若干エロ……? 絡みはないのでエロではない……?
「それなら。さっきの台詞言って来なさい!」
そう命じて佑が部屋のドアを指差す。水輝は赤い顔のままで渋々と頷いた。歩き出そうとしてふと立ち止まる。水輝は佑が訝るのを余所にベッドに這い上がった。細い腕を佑の首筋に回して唇を寄せる。佑の唇に触れるだけの口づけをして水輝はありがとう、と呟くように言った。それから俯いて佑の顔を見ないようにそそくさとベッドを降りる。踵を返して駆け出した水輝の背後で佑がぷっ、と吹き出す。水輝は真っ赤に顔を染めて急いでドアを開けた。
ドアの外で笑い転げていた順をわざと踏みつけて水輝は佑の部屋を出た。可愛いよ、水輝ちゃんという順の笑い混じりの声を無視して水輝は一目散に奈月の部屋に向かった。慌ただしくドアをノックすると中から返事が聞こえる。水輝は恐る恐るドアを開けてそっと部屋の中を覗き込んだ。やはり奈月の部屋にも煌々と明かりが点いている。
「水輝さんっ! おかえりなさい」
にっこりと笑って奈月が嬉しそうに立ち上がる。水輝は周囲を慌ただしく見回してから奈月の部屋に滑り込んだ。きっちりとドアを閉めてついでに鍵を厳重にかける。どうやらレース編みをしていたらしい奈月は、手にしていた編物の道具を椅子に置いて水輝に駆け寄った。
「なっ、なっ、なっ」
水輝は真っ赤になって言葉を途切れさせた。水輝の正面に屈んで視線を合わせた奈月が不思議そうに首を傾げる。
「えっと、あの、どうなさったんですか?」
可愛いですけど。水輝を見つめて奈月がにっこりと笑う。水輝はうう、と呻いて唇を噛んだ。だがこのまま誤解させておく訳にはいかない。それに誤解させた原因は自分にあるのだ。水輝は懸命にそう自分に言い聞かせて深呼吸した。
深く息を吸って水輝はこぶしを握り固めた。
「奈月!」
半ばやけくそで水輝は奈月に呼びかけた。にこやかな笑みを浮かべた奈月がはい、と返事する。
「おれはおまえのことを愛してる!」
必死で照れくさいのを我慢して水輝は一気にそう叫んだ。すると奈月が驚いたように目を見張る。
「おまえはおれのものだ!」
そう言い終えて水輝は全身で息を吐いた。だが言い終わった途端に不安になる。もし、奈月がやはり礎になりたいと言い出したらどうすればいいのだろうか。
「水輝……さん? あの、本当に?」
「うわああああ! 照れくさいから訊き返すな!」
真っ赤になって水輝は頭を抱えて喚いた。床にへたり込んだ水輝を呆然としたように見つめていた奈月がやがて笑みを浮かべる。
「わたしも、水輝さんが大好きです! 愛してます」
にっこりと奈月が微笑む。水輝は恐る恐る顔を上げて奈月を見た。漸く安心したからなのか急に足の力が抜けて立てなくなる。だらしないな、おれ。そう笑った水輝は奈月に差し出された手を取った。そのまま奈月の腕を辿って強引に抱きつく。幼い子供の姿になった水輝を楽々と腕に抱き上げて奈月はにこやかな笑みを浮かべた。
「ごめんなさい……水輝さん」
ふと、顔を曇らせて奈月が言う。水輝は椅子に腰掛けた奈月の膝に下ろされたところで目を上げた。
「何で詫びるんだ?」
誤解させたのは自分で奈月が悪い訳ではない。水輝はそう奈月に告げた。
「いいえ! わたしって、いつもいつも勘違いばかりして水輝さんを困らせて! 本当にごめんなさい」
そう言った奈月が涙ぐむ。うわ、と慌てて水輝は手を伸ばして奈月の目許を指で拭った。泣くな、と呟いた水輝を奈月が抱きしめる。自然と奈月の胸に顔をもろに埋める格好になった水輝は慌てて手を振り回した。だが奈月は腕を解くどころか、さらに水輝を抱きすくめる。豊かな両の乳房の間に顔を挟まれて水輝は息苦しさにもがいた。
「ご、ごめんなさい! 水輝さんっ! 大丈夫ですか!?」
焦ったように言って奈月が水輝を抱く腕の力を緩める。水輝はぶは、と息を吐きながら顔を上げた。それから改めて奈月の胸に触れる。
「そうか。身体が小さくなった分、頭も小さくなったから」
だから埋もれるんだな。そう呟いて水輝は柔らかな生地のブラウスに包まれた奈月の胸を軽く手で撫でた。
「あっ、んっ、水輝さん……」
奈月がうっとりした顔で呟く。それを聞いて水輝は困ったように笑った。えい、とわざと顔を奈月の乳房に擦り付ける。ブラウス越しに胸の柔らかさを味わいながら水輝は目を閉じた。
「水輝さん。わたしは、一人で立つことはできません」
胸の奥から静かな奈月の声が聞こえてくる。かつて立城はそういう風に奈月を作り上げた。そのことは判っていたが、水輝はあえて奈月を突き放すようなことを言った。水輝はああ、と呟くように答えて目を開けた。
「もう、離れませんから」
「ああ。おれもお前と離れるのは嫌だ」
少し考えてから水輝はストレートにそう答えた。奈月の胸の奥でふと声がするのが聞こえる。水輝は苦笑をして静かに目を閉じた。はっきりとは聞き取れない声に耳を澄ましてみる。
水輝は顔を上げて奈月を見つめた。奈月が静かに目を閉じる。水輝は腕を伸ばして奈月の首に抱きついて唇を寄せた。膝の上で何とか背伸びをしようとした水輝の身体を奈月がそっと両腕に支える。いつもと逆だな、と苦笑して水輝はそっと奈月に口づけた。
一応はハッピーな感じで終章に続きます。
ねんがんのちちにかおをうずめるをてにいれた(by.水輝