過去の話と関係あります。
エロシーンというかグロ?(汗)
順は怪我してます。名刺のせいでw
いててて、と呟いて順はよろけつつ立ち上がろうとした。だが急激に体力を消耗したからなのか、ろくに身体の力が入らない。急に倒れた順によほど慌てたのか、執事が飛んでくる。この執事の男の名前は和也というのだ。そのことを遅まきながら思い出して順は片手を上げた。
「あ、だいじょぶだから」
軽く笑いながら言って順は強引に身体を起こした。
「大丈夫じゃありません! 血が出ているじゃないですか!」
どちらが怪我をしたのか判らないというほどに蒼白な顔をして和也が叫ぶ。順はいいからいいから、と執事を制して額に流れていた血を手で拭った。どうやら克人に切られた衝撃が思った以上に大きかったらしい。これが十全の体調なら特に問題はなかったのだろう。だが先日の桜との戦いの負担がまだ身体には残っているのだ。困ったねえ、と苦笑して順はのんびりとベッドに腰掛けた。戸惑った顔をした和也が急いで順に駆けより、持っていたハンカチを差し出す。
「いや、いいってば。汚れるし」
そう言いながら順はシャツの袖で額を拭った。幸い、見えている場所の傷はここだけらしい。そのことにほっとしつつ順はへらへらとした笑いをいつものように浮かべてみせた。
出来れば近づいて欲しくないんだけどなあ。そんなことを思いつつ順は和也から目を逸らした。同じ部屋に居るだけでも感情が揺さぶられるのに、不用意に近づいては欲しくない。第一、和也に感情が揺すられるおかげで見えるものも見えにくくなっているのだ。
「ちょおっと電話させてねー」
呑気に言ってから順はシャツのポケットから携帯電話を取り出した。アドレス帳を呼び出してボタンを押す。ほどなく出た相手に現在のハンターの状況を訊ねてから順は電話を切った。
「まずいなあ」
目を細めて呟いてから順は唇に手を当てた。今から止めるとなると転移するしかない。転移すること自体は問題ないのだが、佑の放った術が邪魔をする可能性がある。考えを巡らせつつ順は額を押さえて呻いた。ぬめるものが手に触れたところで我に返って顔を上げる。
「とにかく止血を」
慌ただしく和也が踵を返して部屋を駆け出して行く。それを呑気に見送ってから順は目を閉じた。やはり克人は予想通りの動きをしている。克人にはめ込んだ目を通してそのことを確認してから順は困ったなあ、と苦笑した。
この屋敷から下手に出ると桜の襲撃の可能性もある。かと言って克人を野放しにしておくのは危険だ。ひとしきり考えてから順は仕方なくもう一度携帯電話のアドレス帳を開いた。今度は別の番号にかける。
「あ。南城クン? 悪いね、お休みのトコ」
へらへらと笑いながら順は気軽に挨拶した。電話の向こうではいつものように落ち着いた声で睦月が応対している。
「入院してるトコ悪いんだけどさあ。至急で例の研究所とか閉めてくんない? ……そう。第五研究所までを最優先で」
すらすらと命じながら順は垂れてきた血を袖で拭った。電話の向こうでは睦月が戸惑った返事をしている。
「ああ、閉めるってゆってもさあ。別に閉鎖ってことじゃなくて……そう、一時的にでいいんだよ。中のヒトたちに休暇やって、出来るだけ頑丈にガードしてくれれば」
呑気に会話している間に和也が部屋に駆け戻ってくる。手にした救急箱を見止めて順は思わず苦笑した。いいってば、という意味をこめて和也に手を振ってみせる。電話中だということで気を遣ったのか、救急箱を抱えたまま、和也は部屋の入り口に佇んでいる。
「あとねえ、コロニーの分布図、大至急で送ってよ。……え」
そこで睦月の発した言葉に順は顔をしかめた。どうやら今現在のハンターのコロニーの分布図の正確なものは、メインコンピュータのデータバンクにしか存在しないようだ。そのことを聞いて順はむう、と呟いた。アクセス権のある順にはデータを引き出すことは可能だが、少し手間がかかる。何しろあそこの警戒は厳重でセキュリティをパスするだけでけっこうな時間を要するのだ。
「じゃあ、南城クンの持ってるやつでいいや。とりあえず送って。それと、各コロニーの長に大至急連絡」
だがこんなことをしたところで恐らく間に合わないだろう。そう思いつつ順は続けた。
「逃げろってゆってやって。でないと死ぬよ」
それじゃ、と一方的に順は電話を切った。そこで漸く和也が口をきく。
「手当てをしましょう。木村様」
「いや、別に人間用の手当てなんてオレには要らないしさあ」
順はだらしない笑いを浮かべて言ってから木村の本邸から自分の携帯端末を引き寄せた。宙に差し伸べた順の手に使い慣れた端末が現れる。それを膝に乗せて蓋を開いたところで順は目を上げた。
「オレ、くそ忙しいんだよね。悪いんだけど」
空間を跳ぶことの出来る克人より早く逃げるのは難しいだろう。が、運が良ければ生き残ることは可能かも知れない。感情を殺して無愛想に言ってから順は端末を立ち上げた。
不意に目の前が暗くなる。何事かと目を上げた順は目の前に和也が近づいていたことに絶句した。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!」
それまでの丁寧な態度をかなぐり捨てて和也が怒鳴る。そのあまりの変わりように順は唖然として目を見張った。間近に見ると執事の割に和也がいい体格をしているのがよく判る。
「や、それね。客に利く口じゃないし」
あくまでもいつものようにだらしない笑みを浮かべ、順はさりげなく和也から目を逸らした。だが顔を背けようとした順の顎を和也が乱暴につかむ。力任せに上向かされ、順は苦しさに思わず呻いた。
「それどころじゃないだろう。大人しく治療されろ」
低いどすの利いた声で言ってから和也が順から手を振り払う。順は自由になった途端に思わず衝動に任せて咳き込んだ。和也が全く、とぼやきながらベッドに乗せた救急箱の蓋を開く。
勘弁してよ、もう。順はそう呟いてよろけつつも立ち上がろうとした。一刻も早くこの場から立ち去らなければ。そうでないと取り返しのつかないことになる。そう思いながら腰を上げかけた順の肩を和也が強くつかむ。
「大人しくしろ!」
「いや、も、ホントに勘弁して」
泣きたくなるような切なさを覚えつつ、順は苦笑いを浮かべて和也の手をやんわりと退けようとした。だが退けようとした順の手を逆に和也がつかみ取る。驚きに目を見張った途端に順はその場に引っくり返された。
「ちょ、ちょっとたんま! うわ、オレの端末が!」
引っくり返った拍子に順の膝から携帯端末が滑り落ちそうになる。だが和也は器用に片手でそれを受け止め、ベッドの端に乗せた。足で順を押さえつけて余った片手で救急箱を引き寄せる。その手際の良さに順は思わず引きつった。
「ちょっと、やだってば! 大体キミ、執事でしょ!? 客に対する仕打ちなの? コレ!」
もがきながら喚く順を一瞥し、和也が取り出した包帯を広げる。
和也という名前がなー(棒