「いちいち選別するの、面倒だよ。どうせ替わりは幾らでもいるんでしょ?」
唇を尖らせて拗ねたように言いつつ克人は足をぶらつかせた。逃げられないと悟って恐慌状態に陥ったのか、一人の男が怒声を上げて走ってくる。その手にはいつの間にか拳銃が握られていた。もう、と呟いて克人は右手を一閃した。克人の右手の先から伸びた赤い線状の卵管が駆けてきた男の額を射抜く。一瞬で絶命した男が床に引っくり返るのを見てから克人は右手を再び振った。宙を蠢いていた卵管が音もなく克人の器に納まる。
「しかし、お前もなかなか魔物っぽくなってきたじゃん」
うんうんと頷いて透が克人の頭を撫でる。もう、と照れ隠しに膨れ面をして克人はまた足をぶらつかせた。もう、逃れる術はないと諦めたのか、それとも万に一つの可能性を見出そうとしたのか、次々に研究者たちが襲いかかってくる。うるさいなあ、と呟いて克人は紫の耳元に唇を寄せた。
「ママ。みんながボクを苛めるんだ」
克人が拗ねて訴えた途端、紫が閉じていた目を開く。ゆらりと紫が手を上げた途端、床から赤いモノが無数に撃ち出された。呑気に笑いながら透が身軽にベッドに乗る。赤いモノに射抜かれた人々が断末魔の悲鳴を上げる。床から凄まじい勢いで飛び出したのは紫が生んだ蟲だった。みみずのような長い身体を持つモノが人々に食らいつく。
紫が口許に薄い笑みを浮かべて指を鳴らす。すると赤いモノは一斉にその場にいた研究者たちの身体に潜り込んだ。生きながら体内を食われ始めた人々が絶叫する。笑顔でその光景を見守りながら克人は呑気に足をぶらぶらと揺らした。
「ちょっとぉ! あたし、虫は苦手、とととと」
「あ、ごめんね。嫌いだった?」
慌てたように口を覆った透に笑みかけて克人は紫にありがとう、と礼を言った。すると紫が持ち上げていた右手を下ろす。それを合図にしたかのように床を埋め尽くしていたみみずたちは再び地面を目指して潜っていった。最後の一匹が消えたところで透が安堵したように息を吐く。
みみずの消えた室内は静まり返っている。硝子の壁越しにこちらを見ている研修生たちは愕然としているらしい。中には口許を押さえて身を折り、懸命に吐き気を堪えているらしい者もある。
「おっ、結構可愛い女の子もいるじゃん。あれは殺すなよ」
克人と同じように硝子越しに研修生たちを見つめて透が言う。判っているよ、と苦笑して克人は首を傾げた。あれだけいた研究者たちは全ていなくなっている。中には千切れた身体が残っている者もあるが、どれが誰かはもう判らない。克人はぐるりと室内を見回してため息を吐いた。
「順様に怒られちゃうかなあ」
急に不安に駆られて克人はぽつりと告げた。
「んー。あいつがこの程度のこと、きにするわけないじゃん」
あっさりと言って透が身軽にベッドを降りる。改めて紫の検分を始めた透を見つめて克人はそうかなあ、と呟いた。確かにただ、無駄に殺したつもりはない。地中に蠢く蟲にだって餌は必要なのだ。その意味では彼らは十分に役に立ったはずだ。
「あのね、今度のは別の卵にしてみたんだ」
無駄な殺しはしていない。そう自分に納得させてから克人はそう告げた。目を輝かせて言った克人を透がちらりと見る。
「虫の事はおまえに任せた! 順も喜ぶだろうから、帰ってから見せてやれ!」
「もしかして蟲、全部駄目なの?」
少し哀しい気持ちになって克人は透に訊ねた。紫の触診をしていた透が嫌そうな顔をして克人を睨む。克人は怖い顔で睨まれたことに寂しくなり、目に涙を浮かべた。克人は透のことを好いているのだ。
「いや、な? 虫は苦手だが、おまえは関係ないから。それにほら? 適材適所っていうだろ。俺の及ばないところで順の役に立てるんだからいいじゃん」
困ったように透が言う。だが克人はこみ上げてくるものに耐えられず泣き始めた。わんわんと声を上げて泣く克人に慌てたように透が周囲を慌ただしく見回す。硝子の壁の向こうにいる研修生たちも急に克人が泣き始めたことに何事かと思ったのだろう。唖然とした顔で透と克人を見ている。
「ほら、紫も心配してるぞ。泣くな」
そう言って透が克人の頭を撫でる。克人は鼻を啜りながら紫を見た。苦しそうに顔を歪めつつも紫が手を伸ばし、宥めるように克人の膝を優しく叩く。
「男の子が泣かないの。ゆうちゃん。ほら、お兄ちゃんに笑われるわよ」
苦しさを懸命に押し殺して紫が優しい笑みを浮かべる。うん、と返事して克人は涙を拭った。
「ま、とりあえず。ここはお前にまかせた。俺が必要なのは確保してくから、後は好きにしろ」
そう言ってから透が返事も待たずにその場から転移する。硝子の壁の向こう側に転移した透は若い女性を二人ほど気絶させ、腕に抱えてさっさと出て行ってしまう。それを唖然とした顔で見送った研修生たちが一斉に克人と紫の残るベッドを見る。克人は拗ねて唇を尖らせながら紫に寄り添った。
「もう。透さんってこういう時だけ早いんだもん」
ふて腐れて言いつつ克人は両手を交互に振った。すると部屋を仕切っていた強靭な硝子が一瞬で砕ける。これまでは硝子の壁に守られているからとのんびりしていたのだろう。研修生たちが悲鳴を上げて逃げ始める。克人は立て続けに腕を振り、伸ばした赤い卵管でその場にいた者達を切り裂いた。ママ、と声をかけると紫が再び蟲を召喚する。赤いモノたちは一斉に人間たちに飛び掛り、貪欲に食い始めた。
やがて蟲が地中に戻り、静けさが広がる。克人は紫の足元に回って足を開かせた。額に汗を滲ませた紫が懸命な面持ちでベッドのシーツを握る。克人は胎の蟲の成熟度を確かめてから紫のクリトリスに吸い付いた。それまで苦しんでいた紫が甘い声を上げて腰を跳ね上げる。克人は誘発のために紫の膣内に細い指を入れ、ぬかるみをかき混ぜた。やがて紫の胎から何かが降りてくる。触れたところで克人は指を抜き、紫の陰唇を左右に押し広げた。
青い蟲が紫の膣口から這い出してくる。先のみみず状のモノとは異なり、今度の蟲は芋虫の形に似ている。たくさんの足で紫の膣から這い出した蟲はベッドの端まで移動し、そこから床に落ちた。サイズは丁度、大人の腕くらいはあるだろうか。それが次々に紫の膣から這い出しては床に落ち、地面を目指して消えていく。蟲が一匹ずつ出るたびに紫の腹は縮み、最後の一匹を吐き出したところで元の状態に戻った。
「ママ、全部出たね」
最後の一匹を見送って克人は紫に笑みかけた。それまで官能の声を上げていた紫が疲れた顔で微笑む。だがもう、紫の顔に苦しみはない。克人はにっこりと笑って紫の胸に抱きついた。
桜は桜でちゃんとしていたというか。
透のビビり方がちょっとおもろいw 絵美佳ちゃんが出ちゃってますねw