※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

20 / 191
ここから12章です。
エロシーンはありません。


十二章
誓約の守護者の宣誓


 優一郎は部屋の中を歩き回っていた。どれだけ考えてもあの場所がどこなのか判らない。由梨佳にも一応は問い合わせてみたが、由梨佳自身もあの場所は知らないのだと言う。優一郎は顔をしかめて頭をかいた。

 

 施設の修復については保美に見積もりを頼んである。克人の言った通り、見積もりを出して木村の当主に送るのは保美に任せて問題ないだろう。それらのことを考えてから優一郎は呻いて足を止めた。

 

 ぴくりと眉を上げて優一郎は慌てて天井を仰いだ。聞き覚えのある声が聞こえる。それが祐の声だと言うことに気付いて優一郎は瞬きをした。どうやら祐は天空の城にいるらしい。優一郎は慌てて机に駆け寄った。祐が居た筈の部屋に仕掛けたカメラの映像をモニタに映し出す。

 

 だがモニタには何も映らない。優一郎は絶句して何度も操作し直した。だが何度試してもモニタは白いままだ。優一郎は机に手を当てて俯いた。何やっているんだ、僕は。そう自嘲する。波絵が言ったことを思い出す。彼女たちは既に優一郎の手を離れて渚をマスターに登録してしまったらしい。恐らく吉良瀬トータルソリューションそのものが優一郎の手から離れているのだ。

 

 祐は恐らく渚と一緒にいるのだろう。声の断片が届いた時、渚の気配が僅かに感じられた。確かに渚なら水輝がいなくなったら真っ先に動く筈だ。そして祐はそんな渚を選んだのだろう。そこまで考えて優一郎はため息を吐いた。

 

 水輝に近づくなと叫んだ時の渚のことを思い出す。渚は優一郎が頼んでも協力してはくれなかった。それは恐らく渚が水輝のことを優一郎に任せられないと判断したからだろう。そして渚は水輝を好く者として、祐のことは信用しているのだ。

 

 優一郎はゆらりと机から離れた。部屋を出て地下四階に続くエレベーターに乗る。優一郎は静かにエレベーターを降りて巨大な広間に入った。歩く優一郎の足音だけが広間に響く。

 

 僕は罪人になっていたんだな。足を止めて優一郎はぽつりと呟いた。紫を告発し、水輝との誓約を解消した。そして紫の胎から水輝の力を吸い出し、珠を取り上げた。それがあの時は世界のバランスのために必要だと思ったからだ。

 

 優一郎はそっと手を差し伸べた。淡い虹色の光の珠がふわりと手の上に現れる。誓約のこめられた珠はだが濁っている。それは優一郎自身が誓約を違えているからだ。優一郎は黙って手の上の光を見つめた。

 

 ここで放棄すれば、まだ、間に合うのだろうけど、僕には資格がないことに気付いてしまったから。心の中でそう呟いて優一郎は嗤いを浮かべた。

 

「我が下僕、沙耶の所在を示せ」

 

 力ある優一郎の言葉が発せられた瞬間、手の上の珠は粉々に砕け散った。それと同時に広間の高い天井にスクリーンのように映像が現れる。優一郎は天井を見上げて目を細めた。真っ暗な闇の中に紅の光が浮いている。その中に水輝がいるのが見える。

 

「断罪の光か……」

 

 嗤いを浮かべて優一郎は呟いた。水輝は意識がないのか光の中に浮かんではいるが身動き一つしない。

 

「我は。吉良優一郎こと、吉良瀬佑が、地上の王の一の使い魔、桜との誓約を違いしことを今、ここに認め告発す」

 

 静かな口調で優一郎は言った。広間の空気がざわめくのが肌に伝わってくる。優一郎はぼんやりと天井を見上げた。垂らした両腕の先で手が自然とこぶしの形になる。

 

「沙耶は未だ吉良瀬佑の下僕なり、下僕には、主の命によって犯した罪を贖う責は無し。下僕が命を果たすために犯した罪は全て主の負うものなり」

 

 優一郎がそう告げた瞬間、水輝を包んでいた紅の光が解けていった。光の筋が静かに上昇し始める。それと同時に水輝の身体はゆっくりと宙を滑って落下し始めた。巨大な空洞の中を水輝の身体が落ちていく。

 

 断罪の光がこちらに来る前に、全てを終わらせないとね。心の中で呟いて優一郎は微かに笑った。

 

「我、吉良瀬佑は、碧との間に結びし誓約を破棄せん。これは正当な理由無き、一方的なものである」

 

 言葉を紡いだ優一郎の耳に甲高い音が響く。優一郎は耳障りなその音にぴくりとも顔色を変えなかった。やがて音がどんどん強くなり、優一郎の耳の奥を強烈に撃つ。衝撃に一瞬ぐらついた優一郎はあっという間に聞こえなくなった左の耳を手で押さえた。

 

「我は誓約の守護者として、吉良瀬佑が二つの誓約を破りし事を認む」

 

 血の流れる耳を押さえて優一郎は静かに告げた。幸い、右の耳の聴力は失われていない。

 

「誓約の守護者として宣ずる。誓約を冒涜せし者、吉良瀬佑より龍神格を剥奪す。剥奪した龍神格は我が相応しきと認めし者吉良瀬祐に、ただちに与えられる。なお吉良瀬佑の余罪は断罪の光によって裁かれるであろう。以上」

 

 それだけ言った優一郎は急速に力をなくしていくのを感じて天井を仰いだ。金色の光の矢のようなものが水輝の脇を高速で行過ぎる。だがその光景も優一郎の目には次第に見えなくなっていった。上から下に行過ぎた光が今度は下から浮かび上がってくる。水輝の傍に渚と祐の姿を確認したところで優一郎は踵を返した。無言のまま広間を出る。静かに閉じた扉の内側で広間の空気が甲高い音を立てた。




大仰なエピタイにせざるを得ない!(泣)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。