※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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ここから十三章になります。
エロシーンはありません。


十三章
桜は佑と料理をしていたはずだけど 1


 幸福そうな顔で寝入っている奈月を見下ろして桜は小さくため息を吐いた。奈月を抱えて眠っている水輝を足で退ける。すると水輝は瞼を擦りながら呻いてまた奈月を抱えようとする。そこで桜は眉を寄せて水輝をベッドから蹴り落とした。うわ、と声を上げた水輝が寝惚けた顔で桜を見る。

 

「もう十分でしょう」

 

 すげなく言って桜は熟睡している奈月を両腕に抱え上げた。水輝が床に胡座をかいて憮然とした面持ちで頭をかく。

 

 もうそろそろ日が暮れる。これだけの時間を一緒にいれば上等だろう。桜は感情のない顔で水輝に言った。すると水輝が嫌そうに顔をしかめる。何事かを水輝が言う前に桜は言葉を継いだ。

 

「わたくしも姫様も明日は学校に行かなければなりません。では、失礼」

 

 これ以上の体力の浪費はさせる訳にはいかない。そう思いながら桜は踵を返した。すると水輝がこら待て、と不服そうな声を上げる。だが桜は振り返らずにその場から奈月の部屋へと転移した。

 

 吉良瀬の屋敷内部には水輝が厳重な結界を張り巡らせている。この中にいるのは今のところは水輝と奈月、優一郎、そして桜だ。そしてその他に数名の使用人がいる。が、屋敷を最低限維持出来る人数しかいないため、食事の類は一切用意されない。新しく人を雇う計画は優一郎が立てているだろうが、今は屋敷も静まり返っている。

 

 喫茶店はずっと閉めっぱなしだ。全てが平常に動き出せばそれらのことも元に戻るだろうが、今はまだ無理だろう。桜は考えを巡らせながらベッドに奈月をそっと下ろした。窓を開けた部屋にはいい風が入ってきている。桜は大きく開かれていた窓を少し閉めて奈月の身体にそっと薄い毛布をかけた。奈月が幸せそうに微笑んで毛布にくるまる。

 

 とりあえず食事の用意をしよう。桜は自分と奈月の分のことだけを考えて調理場に向かった。廊下を歩いていたところで眉を寄せる。目的の調理場の扉は開いており、中から物音が聞こえてくるのだ。怪訝に思いつつ桜は調理場に入った。

 

 広々とした調理台の上で優一郎が料理をしている。今の優一郎は女性の身体をしており、長い髪を邪魔にならないように後ろで束ねている。エプロンをかけた優一郎がにこやかに桜に会釈する。桜はつられてこんにちは、と優一郎に挨拶した。

 

「もしよかったら、手伝ってくれる?」

「判りました」

 

 桜は感情のない声で応えて優一郎に近づいた。台に広げられている材料を一瞥する。が、桜は元々料理が得意ではない。優一郎が台に広げている材料を見ても何をしていいものかさっぱり判らない。桜は眉を寄せて材料をぼんやりと見つめた。

 

「この茸を千切ってもらえるかしら? こうやって、適当な大きさに千切ればいいから」

 

 どうやら優一郎が手にしていたのは茸だったらしい。そのことを理解して桜は台に設えられた蛇口で手を洗った。そこで綺麗なタオルをタイミングよく優一郎が差し出す。ありがとうございます、と礼を言って桜はタオルで手を拭いた。

 

 茸を千切る。桜は渡された茸を手に内心でそう呟いた。要するに粉砕すればいいのだろうか。手にした茸をまじまじと眺めていた桜に優一郎が慌てたように声をかける。

 

「待って……」

「要するに細かくすればいいのですね」

 

 制止の声を無視して言って桜は手の中の茸に力をかけた。一瞬で茸が粉砕され、桜の手の下にあったボウルの中に落ちる。粉状の茸が透明なボウルに降り積もったのを見つめ、優一郎が力ない声を上げる。

 

「まあ、出汁を取るのにはちょうどいいかもしれないわね……」

 

 他に言うことを思いつかなかったのか、疲れた顔で優一郎が言う。だが桜は優一郎の顔色が優れない意味が判らなかった。首を傾げて眉を寄せる。

 

「いけませんでしたか?」

 

 淡々と訊ねた桜を優一郎が困ったような顔で見る。

 

「いいのよ。奈月さんが料理が得意なんだから、あなたは料理できなくても。あなたの役目は奈月さんを護ることでしょう?」

 

 それを聞いた桜はぴくりと眉を上げた。

 

「……わたくしが料理が出来ないと」

 

 そう言ってから桜は自分の前に置かれたボウルの中身と優一郎の前のボウルの中とを見比べた。優一郎はさっき桜が持っていたのと同じ茸を器用に裂いている。要するに細かくするのではなく、適当なサイズに裂くという意味だったらしい。桜はめいっぱいに顔をしかめて優一郎の前のボウルを睨みつけた。

 

「できないんでしょう? 桜ちゃん。できないことはできないと認めなさい」

 

 にっこりと笑った優一郎を桜は上目遣いに見た。無意識のうちに台に手をついて腰を屈め、熱心にボウルの中身を覗き込む格好になっていたのだ。

 

「何故、優一郎様は」

 

 そこまで言って桜は眉を潜めた。今の優一郎は女性の姿を取っているのだ。

 

「失礼。その名前で呼んでも宜しいのですか?」

 

 一応、確認の意で桜は問い掛けた。少し考えてから優一郎が言う。

 

「確かに他人が居たりするとおかしいと思われるかもしれないから。わたしのことは佑と呼んで」

「畏まりました」

 

 了承の意味で一礼してから桜は身を起こした。佑の名を心にしっかりと刻んでから顔を上げる。

 

「佑様は何ゆえに料理が出来るのですか?」

 

 桜も学校の調理実習には参加している。が、まだ入学して日が浅いために習った料理は少ない。クッキーなどの菓子に偏っているのは恐らく教諭の趣味なのだろう。




地の文が佑になってくれた(汗)
でも他の視点だと判らないかも(泣)
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