※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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エピタイは作者のもの!w
エロシーンはありません。


どーしても克人を始末したい桜

 深い息を吐いて桜は眉を寄せてよろけかけた身体を支えた。踏ん張った足が耳障りな音を立てて砂を引きずる。傷ついた腕を押さえて桜は忌々しさをこめて舌打ちをした。

 

 順は桜に攻撃をしなかった。桜が負っている傷は自身の放った力が跳ね返ってきた結果だ。順は空間を巧みに渡って逃げ続けていた。ただ、抱えていたあの女性に攻撃が届きそうになった時だけ結界を展開し、それにぶち当たった桜の力が鏡のように跳ね返ったのだ。

 

 屋敷の庭は静まり返っている。順が吉良瀬の屋敷に逃げ込んだことははっきりとしている。だがここで真正面から攻撃する訳にもいかない。何しろここには水輝や佑、それに多輝も居る。中でも水輝は必ず順に荷担するだろう。桜は顔に苦渋の色を浮かべてのろのろと歩き始めた。

 

 月明かりの射す屋敷の裏庭には綺麗な花が咲いている。一面に咲き乱れる桔梗を見つめ、ふと桜は足を止めた。つい先日までは花など咲いてはいなかった筈。そう呟いて桜はその場に屈んだ。すんなりと茎の伸びた桔梗はぬるい夏特有の風に揺れている。その花にそっと触れたところで桜はため息を吐いた。どうやらこれを咲かせたのは水輝らしい。

 

 静かに裏口から屋敷に入った桜は真っ直ぐに自室に向かった。出来るだけ気配を殺して歩く。途中、すれ違った執事が深々と桜に頭を下げる。桜はそれを受けて会釈を返し、自分の部屋に入った。

 

 赤龍王と桜が呼ぶ順の傍に居たあの女性は、使い魔でもなく龍神でもない、異質なモノだった。あれを放置しておけばきっと魔へと転ずる。そうなれば奈月に襲い掛かるかも知れない。いや、それ以前に順の許には夢魔と化した克人が居るのだ。桜は暗い部屋で破れた服を脱ぎながらぎり、と歯軋りをした。

 

 主龍神とは本来、龍神としての力を殆ど持たない。それ故に通常は誰かが匿っているのだ。が、奈月はこの段になってもまだ平然と人の生きる地上に居る。天空の城の天輝とは意味合いが異なる故に居場所も違うのかも知れない。が、桜の目から見ると奈月は余りに無防備に見えるのだ。

 

 同時に佑も桜の目には無防備に見える。あり得ないほどの清らかさを保っている佑は、他の龍神の目から見れば酷く美味そうに見える……有体に言えば犯しがいのある餌に見えてしまうのだ。水輝や順は勿論そんなことは口にしないし、多輝に至ってはその鈍さから気付いていない節がある。だが現に佑を一時的にでも城に呼びつけた渚は佑を見て情欲を深めてしまったようだ。そうでなければ水輝があの場で渚を犯す筈もない。あの行為には牽制の意味もこめられていたのだ。

 

 離れていた場所で起こった出来事を、実際に自分の目で見たかのように桜はその時のことを思い出していた。シャツとジーンズを脱いで下着のみになったところで桜は小声でそれを呼んだ。ふわりと空気を揺らしてその場に一人の女性が現れる。桜は目の前に現れた女性を静かに見下ろした。

 

「今のところは何もございません」

 

 跪いて恭しく頭を垂れていた女性が顔を上げる。紅色の美しい髪をした女性を見つめて桜はそう、と頷いた。

 

「では監視を続けて」

「はい」

 

 返事をした女性がその場から消える。桜はため息を吐いて破れた服を拾い上げた。部屋の隅にあるごみ箱に服を放り込んでからたんすに近づく。傷を治療したいところだが、生憎と今日は体力を消耗しすぎていて無理のようだ。

 

 ふと、気配を感じて桜は顔を上げた。いつの間にか部屋の中に見知った者が立っている。桜は疲れたため息を吐いて振り返った。

 

「佑様は宜しいのですか? 寂しがっていらっしゃるのでは?」

「手を出しかけたら怒られた。作業の邪魔になると叩き出されたところだ」

 

 肩を竦めて言いながら水輝が口許に苦笑のようなものを浮かべる。桜はそうですか、と感情のこもらない声で言ってからパジャマを取り上げた。

 

「治してやるからこっちに来い」

「御遠慮致します」

 

 きっぱりと言い切って桜はパジャマの袖に腕を通した。ボタンをきっちりと留めてズボンを穿く。すると水輝があのなあ、とぼやく。桜は知らん顔で暗い部屋を横切ろうとした。傍を通ったところで水輝に腕をつかまれる。怪我をした方の腕を無造作につかまれて桜は僅かに眉を寄せた。

 

「誰かれ構わず喧嘩を売るのは止せ。渚より性質が悪いぞ」

「離してください」

 

 顔色一つ変えず言ってから桜は水輝の手を振り解いた。嫌そうに舌打ちをしてから水輝が再度、手を伸ばす。だが次に伸びてきた手を桜はするりと避けた。

 

「わたくしは誰かに喧嘩を売っているつもりはありません。姫様に害なす者を処理しようとしたまでです」

 

 ですからあなたにけちをつけられる謂れはありません。桜は厳しい顔で言い捨ててから水輝の傍を過ぎた。そんな桜を見つめて水輝が深々とため息を吐いて頭をかく。

 

「止めようとしても無駄です。わたくしは姫様を守ることだけが生きがいなのですから」

「まあ、お前が奈月に惚れてるってことはよく判るが」

 

 あっさりと言われて桜はぴたりと足を止めた。眉を寄せて振り返った桜は鋭い目で水輝を睨みつけた。すると水輝が妙に嬉しそうに笑う。

 

「どうした? 今ならおれは体力も消耗してるし好機だろ? 殺さないのか?」

 

 両手を広げて水輝が言うのを聞いて桜は怒りに目を吊り上げた。粗い足取りで歩み寄った桜を水輝は見つめているだけだ。桜は右腕を軽く上下に振って手の中に扇を呼んだ。握った扇を振るって水輝の首にぴたりとあてがう。だが水輝はそれでも腕を広げて静止したまま動こうとしない。

 

「ほら。おれを殺せば奈月と晴れて二人きりだぜ。やらないのか?」

 

 人の悪い笑い方をしつつ水輝が挑発する。桜はくっ、と声を詰まらせて水輝を睨みつけた。水輝の首にあてがった扇が自然と震える。

 

 ふと、水輝が笑いを消して広げていた腕を下ろす。改めて掲げた右手の指で扇を退けながら水輝はため息を吐いた。

 

「……時代は変わった。もう、あの頃とは違うんだ。いいかげんに落ち着け」

 

 淡々と告げた水輝の首にくっきりと赤い焼け跡が残っている。扇を押し退けた指も焼けている。桜は無言で扇を納めた。

 

「女性の寝所に忍び込み、挙句、言うことがそれですか」

「何だ。襲って欲しいのか?」

 

 渋い顔になって水輝が言う。桜は違います、と即座に答えた。

 

 用は済んだから、と片手を上げて水輝が部屋を出て行く。桜はそれを見送ってからふと怪我をしていた左腕に目を落とした。一体、いつの間に水輝は力を使ったのだろう。あれだけ痛んでいた傷が綺麗さっぱり消えている。腕だけではない。負っていた傷の全てがなくなっている。そのことに気付いた桜は部屋で一人、深いため息を吐いた。




桜が奈月に惚れてる件はスルーしてるというw
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