「猫屋敷くんっ」
「ん?」
ある日の放課後。猫屋敷まゆともう一人の女子生徒がプリント整理をしていた。
「こっちの分は終わったよ」
「そっか、お疲れ様」
どうやら女子生徒に持たせた分の仕分けは終わったらしい。それもそのはず、まゆは自分の分は少し多めに持ち、向こうには少な目に持たせたからだ。こっちももう少しかな、とまゆがプリントを見つめていると、女子生徒がまゆの持つプリントを摘んできた。
「猫屋敷くんの分手伝うよ?」
「え?あぁ、ううん。大丈夫だよ。後は僕がやっておくから」
柔らかく微笑んで首を横に振った。そんな美男子の笑顔に心が動かないはずもない女子生徒。胸がときめいたのかかぐぅぅっと肩を上げる。
「猫屋敷くんって優しいよね。一人でなんでも出来る所とか素直に尊敬する」
「そう?別に普通の事だよ」
言いながら、まゆはプリント整理に戻る。
「友達待たせてるんでしょ?ここに居て大丈夫?」
「ぁ…えと、それは大丈夫。向こうもまだ終わってないだろうから」
「?、そうなんだ」
女子生徒には計画があった。一世一代の計画が。今そこにいる猫屋敷まゆへの告白。今は『あの子』も居ない。聞けば従妹関係らしい。やたらとまゆへくっ付いているのは気になっていたが、今この状況ではそんな事は関係ない。
「あ、あのね、猫屋敷くん」
「ん〜?」
「わたしね…猫屋敷くんの事っ…!」
「まゆ!」
勇気を出して喉元まで持ってきた言葉を遮ったのは『あの子』。猫屋敷ユキだった。まゆはユキが戻ってきたのを不思議に思い首を傾げる。女子生徒は逆に青ざめた。
「ユキ?戻ってきたの?」
「あんまり遅いから心配したのよ。まだ終わらないの?」
「ううん。もうすぐ終わるよ」
まゆの隣に立つなり、女子生徒へ視線を変えた。その視線は可愛い視線などではない。凍りつくような冷たい視線。もはや睨みつけてると言っても過言ではない程ゴミを見るような目。
「あら、そっちは終わってるのね。なら早く帰った方がいいんじゃないかしら?校門で待ってる人が居たわ」
「ぁ…そ…そう…だね。じゃ、じゃあね二人とも…!」
「うん。ありがとうね」
「………」
女子生徒がそそくさと逃げるように廊下を駆けていく。その足音が聞こえなくなると、ユキはまゆから一歩距離を空ける。
「心配性だな。ユキは」
「どうせこうなるんじゃないかと思ってたのよ。あの子、最近ずっとまゆの事見てたし」
ユキは溜息を吐くなり鬱陶しい後ろ髪を靡かせて、机に体重を預けた。腕を組んだ彼女の表情は少し怒っている。
「まぁ、僕もそうなんじゃないかって思ってたさ。でも、もし言われても断る気だったよ?」
「断るも何も、わたしは告白される事が嫌なの」
「っはは、そうだよね。ユキはそういう子だ」
プリント整理を終えたまゆはユキの正面に立つ。そしてしなやかなその指でユキの頬を撫でる。
「妬いてくれた?」
「当たり前でしょう」
まゆはその言葉に満足そうに頷くとユキへ静かに歩み寄る。顎を指ですくって目線を合わせた。
「可愛いネコさん。今日はこれで許してくれるかな?」
「っ……」
その艶のある紅い瞳がユキの心を貫いた。誰も居ない事をいい事にユキもまゆの首へ腕を回す。
「一回だけじゃ許さないわ」
「そうだね。後は家でゆっくりしようか。じゃあまずはここで一回だね」
そう言って、二人はまるで解けるように唇を重ねる。触れ合うだけのただのキス。それでも、顔を真っ赤にしたユキを見てまゆは朗らかに微笑んだ。
「顔真っ赤、可愛いねユキ」
「っっ〜〜〜!貴方の顔が良過ぎるのよっ!まゆ!」
「ありがとう。大好き」
「っっっ〜〜〜〜!!………わたしもっ!!」