※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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エロシーンはないのですが……冒頭で単語がちょっとだけ出ます。


覚醒の続き

 赤い血の滴る膣口にタオルを何重にもあてがい、克人は急いでその場から跳んだ。紫はダメージを受けたにも関わらず何故か眠りについている。紫を抱えて慌ただしく木村の屋敷に転移した克人は真っ直ぐに透のいる部屋を目指した。ドアのところで呼ぶと透が間延びした返事をする。中からドアが開いたところで克人は泣きながら叫んだ。

 

「ママを助けて!」

 

 シャツに下着一枚という格好をして出て来た透が克人の抱える紫を見て目を見張る。

 

「返されたのか」

「いいから早く! ボクじゃママを治せないんだ!」

 

 泣きじゃくりながら頼む克人に頷いてから透が紫を抱える。部屋の中にいた女性二人を追い出すと、透は抱えた紫をベッドに横たえた。出血が酷いためだろう。紫の顔色は蒼白になっている。

 

「焦るな。こいつはこれでも龍神なんだ」

 

 そう言いながら透が紫の股間に何重にもあてがったタオルを一枚ずつ丁寧に取り去っていく。克人は怖さと悲しみに自然と震えていた。握ったこぶしが震え、歯の根がかみ合わない。

 

 一瞬の出来事だった。順の力と闇の力、それにあのあり得ないほどの透き通った力の重なる場所に正確に仕掛けたつもりだった。なのにその攻撃は一瞬で跳ね返されてしまった。こちらが障壁を張る前に弾かれた力は紫を射抜いてしまったのだ。

 

「相変わらず甘いなあ。俺の氷鏡なら、こんなものじゃ済んでない……が」

 

 紫をじっと検分するように見ていた透がちらりと克人を見る。克人は胸の前で手を握り締めて叫んだ。

 

「何で!? だってママなんでしょ!? どうして、何でこんなことするの!」

 

 紫が傷ついたことで克人はパニックに陥っていた。あの透明な輝きの主は紫の本当の息子だと言う。だから力をそのまま跳ね返すという可能性を克人は考えていなかったのだ。それも狙ったのは克人だったのに、力が跳ね返ったのは紫だった。克人は唇を引き結んで頬を乱暴に拭った。

 

「お前さ、最強クラスの龍神相手にしてるんだから、そうそう上手くいくわけねーだろ。攻撃しかけるってことは、こっちの手の内やらなんやら色々相手に晒してしまうことになるわけ」

 

 剥き出しにされた紫の下腹部に手をあてがいながら透が淡々と告げる。紫の膣口から流れていた血はそれと同時にぴたりと止まった。克人は僅かずつ冷静さを取り戻し、不安顔で紫の股間を覗きこんだ。放り出された四肢はぴくりとも動かない。何故かは判らないが紫はずっと眠ったままだ。

 

「だって、順様まであいつの傍にいるんだ」

 

 悔しさと腹立たしさをこめて克人は小声で言った。いつもなら同じ時間に必ず屋敷に顔を出していた順がここのところ姿を見せていない。そのこともあって克人の苛立ちは頂点に達したのだ。

 

「あの馬鹿が何考えてるかはわからねーが……来るぞ」

「え?」

 

 言われた意味が判らず克人は目を見張った。慌てて周囲を見回す。その瞬間、克人は背中を嫌なもので撫でられた気がして鋭く振り返った。聞き慣れない声が聞こえてくる。それを聞いた克人は目を吊り上げた。あの透明な力の主、優一郎に違いない。見えない何かで身体を縛られた気がして克人は不快感に顔をしかめた。手を振ってみるがやはり拘束感は消えない。

 

「なに、これ。気持ち悪い」

 

 反射的に克人は卵管を伸ばして身体にまとわりつくものを切り裂こうとした。だが赤く細い凶器は克人の身体の周囲を空しく舞うだけだ。

 

「おい、馬鹿。何で、優一郎に使われてるんだよ?」

「もう、何これ!」

 

 克人は驚いたように言う透を余所に癇癪を起こした。地団駄を踏んで身を捩る。なのに気持ちの悪いものは離れてくれない。まるで見えない綿か何かに身体を包まれているような気がする。

 

「仮にもオヤジに対してその言い草はねーだろ」

 

 にやにやと人の悪い笑いを浮かべて透が顎をしゃくる。克人は驚愕に息を飲んでぴたりと暴れるのを止めた。だが落ち着いて見てもやはり身体の周りを取り巻いているものは見えない。

 

「だって……順様はボクにこんなことしないのに」

 

 訳が判らなくなって克人はまた泣き始めた。優一郎が力として放った声は克人には断片しか聞こえなかったのだ。

 

「刺式の術って奴だ。あの馬鹿オヤジ、適当な名刺作って配りまくるからこんな目に合うんだよ」

 

 しみじみとため息を吐いて透が紫の治療を再開する。克人は戸惑いの目で自分の周囲を見回した。

 

「名刺が何かの術に使えるの?」

 

 克人の知る名刺というのは四角い紙に名前や肩書きの記されているものだ。前にコロニーに居た頃、商売に使うのだと誰かに見せて貰ったことがある。

 

「誓約者相手に配ればな。金玉掴まれたよーなもんだ」

「……誓約者ってそんなにえらいの?」

 

 とりあえず身体を取り巻いているものは無視することに決め、克人はベッドに身軽に飛び乗った。腰掛けた克人をちらりと見てから透が肩を竦める。

 

