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結局、順と水輝、それに翠を除く女性たちはテントで水着に着替えることになった。翠がテントの外で泣き声を上げている。やかましい、という水輝の不服そうな声をテント越しに聞きながら桜は深々とため息を吐いた。
「うわ、可愛い。それって今年の新作?」
はしゃいだ声を上げたのは呉羽だ。桜は荷物から目を上げて声のした方を見た。日差しを遮る薄暗いテントの中で見ても奈月の水着がよく見える。奈月は水着を胸にあてがいながら嬉しそうに頷いてみせた。
「えっと、僕も多輝も女性陣扱いでいいんでしょうか?」
困ったような顔をしているのは佑だ。多輝は何故かみんなに背を向けて一人離れ、いそいそと着替えている。
「いんじゃないの? 別に。だってなりは女じゃない、あんたたち」
佑と多輝を見比べて呉羽が言う。すると傍にいた奈月は戸惑ったように二人を見比べた。
「あの、そんなに入り口に寄っていると外から見えますよ」
「いいの! おれはここで!」
奈月の声に多輝が勢いよく言い返す。別にいいよねえ、と笑いながら呉羽がさっさと着ていたものを脱ぐ。桜はしばし迷ってからのろのろと服を脱ぎ始めた。はあ、と曖昧に返事をした佑も水着を荷物から引っ張り出して服を脱ぎ始める。
「ねえ、まだぁ? 翠さんがうっさいんだけどぉ」
のんびりと言いながら突然、順がテントに顔を覗かせる。その瞬間、テントの中の空気は凍りついた。
「あの、多輝さん……。外から覗いてらっしゃる方が……」
弱々しい声で奈月が言う。途端にテントの中には悲鳴が響いた。佑が慌てたようにタオルで身体を隠し、多輝が引きつって周囲を見回す。奈月は遅れて自分が裸になっていたことに気付いたのか、悲鳴を上げながらしゃがみ込む。由梨佳や犬達も悲鳴を上げる中、呉羽がもの凄い勢いで荷物から何かを取り上げる。
「こ、の、出歯亀男があ!」
呉羽が立て続けに何かをテントの外に向かって投げつける。頭に目覚し時計をもろに食らった順が、わが人生に悔いなしなどと言いながらテントの向こうに引っくり返る。かと思うと、テントの反対側に向かって投げつけられたかなづちが派手な音を立ててテント越しに跳ね返る。ああ、多輝様という呟きを残してテントの向こうで何かが倒れる音がする。呉羽は全身で息をしながらふん、と鼻で笑った。
「もう、信じられない!」
涙の浮かんだ目で言って佑が恐る恐るにタオルを下ろす。一糸纏わぬその姿を見つめて桜はぽつりと言った。
「とても経産婦とは思えない素晴らしい体型ですね」
しみじみと告げた桜を佑が異様なものを見る目で見る。だが桜は腕組みをして感心しつつ頷いた。産んだ直後はあれだけ腫れ上がっていた佑の乳房は今は女らしい滑らかな曲線を描いている。
「経産婦……」
「二人目の時は後産あるからねー。産むのは少しは楽かも知れないけど、後は辛いよお」
にひひ、と人の悪い笑いを漏らしつつ呉羽が手際よく水着を身につける。呉羽の着ているのはスポーティなワンピースの水着だ。黒の水着に縦に入った濃い赤の太いラインが呉羽の魅力的な体型を強調している。
「呉羽さんは海水を被らないようにくれぐれも注意してくださいね」
「おーけいおーけい。判ってるってば」
両手を軽く上げてそう答えてから呉羽は突然、傍でこそこそと着替えていた由梨佳の腕をがちりと握った。ちなみに由梨佳の水着は腰のところにフリルのついた可愛らしい水色のワンピースだ。オーソドックスなデザインとは言いながら、その実、由梨佳の容姿にぴったりと合っている。桜はまじまじと観察してから腕組みをして何度も頷いた。
「泳げないなら釣りよ!」
由梨佳の手を握った呉羽がテントの天井を仰いで力強く宣言する。さすがは姉様! と一斉に犬達が拍手をする中、由梨佳は戸惑った顔で多輝に視線を流した。
「ホテルが復旧していたら、宇田川さんはプールなら泳げたでしょうけど……」
由梨佳が一緒に泳げないことを残念に思っていると感じたのだろう。佑が申し訳なさそうな顔で言う。すると呉羽がなに言ってるのとからからと笑う。
「今日の夕飯、期待しなさいよぉ! 待ってろ、私の鯛! カレイ! 鯵!」
声高に宣言して呉羽がはしゃいだ声を上げてテントを駆け出す。そんな呉羽に引きずられる格好で由梨佳もテントの外に消えた。待ってください姉様、とそれぞれが焦った声を上げて犬たちも一斉に駆け出す。
「多輝。君は浮き輪を決して離さないように」
かなづちなんでしょう? にこやかに佑が言うと多輝がうっ、と声に詰まる。ちなみに多輝の水着はセパレートタイプだ。ビキニとは言いながらも多輝の身につけている水着のデザインはスポーティなもので、上下ともに若干、布の面積が広い。だが色は華やかな桃色で、小さな苺の模様がついている。下手をするとずっと幼い子供に見えそうな水着だが、不思議と多輝にはそれがよく似合っている。
「なっ、何でおれがかなづちだって……」
恥ずかしそうに顔を染めた多輝がしっかりと浮き輪を抱えてうろたえる。
「多輝様! 何と麗しいお姿でしょう!」
突然、声を張り上げながらテントの入り口に使い魔が姿を現す。目を潤ませて鼻血を垂らしているその使い魔を多輝は無言で張り倒した。ああ、と嬉しそうな声を漏らして使い魔が昏倒する。多輝は舌打ちをしてから倒れた使い魔を引きずってテントを後にした。
蒼はやっぱり残念……w