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不意にドアがノックされる。水輝は舌打ちをして身を起こした。返事をするとドアがゆっくりと開き、微妙な表情をした佑が顔を覗かせる。その時には既に水輝の目の前の槙花は硬直してしまっていた。
「あれ? 目が覚めたのか」
そう言って水輝は佑に笑みかけた。部屋に入って来た佑がにっこりと槙花に笑みかける。槙花はそれで漸く正気に戻ったらしい。慌てて水輝から離れて佑に深々とお辞儀する。だがその拍子に槙花の頭についていたヘアバンドが床に転がった。慌てた声を上げて槙花がそれをつかむ。動きがいちいちコミカルで水輝は思わず吹き出してしまった。
「この子、雇うの?」
多少、気も落ち着いたのか佑の表情はさっきまでよりは柔らかい。水輝はああ、と笑って槙花を目で指した。
「どっちにしろ人の手は足りてないんだし」
これまで屋敷を最低限に維持できる人間しか雇ってはいなかったのだ。だがこれからは渚や奈月、桜も一緒に暮らしていくことになる。人数が増えればそれだけ人手もいるだろうと水輝は説明した。
だが何の関係もなく二人がここに来た訳ではないだろう。渚は適当に人選したつもりかも知れないが、やはり二人は来るべくしてここに来ているのだ。和也の方は水輝にも覚えのある名だし、その上、容姿にも見覚えがある。和也が重森という名の老執事とそれほど似ている訳ではない。もっと別のところで和也を見かけているような気がするのだ。
槙花の方は理由は明白だ。こんな力になりそうな女は一人でふらふらとさせておくより、ここで保護しておいた方が無難だ。しかも槙花は上物の匂いがする。つまり、処女を例え無くしても生気そのものが力になり得る可能性があるということだ。
そんなものを野放しにする訳にはいかない。第一、見てしまった以上、他の誰かに譲る気もない。不安そうに佑を見つめる槙花を眺め、水輝は口許に薄い笑みを浮かべた。
「あなた、お名前は?」
微笑みを浮かべて佑が問う。槙花は慌てたように佑に頭を下げた。
「伊東槙花です! メイドです!」
水輝の時と同じように槙花が元気よく自己紹介する。佑は頷きながら槙花を頭の先からつま先まで一通り眺めた。槙花は気付かないようだが、佑の視線は値踏みする者のそれだ。
「わたしは吉良瀬佑。一応今現在、この屋敷の主人ということになるのかな?」
にっこりと笑って佑が言うと、慌てたように槙花はまた頭を下げた。
「ご主人様ですね! よろしくお願いいたします!」
深々と頭を下げた槙花が元気いっぱいの声で言う。水輝は口許に手をあてがって吹き出すのを堪えた。思った通り、槙花が頭を下げた拍子に真っ白なショーツが丸見えになっていたのだ。
「よろしくね」
くすりと嗤って佑がちらりと水輝を見る。水輝は口許に薄い笑みを浮かべたまま首を傾げてみせた。槙花は正式に雇われたことにほっとしたのか、胸に手をあてがって嬉しそうに微笑んでいる。
「水輝さんにお仕事を頼まれたのでしょう? 早速働いてもらうわよ」
にっこりと笑顔になって佑が頷いてみせる。槙花は嬉しそうにはい、と返事をして慌ただしく失礼します、と頭を下げた。水輝は部屋を出る間際の槙花に向かって指を鳴らした。戸惑った顔で振り返った槙花に頼むな、と笑顔で手を振る。槙花はそれでは、と部屋を出て行った。
大きな扉が閉まる。水輝は細い鎖を手にしてくすくすと笑った。槙花の首に人の目には見えない首輪をつけ、細く長い鎖を嵌めたのだ。これでどこに行っても槙花の行動は手に取るように判る。
「美味しそうな娘じゃない。よかったわね」
そう言いながら佑が水輝に寄り添う。水輝は手の中の鎖を見つめて嗤いを浮かべた。目に見えない鎖は壁や床などと言った物質は通り抜けるのだ。槙花は言われた通りに新しい住人のために部屋を掃除し始めている。
「何なら分けてやろうか?」
水輝は鎖を握って佑を横目に見た。
「わたしは食べ残しを貰えれば、それで充分よ。必要な部分は少しだし、ぎりぎりまで食べてしまってかまわないから」
くすくすと笑いながら佑が水輝の手の中の鎖に触れる。水輝は鎖を間に挟んで佑の手を握った。指を絡めて佑の腰を右手に抱き寄せる。
「抜け殻でいいのか?」
嗤いを浮かべて言ってから水輝は佑に口づけた。佑が繋いでいない方の手を水輝の背中に回す。しばらく舌を絡め合わせてから水輝は顔を上げた。佑が唾液に濡れた唇をちらりと舐める。
「十分よ。玩具を作るだけだから」
くすりと笑って佑が水輝の唇も舐める。水輝はどんな食べ方をしようか、と佑に囁きかけた。あんな上物を見るのは久しぶりだ。
「水輝さんにまかせるわ。わたし、そういうの不慣れだから」
水輝はそんな佑の言葉を不思議に思って首を傾げた。佑がくすくすと笑いながら二人の手の間にある鎖を軽く引く。すると遠いところで槙花が悲鳴を上げて床に転がった。その拍子にバケツに入っていた水が床にぶちまけられる。あーあ、と笑って水輝は左の手首を握った。槙花の首に嵌めたものと対の腕輪を作り出す。水輝は長い鎖の先端を腕輪につけた。
「今までどうやって素材の調達をしてたんだよ」
苦笑しながら水輝は佑の腰を抱いてベッドに向かった。まだ佑は体力が全て回復している訳ではない。水輝は佑をベッドに腰掛けさせ、その隣に腰を下ろした。
ドジっ子属性はないのですが、槙花はいじられて遊ばれてる感じですかね。