※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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桜は奈月をどーしても克人に会わせたくない!w
という一心で頑張ってますが、空回り中です。
エロシーンはありません。


桜と斎姫が言い合ってすれ違う 2

「駄目です! 姫様、それをお貸しください!」

 

 桜は懸命な面持ちで奈月に手を伸ばした。だが奈月は泣きそうな顔で桜の手を避ける。克人は自分から退学届けを提出したのだ。今さら、話を蒸し返してどうなるというのだ。桜は巧みに手を避ける奈月に必死でそう訴えた。

 

「神崎さん。そんなに必死になるほど、今の彼は危険なのかしら?」

 

 にこやかな笑みを浮かべて斎姫が言う。桜は懸命に奈月に手を伸ばしながら叩きつけるように答えた。

 

「当然です! 魔に姫様を近づける訳には参りません!」

 

 ぴたりと奈月の腕が止まる。桜は慌ただしく奈月の手から紙片を取り上げた。それからほっと息を吐いて身体を戻す。早速、紙片を破り捨てようとしたところで桜は何気なく目を上げた。いつの間にか奈月と斎姫がじっと桜を見つめている。

 

「魔? どういうことかしら? 彼はハンターではあったけど、魔ではなかったわ」

 

 真顔で斎姫が言う。桜は手の中の紙片を無残に破り捨ててため息を吐いた。

 

「……元々、素養はあったのです」

 

 桜の破った紙片が床に落ちる前に塵と化して消える。桜はその様を目で追いかけた。

 

「そうなの」

 

 斎姫が桜に微笑みかけてからまた制服のポケットに手を入れる。斎姫は取り出した紙片をまた奈月に差し出した。

 

「奈月さん、これ、ちょっと印刷ミスしているけど、住所は読めるから」

「魔と判ってなお、姫様にそのようなものを……」

 

 桜は呆れた顔で斎姫を見た。奈月はためらい一つ見せずに紙片を受け取る。桜は二人を見比べて深々とため息を吐いた。

 

「本当に魔であるなら、対処できる人材は限られているわ」

 

 淡々と告げて斎姫が桜に向き直る。桜は斎姫を鋭い目で見た。

 

「龍神が必要とされるように、ハンターもまた世界が生み出すモノ。そして魔も世界が必要と判断して生むモノです。……が、姫様が関わらなければならぬ謂れはない筈」

 

 何故、斎姫は執拗に奈月を克人に差し向けようとするのだろう。斎姫の意が全く理解出来ず桜は苛立ちに近いものを感じていた。奈月は大事そうに両手に紙片を包んでいる。

 

「それを決めるのは奈月さんでしょう? 奈月さん、あなたはどうしたい? あなたは、蘇芳さんに会って、真意を確かめてくる気はあるのでしょう?」

 

 優しい声音で斎姫が奈月に語りかける。桜は不快感に顔をしかめた。これ以上、克人に奈月を関わらせる訳にはいかなかった。だから桜はわざわざ克人の許を訪ねて退学届けを記させたのだ。最初はためらっていたらしい克人も、魔という現実を突きつけたところで諦めたようだ。桜の言う通り、大人しく書類に名前を書き込んだ。自分で提出するように言ったのだから、当然、克人はその書類を自分で生徒会に提出した筈だ。なのに何故、斎姫はいちいち蒸し返すようなことをするのだろう。桜は眉を寄せて苛々とソファの肘当てを指で叩いた。

 

「はい」

 

 真剣な顔で奈月が頷く。桜はため息を吐いて奈月に声をかけた。

 

「姫様。会ったところであの輩が前言を撤回するとは思えません。わざわざ姫様がお訪ねにならなくとも、電話の一本で確認すれば宜しいではありませんか」

 

 何故、直接に会わなければならないのだ。苛立ちを出来るだけ抑えて桜はそう言った。すると奈月が厳しい目で桜を見る。

 

「桜さん。どうして会ってはいけないのですか?」

「奈月さんに危害を加えようとするほど、愚かではないと思うのだけれども」

 

 桜は奈月と斎姫とを交互に見た。それから深い息を吐く。

 

「では逆におたずねします。何故、彼に会う必要があるのですか」

 

 魔とは平たく言えば龍神の代替品だ。龍神に比べると魔の個々の能力は低い。その分、数で補うのが魔という存在だ。が、中には並みの龍神を圧倒的に上回る能力を有する魔も存在する。そして魔というものは見境がないものなのだ。桜は渋い顔で二人にそう説明した。

 

「だって、克人さんは友達ですから!」

「あれと姫様が? あり得ません」

 

 桜は不快感いっぱいの顔できっぱりと言い切った。すると見る間に奈月が涙ぐむ。

 

「いいですか、姫様。あれはもうハンターですらないのです。魔に墜ちたモノと仲良く手を取り合うなど、考えられません」

 

 魔は能力を発揮する際、見境なく対象の精気を吸う。理性などそこにはなく、餓鬼のごとくひたすらに精気を貪るのだ。少なくとも桜の認識する魔はそうだった。桜は苛々と頭をかいてため息を吐いた。

 

「会ってもいないのに、決め付けるのはよくないと思うのだけれど」

 

 皮肉な笑みを浮かべて斎姫が言う。桜は肩を竦めて答えた。

 

「我が主が青龍王に囚われた時、容赦など一切してはくれませんでしたからね」

 

 ぴしゃりと言い切って桜はさりげなく奈月の手から紙片を取り上げた。慌てたように奈月が桜の手に手を伸ばす。だが奈月の手が届く前に桜は手の中に紙片を握りこんだ。

 

「奈月さん、もう一枚印刷しましょうか?」

 

 あっさりと斎姫が言ってため息を吐く。それに応えて奈月はにっこりと笑った。

 

「大丈夫です。もう暗記しましたから」

 

 その答えを聞いた桜は深々とため息を吐いた。どうやっても奈月はこちらの言うことは聞いてくれそうにない。

 

「回避できる危険は回避したいのですが、わたくしは間違っているのですか」

 

 呟くように言って桜は握っていた手を開いた。手の中で紙片はいつの間にか桜の花びらに変わっている。桜は薄紅色の桜の花びらにそっと息を吹きかけた。数枚の桜の花びらがひらひらと宙を舞ってやがて消える。

 

「奈月さんの守護者というあなたの立場からすればそうすべきなんでしょうけど。ひとつ聞いていいかしら?」

 

 斎姫がそう言って桜を見つめる。桜はどうぞ、と小声で促した。

 

「そこまできちんと守護者としての自覚があるなら、どうして自らの力を高める機会を無視したの?」

「主に似て不躾な方ですね」

 

 真っ先に桜は質問に対する感想を述べた。すると斎姫が鼻白む。桜はやれやれと息を吐いてソファに寄りかかった。




必死さが空回りすると割と面白いというか……。
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