※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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エピタイを変えようとしたのですが……(長いから)
変える理由もなくて仕方なく続けてます。
裸なのですがエロシーンはありません。


呉羽の機械化と昔の話 7

 ふと、歌が聴こえてくる。恐らく順が部屋で歌っているのだろう。だが先ほどとは異なり、順の歌声はどことなく哀しいものがこもっている気がした。特にどこが、とはっきり判る訳ではない。だが聴いていると何故か胸に哀しいものがこみ上げてくるのだ。天井を仰いで佑と同じように黙り込んでいた呉羽が苦笑を浮かべる。

 

「あの男が動揺なんてするんだねえ」

 

 感慨深げに呟いて呉羽が佑に目を戻す。

 

「ええ。僕も驚きました。相手は本当に普通の人間。うちの執事なんですけど」

 

 歌に耳を澄ましながら佑は頷いた。すると呉羽がぷっと吹き出す。怪訝に思って何事かと問いかけた佑に呉羽は意味ありげに笑ってみせた。

 

「あんたにはどうやら聴こえないみたいね」

 

 だが順が歌っているのはさっきと同じ唱歌だ。雰囲気は違っていても曲は変わらない。不思議に思って首を傾げた佑に笑みかけて呉羽は天井を仰いだ。

 

「茜さんと僕は、龍神としての力のベクトルがかなり離れた位置にあるんです」

 

 これが水輝さんなら、対偶の位置にあるから正逆でも特別なんですけど。そう付け足して佑は再び天井を見つめた。

 

「水輝……ああ、優一郎の旦那様だっけ?」

 

 からかい混じりに言って呉羽がくすくすと笑う。それを聞いた佑の頬はほんのりと赤く染まった。

 

「はい。水輝さんとの間で、その、いろいろあって……誓約の関係上、当面の間、僕は女性体しかとることができません」

 

 呉羽さんは嫌じゃないですか? 戸惑いをこめて訊ねた佑に呉羽は穏やかに笑ってみせた。

 

「私は気にしないよ。それに妊婦に無理は言えないでしょ」

 

 これでも私は医者だからね、と呉羽が自分の胸を軽くこぶしで叩いてみせる。顔を見合わせて笑みを浮かべてから佑はちらりと天井を見た。順の歌声はいつの間にか途切れている。

 

「龍神の奏でる音楽には力が溢れています。通常の防音は無意味です。だから、この屋敷には音楽に対する結界もかけてあったはずなんですけど」

 

 水輝さん。何か企んでるな……。そう呟いて佑は目を細めた。水輝の部屋だけではない。屋敷の部屋の全てには特殊な防音のための結界が重ねられている。通常の結界の上に防音用の結界、更に外敵の侵入をいち早く察知するための探索結界など。この屋敷にかけられた結界は多重構造になっているのだ。

 

「その水輝って人のことは判らないけど、あれは違うんじゃないかねえ」

 

 考えるような顔で言って呉羽が頭をかく。

 

「違う、とは?」

「セイレーンって知ってるでしょ?」

 

 訊ねた佑に呉羽がそう答える。佑は記憶の中にあるその名前を思い浮かべて頷いた。セイレーンとは神話に出てくる妖精のことだ。半身が女性、半身が鳥または魚とも言われるセイレーンは、鳥の翼を持ち、美しい歌声で旅人を魅了する。その歌声を耳にした船乗り達は岩に船をぶつけてしまうと言われた。セイレーンにまつわる話には幾つかあるが、どの話でもその歌声は魅力的と描かれている。

 

「茜さんがセイレーンのようなものだと?」

「あの馬鹿の歌にはちょっと特殊な力があるんじゃないかねえ。歌の歌詞じゃないところに何か言ってるような気がするし」

 

