※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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料理が続きます。
エロシーンはありません。


桜は佑と料理をしていたはずだけど 2

「おじさまに、立城さんに教えてもらったの」

 

 くすくすと笑って佑が首を傾げる。桜はしばし黙考してからなるほどと頷いた。確かにそれなら納得も出来る。立城は随分と料理が上手で、よく桜も相伴に預かっていたのだ。

 

「それでは無礼ついでにもう一つ、質問させて頂けますか」

 

 淡々とした口調で言いながら桜は台に置かれていた人参を取り上げた。きっとこれも小さく千切ればいいに違いない。そう思いながら桜は一人、頷いた。

 

「何かしら?」

 

 そう答えつつも佑が不安そうに桜とその手に握られた人参とを見比べる。桜は調理台にある新しいボウルを手元に寄せた。茸の粉が入っているものを退けて、空のボウルを目の前に置く。

 

「佑様はこれからずっとここに暮らされるのですか? 青龍王の傍で」

 

 そう言いつつ桜は人参の頭の部分に指を乗せた。要するに千切る、というのは繊維にそって裂くということなのだ。そう思いながら桜は人参に強引に指を突き立てた。そのまま繊維にそって裂こうとする。が、何故か人参は縦に真っ二つに割れてしまった。

 

「わたし、おじさまに怒られたことがあるの。ずっと、という言葉は不用意に使ってはいけないって」

 

 佑がため息をついて桜の手から割れた人参を取り上げる。何をするのかと思った桜の目の前で佑は器用に包丁を使い始めた。するすると人参の皮を剥いていく。誰かが刀を使うのはよく見ているが、こうして包丁を使っているのを見ると感心する。桜は素直に佑の手元を見て頷いた。

 

「わたくしの勘違いでしたか。ここはある意味聖地ですから、長期的に滞在されるのかと」

 

 ここなら青龍王と言えど、そう簡単には出ることは出来ない。そう考えつつ桜は何気なく佑を見上げた。

 

「当面の間、必要な時間。わたしは水輝さんの傍にいるわ。その間は、ずっと傍にいると、言ってもいいわね」

 

 苦笑して佑は今度は人参を包丁で刻みはじめた。なるほど、包丁で切る際は力は使わなくていいらしい。ふむ、と呟いて桜は台の下に屈みこんだ。台の下の戸を開いて中からまな板と包丁を取り出す。不安そうにしている佑を余所に、桜はまずはまな板と包丁を洗い始めた。調理の前に器具は洗うように、と清陵高校の家庭科教諭が煩く言っていたのだ。

 

 洗い終わったまな板を台に乗せる。次いで桜は佑の前のまな板に残っていた半分に割れた人参を取り上げた。ばん、と威勢良く人参をまな板に乗せる。だがそこで桜は顔をしかめた。人参が手の下で潰れている。

 

「桜ちゃん。力加減ができないわけじゃないわよね?」

「力は使っていません」

 

 佑の不安そうな質問に桜はきっぱりと答えた。佑が困ったような顔をして桜の前にあるまな板に潰れて張り付いた人参を包丁で剥がし取る。

 

「そっちの力じゃなくって。面倒ね。いいわ」

 

 どうせ調べようと思ってたし。小声で佑が付け足す。その意味が理解出来ず、桜は眉を寄せて首を傾げた。もしかして人参は手で握ってはいけないということだろうか。だが佑は確かに手で人参を持っていたような気がする。

 

「料理は手伝わなくていいから十五分ほど待っててもらえるかしら? わたし桜ちゃんと一対一で、きちんとお話したいと思っていたから」

「話は一向に構いませんが、わたくしが手伝うことは不服ですか」

 

 淡々と言い返してから桜は台に並んだ材料を見た。佑はこれを十五分で料理の形にするというのだろうか。

 

 だが桜の問いには答えず佑は器用に材料を刻んでとある鍋に放り込んでいった。大きな不思議な形をした鍋の中にどんどん材料を入れていく。最後に佑は桜が粉砕した茸の粉末も鍋に入れた。四角く薄い機械の上に鍋を置き、分厚い蓋を閉める。桜は唖然として佑のすることを見守るのが精一杯で、手を出す余裕はなかった。

 

 まな板やボウルなどの器具を洗って片付けたところで佑がにっこりと笑う。

 

「足手まとい。という言葉があるでしょう? この場合、あなたはそうなの。口惜しかったら、きちんと学習してできるようになりなさい」

「精進いたします」

 

 素直に頭を下げて桜はそう言った。エプロンを外した佑が桜を促して調理場を出る。どうやらあの鍋は自動的に調理してくれる器具らしい。煮炊きを見守る必要はないのだという佑の説明に桜は頷いた。

 

 連れられたのはかつて紫が使用していた部屋だった。不思議と同じ部屋なのに佑がいるだけで以前感じていた違和感がない。桜は不思議な気分で佑に促されるままにソファについた。

 

「不思議に思ってる? わたしも不思議なのよ。それにこれ見て」

 

 差し出された古新聞を受け取って桜は紙面に目を落とした。その間に優一郎が部屋に置かれたレトロな感のあるプレーヤーに近づく。棚から取り上げたレコードをプレーヤーに仕掛けた佑が静かに戻ってくる。ほどなく部屋の中には優しい弦楽器の音が響き始めた。室内音楽が流れる部屋を桜は何となく見回した。それからまた紙面に目を落とす。

 

「結婚式の時の記事よ。名前を見てみて」

 

 言われるままに桜は文面を目で追った。大きな見出しには吉良瀬財閥の当主が結婚したと書かれている。その当主の名前を見たところで桜は僅かに目を細めた。佑の名前がそこに記されているのだ。

 

 紫の名前はどこにもない。桜はざっと記事を読んでから目を上げた。




桜の料理の下手くそさは女水輝にちょっと似てるかも……です。
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