規則正しいノックが二回。私の部屋に響いてきた。夜も少し遅くなる頃、この時間に私の部屋に来るのはあの子しかいない。
「どうぞ」
「遅くにすみません。ましろさん」
「ううん。大丈夫だよ」
おずおずと部屋に入ってきたのはやっぱりソラちゃんだった。顔を見れば、寝間着姿で今から寝ようとしていたのかそれとも、私の部屋に訪ねようとしていたのか、迷っていたのがよく分かる。
「今日の事で、お話があります……」
少し真剣な顔で、でも心配そうな顔も含んでいるその表情には心当たりがあった。多分今日、ランボーグと戦った事だと思う。
今日のランボーグは少しだけ手強かった。私とソラちゃんでギリギリで、あげはちゃん達が助けに来てくれたから良かったけど、それまではお互いに少し無理をして戦っていた。いつもより少し前に出て、いつもより少し強引に戦った。その結果、いつも後方支援の私がいつもより前に出ていた事を気にしていると思う。
「今日は無茶をさせてすみませんでした……」
当たり。やっぱり気にしてた。だから帰り道も顔が俯いたままだったし、晩御飯もあんまり食べなかった。
食べなかったと言っても三杯くらいはご飯おかわりしてたけどね。
でも、食べるスピードは遅かった。私だけが気づくぐらいの誤差だけど。
「そんな、気にしなくていいのに」
「ダメなんですっ! 本当はわたしが……わたしがもっと強ければ……」
「ソラちゃん……」
「わたしなんか───っ?」
いつものセリフが出そうになったので私はソラちゃんの唇に人差し指を当てる。
「た〜いむ。それはめっ、って言ったよね?」
「う……はい」
ちょっとしょんぼりしているソラちゃんに微笑んで、私はベッドに座るように催促する。
「今日の敵はわたし達じゃどうにもなりませんでしたね」
「うん。私も、もっと強くならないとね〜」
「わたしも、もっと鍛錬を積まないとましろさんを守れません」
「一緒に戦ってるのにそんなこと言う〜?」
小首を傾げるとソラちゃんの顔はまた俯いた。
「だって……」
いつものセリフはさっき止めてしまった。だから行き場のない感情がソラちゃんの瞳から溢れそうになる。私はしまった、と思いつつも吐き出して欲しいのでそのまま手を重ねて言葉を待つ。
「ましろさんに痛い思いはして欲しくないです……」
素直な優しさと暖かさ。手に落ちた一雫は冷たくなんかなかった。その向けられた感情は素直に嬉しいし、心地よい。だから、見えた一雫は空いてる指で掬う。
「私だって一緒だよ。ソラちゃんに痛い思いはして欲しくないよ」
「わたしはいいんですっ! わたしはましろさんを守るヒーローに成れるならそれで……でもましろさんの言う事も守りたい……です。それで……えと……あの……」
慰めながら、不謹慎だけどその顔も綺麗で少し困ってしまう。弱い所を見せてくれる。ただそれだけで私の心は踊り出す。こんなソラちゃんを甘やかしたいと動き出しそうになる。だから、私はとりあえずとしてソラちゃんの頭を撫でる。
「もぅっ! 子供扱いしないで下さいっ!」
「ごめんごめん、あんまりにも泣きそうな顔だったからつい……」
涙目で頬を膨らませてむくれる君が愛おしい。
「子供じゃないんですから……そんな事してると……キ、キス……しちゃいます……よ?」
「ふぇ?」
苦し紛れの大人な行為を言いたかったのか、言った本人の顔が赤いままだった。少し目も泳いでるし、自分で照れちゃう所もソラちゃんらしい。
でも、ちょうど良かった。私もそういう気分だった。
「うん。いいよ」
「え?」
目を丸くしたソラちゃんとは裏腹に私は両腕を広げてソラちゃんを迎え入れる準備をする。
「キス。しよ? ソラちゃん」
「ぇ……」
「ほら、おいで? ソラちゃん」
「ぁ……ぇ……と」
「も〜」
しどろもどろに動くソラちゃんを他所に焦れったくなった私は自分からソラちゃんへ向かっていってしまった。
「え、ちょ、ましろさ───」
慌てる君へ口封じ。少し押し付けてやれば君はそのまま息を飲む。首へ回して腕を巻き、今日は珍しく私から誘ってみる。ほんのちょっと啄むように唇の温度を楽しんで離れると、君の瞳は回っていた。
私が多分悪い。戦ってた時の気分から下りてこれてない。
「ま、ましろさんっ、そんな、急にされると……」
「えぇ〜? するって言ったのソラちゃんだよ?」
でも、そんな可愛い君が悪いんだよ?
