出産シーンが嫌な方は逃げてください!
エロシーンはありません。
「だって、なんだか、凄くむかついて! 水輝さんの、無責任っ!!!」
「うわ!」
呉羽が焦った声を上げた途端、佑の下腹部から急速に痛みが消えた。荒い息を吐く佑に呉羽が声を張り上げる。
「危ないじゃないの! 落としたらどうすんの!」
「そんなこと……言われても……」
わかんないってば。泣きそうになりながら佑は掠れた声で言った。痛みは消えたが酷い脱力感がある。
不意にか細い泣き声が聞こえてくる。それが胎児の声だと気付いた佑は目を見張った。
「ほら、お嬢ちゃん! 産湯!」
手際よくへその緒を結んだ呉羽が奈月に声を張る。
「はいっ!」
元気よく返事した奈月が呉羽から大切に大きなタオルを受け取る。反動にぐらつく頭を何とか支えて佑は奈月の方を見ようとした。だが身体が横になっていて背後の奈月を見ることが出来ない。
「はいはい。いま、動かしたげるから無理しない」
一転して穏やかな顔で言って呉羽がゆっくりと佑の身体を仰向けにする。それから呉羽は優しい笑みを浮かべてよく頑張ったね、と言った。
「すみま……せん」
消え入りそうな声で言って佑は笑み返そうとした。だが疲れすぎていてとても笑う気力がない。そんな佑の手を桜はまだしっかりと握っている。
「なあに、謝ることはないさ。あんたはちゃんと産んだじゃないか」
そう言ってから呉羽がそっと佑の足を抱えて開く。タオル、と命じられた犬が呉羽にタオルを差し出す。
佑はのろのろと首を動かして奈月の方を見た。血だらけの胎児をガーゼで優しく洗いながら奈月が目を潤ませる。
「翠さん、初めまして、奈月ですっ!」
まだ泣いている胎児に奈月はそう挨拶して頭を下げた。だがまだ胎児でしかない翠は泣くばかりだ。まあ、泣くのが最初の仕事なのだから当然なのだが。そんなことを思いながら佑は深々と息を吐いた。
「佑さん、ほら、翠さんですっ!」
洗い終えた翠を新しいタオルで拭きながら奈月が笑顔で言う。佑は辛うじて笑みを浮かべて頷いてみせた。か細い声で泣いていた翠の髪は美しい翠色をしている。胎児の状態でもはっきりと整った顔立ちをしているのを見取って佑は思わず苦笑した。
「ちょっと痛いよ」
唐突に呉羽に言われて佑は身構える間もなく痛みを感じて顔をしかめた。だが、先ほどまでの痛みに比べれば随分と柔らかな痛みだ。どうやら呉羽が裂けてしまった会陰を縫っているらしい。佑が何度か痛みを感じた後、もうちょっとだからねと言った。どうやら産めばそれで終わりという話でもないらしい。
「佑さん、どうぞ」
裸の翠をタオルに包んで奈月がそっと差し出す。佑は胸元に乗せられた翠を初めて抱いた。思っていたよりも随分と小さい。手足は細く、少しの力で折れてしまいそうなほどだ。
「僕が、本当に?」
産んだの? 不思議な気分で佑は胸に抱いた翠をじっと見つめた。翠はいつの間にか泣き止んでいる。穏やかな顔で眠る翠を見つめる佑は無意識に微笑みを浮かべた。
「あんた以外の誰が産んだってのよ」
笑い声を上げて呉羽が言えば、佑の手をさっきまで握っていた桜が頷いてみせる。二人を見てから佑は傍に立つ奈月を見上げた。
「あの、佑さん、すいません。わたしにも、抱かせてください」
約束なんです。そう言って奈月が透き通った笑みを浮かべる。それをしばし見つめてから佑は腕の中の翠に目を落とした。
「そうだ、桜、さん? 世界の礎とは、何、ですか?」
ふと目を上げて佑は桜を見つめた。桜がしばし黙してから重々しく口を開く。
「ずっと昔、そう呼ばれた者はいましたが」
そう言って桜はちらりと佑の足元に目を向けた。どうやら呉羽は漸く作業を終えたらしい。静かに佑の身体に毛布をかけ、片目を閉じて三人の犬を従えて部屋を出て行く。どうやら遠慮してくれたつもりらしい。
「その時々により、礎の役割はまちまちです。ある者は自己を犠牲にして世を支えました。またある者は一生を通じて世に尽しました。どちらにせよ、世界を支える大切な存在であることに違いはありませんが」
語る桜の表情は冴えない。
「奈月さん。申し訳有りません。水輝さんの許可が出るまで、この子を抱いていただくわけにはいきません」
にっこりと笑みを浮かべて佑は告げた。だがその目は決して笑っていない。そんな佑を見つめて奈月は戸惑いの表情を浮かべた。
「桜さん。奈月さんは、礎となる決心を固めたと、僕に先ほど仰いました」
ご存知でしたか? 横目に桜を見つめて佑は静かに告げた。すると見る間に桜が真っ青になる。
「姫様!? どういうことですか!」
声を震わせて叫んだ桜から奈月がそっと目を背ける。
「水輝さんに相談して、決めたことです。桜さん、わたしなんかに尽くしてくださって、ありがとうございました」
穏やかな口調で言って奈月が頭を下げる。愕然と目を見張った桜は次に怒りに目を吊り上げて叫んだ。
「阿呆の青龍王などどうでもいいのです! わたくしは好きで姫様のお傍にいるのですから姫様がお気になさることはありません! ですが、礎など!」
胎児がいると判っているのかいないのか、桜が遠慮のない声を張る。だが不思議と翠は佑の腕の中で穏やかに眠っている。
やっと出ましたねーw
お疲れ様です。という感じですね!