エロシーンはありません。
「あの時使った術の、副作用でも出たのかなあ」
苦悩の表情で呟いて佑がしみじみとため息を吐く。水着を身につけた佑はいつもに増してめりはりの利いた体型に見える。柔らかそうな乳房がトップスの布地の脇から見えている。胸から女性的な滑らかなラインを描き、腰は細くくびれている。足を長く見せるためのハイレグカットのボトムス、そして足はすらりと長く伸びている。水着のデザインはあくまでもシンプルで、紫に近い青い色だ。布地は照りを殺した素材だが、質素というよりは高級な手触りのいい羅紗を思わせる。
「桜さん、姫君についていなくていいんですか?」
笑い混じりに言われて桜は改めて奈月を見た。
「やはり姫様が一番お美しいですね」
きっぱりと言って桜は満足をこめて力強く頷いた。奈月が自分でわざわざ買いに行っただけあって、水着はとてもよく似合っている。ふんわりとした柔らかなイメージのある濃い水色の布地、ワンピースではあるが幼稚には見えないデザイン、それに何より奈月自身のスタイルの良さが今日は一段と際立って見える。
「あのウエストは反則だよなあ」
羨ましい。そう呟いて佑が自分を見下ろす。そうだろうそうだろう、と桜は頷いた。何しろ奈月の胸は身体の細さの割にボリュームがあり、しかもウエストは驚くほどくびれているのだ。聞いた話によるとサイズは五十四センチほどだそうだ。それでいて少しも貧弱なイメージはない。
「そう言う桜さんもスタイルいいじゃないですか? モデル体型で」
いそいそと水着に足を通したところで桜は不思議に思いながら顔を上げた。佑がじっと桜を見つめている。
「わたくし、ですか?」
そんなことは考えたことがなかった。桜はそう答えてさっさと水着を身につけた。するとテントに残っていた二人が困惑した顔で桜を見る。だが桜はその視線に気付かなかった。行きましょう、と促して奈月と共にテントを出たところで桜は唖然としたような顔をした順と水輝の視線を受けた。
「何ですか」
「それはちょおっと……反則じゃないかな」
咥え煙草で順が呻くように言う。かと思うとその隣に胡座をかいていた水輝がしかめっ面で言った。
「その格好でスクール水着はどうかと思うぞ」
「何を言うのです! この水着は由緒正しい、規定水着です!」
腰に手を当てて桜は胸を張った。
「そう言えば確かに、生徒手帳に記載があったような……」
後からのろのろとテントを出てきた佑がそう言う。奈月は慌てたようにパラソルの影に駆け寄って泣き喚いている翠を抱き上げた。すると翠がぴたりと泣き止む。
「いや、あのね? 別にココはガッコじゃないんだしね」
ビール缶で桜を示して順が困ったような顔で言う。桜は目を吊り上げて順を見下した。
「そういうあなたは何ですか! いつもと変わりない格好で!」
「オレ? しっつれいだなあ。これでもブランド物の水着なのにぃ」
唇を尖らせて順が不服を唱える。その隣に座る水輝に視線を向け、桜は更に声を張った。
「青龍王はわたくしと大差ないではありませんか!」
「煩い! おれの場合はサイズがなかったんだよ!」
やはり桜と同じ、濃紺のシンプルなデザインの水着を身に着けた水輝が喚き返す。
「最初に比べれば少しは育ったんじゃないですか?」
そう言って佑が苦笑すると水輝はもの凄い勢いで怒鳴り返した。
「幼稚園年長が小学一年生になったからって、何か違いがあるかよ!」
よほど今の姿が嫌らしい。水輝はむきになって真っ赤になっている。すると横でのんびりとビールを飲んでいた順があはは、と笑った。くそ、とぼやいた水輝がうろんな目で桜を見てから嫌な笑い方をする。
「貧乳」
ぼそりと言われて桜は目を吊り上げた。
「水輝さん! その言い方は酷いです! 桜さんはスレンダーで素敵な体型だと思います!」
奈月がきつい目で水輝を見ながらそう言う。するといきなり順が爆笑した。
「うははははははははは! すれんだー! 物は言いようだね!」
腹を抱えて笑う順を桜は無言で蹴飛ばした。ついでに水輝にも蹴りを入れる。
「その体型で中途半端に胸があっても逆にバランス悪いですし」
姉さんの美的感覚は確かだと思うけど……。そう佑が呟いたところで桜はぎくりと肩を竦めた。桜が砂だらけの足で踏もうとしていた順がさりげなく足を避けて起き上がる。
「いいじゃぁん。スクール水着、似合ってるんだからさあ」
「くそ、めいっぱい蹴りやがって。覚えてやがれ」
呑気に言う順の横でぼやきながら水輝が身を起こす。桜はふん、とそっぽを向いた。やれやれと笑った順が腰を上げ、荷物から空気ポンプを取り上げる。
「とりあえずさあ。翠さん、少しは海水浴させたげるんしょ?」
そう言って順は次にビニールの何かを取り上げた。怪訝な顔をした桜の傍にそれを据え、ポンプの管を空気の注入口にセットする。ほらほら、水輝ちゃんと急かされて水輝が仕方なさそうにポンプを踏み始めるとビニールのものはゆっくりと膨らみ始めた。
「ええ。もうすぐ歩けそうなほど順調に育ってますし」
そのうち水輝さん抜いたりして。笑って言った佑を水輝が嫌そうに睨む。やがてその場には子供用のビニールプールが出来上がった。奈月の胸に抱えられていた翠がもぞもぞと動き、プールに向かって手を伸ばす。
「ほら翠、おいで」
佑が優しい声で言って奈月の胸から翠を抱え上げる。静かにプールに下ろされた翠は珍しく嬉しそうな声を上げた。きゃっきゃと喜ぶ翠を見つめて順が苦笑する。
「んじゃ、水汲んでこようかね」
よいしょ、と腰を上げた順がバケツを取り上げる。おれも手伝う、と水輝が別のバケツを持って順と共に歩き出す。桜はそれを見送ってから何となく翠に目を落とした。その場にしゃがみ込んでじっと翠を見つめてみる。
奈月のフォローが逆効果になってるというかw