※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

34 / 191
エピタイ通りです!w
エロシーンはありません。


初恋みたいな感じで砂糖を吐きそう(作者が) 1

 けたたましい音がしてドアが開く。にこやかに部屋に現れたのは奈月だった。桜に着替えさせられたのか、フリルのふんだんについたサマードレスを着ている。水輝は思わず苦笑して奈月に手招きをした。

 

「水輝さん……。わたし……」

 

 ドアを背中で閉めた奈月がふと戸惑いの顔になる。水輝は眉を寄せて首を傾げた。吸いさしの煙草を灰皿にねじ込んで目を上げる。出来ればもう少し声を上げて欲しいのだが、そうも言えないだろう。水輝は灰皿をサイドテーブルに退けながら注意深く奈月の口許を見つめた。

 

「何だ。どうかしたか?」

 

 そう訊ねた水輝を奈月がじっと見つめる。

 

「わたしが、必要なくなったら、言ってくださいね!」

 

 何かを決意したような顔で奈月が胸の前に手を組み合わせる。水輝はいいから、と笑って奈月に手招きをした。不安そうな顔をしつつも奈月が静かにベッドに近づく。さっきまで優一郎が座っていた椅子を勧めると奈月は大人しくそこに腰掛けた。

 

「リンクを切るか。これじゃあ、おちおち内緒話も出来ないし」

 

 そう言って水輝は指を鳴らした。水輝の手の中に美しい青の宝珠が現れる。続いて宙には七つの透明な宝珠が現れた。水輝は青宝珠を自分の脇に置き、あとの七つの宝珠を一まとめにして奈月に差し出した。

 

「これは……?」

「奈月のだよ」

 

 優しく微笑んで水輝は奈月の腕の中に七つの宝珠を落とした。奈月に触れた瞬間に透明だった宝珠が次々に色づいていく。金、銀、紅、紫、翠、白、黒。あっという間に色を染め替えた宝珠を奈月が呆然と見つめる。

 

「青宝珠はまだ龍宝珠界にいる。奈月が望めば来る筈だが……じゃじゃ馬だからな」

 

 戸惑いの目をした奈月に笑みかけて水輝はベッドに座り直した。

 

「ありがとうございますっ!」

 

 勢いよく礼を言った奈月が頭を下げる。水輝はいいって、と笑って奈月の頭を撫でた。するとそこで奈月がゆらりと頭を上げる。

 

「あの、もしかして、二藍さんですか?」

「そうだ」

 

 水輝はきっぱりと言って奈月に頷いてみせた。すると奈月が嬉しそうな顔になる。

 

「それなら呼ぶ必要はありません。それにわたしには……あっ!」

 

 声を上げて奈月が水輝の傍に転がっている青宝珠を見下ろす。水輝はこれか、と苦笑して青宝珠をつかみ上げた。久しぶりに手にする青宝珠はひんやりとしている。

 

「ごめん。もうこれを奈月に預ける訳にはいかないんだ」

 

 そう言ってもう一度、水輝は奈月にごめんな、と詫びた。これまでずっと奈月の宝珠は水輝が代わりに器の内部で保管していた。だが奈月が一つも宝珠を持たずにいるのは危険だった。だから奈月には水輝の青宝珠が埋め込まれていたのだ。だがそれらのことは水輝が意図して行った訳ではない。奈月を作った者がそう仕組んだのだ。

 

「これまでありがとうございました」

 

 戸惑いと不安の色濃い顔で言って奈月がにっこりと笑う。だがその笑みにも翳が射していた。水輝は苦笑して奈月の手を取った。膝に乗せられていた奈月の宝珠が静かに奈月の器の中に消えていく。

 

「大して変わる訳じゃない。みんなが奈月を必要としているんだ。おれが独占出来る状態じゃなくなっただけだ」

 

 微笑を浮かべて水輝は安心させるように奈月の手を軽く叩いた。そうしつつ水輝は目を伏せて少しだけ俯いた。

 

「そんな、わたしは水輝さんの、水輝さんだけのものですっ」

 

 懸命な面持ちで奈月が水輝の手を握り返す。水輝は苦笑して目を上げた。涙の浮かんだ奈月の目に真正面から見つめられると胸が痛む。

 

「……道具は何かを所有できない。おれはあくまでも誰かの道具だ。そう作られている」

 

 子供に言い聞かせるように水輝はゆっくりと話した。奈月が顔を歪めて涙を零す。

 

「それはわたしです! わたしは、光を反射する鏡にすぎません!」

 

 涙声で奈月が訴える。水輝は落ち着け、と奈月の手をそっと離した。泣きじゃくる奈月の膝をぽんぽん、と叩く。

 

「太陽の光を映す鏡が奈月だ。そしておれはそんな奈月を映す水の鏡だ」

 

 紫翠の記憶は徐々に封印が溶けている。水輝は静かに思い出したことを語っていった。奈月を傍に置いていたあの頃、単純に奈月が自分のものだと信じていた。奈月もそれを疑ったことはなかっただろう。

 

 だが違うのだ。水輝は奈月を護る為の鞘、そして立城が盾の役割を務めていたのだ。抜き身の危険な刀は奈月。だからこそあの頃、三人が共にいることが出来たのだ。

 

「水輝さん、わたしは、どうすればいいのですか?」

 

 しゃくりあげながら奈月が言う。そうだな、と苦笑して水輝は奈月の腕を引いた。驚いたように目を見張った奈月を引き寄せる。足の上に抱えたところで水輝は奈月に笑いかけた。

 

「それを自分の足で探していくのがお前の役割なのかも知れない。綺麗なものも、汚いものも、世界にはそのどちらもが共存している。……まあ要するにだな」

 

 そこまで言って水輝は鼻の頭をかいた。戸惑う奈月の額に自分の額を軽く触れさせる。

 

「改めてよろしくってことだ。お前はお前、おれはおれ。そう認識して会うのはこれが初めてだろ?」

 

 小さく笑った水輝は奈月を軽々と抱えて自分の前に降ろした。ちょこんと正座した奈月がこぶしを握って言う。




水輝もなー……(棒読み)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。