「何も入れてねーよ。ちなりの淹れた茶は上手いからちゃんと飲め」
背後から怒った声で言われて水輝は肩越しに振り返った。ふうん、と呟いて再びカップを取る。水輝はためらいなく紅茶を飲み干してからごちそうさま、とちなりに言った。唖然としていたちなりが慌てたように頷く。
立って動けるなら特に問題はない。水輝は振り返って透を見た。ベッドに胡座をかいた透はやけに不機嫌そうな顔をしている。
「悪いが服を貸してくれ。引き寄せるのが面倒だ」
ベッドに置き去りにされた元の服はどうせ寸法が合わないだろう。水輝は淡々と透に要求した。
「なあ、あんた。今、行っても足手まといになるだけだと思うぞ」
組んだ胡座を両手でつかんで身体を前後に揺すりながら透が言う。水輝はしばし黙してから苦笑した。
「そうかもな」
だが何もしないよりはましだ。自嘲気味に呟いて水輝はほら、と透に手を伸ばした。早く服を寄越せとせがんだ水輝を透が嫌そうに見る。
「一発やってからでも、遅くねーだろ。っていうか、俺に抱かれれば力回復するぞ」
女になったのも、本能的に力を求めてだと思うが。そう言って透が頭をかく。水輝はため息を吐いて部屋にいる二人の少女を見た。ちなりと巴を見てから透に目を戻す。
「さっきしただろうが。それにどうやら抱く女には事欠いてないようだが?」
不機嫌に言って水輝は腕を組み合わせた。
「ちなりも巴も俺のもんだから、その程度のこと気にしねーよ」
つーか心配されてるぞ。あんた。顎をしゃくってみせた透をしばし睨むように見てから水輝はため息を吐いた。ゆらりと歩き出した水輝の動きを二人の少女が目で追いかける。水輝は赤く汚れたシャツを取り上げるとポケットを探った。煙草とライターを出したところで吸ってもいいか、と訊ねる。
「ああ」
「悪いな」
頷いた透に断って水輝は煙草を咥えてベッドに腰掛けた。傍にいたちなりに軽く手を振って退けるように示す。するとちなりは不安そうな顔で水輝を見つめてから巴のいる場所に戻った。
「別に絵美佳ちゃんにやらなきゃならない理由はないだろ? もう」
煙草に火を点けて深く吸い込んでから水輝はそう告げた。横目に見た透が眉を寄せて水輝を睨むように見る。
「あのさ、言っていいか?」
しばし水輝を見てから透はため息混じりに言った。
「今のあんた、見ててすげー危なっかしいんだよ」
「だろうな」
煙草をくゆらせながら水輝は感慨のない声で応えた。まだしっかりと片手に機械仕掛けのペニスを握っている巴が小さな硝子の灰皿を持って来てくれる。ありがたくそれを受け取って水輝は煙草を灰皿の縁で軽く叩いた。
「だからって絵美佳ちゃんがおれに力を分ける義理もないだろう」
細い指の間に挟んだ煙草を唇に戻しつつ水輝はそう告げた。
「俺の力を、俺が好きに使ってなんかマズイことでもあんのか?」
「まずくはないな。ただ、おれには断る権利もあるな」
肩を竦めて言ってから水輝は苦笑して透を見た。難しい顔をした透が唇を尖らせる。
「もしかして、優一郎に振られでもしたのか?」
「最初から好かれていないものは振られようがないな」
あっさりと言ってから水輝は細く煙を吐き出した。訝るような顔になった透が首を傾げる。
「まさかとは、思うが……」
何故か声を潜めて透が言う。
「お姫さん、桜ちゃんにかっ攫われたとか?」
「そうなればいいとは思ったが、桜にその器量はないだろう」
何だ、質問したいからおれを引きとめたのか。水輝は小さく笑って横目に透を見た。
「ちがうってば! 今のあんたねえ、振られ駄目男にしかみえないって言ってるの!」
体は女だけどさあ。急に懐かしい口調に戻った透を見て水輝は微かに笑った。
「折角だから優一郎を見舞ってやったらどうだ? 出産後でけっこう大変だと思うぞ?」
一応、一緒に育ったんだから。血の繋がりはなかったと言っても透は長い間、優一郎の姉として暮らしていたのだ。そう思いながら水輝は穏やかな声でそう告げた。
「俺が男の道極めてる間に、あいつは女の道まっしぐらだな」
世の中面白いよな。腕組みをしてしみじみと透が言う。水輝は苦笑してそうだな、と言うと灰皿に煙草を押し付けた。新しいものを咥えて火を点けてから深く息を吸う。
「で? 服は? 貸してくれるのかくれないのかはっきりしろ」
借りられないなら引き寄せる。水輝は淡々とそう告げて腰を上げた。
「貸してやるよ。ちなり。俺の女の頃の服、まだあるだろ? 制服から下着まで一式持ってきてくれるか?」
「あっ、うん!」
ちなりが慌てたように部屋を駆け出して行く。悪いな、と言って水輝は灰皿を巴に返した。しばしの後、ちなりが制服や下着を抱えて戻ってくる。水輝は受け取った服を手際よく身につけていった。咥え煙草で着替えをする水輝を不安そうにちなりと巴の二人が見守る。
「返せないかも知れないが、その時は吉良瀬の屋敷から適当に服を見繕って持っていってくれ」
ブラウスのボタンを掛けながら水輝はそう言った。
「ちょっと待てよ」
肩を引かれて水輝は振り返った。
「何だ。おれは急いでるんだがな」
機嫌悪く言ってから水輝は透の手を払った。スカートをはいてネクタイを首にひっかける。
「いいから、目ぇ閉じろよ。餞別くらい受け取れ」
「要らん」
すげなく言って水輝はネクタイをいいかげんに結わえた。懐かしい清陵高校の制服に身を包んだ水輝はベッドに残してあった煙草とライターを制服のポケットにねじ込んだ。
クリスマスなのに!w
水輝を説得するために必死な透が一瞬、絵美佳の口調に戻ったりします。