※この作品はR-18です。

狩りの終焉 二部   作:伊駒辰葉

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こっちはまったりですねw
エロシーンはありません。


多輝と由梨佳の朝のひととき 1

 八時十分という時計の数字を読んで多輝は反射的に飛び起きた。つかんだ時計に顔を寄せてからため息を吐く。やけに聞き慣れた目覚ましの音に驚いたが、よく考えたらもう夏休みに入っているのだ。

 

「くそ、人騒がせな」

 

 不快感をこめて呟いてから多輝は目覚まし時計を枕元に戻した。幸い、由梨佳は目覚ましの音では目を覚まさなかったらしい。そのことにほっとしつつ多輝は再びベッドに横になった。

 

 一体、何故この部屋にそんなものがあるのか判らないが、枕元の目覚まし時計は以前、多輝が使っていたものだ。まだ龍神という生き物のことを全く知らず、ごく当り前の人間として学校に通っていた頃のことがぼんやりと思い出される。その頃の多輝は立城に与えられたマンションで一人で暮らしていた。

 

 優一郎に会い、その姉である絵美佳と知り合い、水輝や他の龍神たちを知り、由梨佳と出会った。何も知らなかった頃とは生活ががらりと変わった。だがそんな変化が起こってからまだほんの数年しか経っていない。

 

 生ぬるい風が窓から入ってくる。多輝は眉を寄せて窓に向けて腕を伸ばした。人の目には映らない力を使って開いていた窓をそっと閉じる。枕元のリモコンを操作して空調を入れてから多輝はため息を吐いた。由梨佳を起こしてしまわないように注意しつつ寝返りを打つ。うつ伏せになった多輝はもう一度目覚まし時計をつかんで顔をしかめた。

 

「ったく、誰が仕掛けたんだか」

 

 何も休みの日にこんな早く起きなくてもいいのに。小声で文句を言いつつ、多輝は時計を睨みつけた。すると唐突に隣から声がする。

 

「んっ、多輝くん……おはよう」

 

 にこやかに挨拶した由梨佳に多輝は自然と唇を寄せた。軽く口づけてからごめん、と詫びる。すると由梨佳は不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

「起こしちまったんだろ? ごめんな」

 

 そう言って由梨佳の頭をいつものように撫でようとしたところで多輝は手を止めた。握っていた目覚まし時計を顔をしかめて枕元に戻す。

 

 吉良瀬の屋敷に来て二日が過ぎた。だがこの目覚まし時計は昨日まではなかった筈だ。きっと水輝か誰かが悪戯のためにわざと置いたのだろう。舌打ちをしてから多輝は改めて由梨佳の髪をそっと撫でた。寝起きだからなのか、とろんとした顔つきをした由梨佳がくすぐったそうに首を竦める。

 

「そんなことないわ。タイマーでセットしたとおりの時間よ。まだ起動中だから、もう少し待ってね」

「それはいいけど……」

 

 多輝は眉を寄せて首を傾げつつ由梨佳に身を寄せた。いつもするように由梨佳の胸に顔を埋める。柔らかな乳房に頬を擦り付けながら多輝は目を上げた。

 

「こんなに朝早く起きる理由、あったっけ?」

 

 すずらん通りの得体の知れないものについては蒼と由梨佳、それに多輝の力を合わせて昨日までに処理している。一応、招待主である水輝にも挨拶はしておいた。何故か優一郎には会うことが出来ていないが、きっと忙しいのだろう。屋敷に来てからのことを思い出しながら多輝は再び首を傾げた。

 

「九時には起きておこうと思って。私の身体、かなり起動処理に時間かかるから」

 

 由梨佳がそっと多輝の頭に手をあてがう。優しく抱えられる格好になって多輝は目を細めて身体の力を抜いた。何故かは判らないが、こうして由梨佳に抱えられていると妙に安心するのだ。

 

「休みなんだからもっとゆっくりしてもいいのに」

 

 起きてからベッドを降りるまでのまどろみの時間が多輝は気に入っていた。以前は決してあり得なかった事だが、今の由梨佳はまるで生身のように起きるのに時間がかかる。だがそれを多輝は不都合と感じたことはない。

 

「多輝くんとゆっくりベッドの上でお話したりしながら起きたいから」

 

 間近に由梨佳の恥ずかしそうな声を聞いて多輝は慌てて目を上げた。すると由梨佳が頬を染めているのが見える。多輝はつられて赤くなりながら由梨佳の乳房に顔を埋め直した。照れ隠しに頬擦りすると由梨佳が小さな悲鳴を上げる。

 

 気が済むまで戯れてベッドを降りた時には九時を回っていた。着替えを済ませて顔を洗ったところで部屋にメイドが入ってくる。かいがいしく食事の支度をしているのは新入りだという若いメイドだ。多輝は由梨佳の髪をブラシで丁寧に梳きながら何気なくメイドに目をやった。槙花という名のこのメイドの首には人の目には見えない首輪がつけられている。その首輪からは細い銀色の鎖が伸び、部屋の外に続いているのだ。

 

「お待たせ致しました。お食事の準備が整いました」

 

 テーブルの傍に寄せたワゴンからティセットを取り上げながら槙花が言う。多輝は由梨佳に声をかけてテーブルに向かった。香りのいい紅茶を槙花がカップに注ぐ。それをテーブルに乗せてから槙花は深々と礼をして部屋を出て行った。目でそれを見送ってから多輝は少しテーブルに身を乗り出し、小声で言った。

 

「あれって所有権主張してるのか?」

 

 そう言いながら多輝は槙花の出て行ったドアを指差した。テーブルを挟んで多輝の正面に座った由梨佳が首を傾げて横目にドアを見る。

 

「そうね。水輝さんとおっしゃったかしら? あの方のところに繋がっているわ」

「へえ……」

 

 多輝は眉を寄せてから椅子にしっかりと腰掛け直した。パンケーキを切り分けながら唇を尖らせる。

 

「あいつ、奈月さんと付き合ってるくせに」

 

 自分の以前の所業を棚に上げて多輝は不服をこめて言った。すると由梨佳が食事の手を止めて小さく笑う。

 

「奈月さんは可愛らしい方ですものね」

「いや! 別におれは奈月さんとは何も!」

 

 多輝は慌てて首を振った。動揺の余りに手からカトラリーが零れ落ちる。うわ、と声を上げて多輝は床に落ちる前に何とかカトラリーを受け止めた。呻きながら顔を上げると笑いを堪えているらしい由梨佳と目が合う。多輝は膨れ面でパンケーキを口に押し込んだ。

 

「私に遠慮する必要はないのよ? 私は多輝くんのものだけど、多輝くんは私に縛られる必要なんて無いんだから」

 

 しばし笑った後に由梨佳は静かな口調でそう告げた。多輝はまた言う、と呟いてため息を吐いた。何度言っても由梨佳は同じことを言うのだ。

 

「だから言ってるだろ。由梨佳はおれの恋人なんだからって」

 

 不満をこめて言ってから多輝は手早くパンケーキを片付けた。デザートのメロンを器用に切り分けて口に運ぶ。




相変わらずらぶらぶです。
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