そうせざるをえない理由が何かしらあったとは思われです。
エロシーンはありません。
素材、必要なんでしょう?
さばけた口調で言われた優一郎は驚きに言葉をなくした。狭く、決して裕福な暮らしをしているとは思えないアパートの中にいても呉羽はとても美しく見えた。外にはのんびりとした竿竹屋の声が響き、古びたテレビの画面には文字だけのニュースが流れていた。まるでそこだけが別世界のような錯覚をしつつも優一郎は真剣に呉羽に頷いてみせた。
だがヒューマノイドの作成のために素材を調達することは、同時に法に触れることにもなる。ばれれば確実に捕まるだろう。苦悩を打ち明けた優一郎に呉羽は何でもないことのように笑った。科学の発展のためということにすればいいじゃない。そう言った時の呉羽の横顔を何故かはっきりと覚えている。あの時の呉羽はもしかしたら優一郎がそう言いだすことを知っていたのではないだろうか。
呉羽はこうも言った。自分の研究にはどうしても人間の身体が要る。解剖し、分析し、そして解明されていないものを少しずつでも知りたいのだと言った時の呉羽の顔にはためらいは微塵も浮かんでおらず、優一郎もその言葉を信じた。
「肉親で、ある意味共犯者だから、信頼できる取引相手だとしか僕は思っていなかったけど」
だが呉羽はどうなのだろう。わざわざ地味に装って男性を避けていたのは、もしかしたら研究に打ち込むためだけではなかったのではないか。そう考えながら佑はじっと呉羽を見下ろした。機体に納まった呉羽はあの初めて出会った日と同じように若く美しい。周囲にいる男性の中にも呉羽の本質的な美しさに気付く者もあっただろう。なのに呉羽は未だに誰とも結婚してはいない。
優一郎の周囲で龍神の絡んだ事件などが起き始めた時も呉羽はまるで動揺していなかった。淡々と、あくまでも優一郎の協力者として力を貸してくれた。ヒューマノイドを作る、ということは同時に人の亡骸が作られるということでもある。次第に増える仕事にも呉羽は何ひとつ文句を言わなかった。それどころか優一郎の身を案じていたくらいだ。
近頃では会うこともあまりなくなった。以前は直接に優一郎が行っていた事務的な手続きですら今はもう保美がしている。ヒューマノイドは優一郎の知らない間に増えていて、だがそのことにすら呉羽は何も言わなかった。
「茜さんも、水輝さんも、確かに真実を語っていた。後は、僕が覚悟を決めるだけか」
ため息混じりに呟いて佑は呉羽の乗る作業台を操った。台が佑の操作を受けて自動的に形を変える。呉羽の踵を支えたアームが左右に開きながら移動する。膝を曲げて足を開いた呉羽の股間には女性器はない。ヒューマノイドの心臓とも言える機械仕掛けの女性器がないため、呉羽の骨盤内部は空洞になっていた。
「宇田川さんを手の内に入れた時は落胆しか感じなかったのに……」
無防備な姿を晒す呉羽を見つめる佑は高揚する自分に気づいて胸に手をあてがった。鼓動が速くなっているのが判る。幼い頃から憧れ、そして慕い、肉親だと判っていながらも由梨佳に欲情していた。だがそんな優一郎の想いは実際に由梨佳を手にした時に砕かれた。結局、自分の理想としていた由梨佳の実態を知ることであの時に優一郎の想いは散ってしまったのだ。
「あくまで彼女は父や多輝のものでしかなかった。僕は父や多輝の代用品として扱われていただけだった」
そう呟いて佑は嗤いを浮かべた。幼い頃から優一郎は総一郎ととてもよく似ていると言われていた。きっとお父様の後を継いで立派な科学者になられるのでしょうね。集った親類からもそんな言葉をかけられていた。幼い子供のうちから優一郎は自分ではなく、父である総一郎の後継であれと周囲に望まれていたのだ。単なる後継者という意味なら優一郎も特に思う事はなかった。だが彼らは一様に優一郎に総一郎と同じ……悪く言えばコピーであれと望んだのだ。
そんな中で呉羽だけは彼らと同じことは言わなかった。呉羽はその生まれから総一郎と比べられる辛さを誰よりもよく知っていたのだろう。だから優一郎を総一郎の代替品と見ることは決してなかった。掛け替えのない、たった一人の自分であると認めてくれる相手に惹かれない筈がない。その頃の自分の気持ちを思い返して佑はそっと笑った。
だが呉羽は優一郎にとって遠い存在だった。由梨佳や他の親類のように会いたい時に会うわけにもいかなかった。祖父は呉羽が本家に近づくことを好まなかったが、同時に吉良家の者が呉羽に寄ることも良く思わなかったからだ。
「でも、今はもう家のことは関係無いしね」
祖父が亡くなった折、親戚一同で家族会議が行われた。本来であれば家を継ぐ筈であった総一郎はその権利を全て放棄、代わりに当主として立つことになったのは優一郎の叔父だった。医学界で権威と言われる叔父の顔を思い浮かべて佑は苦笑した。祖父とは異なり、叔父は自由を尊ぶ人間だった。それ故に吉良家を無理矢理に存続させるためのあらゆる縛りを撤廃したのだ。
祖父の葬儀の際、大人たちが家族会議に入った時にも呉羽はその席には居なかった。年老いた見知らぬ女性と共に呉羽は静かに葬儀のとり行われた本家を立ち去った。祖父の葬儀で一番泣いていたのは呉羽とその女性だったことをよく覚えている。どんなに邪険に扱われていても呉羽は祖父を慕っていたのだ。恐らく呉羽の横にいた女性は呉羽の母、祖父の妾だったのだろう。
長く続いた吉良家の暗い歴史はそこで終わった。今では親類は信頼出来る肉親として普通に生きている。中にはまだ暗いものを引きずっている者もあるが、そのうちにそれもなくなるだろう。
まあ確かに、あの父を見てれば、家だなんだって言ってるのが馬鹿らしくなるよね。胸中で呟いて佑は苦笑した。総一郎は驚くほど家に対する執着を持たない。血の流れや家柄など総一郎にとっては何らの価値はなく、価値のあるのはただ一つ、科学の発展に役に立つものだけだ。
佑の形なのに中身が優一郎なのでややこしいんですよね、ここ!!!(汗)
今のところは佑=優一郎と思ってもらえると……今のところ!!(汗)