ちょっと不思議なものが出てきました。
このエピソードで十四章は終わりです。
「いや、丸見えだとどうも刺激が」
頼むから隠してくれ、と呻いて多輝は額を押さえた。すると慌てたように佑が破れた服を脱いで多輝のシャツを着込む。だがそれを見た多輝はうわ、と焦った声を上げて股間を押さえた。白いシャツが透けて乳首が見える。その様は破れた服からまともに乳房が覗いているより、よほど艶かしかった。
「サービスタイムはここまでにしましょう。着替えるから廊下に出てもらえるかしら?」
静かに告げて佑がベッドを降りる。多輝は眉を寄せて頭をかきつつ大人しくベッドを降りた。だがそこで思い直して振り返る。多輝が部屋を出るまで着替えるつもりはないのだろう。佑は黙って立っている。
「でもさ。何でやっちゃまずいんだよ。妊娠してるんだから、別にやっても問題ねえじゃん?」
ふと、胸に浮かんだ疑問を素直に口にする。すると佑は困ったような顔でため息を吐いた。
「あなたが相手だと、自分を抑える自信が無いの。自ら暴走するか、あるいはあなたを暴走させて
しまうか、とにかくトラブルを起こしてしまうと思うわ。子供を産むまではできるだけリスクを冒す事は避けるつもりだから」
「だって優一郎、体力消耗してたじゃん」
すらすらと答えてみせた佑に多輝は即座に切り返した。すると佑が答えに詰まって眉を寄せる。多輝は頭をかきながらさりげなく佑から目を逸らした。少し離れたとは言ってもまともに見てしまうとどうも股間が落ち着かないのだ。
「だからどっちにしろ丁度いいと思ったんだよ。おれはこんなだから体力余してるし、だったら足りねえお前に入れればいいじゃんって」
勿論、単純に抱きたかったというのもある。だが体力を消耗していた佑を目にした多輝の胸に怒りがこみ上げたのも確かなのだ。一緒に居るくせに何してるんだあいつ、と思わず口に出してしまう。
「心配かけてごめんなさい。あなたの好意は嬉しいわ。もし、あなたがきちんと自分をコントロールできるまでに成熟していたなら、お願いしても良かったのだけれども」
ふと言葉に冷たいものを感じて多輝はちらりと佑を見た。佑は腕組みをして険しい表情をしている。
「まだまだ、あなたは未熟よ。あまりにもリスクが高すぎるの」
冷ややかに言って佑は踵を返した。着替えるから、と言われて多輝は渋々と部屋を出た。しばしの後、多輝は佑に促されてドアを開けた。きっちりと着替えを終えた佑が椅子に腰掛けている。多輝は難しい顔をして部屋の奥に向かった。差し出されたシャツを受け取って元通りに着込む。
「……やっぱ変だろ。リスクリスクって言うけど」
ぼそぼそと呟くように言って多輝は小さなテーブルを挟んで佑の正面に腰を下ろした。レースのカーテンのかかる窓の向こうにはバルコニーが見える。多輝はそちらを向いて言葉を継いだ。
「確かにおれは未熟だし、コントロールとかよく判んねえし」
肘杖をついて窓の外を眺めながら多輝は前髪を指で梳いた。かなり身体はだるいが動くのには支障はない。
「じゃああいつはどうなんだよ? おれよかずっと長く生きてるし、未熟とかじゃないよな? けど、今のあいつ、変だろ」
そんな奴に任せっぱなしでいいのかよ。不満をこめて言ってから多輝はため息を吐いた。
「だからこそよ。今は、水輝さんと子供のことで手一杯なの」
「じゃあ、誰が優一郎を治すんだよ。お前もいま、何か変だろ」
しかめっ面で言ってから多輝は横目に佑を見た。佑はあくまでも生真面目な顔をしている。だがよく考えると妙な話なのだ。何故、佑はここまで体力を消耗しているのだろう。確かに妊娠は特別なことなのかも知れないが、ここまで母体が消耗していては子供もきちんと育たないのではないか。勿論、龍神の妊娠なのだから人間のそれとは違うかも知れないが、母体が健康な方がいいのは変わりない筈だ。
「自分の限界は把握しているわ。余裕が無いのは認めるけど」
「限界とかどうとかは判んねえけど、お前、やってる最中に何か言わなかったか?」
頭の中に聞こえてきた声のことを思い出して多輝はそう訊ねた。すると佑が不思議そうに首を傾げる。どうやらあれは優一郎の声ではなかったらしい。確かに聞き覚えのある声だったのに、と呟いて多輝は口許に手を当てた。眉を寄せて考えを巡らせる。
「あっ……」
ふと、佑が声を漏らして目を見張る。多輝は怪訝に思って佑を見た。
「もしかして、おじさまじゃなかった?」
「おじさま? 誰だ、それ」
優一郎の叔父など知らない。多輝は記憶を辿って首を傾げた。腕組みをして考えこむ多輝とは対照的に、何故か明るい表情で佑がテーブルに身を乗り出す。急に近づいた佑に面食らいつつも多輝は何だよ、と小声で訊ねた。くすりと笑って佑が首を傾げてみせる。
「立城さんよ」
「あ」
言われて多輝は納得した。確かにあの声といい、喋り方といい立城のものだ。道理で懐かしいと思う筈だ。多輝は腕組みをしたまま何度も頷いた。
「しようのない子だね、とか言われたぞ」
どうせおれは子供ですよ、と続けて多輝は渋面になった。佑はくすくすと笑いながら口許を押さえている。多輝はけっ、と喉の奥で言ってそっぽを向いた。
「その声が聞こえた後、訳わかんなくなったんだ。それまでは……いやまあ、コントロール出来てたって訳じゃないけど……でも、あんな風に何回も出したりとかはしてねえだろ?」
言い訳のつもりでそう口にしてから多輝はため息を吐いた。かっこわる、と自己評価を下してうなだれる。
「じゃあ、返さないほうがよかったのかしら」
楽しそうに笑いながら佑が肘杖をついて多輝を見つめる。のろのろと顔を上げた多輝は拗ねて唇を尖らせた。まだ笑っている佑の頭に素早く手を伸ばして顔を寄せる。驚いたように息を飲んだ佑に多輝は素早く唇を寄せた。赤く形のいい唇を軽く吸いながら身体の中にある力を意識して何とか手繰り寄せる。唇を介して佑に力を強引に渡したところで多輝は顔を上げた。だがすぐにぐったりとテーブルに突っ伏す。どうも調整が上手くないらしい。いつも蒼に言われていることを思い出して多輝は突っ伏したまま呻いた。
「もう、大丈夫?」
ため息を吐いた佑が呆れたように言う。顔を上げ、心配そうな表情を見止めて多輝は力なく笑った。片手を上げて大丈夫だ、と答えてから何とか身を起こす。
「おれなら寝れば体力復活するし、別に気にしなくていいだろ」
今は由梨佳も寝てるしな、と続けて多輝は苦笑した。
「それでは、ありがたくいただいておくわ」
そう言って佑が席を立つ。目で促されて多輝は仕方なく腰を上げた。どうやらのんびりと一緒に居させてくれるつもりはないらしい。
「ケチ」
せめて膝枕くらい、と呟きつつも多輝は大人しく部屋の入り口に向かった。だが佑は先ほどよりは随分と体力も回復しているようだ。そのことに内心ほっとしつつも多輝は渋々の態を装って佑の部屋を出た。
仲は良いんですよね、仲は。