瓦礫の連なる廃墟に佇んで克人はぼんやりと空を見上げた。あの時、命が尽きるだろうと覚悟をした場所がここだ。魔に襲われたコロニーは無残に消えている。
あの頃、魔は敵としか思えなかった。身を寄せ合って何とか生きていたコロニーの人々を襲った魔は脅威だった。結局、コロニーは壊滅し、所属していたハンターたちは散り散りになっていった。克人はその場に屈みこんで地面をそっと撫でた。
圧倒的な力だった。もしもハンターたちに準備をする時間があれば、もしかしたら対抗は出来たのかもしれない。だが数の上でもあの時の魔はこのコロニーに勝っていた。
もしもあの時、死んでいたらどうだったのだろう。時折、克人はそう考える。順に助けられることもなく、透や紫と知り合うこともなく、ただのハンターの一人として死んだ方が良かったのではないか。もしそうならこんな苦しい痛い思いはしなくて済んだのに。
どんなに誰かを慕っても、心から大切だと思っても、満足や安心を得られた試しがない。親切にしてくれたコロニーの者達は魔に踏みつけにされてどこかに去ってしまった。やっと安心出来る場所を見つけたと思ったら、実際にはそれは見せかけだけの場所だった。学校も、マンションも、初めて見た大きな人の街も、楽しいとは思えたがそれだけだった。
よいしょ、と呟いて克人は手に付いた土を払って立ち上がった。空は暗く、今にも雨が落ちてきそうだ。聞いた話によると、魔に踏みしだかれた土地には雨がよく降るのだという。魔の特有の瘴気に満ちた場所にヒトは出入りすることが出来ず、ここのように放置されているようだ。こうしてヒトに見放された街はこの国に幾つも点在する。廃墟のサイズは大小さまざまだが、一番大きなものは北に位置するものだろう。巨大な学園都市を築いていたその街は、住んでいた人もろともに魔の強大な力に晒されて一晩の内に潰えてしまったという。
順の傍にいる間に克人は色んなことを学んだ。こうした魔に関する知識も順から教えてもらったものばかりだ。順は魔について何も知らなかった克人に少しずつ判りやすく話をしてくれた。そんな順を克人は日に日に強く慕うようになった。
だがその順ですらもあの光の標と呼ばれるモノに囚われてしまっている。克人はゆっくりと歩きながら奥歯を食いしばった。それだけではない。克人が密かに憧れていた沙耶ですらあの光の標の傍にいる。学校で出会った吉良瀬の姫と呼ばれる彼らも、そしてあの桜ですら、だ。それを思い出した克人の顔は憎しみに歪んだ。
荒廃した地面に湿った風が吹く。克人は崩れたブロック塀やバラックの残骸のひしめく中を静かに歩き続けた。ハンターたちはみな貧しく、立派な家を建てたりするような者はなかった。しかもハンターは放浪の民だ。龍神を求めて廃墟を点々とする。それ故に頑丈な家は建てる必要がなかったのだ。
克人は額に浮かんだ汗を拭って息を吐いた。ただでさえ夏の暑さが厳しいのに、瘴気がこもっているからなのかここは妙に蒸している。その上、雨まで降りそうなのだから不快感は増すばかりだ。苛立ちをこめて汗を拭った克人はふと目を上げた。ずっと遠いところで何かが動いたのが目に映る。克人は薄い笑みを浮かべて静かにそちらに向かって進んだ。
崩れたブロック塀が続く廃墟の端を目指して克人は進んだ。ここもかつては広い街だったのだろう。だが今では人どころかハンターもいない。不規則にあちこちに向かって伸びたビルはまるで地面から釘でも生えているように見える。遠くに並ぶビルの残骸を横目に克人は歩き続けた。
建物の瓦礫がやがて減ってくる。割れたり陥没したりしていた道路がやがてまともな道に見えてくる。その頃になると周りには辛うじて残っている家も見え始める。だがやはり生き物の気配はない。草木すら一つも生えていない場所を克人は進んで行った。遠くに街を望むこの場所は住宅地だったのだろう。歩いているうちにやがて家が並んでいる様子も見えてくる。
人々はだがここにはいない。ペットや家畜の類もいない。克人は周囲を見ながら歩く速度を落とした。まだここにも魔の残した瘴気はある。それ故に人は例え家が残っていてもここに住むのを諦めてしまったのだろう。
ある所を境に唐突に草木が生えているのが見える。ここが魔の潰した土地との境界だ。克人はゆっくりとそちらに向かって進んだ。小さな丘の向こうには山が連なっている。克人は枯れて折れた木々が並ぶ林の残骸を抜けた。ここには瘴気はない。人の手がずっと入っていないからなのか木々は好きな方向に伸び放題になっているが、生きた林だ。
木の陰を縫うようにして何かが動く。克人は足を止めて柔らかい笑みを浮かべた。しばらく待っていると今度は木々の向こうから誰かがやってくるのが見える。大きく手を振る見知った男性に向かって克人は手を振り返した。廃墟で最初に克人が目にした動くモノは、ハンターのコロニーにはよく居る見張り役だ。克人の姿を確認した見張り役がコロニーの長の元に報せたのだろう。近づいてきたのはかつて克人の所属していたコロニーの長である榊という初老の男だった。杖をつきながら歩いてきた榊が嬉しそうに笑って克人の肩を叩く。
「生きとったか!」
「長もお元気そうですね」
コロニーが魔に襲われた時、克人は囮になって魔を引き付けた。その間に出来るだけハンターたちは遠くに逃げるように。その作戦を提案したのは克人自身だった。ほんの少し前のことの筈なのに、克人はその時のことを遠い昔のことのように懐かしく思い出した。
「あれから随分探したんやけどな。どこにもおらんなっとってえらい心配したんやぞ」
以前と変わらぬ気さくな笑みを浮かべて榊が克人を促す。克人は笑顔で頷いて榊を支えて歩き出した。榊はずっと以前に龍神との戦いの折、片足を悪くしてしまったのだ。いつもなら触らんでええわ、と照れて離れるのに、今日の榊は大人しく克人につかまって歩き出した。
やがて木々の間に急ごしらえのテントやバラックが見えてくる。待ち構えていた者たちに出迎えられて克人は照れつつも挨拶をした。どの顔も克人の無事を喜んでいる。そのことは克人にもよく判っていた。
作者の熱が出てヤバくて更新止まるかと思いました!><
良かった(汗)
克人のいたところの描写を頑張った記憶があります。
今は覚えてないんですけどね!w