※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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ちょっと……こう……意味不明なエピソードかも知れません。
エロシーンはありません。


荒城の月と月の龍 1

 ぴくりと眉を上げて水輝は目を上げた。ベッドに横たえた執事は穏やかな眠りについている。順の放った一撃は急所を外れていたため、治すのには特に支障はなかった。もし、順がほんの僅かでも迷わなかったら執事は一瞬で死んでいただろう。

 

 水輝は静かに椅子から腰を上げて執事の部屋を出た。二階の佑の部屋があるところを仰いでから静かに歩き出す。

 

 今は多輝も由梨佳も屋敷にはいない。学校に戻った多輝は修復中だろう。斎姫も恐らく傍についている筈だ。要や白銀は元よりこの屋敷には近づいていない。渚はあれだけのダメージを与えた以上、当分は動けないだろう。祐も渚と同様に今は動けないはずだ。

 

 後は、と呟いて水輝は目を細めた。見知った三つの気配が空間を越えて屋敷の中に現れる。どうやら佑が呼んだ冥界の犬のようだ。そのことを読んで水輝はため息を吐いた。犬は元々、主人にはとても忠実だ。居ても問題はないか、と呟いて水輝は静かに廊下を進んだ。

 

 広々とした屋敷の廊下を折れてキッチンに向かう。大きな扉の前で水輝は足を止めた。今は中で奈月が湯を大量に沸かしている最中だ。産湯を用意するのだと言っていたから恐らくあらゆる鍋ややかんが活躍中だろう。しばしキッチンの前に佇んでから水輝は踵を返した。

 

 ふと、背後で扉が開く。肩越しに振り返った水輝は思わず苦笑を浮かべた。空の鍋をつかんだ奈月が所在なげにドアのところに突っ立っている。

 

「水輝さん。何か、あったんですか?」

 

 ごく小さな声で言われて水輝はいや、と首を横に振った。それから首を伸ばして奈月の背後のキッチンを覗き込む。

 

「やかん、ふいてるぞ」

 

 苦笑しつつ指摘して水輝は白い蒸気を上げているやかんを指差した。すると奈月が慌てたように振り返る。キッチンに駆け戻った奈月はやかんのかかっていたコンロの火を落としてから慌ただしく振り返った。

 

「水輝さん、あのっ!」

 

 相当に焦っていたのか、いつもより大きな声で奈月が呼ぶ。歩き出そうとしていた水輝は足を止めて奈月を振り返った。今度は鍋を調理台にちゃんと置いてから奈月が廊下に駆けてくる。

 

「あの、外ってどうなってるんですか?」

「外?」

 

 言われたままを返して水輝はぐるりと周囲を見た。今は夏だが、今日は夏の中でもかなり暑い。特に夕刻から雨が降る予定になっており、吹く風は生暖かい。湿った風が空気を蒸しているため、不快に思う者は多いだろう。水輝は奈月の質問に淡々とそう答えた。すると奈月が困ったような顔をする。

 

「あの、わたしの言い方が悪かったかもしれません。街の外の事です」

 

 水輝はぴくりと眉を微かに上げた。だがすぐにいつもの表情に戻ってから肩を竦める。

 

「特には何もないだろ? 目新しいニュースも流れていないし」

 

 頭をかきながら水輝はのんびりと答えた。すると今度は奈月が唇を引き結んで上目遣いにじっと水輝を見る。

 

「これまで、この街には厳重な結界が張られていました。ゆか……立城さんの城だから当然だと思ってました」

 

 エプロンを強く握りしめて奈月が小声で言う。水輝はどうやらごまかされてくれそうにない、と諦めて奈月を促して歩き出した。まだ佑の方は産湯を用意する段階には至っていないし、すぐに襲撃される訳でもないだろう。

 

 屋敷の廊下を抜けて水輝は小さな裏口のドアを開いた。隣にいた奈月が驚いたように息を飲む。広い裏庭には季節外れのこすもすが一面に咲き乱れていた。ぬるい風に吹かれた色とりどりのこすもすが揺れる。

 

「良く考えてみたら、わたし、復活してからこの街の外に出たことは数えるほどしかありません。その僅かな機会も、水輝さんのことだけしか考えていませんでした」

 

 水輝は奈月の話を聞きながら静かにしゃがみこんだ。風に揺れるこすもすを見つめてそうだな、と合鎚を打つ。

 

「わたし、立城さんの結界の外に出ても、昔と変わりが無いと無意識のうちに思ってました。でも……」

 

 言葉を途切れさせて奈月が悲しげな顔で俯く。水輝はちらりとそんな奈月を見てからこすもすに目を戻した。狂い咲きのこのこすもすは水輝が種から育てたものだ。先に咲いていた桔梗が驚くほどの速さで枯れ、枯れた草木が土に戻ってこすもすの肥やしとなった。意図的に力をかけて水輝はわざわざこすもすをこの今の季節に咲かせたのだ。

 

「結界ってのは大きく分けて二つ使い道があるんだ。それは奈月も知ってるだろ」

「外と中を隔てるという意味では同じです。でも、外から中、中から外と方向はふたつ、あるんですよね」

 

 そう答えた奈月の顔から表情が消える。水輝は静かに手を伸ばしてこすもすを一本だけ手折った。すると水輝の手の中で見る間に小さな白い花がしおれてしまう。水輝は感慨のない目で枯れていくこすもすを見守った。

 

「結界には中の者を護るという意味と閉じ込めるという意味がある」

 

 茶色く枯れたこすもすは水輝が手を開くと風に吹かれて舞い上がった。乾き切った音を立てて枯れたこすもすが下草の上に落ちる。




この頃の水輝は色々とアレなんですよね……。
不安定というかー。
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