※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

122 / 191
グロ? かも知れません。
エロシーンはありません。


桜の予感が当たってしまった 1

 細く赤い煌きが部屋を駆け巡る。それを境に部屋の中はしんと静まり返った。あれだけ大声で騒いでいた研究者たちが一様に口を噤み、蒼白になる。克人は後ろに横たわる紫を振り返って微笑みかけた。紫は身体全体で苦しそうな息を吐いている。

 

 克人は紫と共に広々とした研究室の中央に設えられたベッドの上にいた。取り囲んでいる白衣を身につけた研究者たちは脅威の目で克人を見つめている。それが妙におかしくて克人はくすくすと笑い出した。

 

「変なの。前はボクに命令ばかりしてたのに」

 

 ずっと以前、研究室で育てられていた頃のことを思い出して克人は笑った。相変わらずこの白衣の連中は耳障りなことばかりを言う。だがあの頃とは違い、今の克人にはそれに抵抗する力がある。克人は目の前にさっきまで立っていた男の胸を軽く蹴飛ばした。ぐらりと揺れた男の身体が後ろ向きに倒れる。男の首は既にない。断頭された首からは鮮血が流れている。切断された頭部は床に転がり、滴る血に濡れている。その表情は驚きのまま固まっていた。

 

「き、貴様! 順様が不在でなければ……!」

 

 硬直していた研究者のうちの一人が叫ぶ。克人は口許にあどけない笑みを浮かべて首を傾げてみせた。ここにいる研究者たちは順に特に信頼されている者達ばかりだ。それ故にかは判らないが、指示に従わない克人に苛立っているらしい。古くから順に仕える者も多く、ずらりと並ぶ研究者の年齢層は高い。硝子の頑丈な壁越しにこちらを見ている者たちはこれから研究に携わる、所謂研修生たちだ。壁のこちら側で起こっていることが信じられないのか、真っ青になって悲鳴を上げている者もあるらしい。だがその声はこちらの声が向こうに届かないのと同様、克人には聞こえない。

 

 紫は隔離室から移され、今はとある研究棟にいる。この研究棟は木村の地と呼ばれる場所から少し離れたところにある。人里離れた静かな場所に立つ研究棟は順がわざわざ紫のためだけに作ったものだ。そこでは紫が生活しているだけではなく、日々、研究が行われている。そして決められた日にはこうして実験が行われるのだ。

 

 克人は叫んだ男ににっこりと笑みかけた。その瞬間、男がひきつる。男が慌てて後ろに下がろうとしたところで克人は軽く手を振った。指先から糸のように伸びた赤い卵管が縦横無尽に駆ける。悲鳴を上げて研究者たちが床に伏せる中、克人が狙いをつけた男の首が飛んだ。

 

「やっぱり脆いや。おかしいの。人ってこんなに簡単に死んじゃうんだね」

 

 くすくすと笑いながら克人は横たわる紫の髪を優しく撫でた。紫の目には周囲の事情はさほど映っていない。幾らあの隔離室から研究棟に移動したとは言っても、まだ紫の心は治ってなどいないのだ。

 

「し、しかし、もう実験の続行は無理だ。実験体の体力が」

 

 漸く怒鳴ることを諦めたのか、床から身を起こした研究者が言う。克人は不思議に思いながら紫の耳元に囁いた。

 

「ママ。まだ出来るよね?」

 

 克人の囁きに紫が苦しそうに顔を歪めつつも小さく頷く。ほら、と笑って克人は周囲の研究者たちを見回した。裸で横たわる紫の腹はぷっくりと膨れ、妊婦そのものだ。

 

 不意に硝子の壁の向こうの喧騒が静まる。克人は硝子の向こうに群れていた研修生たちが一様に目を輝かせる様を見て取って首を傾げた。どうやら誰かが来たらしい。そのことに気付いたのだろう。克人を遠巻きにしていた研究者たちが明るい顔になる。克人は唇を尖らせて外に続くドアを見つめた。

 

 静かにドアが開き、一人の少年が現れる。白衣を着たその少年は無残に殺された研究者たちを感慨のない目で見やってから、死体を始末するようにと手近な男に命じた。それからゆっくりと中央のベッドに歩み寄る。年の頃は二十歳前、白衣の少年の名は木村透と言う。克人はため息を吐いて透にこんにちは、と挨拶をした。

 

「お前もまめだな」

 

 呆れたような顔で透が言う。克人は肩を竦めて周囲を見回した。

 

「スパイが居るのは聞いていたからね。ここなら集まるし、処理場も近いし丁度いいかと思って」

 

 あっさりと克人が告げた瞬間、研究者たちがざわめく。克人はくすりと笑って首を傾げ、騒ぎ始めた研究者たちを見回した。どの顔も驚愕している。

 

「いい感じに熟成してきたなあ」

 

 のんびりと言って透が紫を見下ろす。うん、と呟いてから克人は紫の髪を撫でた。長く伸びた紫の髪は相変わらず艶やかで、指に絡めてもするりと落ちる。紫は苦しそうに息をしつつ眉を寄せ、時折呻いている。

 

 ふと、克人は顔を上げた。もう一度、周囲の研究者たちを見回して透に問う。

 

「ねえ。ここの人たちって居ないと困るの?」

 

 子供らしいあどけない顔で訊ねた克人を透がまじまじと見つめる。それから透はゆっくりと周囲を見回した。

 

「まあなあ……。俺さえ居ればいらねー気もするが。俺もしょーもない単純作業はやりたくねーからなあ……」

 

 困ったように言って透が頭をかく。克人はうーん、と唸って腕組みをした。どうやら自分達が話題にされていることに気付いたらしい。真っ青になった研究者たちが我先にとドアに駆け出す。克人はねえ、と透に軽く声をかけた。すると透が指を鳴らす。その瞬間にドアは凍りつき、研究者たちは退路を断たれて騒ぎ始めた。




ある意味でグロいかなと思います(汗)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。