甘えたくなっちゃうし、甘やかしたくなっちゃう。
納得いっていない君の顔を見ながら私はまた微笑んでしまう。さっきまでの泣き顔が嘘のように消えて、コロコロ変わる表情が面白い。その顔一つ一つに胸がときめくと、君の事が好きなのだと自覚出来る。
「そんな……いいんですか。ましろさん。体……痛くないですか?」
「うん。ぜんぜんへーき」
「今ので、わたし……キスだけじゃ足りなくなりそうなんですけど……」
お互いの額を合わせて、意志を確かめる。伝わってくる感覚は君の鼓動の速さで分かる。だから、私は直ぐに頷いた。
「うん。ソラちゃんのしたい事……していいよ?」
「っ──ましろさんっ……!」
「わっ!」
自分でも分かるぐらいにあざとく首を傾げて余裕をひけらかすと、ソラちゃんに押し倒されてしまった。ベッドが軋む音。組み敷かれて繋いだ恋人繋ぎの手。ただゆっくりとその手のひらから伝わってくる温度に瞳がゆっくり垂れてくる。
「あなたが……っ……」
下弦の月がナイフの様に煌めく頃。友達の距離を少し縮めてみたら、君は愛しい壊れ物だった。これから二人の時間が始まる予感と今こんな事をして良いのかという戸惑いの中で、私を見つめる君の瞳は子供のように大人びている。少し背伸びをしている子供見たいで愛おしい。でも、その真剣な眼差しは私をしっかり捉えている。
「ましろさんが……悪いんですよ」
悪い。悪いって言うのはどのことかな。
状況か。心情か。それとも違うものかな。
ちょっと必死な君を見るのは少し可笑しくて笑いそうになってしまう。嘲笑う方じゃない。微笑ましくて顔が緩んでしまう。多分そうすると君は少しムッとする。
「ふふっ」
「ましろさんっ」
ほら、少し怒った。語尾が跳ねるのがその証拠。
今の私は組み伏せられて、見下ろされて、その時のソラちゃんの顔はまるで狼みたいで、真っ直ぐ私の目を見つめてる。頬に手を添えると、何処となく熱を帯びているのが分かる。
「ソラちゃ───んっ……ん……」
そういう君の瞳の色はどんな冷たい青より熱を帯び、見つめられてる私自身も蕩けてしまう程に熱い。
キスだって噛みつかれてしまいそうに思えるほどに強く、激しい。『こう』されて興奮してるのも私自身の悪い癖。
「ふふっ、ソラちゃん……ちょっと必死だね」
「そんな顔……卑怯ですよ。ましろさん」
この立方体の上でなら私は君の全てを受け入れる。ギリギリ残った理性を保っている君の顔。当てられて口から出てくる熱い息。服の中をまさぐる手も、キスの声も、今のソラちゃんの全部が好き。
「さっきの言葉……いいんですか? わたし止まれませんよ?」
「んっ……」
ふわりと、私の胸に触れてきた。少し体が跳ねてしまう。優しく触れてはきたけれど、今すぐにでも襲われそうな雰囲気に私の背筋にはぞくぞくと何かが走った。
「うん。きて……? ソラちゃん」
「っ……!」
「あっ……! ん……」
噛み付くようなキスで押さえつけられる。お互いに腕を体へ巻き付けて、離れないように縛り付ける。そうすれば次にやってくるのは舌先で、私の口の中を這い回る。歯型を伝い、私の舌を掬って、絡めとる。
(舌……吸われるの久しぶりかも……きもちいい……)
味わうというよりは貪り合っている感じで、お互いに少しがっつき始める。口の周りが汚れてしまって、薄目を開ければ互いの視線が交わった。それを区切りにソラちゃんは私から離れる。舌先に着いた糸がゆっくり垂れるのが見えた。
「っは───ごめんなさいっ、わたし……」
「ううん。大丈夫」
「久しぶりだからちょっと……加減が分からなくて……」
「加減なんていらないよ。私も感じたいから」
そう言って、ソラちゃんの頬を撫でるとまた来てくれる。抱き締めていた腕が今度は私の服の中に来た。確かめるように、撫でるように、私の胸へ伝ってくる。
