ネタバレしててごめんなさいー!!(汗)
エロシーンはありません。
「あなたが、この組織の責任者の方ですね? まず、私の命を救っていただいた事にお礼申し上げます」
滑らかな口調で言って由梨佳が頭を下げる。いえ、と優一郎は応えて由梨佳を真っ直ぐに見た。
「凍っている間、私はずっと夢を見ていました。その内容の一部をこれに保存してあります」
由梨佳がスカートのポケットを探って何かを取り出す。それは一枚のディスクだった。差し出されるままに受け取った優一郎はしげしげとディスクを見下ろした。ケースに入ったディスクには何も書かれていない。
「あなたは、ぱっと見多輝くんに似て見える方をお探しなのでしょう? きっと役に立つと思います」
それでは、と言って由梨佳が頭を下げる。何となくつられて頭を下げてから優一郎は慌てて顔を上げた。その時にはもう、多輝と由梨佳は地上に続くドアに向けて駆け出していた。
「やばいって! 絶対、蒼一人でもたねえよ、あれ!」
急がなきゃ、と言いながら多輝が走る横を由梨佳がついて走っていく。優一郎はぼんやりと二人が遠ざかるのを見送った。
優一郎はそれから地下鉄の駅に向かった。白衣のポケットにとりあえずディスクを突っ込んで電車を待つ。学校はどうやら今日は休みらしい。駅のホームに立つ生徒の少なさから優一郎はそのことを知った。
多輝の言葉通りなら、優一郎が意識をなくしている間に一週間が経過しているようだ。周辺の気配を注意深く探りつつ優一郎は電車に乗った。乗り合わせた客はまばらだ。電光掲示板に記されている日付と時間を読んで優一郎はため息を吐いた。平日の夕方だというのにこの客の数は異常だ。もしかしたら清陵の町全体に異変が起こってしまったのではないだろうか。そこまで考えてから優一郎は首を横に振った。
駅に着いてホームに下りた優一郎は真っ直ぐに吉良瀬トータルソリューションに続くドアを目指した。駅の奥、専用の通路を抜けてドアに辿り着く。指定の個人照合をしてから優一郎は開いたドアから施設内に足を踏み入れた。見た目にも気配も特に変わった様子はない。だが、何故かいつもなら真っ先に飛んでくる道代が姿を現さない。怪訝に思いつつも優一郎は施設の奥に進んだ。
ここは怨嗟に侵されている気配はないのに。そう思いつつ優一郎は渚の気配の感じられる客室に向かった。ドアを開いたところで絶句する。客室の至る所にヒューマノイドが倒れている。どのヒューマノイドも下半身が剥き出しになっており、だらしない顔で制止している。優一郎は慌ただしく部屋の中を見回した。
ベッドに一人、渚が座っている。片膝を立てて座っていた渚が口許に薄い笑みを浮かべる。
「待っていたわよ」
そう言って渚が顎をしゃくる。優一郎は息を潜めて部屋に入った。倒れたヒューマノイドを避けながらベッドに寄る。
「な、渚さん!? いったい、何を?」
「あら。そんなに驚くこと?」
小さく笑って渚が肩を竦める。それから渚はベッドに横たわっていた何人かのヒューマノイドを静かに隅に寄せた。開いたベッドを叩いて優一郎に座るように言う。優一郎は戸惑いつつも大人しくベッドの端に腰掛けた。
「ハッキングしたんですか?」
優一郎は周囲に横たわっているヒューマノイドたちを眺めてから小声で言った。倒れているヒューマノイドの中には道代の姿もある。
「私は機械が苦手なの。怨嗟を冥界に叩き送っただけよ」
面倒そうに言いながら渚が長い髪をかきあげる。金色の髪を指で梳いて渚はくすくすと笑い出した。
「明らかに性行為による損傷が見受けられますけど」
眉を寄せて優一郎が告げると渚があら、と笑った。
「だって犯すのが一番効率がいいんですもの」
軽く言って渚が肩を竦める。優一郎は渋い顔でため息を吐いた。どのヒューマノイドも快楽に緩んだ顔で倒れている。誰一人として苦痛の表情はしていない。優一郎は注意深くその場の気配を探った。残留した気を探ってから深々と息を吐く。
「怨嗟による襲撃を受けた形跡がない機体も存在するようですが?」
「言い寄ってきたのは向こうよ? 私が抱かせてくれと頼んだ訳ではないわ」
素気なく言って渚が髪を編み始める。長い髪を三つ編みにして渚は身軽にベッドを降りた。
「全く、酷い目にあったわ。急に動けなくなったと思ったら意識がなくなって、目がさめたら周囲は真っ黒。何事かと焦ったわよ」
どうやら渚も凍りついていたうちの一人らしい。優一郎は黙して渚の話に耳を傾けていた。真っ黒、と渚が表現したのが冥界の怨嗟なのだろう。
「でも一番驚いたのは……」
そこまで言って渚が優一郎を鋭く睨む。
「水輝と奈月が消えていることよ!」
叫ぶように言って渚が優一郎に近づく。優一郎は圧される格好で身体を後ろに倒した。優一郎に指を突きつけた渚が言う。
「一緒じゃないの!?」
「僕も渚さんが行方をご存知ないかと思ってここに来たんです」
「あら、そう」
急に素気なく言って渚が屈めていた腰を伸ばす。
「じゃ、あなたに用はないわ。さよなら」
あっさりと言って渚が身を翻す。優一郎は慌てて身を起こした。渚がさっさとヒューマノイドたちを避けてドアに向かって行く。
「渚さん、ちょっと待って……」
だがそんな優一郎の呼びかけを無視して渚が部屋を出て行ってしまう。優一郎は深いため息を吐いて肩を落とした。あの調子では渚は水輝や奈月を探すのに協力する気はないだろう。あくまでも自分で探そうとしているのかも知れない。
手がかりはないか、と消沈していた優一郎はふと近くに倒れていたヒューマノイドに目をやった。この施設内でヒューマノイドたちの機体状態をチェックする役割の波絵だ。慌てて近づいて手早く状態をチェックする。どうやらすぐに修理する必要がありそうだ。優一郎は両腕に波絵を抱いて部屋を出た。とりあえず手近な空いた部屋に入って修理を始める。壊れた機械仕掛けの女性器を取り替えて再起動したところで波絵が瞬きをする。
「とりあえず。君には彼女たちの修理を頼む。僕は緊急の用件でしばらくは地下執務室に居る。大前さんの修理が完了したら、今回の事件の顛末の詳細な報告レポートを作成するように伝えてくれ」
そう言った優一郎に波絵が慌てたように頷く。だが身を起こした波絵は意味ありげな笑いを浮かべた。
「言われなくても、修理はしますよぉ。あたしの仕事だし。でも、レポートについては期待しないほうがいいと思いますよぉ」
小さく笑って波絵が身軽に台から飛び降りる。訝りを覚えて優一郎は眉を寄せた。つなぎをしっかりと着込んだ波絵がにっこりと笑う。
「あたしたちは、もう、あなたの玩具じゃありませんから。あたしたち。渚さんのものになったんです」
笑顔で言った波絵を優一郎は愕然とした目で見た。気軽に手を振った波絵が部屋を出て行く。
「それでは、優一郎さま、さ、よ、う、な、ら」
片目を閉じて笑った波絵がばたん、とドアを閉じる。優一郎は言葉をなくしてドアを見つめた。軽い足音が遠ざかって消えていった。
マスター変更終了!w