薄く目を開けると白い光が見えた。ぼんやりとした目で水輝は天井にぶら下がった古びた蛍光灯を眺めた。見知らぬ天井は暗く、やけに不気味に見える。水輝はしばらく天井を見つめてから視線をずらした。まるで実験室のような部屋の様子に思わず眉を寄せる。古びたスチール棚と実験台が並んでいる。それらを見てから水輝は再び目を閉じた。
やけに身体が重い。ため息を吐いてから水輝は何となく重みを感じる腹の部分に手をやった。そこで柔らかな感触に気付く。水輝は慌てて目を見張って身体を起こした。水輝に寄りかかっていた奈月が目を擦って身体を起こす。
「水輝さん?」
奈月が不安そうに呼びかける。水輝は慌ただしく周囲を見回して気配を確認してから声を張った。
「順はどうした!」
切羽詰った顔で問い掛けた水輝に奈月が困惑した顔をする。
「茜さん、ですか?」
「いや、どっちでもいい! とにかくあいつはどうした!」
水輝は奈月の肩をつかんで再度、問い掛けた。ここが木村の本邸であることは気配から判った。が、ここに居るべき筈の順の気配がない。
「茜さんは、……あ、あれっ」
くらりと奈月の身体が傾ぐ。水輝は慌てて奈月の肩をつかんで身体を支えた。ふらつく奈月を両腕で抱えて膝の上に降ろす。大丈夫か、と声をかけると奈月は気丈に微笑んでみせた。
「だいじょうぶで……ああっ!」
悲鳴を上げて奈月が身を折る。水輝は焦って奈月の背に手をあてがった。どうやら酷い痛みに襲われているらしい。水輝は舌打ちをして治癒の力を導いた。短い呪文を口にして奈月の身体に注ぐ。すると奈月がほっとしたように息をついて水輝の胸に寄りかかった。
「みずき……さん、ありがとうございます。少し、楽になりました」
にっこりと笑った奈月に水輝は苦笑した。無理するな、と奈月の額を指先で小突く。すると奈月は不思議そうに瞬きをして額を押さえた。
「無理は、してません。もう限界なのは、わかっていましたから」
そう言って奈月がにっこりと笑う。水輝は眉を寄せて奈月を抱き寄せた。強く抱きしめると奈月が慌てたような声を上げる。
「あっ、なんでもないです。大丈夫ですから。んっ」
苦痛に顔を歪める奈月に苦笑して水輝は腕を唐突に解いた。急に支えをなくした奈月の身体が傾ぐ。小さな悲鳴を上げた奈月を水輝はその場に押し倒した。
「無理するなって」
そう言って水輝は奈月に軽く口づけた。困惑した顔をしつつ奈月が何度か瞬きをする。
「水輝さんが、戻ってきてくれてよかった。もう、間に合わないかと、思いました」
「ごめんな」
小声で詫びて水輝は奈月に身を重ねた。目を閉じた水輝の背を奈月が弱々しく抱く。水輝は奈月の耳元にありがとう、と囁いた。
「いいえ、水輝さん。とっても、幸せでした」
静かに言った途端に奈月の身体が砂のように崩れていく。水輝は目を見張って慌てて身体を起こした。ベッドに横たわる奈月の身体が冴えた青い砂の粒に変わって行く。水輝は歯を食いしばってうなだれた。やがて奈月の身体は全て砂と化し、その場から消えた。残された八つの宝珠がベッドの上で蛍光灯の光を照り返す。
水輝は俯いたまま、その場から姿を消した。
水輝はこの手のことが起きるとキレますw