「んっ……!」
下着もつけてないから少し触れるだけで感じてしまい、体が跳ねる。こういう時のソラちゃんは私の反応を楽しんでいる。私の胸を指で撫でる。それはちょっとくすぐったいからもどかしい反応をしてしまう。
「んっ……んんっ……」
キスの最中。抵抗できずいいようにされて、私の心は満たされる。最近ちょっと自分でとM気質になってきてるんじゃないかって思ってる。
「可愛いですよ。ましろさん」
「ちょっと……っ、それ、焦らすの……やぁっ……」
胸の先端を指で転がされる。直接的に気持ちよくて、つい声を抑えようと口を覆ってしまう。そうして悶える私を見てソラちゃんは楽しんでいる。
「もっと声、聞きたいです」
「や、だ……そんな言い方……ゃんっ……!」
ぎゅう、と摘まれた。突然の刺激に声がつい漏れてしまった。それなりに恥ずかしいので顔を隠してしまう。赤くなっている所を見られたくない。痴態をさらすと嬉しくなってしまう。
「もう。ましろさん直ぐに顔隠すんですから」
「だって、恥ずかし……ひゃっ!?」
「これですか? 恥ずかしのって」
私の足の間にあったソラちゃんの足。押し付けるように私の一番の弱点を膝で刺激してきた。そこから鳴ってる粘着質の水の音。全部私が出してる水の音。
押し付けられた膝を離すと、ソラちゃんの寝間着に出来た膝のシミ。くっきり形が出来ていて余計に恥ずかしい。
「相変わらず、感じやすいんですね」
「ソラちゃんがいぢわるするからだよ……」
「それもそうかもしれませんね。でも、自分からして良いって言ったましろさんのせいでもありますからね」
そう言って首筋に口を付ける。私の足に擦り寄る君の手が壊れ物を扱うように優しく撫でてくる。最中はあんまり会話をしてくれない。さっきも言ってたように二人の時間が久しぶりだったから。余裕が無いのもよく分かる。私自身、喋るよりも今はサれていたい。
「ソラちゃ……ひゃうっ……!」
噛じられる太ももの内側。歯型が着いている。ソラちゃん曰く、柔らかい所だから好きらしい。そろそろソラちゃんの噛みグセにも困ってきた。こないだなんて二の腕と胸にも付けられた。
「ん……ましろさん……すっごく可愛いです。閉じ込めておきたいぐらいに」
歯型を舐めて慰めてくれる。這う舌はゆっくり私のナカへ近づいてくる。
「ひゃぅっ!」
舌先が私の入口に着く。
「ま、って……んぁっ!」
ゆっくり上下に舐られる。こじ開けるのではなく確かめるように。キスだけ満足してたけど、ここまでされるとソラちゃんも私も止まらない。
「は、ぁ……っ、それ……っそこ……良い……ぃ……」
「ここですか?」
ちゃんと気持ち良い所を刺激してくれる。びくんびくんってなる度にソラちゃんが嬉しそうな顔をする。舐められて、吸われて、見せつけられて、私の体はどうしようもなく彼女を求めてしまう。
(もう少し奥でも大丈夫そうですね……)
「はぁ……っ!」
ぐりゅり、と舌がナカに来た。上も下も横も全部ナカの蜜を舐め取られる。でも、今の私はそれじゃ満足出来ない。もっと他のソラちゃんを感じとれるものが欲しい。
「ソラちゃ……んっ、ゆびっ……! ゆびがいいっ……!」
私の言葉を聞くと直ぐにソラちゃんの口が止まる。ゆっくりこちらを覗く青色は私の瞳に突き刺さる。その視線だけで私は軽く達してしまう。
「分かりました。貴方のお願いですから」
ぎし、と私の上にまた被さる。
妖艶って言うのかな。そういう顔。
カッコよくて色っぽい。そういう顔。
君のふとしたそういう顔が好きでずっと見ていたいぐらいで。私は堪えられない。お腹の奥が疼いてくる。目を離したいのに離せない。閉じたくても閉じれない足の間にいるソラちゃんが上から見下ろしてくるその視線が痛いくらいに気持ちイイ。
「指……入れますね」