 考えるように口許に手を当てて呉羽が言う。そういえば、と佑は数ヶ月前の卒業式の時のことを思い出した。優一郎たちより一学年上の要たちを送り出すための卒業式の際、順の提案でバンドを組んで演奏をすることになった。参加表明した龍神がけっこう多かったため、二組に分かれて競演という形で演奏をした。

 

 結果的に順のいたバンドが圧倒的な票を得て勝った。順と冥界の主である黒妖牙は人としてバンドを実際に組んでいたこともあったからだろう。音楽を得意とする龍神たちの中でも特に彼らの演奏は上手かった。

 

 だが本当にそれだけが理由だろうか。佑は眉を寄せて考えを巡らせた。あの日、バンドの演奏を聴いた生徒の中で失神してしまう者があった。コンサートなどで集団で熱狂した際に失神してしまうケースがあることは佑も知っている。だが、その日の演奏は確かに生徒たちも楽しんではいたが、熱狂というほどの盛り上がりでもなかった。なのに複数の生徒たちがバンド演奏が終わって失神してしまったのはどういうことだろうか。

 

「なるほど」

 

 音楽か……。そう呟いて佑は口を噤んだ。そういえば少し前、まだ順が今の茜という名を譲り受ける前の話だ。優一郎はとある機会に順の歌を聴いた。思えばあの時が順の歌を聴いた最初だったのではないだろうか。その時もやはり順はさっきと同じ唱歌を歌っていた。

 

「なーんてね。まあ、私もはっきり判ってる訳じゃないから意見にもなりゃしないけど」

 

 急に恥ずかしくなったのか、困ったように笑って呉羽が頭をかく。考えに耽っていた佑ははたと我に返っていいえ、と首を横に振ってみせた。

 

「しかし、ヒューマノイド化されて初めて目覚めた状態で、ここまで落ち着いている例は過去にありません」

 

 欲情レベルが0設定になってるとしても、機械が露出した女性器ユニットをさらけ出して平気でいられるなんて……。目の前に座る呉羽を見つめて佑は呟くように言った。少し唇を尖らせて拗ねたような顔になった佑に呉羽が笑いかける。

 

「そりゃあ、あんたより私の方が年が多いんだもの。おばさんに恥じらいを期待しちゃ駄目よ」

 

 悪戯っぽく笑って呉羽が片目を閉じる。

 

「そんなこと言うと、僕、どんどんエスカレートしちゃいますから。後悔しても知らないですよ。あと、自分自身をおばさんって呼ぶのやめてください」

「あら、どうして? あんたより年を重ねてるのは事実よ?」

 

 不思議そうな顔をして呉羽が首を傾げる。佑は眉を寄せて唇を尖らせた。元々、呉羽は年齢から考えると信じられないくらいに若々しかった。

 

「呉羽さんって、性行為の経験はほとんどないでしょう?」

「二度ほどかしらね」

 

 あっさりと答えて呉羽が肩を竦める。その貴重な二度とも相手は順なのだろう。

 

「それも、泥酔してたり、薬漬けだったりで何が何だかわからないうちに終わったんじゃないですか?」

「長時間引っ張ってくれたおかげで、気持ちいいのは判ってるわよ?」

 

 やけにあっけらかんと言ってから呉羽はああ、と苦笑してみせた。

 

「感情はともかくね。的確に性感帯を突いてくれたらしくてね。随分と乱れてたって笑ってたけど」

 

 おかげで後でねちねち言われたわよ、と呉羽がため息混じりに言う。

 

「自慰はどれくらいしてたんですか?」

「二、三日に一度くらいかねえ……。でも仕事が立て込んでるとそれどころじゃなくなったりするから、平均するともっと少ないかもね」

 

 淡々と告げてから呉羽はくすりと笑って佑を見つめた。軽く頬をつつかれた佑は慌てて呉羽の触れたところを押さえた。いつの間にか膨れ面になっていたらしい。そのことに気付いた佑は頬を押さえたまま、また唇を尖らせた。




あ、ちょっとエロな話が最後の方に乗っかってますねw
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