「エライとかエラくないとかそーゆー問題じゃなくて、言霊に関する術を使えるってことだ。お前が夢と蟲を操るのとかわんねー」

「……よく判んない」

 

 機嫌悪く顔をしかめて克人は拗ねた声で言った。すると透が少し呆れたような顔をしてまたすぐに紫に目を戻す。透の治療のおかげか紫の顔色は少しずつ良くなってきている。

 

「だってあいつ、ずるいよ。ママも居て、周りにいっぱい友達もいて、たくさんの人に好かれて」

 

 唇を尖らせて克人は足をぶらつかせた。なのに優一郎はその上、強い力を持っているという。

 

「おまえ、あんな甲斐性なしが羨ましいのか?」

 

 呆れたように言った透を拗ねた目で見てから克人はふい、とそっぽを向いた。

 

「別に羨ましくないよ。でもママを痛い目に合わせたりとか、沙耶さんを独り占めしたりとか、順様に酷いことしたりしてるとこは嫌だ」

 

 順が傷ついたことは目を通して少しだけ克人に伝わってきた。本来は克人に嵌められた順の目は、克人に順の様子を伝えることはない。僅かにでも伝わってきたということは、順がかなり傷ついていたという証拠だ。しかもそれをしたのはあちらの陣営にいる者だ。

 

「そう言うならそういう事でいいけどな。まあ、あいつみたいな甲斐性無しのアマちゃんあたりが、お前の力を磨くのには丁度いいだろうし」

 

 微かに笑って透がめくれていた紫のスカートを直す。続いて透は紫の足に手をあてた。返された力は床から一気に紫の身体を射抜いたのだ。そのため、足から股間、そして肩に向かって深い傷が走っている。

 

「力とかは知らない。あいつ、居なくなっちゃえばいいのに」

 

 不愉快な気分で克人は険しい顔をした。だがそんな克人の身体を見えないものがふわりと撫でる。さすがにこのまとわりついているものが順の力と聞き、克人は抵抗することも出来ず唇を尖らせた。

 

「だったらやりたいようにやればいいじゃん。ま、とりあえずその馬鹿オヤジの分身倒すところから始めろ。警告、聞こえたんだろ?」

「知らない。あいつが何か言ってたのは判ったけど」

 

 だが優一郎が自分に攻撃しないように言っていたのは判った。克人は膨れ面でそう説明した。

 

「おまえと優一郎が戦うなら、馬鹿オヤジは向こうに付く。名刺使った術のせいだけど、オヤジも抵抗してねーみたいだしな。何考えてるかわかんねーが、オヤジは優一郎と違って、殺る時は容赦ねーから気をつけろよ」

 

 少しずつ紫の傷を癒しながら透が淡々と言う。それを聞いた克人は仰天して目をむいた。

 

「何で順様が!? 違うよ! 順様はきっとあいつに騙されてるんだよ! 沙耶さんだって、神崎さんだって……あの綺麗なお姫様たちだってみんな騙されてるんだ!」

 

 憤りに任せて叫んでから克人は軽々とベッドを飛び降りた。そうでなければ誰があんなやつに、と続けた克人の目には憎悪の光が宿っていた。怒りと憎しみが自然と克人の周囲の空気を鳴らす。

 

「いい目してるじゃねーか」

 

 にやりと笑って透が克人を見つめる。克人は憤怒の目で透を見つめ返した。

 

「死ねばいいんだよ! あんな奴!」

 

 ざわりと身体の周囲を取り巻くものがざわめき、克人にまとわりつく。克人は反射的に腕を振った。鋭い光を帯びた赤い卵管が高速で舞う。克人は器用に身体と見えない力の間の空気を裂き、すかさずその場から転移した。克人の居た場所に残された力に怒りをこめた一撃を叩き込む。すると見えない力はふわりと空を漂って消えた。

 

「手伝ってやるか」

 

 とりあえず、アイツからは、バージン代取り立てないといけないしな。そう続けた透がのんびりと立ち上がる。克人はふと透を見上げていつものあどけない表情に戻った。

 

「ねぇ。透さんはボクのこと嫌いになる?」

 

 無邪気な克人の質問に透はしばし黙った。そっと紫を見てから克人に目を戻す。

 

「嫌いになるもクソもねーだろ。言ったからにはやって見せろ。優一郎がそれで死んだなら、あいつはそこまでの奴だったってことだ」

 

 チャンスは今しかねーぞ。そう続けた透は真っ直ぐに克人を見つめていた。克人はふわりと微笑みを浮かべて透に抱きついた。驚いたように透が身を竦めて克人を見下ろす。

 

「ボク、もっと強くなってくる。だからママをお願い」

 

 透の腰に抱きついたまま、克人はそう告げた。

 

「おう。できるだけ早く戻れよ。もうすぐ、絶好の機会が来る。それを逃したら、当分チャンスはねーからな」

「うん」

 

 明るく返事して克人は透から離れた。いつだったか順が言っていたことを思い出す。龍神もハンターも魔も、この世の澱みを何らかの方法で祓うために生まれてくる。だが中でも特に魔は無差別に澱みを食い散らかす。だから魔は他の二者よりも凶悪に見える。何より行動に理性はなく、感情のみで動くからだ。

 

 克人はベッドに横たわる紫に近づいてそっと唇を寄せた。行ってくるね、ママ。そう囁いてから軽く紫に口づける。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 微笑みを浮かべて言ってから克人はその場から転移した。




前に順が配った名刺がいいように使われてますw
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