「っ……うん」
自分の口で濡らした指を私の入口に突き立てる。つぷ、と指の入る音が鳴る。ゆっくり膣を掻き分け入ってくるソラちゃんの中指と薬指。余計に濡れてるのもあり、あっさりと二本の指を迎え入れてしまった。
「凄いですね。ナカ……熱いですよ」
「や、ちょ、そういうの……っ言わないでぇ……あっ……んっ、そ、こっ……撫でるの……っ……」
ソラちゃんに見つめられながら、私のナカを掻き回す。天井辺りを撫でられて、床の方を擦られて、ゆっくり指をナカで回して、痛くないように、でも、ちゃんと感じるように、ソラちゃんは私の汚してくれる。
「あ゙っ……! ソラ、ちゃ、ぐりぐりっ……するのっ……だ、めっ……! 私、それ弱いの知ってるでしょっ……!」
「えぇ、知っています。だからですよ」
胸の頂点を吸われ、ナカを弄られ、その感覚でいっぱいいっぱいな私はソラちゃんにしがみつくことしか出来ない。でも、ソラちゃんは止まらない。ゆっくり、でも激しく私を犯す。ナカで指が徐々に奥に入ってくると私の腰が勝手に浮いてしまう。それとは逆に吸われてる胸を下へ引いてしまう。時折目が合う青の瞳はまだ熱くて視線が交差すると私のナカと心がときめいてしまう。
心と体が限界でソラちゃんのテクニックを止めようとしても上手く抵抗出来ないでいる。
「待っ……ソラちゃんっ……! 私、もう、もたなっ……! ひぅっ!」
私の余裕がなくなるとソラちゃんはより一層艶やかな笑みを浮かべる。
「いいですよ? ましろさん」
「っあ゙───!? 、ひっ……っ……っっ───!! 、ッ───!!?? 、っ〜〜〜〜〜〜!!!」
そしてそのまま、指を一気に奥まで押し込まれる。私はその快感に耐えられずに盛大に果ててしまった。
「っはぁ……はぁ……はぁ……」
「沢山出ましたね。ましろさん」
てらてらと濡れて光る指を見せつけられて、私は恥ずかしさで爆発しそうな程に顔を赤くした。よくればベッドも汚れている。明日になったら速攻洗わないといけない。
「もぉ〜……」
…………
「とっても可愛い反応でしたよ?」
「恥ずかし過ぎて燃えそうだよ……」
行為後のお話の時間。体を拭いて、二人でベッドにくるまって寄り添っている。ソラちゃんは私の胸の中に顔を埋めている。本当にこうして見るとわんちゃんみたいなんだよな〜。ソラちゃん。
「次……」
「ん?」
「次同じ事があっても、わたしが絶対に守りますから。だから、あまり無理はしないでくださいね」
「……」
なんだ……まだ少し考えてたんだ。こうすれば忘れてくれると思ったんだけどな。でも、もし私がソラちゃんと同じ立場だったらと考えると、それもそうかと納得してしまう。
「うん。わかってるよ。ありがとうソラちゃん」
「えへへ……ましろさんの体、暖かくて……ねむ……く……」
「……寝ちゃった」
規則正しい寝息と綺麗な寝顔。でも、手足をよくよく見れば傷が所々に残っている。この傷もきっと私を守ってくれているヒーローの証。
「もぅ。なんでソラちゃんが先に寝ちゃうのさ」
日々の鍛錬の姿も、一緒に戦う姿も、私はずっと見てきた。色んな人に自慢したいぐらいに愛おしくてかっこいい私のヒーロー。
「ふふっ……おやすみ。ソラちゃん」
でも、きっとそのヒーローが崩れる時が来るのかもしれない。今日みたいに。きっと。
でも、私は君みたいに空を飛べない。だからその代わりに言葉を送りたい。君の孤独を剥がすように、傍に寄り添って。剥がれた翼を授けるように。
いつか、何か行き止まりに辿り着いた時には一緒に悩んで、助けてあげたい。これはずっと、ず〜っと変わらない私の本心。
もし、それが今叶うのなら、その時私は、君の為にどんな夢を見るのかな。
二人じゃないと開かない扉があるこの世界で。
私はどんな夢を君と見るのかな。