多輝視点のままです。
エロシーンはありません。
熱めのシャワーを浴びて着替えを済ませてバスルームを出る。濡れた髪をバスタオルで拭いつつ廊下を歩いていたところで多輝はふと足を止めた。覚えのある気配を感じて吹き抜けの玄関を覗き込む。見下ろした広々とした玄関のフロアには、年若い執事とは別に二人の女性の姿が見えた。
「あれ……?」
執事に案内されて一階の応接室に向かっているのは渚と祐だ。多輝は思わず廊下の端に駆け寄って手すりから身を乗り出した。多輝に気付いていたのだろう。二階の廊下を見上げた渚がにこやかに微笑んで手を振る。一方の祐は何故か渚の少し後ろで俯いたままだ。
「優一郎?」
祐の反応に奇妙なものを感じて多輝は小声で呼びかけた。こちらにどうぞ、という執事の声に促されて立ち止まっていた二人が玄関から離れていく。多輝は手すりに身を乗り出して二人を目で見送ってから眉を寄せた。
祐の身体はいつの間にかヒューマノイドの機体に変わっている。特徴のある気配を思い出して多輝は首を捻った。天空の城と呼ばれる天輝の居城を訪ねた折、多輝は祐が優一郎の別人格であると考えていた。それからこれまで祐とは会っていなかった訳だが、あの時と今の祐がまるで違って見えるのだ。
応接室に入った二人の気配は、屋敷内に張り巡らされた水輝の結界に阻まれて完全に見えなくなってしまっている。渚はここで暮らしていたのだから部屋を持っている筈だが、わざわざ応接室に通されたということは今日はこの屋敷の中の誰かに用があるのだろう。
よし、と頷いて多輝は手すりから離れた。判らないことがあるなら当人に訊けばいいのだ。そう決めてその場を駆け出そうとした多輝の背に唐突に声がかかる。
「さっきから何してんだ」
呆れたような声に多輝は慌てて振り返った。いつの間に近づいていたのか廊下の壁に水輝がもたれて立っている。腕組みをしてため息をついた水輝に反射的に言い返しそうになって、多輝は慌てて口を手で押さえた。水輝に無意味に突っかからないようにと以前に優一郎に言われたことがあるのだ。
「べ、別に」
素直に思ったままを口にするのもためらわれて多輝は曖昧に言葉を濁した。さほど興味も持たなかったのか、水輝がふうんと呟いて壁から離れる。いつものように殴られる、と構えた多輝の脇を水輝はゆらりと過ぎた。
「あれ?」
顔面を庇うように腕を上げていた多輝は拍子抜けした声を上げた。水輝がばーか、と呟いて振り返る。
「何だ。殴って欲しかったのか?」
「そんな訳あるか!」
憤りをこめて言い返してから多輝は水輝を睨みつけた。何だ、と呟いて水輝が肩を竦める。歯軋りをして睨みつけていた多輝は違和感を覚えて眉を寄せた。相変わらず水輝は皮肉な笑いを浮かべてはいる。だが覇気がない気がするのだ。
「近頃は外で無差別に女を食ったりはしてないみたいだな」
少しは学習したか、と笑う水輝に多輝はしかめ面をしてけっ、と答えた。記憶をなくした由梨佳が傍にいてくれるようになってから、外で他の女性と性交したことはない。多輝は頭に被ったバスタオルの両端をつかんでそっぽを向いた。
今なら飛び掛れば勝てるかも知れない。そうは思ったが多輝は知らん顔で素気なく言った。
「んなこと、てめえに関係ねえだろうがよ」
「へえへえ」
からかい混じりに言って水輝がバスタオルを被った多輝の頭に手を伸ばす。反射的に半歩ほど身を引いた多輝の頭を水輝が撫でる。からかわれていることは判ったが、多輝は黙って水輝に頭を撫でられていた。
「……てめえはどうなんだよ。奈月さんいるのに、他の女とやってるんだろ」
水輝の左手首に巻き付いた細い鎖を見つめて多輝は不満をこめて言った。すると水輝がわざとらしく感心したような声を上げる。
「へえ。少しは目が利くようになったのか」
皮肉な笑いを浮かべて水輝が左手を軽く持ち上げる。鎖を弄びながら水輝は横目に多輝を見つめた。屋敷の中にいるからなのか水輝の髪と瞳は青い。多輝はふん、と横を向いてさっさとその場を後にした。水輝はそれ以上はからかう気もなかったのか、その場を立ち去ってしまう。振り返ってそのことを確認してから多輝は急いで階下に向かった。
多輝も美味しい思いはしてるのですが、ある意味では振り回されてるだけという気もw