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白いドアに悲鳴を上げながら突っ込んだ祐を受け止めたのは真っ白なネットだった。ドアから少し離れたところに張られたネットに受け止められた祐に天輝が笑顔で手を振る。祐は水輝とくくり付けられている鞭を手早く解いた。水輝はぐったりとしたまま意識を失っている。
「天輝ちゃん、ありがと!」
礼を言って祐は水輝を抱えてたわんだネットから降りた。タイミングを見計らっていたかのようにネットが床に沈んでいく。
「ううん、あたしじゃないの。白よ」
にっこりと笑った天輝がどれどれ、と水輝の顔を覗き込む。だが水輝が目を覚ます気配はない。二人で水輝の様子を見つめている間に地底に続く半壊したドアが消える。それを見て祐は納得した。どうやら渚は通常のルートで戻ることにしたらしい。恐らく冥界の門に向かったのだろう。
「白琅渉さん、ありがとうございました」
天井に向かって言って祐は頭を下げた。だが当の白琅渉は出てくる気はないらしい。特に城に変化はない。
「これ、とりあえずあたしが預かっといた方がいいわね」
そう言いながら天輝が床に転がっていた渚の金宝珠を取り上げる。祐は頷いて腕に抱えた水輝に目を落とした。
「お願いするわ。それから、ちょっと水輝さんを預かっていてもらえるかしら?」
「何で? あ、何ならこれ、こいつの中に仮に入れられるわよ?」
指の先でくるくると宝珠を回しながら天輝が笑って言う。確かにそうすることによって水輝は早く回復するかも知れない。が、下手に他者の宝珠を入れて何かあっても困る。
「やめたほうがいいと思うわ。渚さんとは、いろいろあったみたいだし……」
伏目がちに祐が言うと天輝がふうん、と不思議そうに首を傾げる。だがすぐに納得したらしい。判った、と言って天輝は水輝を寝かせる必要があるだろう、と城の二階に上がり始めた。祐も天輝の後を追った。
城の二階のとある客間のベッドに水輝を寝かせる。どうやらここは女性の客人用の部屋らしい。天蓋つきの豪奢なベッドに水輝を横たえてから祐は苦笑した。置かれた家具等の装飾は煌びやかでさすがは城内、という感がある。ベッドやドレッサーも金や銀、宝石があしらわれていて、この部屋にいるだけでちょっとしたお姫様気分も味わえる。
「それじゃあ。あたしはそろそろ帰るわ」
「え。気づくまでいるんじゃないの?」
祐が言ったことに相当驚いたのか、天輝が慌てたように言う。だが祐は苦笑してベッドから離れた。踵につけていた銀色の羽根はいつの間にか元のサイズに戻ってしまっている。どうやら水輝と密着していたことで、力が増幅されていたらしい。
「そろそろ……限界だから。迎えには、優一郎を寄越すわ」
早くあのベッドに戻らないとならない。水輝に気づかれてしまったら、きっと判断を誤ってしまうだろう。祐は寂しさを堪えて天輝に微笑んでみせた。すると天輝が困ったような顔をする。
「祐ちゃん。あの、また遊びに来てくれる?」
何事かを言おうとしていた天輝が結局、ありがちなせりふを口に乗せる。祐は苦笑して天輝の手を取った。ここからあの場所に戻るにはどうやら天輝が足を貸してくれるらしい。口早にそのことを言った天輝が泣きそうな顔で祐を見る。
「また、機会があったら」
「絶対来て! 絶対!」
祐の手を握り締めて天輝が強い口調で言う。こういうところは少し天輝も渚に似ているのかも知れない。祐は曖昧に微笑んで天輝の手を握り返した。
城の最上階の庭園に上がるように言われた祐は大人しく天輝に従った。階段を昇りきったところで周囲に色とりどりの花が見える。これが本当に城の屋上だろうか、と疑いたくなるほどに、そこには広々とした花畑が広がっていた。緑の草に紛れてたくさんの花が咲いている。
階段から少し出たところにそれはあった。大きな籠にたくさんの細いロープが結わえられている。その周囲にはたくさんの白い鳩が居た。どうやら祐を籠に乗せて鳩が運んでくれるらしい。天輝の説明に頷いて祐は籠に乗り込んだ。天輝の指笛に促された鳩がロープの先端を咥えて空に舞い上がる。祐はゆっくりと浮かび上がった籠の中から天輝に手を振った。
風船でも良かったんですけどね~。