉羽を使い魔にしようとしたらしいが、残念ながらそれは出来なかった。今の呉羽は使い魔でもなく完全な龍神でもない、言わば不安定な存在になってしまっているのだ。

 

「出来ればこっちの身体を傷つけないように魂だけ動かして、後でこっちを変えるのがいいんだが」

 

 口許に手をあてがって水輝は小声で呟いた。呉羽を調べていた佑が不思議そうに水輝を見る。

 

「オリジナルの肉体の再生が可能なんですか?」

「こっちを殺すとちょっと……いやまあ、おれが気にすることでもないんだが」

 

 眉を寄せて難しい顔をしつつ水輝は言葉を濁した。機械については詳しくないから判らないが、ヒューマノイド化する際に脳を取り出してしまうと冥界の怨嗟から逃れられなくなる。現にこの間の一件の際、清陵に居るヒューマノイドの動きを止めたのは怨嗟だ。後で順に聞いた話だが、順は宝珠を用いて街全体に怨嗟をばら撒いたらしい。人にさほどの影響のない怨嗟だが、相手がヒューマノイドになると恐ろしいまでの効果を発揮するのだ。

 

「どちらにしても、力が増して宿体が構成できるようになれば関係ないと思ったんですけど、水輝さんがそうおっしゃるなら脳に代わる機能を提供する補助ユニットを早急に準備します」

「ああ、そうか。これ、肉の器なのか」

 

 ふと、気付いて水輝は目を上げた。怪訝そうな顔をする佑に悪い、と詫びる。どうも相手が龍神に見えず、ついつい人間だと思って考えてしまうのだ。そう告げると佑は困ったような顔をしてじっと水輝を見つめた。

 

「あの……叔母は既に変化してしまっていますから、人としての死や、怨嗟の影響とは無関係だと考えたんですが、その判断で間違いないのですか?」

 

 一瞬、伺うような感情が佑の目に宿る。水輝はああ、と呟いてもう一度詫びた。

 

「悪い。おれが口出し出来ることじゃないよな」

 

 苦笑して頭をかいてから水輝は呉羽をもう一度見た。呉羽がどことなく総一郎に似て見えるのはきっと同じ血が流れているからだろう。

 

「それでは、作業にかかります。本来なら、ここで医学的な処置をとるのですが……」

 

 挑発的な嗤いを浮かべて佑が力を導く。水輝は黙って腕組みをし、手近な実験台に寄りかかった。力は瞬く間に緻密に編まれ、立方体の硝子のようなケースの形に変じた。宙に浮かんだ特殊結界を見つめて水輝は思わず口笛を吹いた。特に自分がすることはなかったらしい。のんびりと水輝が見守る中、佑が力を器用に操って呉羽の脳を引き寄せる。

 

「何だ。手間ならばらしてやろうと思ってたのに」

 

 水輝は苦笑して肩を竦めてみせた。

 

「せっかくの力ですから、こういう方面にも応用できないかと、いろいろ考えてますから」

 

 複雑な組み合わせで編まれた結界内に浮かんだ脳が部位ごとにばらける。次いで、ケース内には水輝にはよく判らない機械の部品などが現れた。佑は真面目な顔で作業を続けている。水輝はちらりと台に横たわる呉羽を見た。上手く力を繋げているからだろう。血液は肉の器との間でまだ循環している。

 

「確かにおれが力を貸しても無駄だったな」

 

 何しろ機械と名のつくものを壊すのは得意技だからな。そう続けて水輝は苦笑した。この場に居ても邪魔になるだけかも知れない。そう考えて水輝はその旨を佑に告げてみた。

 

「いえ、一人だと寂しいですから」

 

 そう言って佑が水輝をちらと見て頬を染める。そうか、と笑って水輝は手近にあった椅子に腰を下ろした。




水輝に機械を触らせるとヤバいです。
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