……という、優一郎視点です。
エロシーンはありません。
目を開けた優一郎はぼんやりと天井を見つめた。白い蛍光灯の光る天井をしばし見つめてからため息をつく。
「気付きましたか」
聞き覚えのない声にぎょっとして優一郎は慌てて身体を起こそうとした。が、全身がだるくて起き上がることが出来ない。そんな優一郎の傍で椅子に腰掛けているのは、確か蘇芳克人という生徒ではなかっただろうか。
優一郎は壊れた白い繭の中に横たわっていた。凍り付いていた清陵の町は今はもう動き出している。優一郎はぼんやりとした目で克人を見た。克人は妙にかたい表情で座っている。
「僕は、いったい……?」
「夢の中に囚われていたようですね」
静かな口調で言って克人が手を伸ばす。怪訝に思った優一郎の胸元から克人は紅の宝珠を取り上げた。どうやら自分はこの宝珠を抱えて眠っていたらしい。そう理解して優一郎は首を傾げた。
「夢。そうか、あれは夢だったのか……」
ぼんやりとした面持ちで優一郎は呟いた。水輝と共に色んなものを見た気がする。その中でも印象的だったのは幸せな家庭を築いているところだった。
「良かったですね。お幸せそうで」
厳しい口調で言って克人が立ち上がる。不思議に思って克人を見た優一郎はふと眉をひそめた。克人は手の中の紅の宝珠をじっと見下ろしていて、優一郎を見ようとしない。
「その宝珠は、茜さんの……?」
「壊れた施設の修復については、木村当主の名義で全てを引き受けます。必要であれば結界の修復もするそうです。後で被害状況をお知らせください。出来るだけ早急に対処いたします」
優一郎の質問を無視して克人が何かを読んでいる口調で言う。優一郎はため息を吐いて周辺を見回した。どうやらここは地下施設の中らしい。そのことは判る。が、確かに克人の言うようにあらゆる箇所は破壊されているようだ。
「君や茜さんに助けられたのかな? 僕は」
「助けたつもりは毛頭ありません」
きっぱりと言って克人が顔を上げる。その顔には怒りの表情が浮かんでいた。
「沙耶さんは失踪しました。順様も今のところ、見つかっていません。あなたを」
そこまで言って克人が唇を噛む。
「あなたを助けた気は、ありませんが、結果的にそうなってしまったのかも、知れませんね」
そう告げた克人の指先は白くなっている。力をこめて宝珠を握っているためだ。
「水輝さんが、失踪? 茜さんも? いったい何が!?」
「知りたいならご自分で調べてください。ボクはあなたに説明する気にはなりませんから」
じゃあ、と言って克人が止める間もなくその場から消え失せる。優一郎はぐらつく頭を押さえて何とか身体を起こした。力を使って水輝の気配を探る。だが克人に言われた通り、水輝の気配はどこにもない。優一郎は困惑しながら今度は順の気配を辿ろうとした。だがこちらもやはり探索の力には引っかからない。
「事情を知ってそうな相手に聞くしかないな」
そう呟いて優一郎は繭の褥から降りた。疲れきった身体を引きずって部屋を出る。慌ただしく廊下を走っていくメイドタイプのヒューマノイドを呼び止めたところで優一郎は目を見張った。
ヒューマノイドの脇に何かが見える。黒ずんだ不気味な影を見取った優一郎は絶句した。
「冥界から戻ってきているのか」
明るく挨拶したヒューマノイドが不思議そうに首を傾げる。何でもない、と手を振って優一郎は地下一階に上がった。多くのヒューマノイドがいつものように活動しているのを横目に優一郎は地上を目指した。どうやらヒューマノイド自身に黒い影は見えていないらしい。彼女たちはいつもと変わらない動きをしているだけだ。
渚さんか奈月さんに支援を求めるしかないか、水輝さんのこともあるし。そう考えて優一郎は二人の気配を探った。渚はどうやら吉良瀬トータルソリューションの地下施設に居るらしい。が、奈月の方がつかめない。怪訝に思いつつも優一郎はくるりと踵を返して地下鉄に続くドアに向かおうとした。
「優一郎!」
不意に呼ばれて優一郎はびくん、と身を震わせて足を止めた。男性の格好をした多輝が由梨佳を伴って駆け寄ってくる。
「多輝、良かった。無事だったのか」
ほっとしつつ声をかけた優一郎に多輝が怒鳴る。
「良くねえよ! 帰ってきたらぶっ壊れてるしよ! 何なんだよ、これ!」
苛々した様子で言って多輝が腕を広げて後ろを示す。床がぶち抜かれているところを目の当たりにして優一郎は困惑に眉を寄せた。
「水輝さんと奈月さんの消息が掴めない。君は何か知らないか?」
「あー!? おれはそれどころじゃなかったんだよ!」
そうまくし立てて多輝は頼む前に喋り始めた。どうやら多輝は由梨佳と共にとある場所に赴いていたらしい。清陵町の真ん中にある歓楽街の名を耳にして優一郎は軽く眉を寄せた。捜索しているうちに多輝と由梨佳、それを手伝っていた蒼もろとも凍りついてしまったのだという。気付いた時には一週間が過ぎていたのだと多輝は早口で言った。
「凍結術か、姉さんだな……」
呟いた優一郎に更に怒鳴ろうとしていた多輝がぴたりと口を噤む。多輝は由梨佳と顔を見合わせてから眉を寄せた。ため息を吐いて多輝が由梨佳の背を軽く押す。由梨佳は困惑した面持ちで多輝を見返った。
「そんでな。由梨佳がお前に何か言いたいんだと」
多輝がぶっきらぼうに告げる。優一郎は不思議に思って由梨佳と多輝とを見比べた。どうやら由梨佳は無事に新しい脳を使えているようだ。特にこれといった問題は見受けられない。詳しいことは機体を調べないと判らないが、表面的には心配はないだろう。
「初めまして。宇田川さんでしたね。ご存知だと思われますが、僕は吉良優一郎と申します。どのようなご用件でしょうか?」
そう言って優一郎はにっこりと笑った。そこで違和感に気付く。何故か由梨佳の周辺には清浄な空気が漂っている。他のヒューマノイドに見られた黒い影もない。
優一郎的には意味不明な展開ですよねー。