お正月からひどいサブタイだー!w
エロシーンはありません。
夕暮れが過ぎた暗い周囲の景色を見回して桜は眉を寄せた。不気味な瘴気の漂う空気の中に女のすすり泣きが響いている。桜は訝りを覚えつつ声のする方に歩き出そうとした。だがそんな桜を傍にいた奈月が無言で引き止める。腕を引かれるままに足を止めた桜はその場で目を凝らした。
闇に慣れた目に次第に景色が見え始める。桜はすすり泣く女の姿を見止めて目を細めた。赤いものがうねる地面に座り込んだ紫が懸命に呼びかけているのだ。ゆうちゃん、ゆうちゃん、ゆうちゃん。すすり泣きながら紫が呼びかけているのは克人だ。克人は地面に横たわっており、ぴくりとも動かない。
「蘇芳さんはまだ助かります」
ぽつりと奈月が呟いて歩き出す。慌てて桜はその後を追った。闇に包まれたこの場所は桜に覚えのないところだった。瓦礫や壊れた道路、倒れかけたビルの立ち並ぶその様はまるで捨てられた街そのものだ。
「ゆうちゃん、ゆうちゃん、ごめんね」
すすり泣きながら紫が子供のように克人を揺する。蟲が無数にうねっている赤いさざなみの手前で奈月はぴたりと足を止めた。桜もつられて立ち止まる。
「街ごと、浄化します」
「そんな……」
桜は顔を歪めて周囲を見回した。ここが一体、どれだけの広さがあるか判らない。そんな場所を丸ごと一気に浄化してしまったら、周囲とのバランスが崩れてしまうかも知れない。穢れや澱みは必要があって集められているものだ。桜はごく小さな声でそう説明をした。
「だれ?」
それまですすり泣いていた紫が不安そうに奈月と桜を見る。すると足元にざわめいていた蟲たちはぴたりと動きを止めた。一斉に頭を出したみみず状の蟲が一様に奈月に向かって口を開く。
「止まって」
静かな声で奈月が告げると蟲たちはもたげていた頭を次々におろしていった。紫が焦ったように周囲を見回して泣きじゃくる。
「いや! こわい!」
悲鳴じみた声を上げて紫が嫌がるように頭を横に振る。紫は懸命に克人を腕に抱いてじりじりと奈月から離れていった。
「紫さん、大丈夫です。今、潔めますから」
にこやかに微笑んで奈月が空を仰ぐ。
「渚お姉さま、わたしに力を」
お貸しください。胸の前で祈るように手を組み合わせた奈月がそう言葉を紡ぐ。するとどこからともなく艶やかな金色の光が奈月の許に集い始めた。光の帯となって金色の力が奈月を中心に螺旋を描く。
「いやあ! こないで! 悪魔!」
悲鳴を上げて紫が克人を腕に抱きしめる。克人の顔面は左端が焼け爛れている。それに片腕は妙な方向に捻じ曲がっており、身体中にはあちこちに切り傷がある。
「紫さん……」
哀しげな目で奈月が紫を見る。だが紫は半狂乱の態で叫んだ。
「こわい! いや! 気持ち悪いの、近づかないで! 鬼! 悪魔!」
桜はそれを聞いて怒りに目を吊り上げた。怒鳴り返そうとした桜の前に腕を伸ばして奈月が目配せする。桜は無言で制されて渋々と唇を引き結んだ。
「地の龍よ。歪みを捨てて命を育まん」
奈月が言葉を紡ぐと紫から清浄な淡い光が引き出された。静かに克人に光が注がれる。金色の光の帯は緩やかに蟲の海の上を漂い、二人の許に到達した。
「嫌あぁ!」
全身で叫んで紫が懸命に身じろぎする。腕に克人を抱いた紫は立ち上がって踵を返した。だがろくに力が残っていないのだろう。駆け出そうとしては地面に崩れ落ちる。
不意に虹色の羽根が開く。紫はぱっと顔を輝かせて克人を抱きしめた。克人が背に伸ばした羽根を震わせる。ゆらりと片腕を上げて紫に抱きついた克人が肩越しに振り返る。
「ごめんなさい」
小さな弱々しい声で告げて克人は大きく羽ばたきをした。その瞬間に衝撃が生まれ、金色の光の帯がばらばらに宙に弾き飛ばされる。桜は慌てて奈月を庇って地面に伏せた。咄嗟に展開した結界を激しい衝撃が叩いて過ぎる。
「桜さん、ありがとうございます」
にっこりと笑って奈月が起き上がる。いいえ、と首を振って桜も立ち上がった。真っ直ぐに正面を見据えたところで桜は顔を歪めた。紫が夢中で克人と口づけを交わしているのだ。
「そろそろ、戻ってきます」
哀しそうに奈月が口づけを交わす二人を見つめる。桜は無言で二人の様を見つめた。弾き飛ばされた光の帯が宙を舞って二人の許に急速に近づく。抱き合う二人は共に光に貫かれた。紫に抱きついていた克人の腕から力が抜け、だらりと垂れ下がる。紫は狂ったような悲鳴を上げて倒れる克人を抱きとめた。
「ゆうちゃんを苛めないで! もういいでしょう? これ以上、痛くしないで!」
金色の光の帯が宙を泳ぐ。帯に手足を取られてもまだ紫は克人を抱いて泣きじゃくっている。
「大丈夫です。必ず、助けますから」
凛とした声で言って奈月は腕を掲げた。
「命の水よ!」
青い閃光が迸り、克人を射抜く。それに続いて大きな弧を描いた金色の帯が次々と二人の許に向かって飛んだ。嫌がって悲鳴を上げた紫が必死の面持ちで奈月を罵倒する。桜は無言で二人を見つめた。紫や克人にとって奈月の呼ぶ清浄な光は痛みにしかならず、とても癒される気分にはなれないだろう。
「生と死。動と静。目覚めと眠り。天空の城、地の門よ、かの者達に力を!」
あれだけ地を蠢いていた蟲たちは怯えて消えてしまった。廃墟を覆い尽くしていた瘴気は徐々に薄まっている。奈月の放った魔法が展開し、泣き叫ぶ紫と克人の許に真っ白な閃光と闇色の光が集う。
「人殺し! 悪魔! どうしてわたしたちにこんなことをするの!」
声の限りに罵倒しながら紫が奈月を睨みつける。桜は静かに息を吐いて力なく首を振った。どれだけ紫に心を砕いたところでもう声は届かない。恐らく何かが決定的に壊れてしまっているのだ。
「我が名は奈月。この夜の世界を導くもの。月光よ! かの者達の歪みを解かん」
紫の悲鳴が周囲の空気を揺らす。曇っていた空がゆっくりと晴れ、雲間から細い月が顔を覗かせる。薄い月明かりに照らされた紫の悲鳴が徐々に静まり、やがて笑い声に変わる。桜は目を細めて天を仰いで笑い出した紫を見つめた。紫の頬には涙が伝い落ちている。
地面に横たえられた克人の腕はいつの間にか元の形に戻っている。
立ち位置が違うと色々と難しいというかー。