もう皆立ち上がれない。
【見つけた】
わたし一人でも勝てるか分からない。
【見つけた】
それなのに鼓動は早くなるばかりで。
【見つけた!】
わたしが求めていたものがそこにあって。
【見つけたッ!】
皆のペンを取り返さないと。
【戦え】
ましろさんを失ってしまう。
【戦え】
わたしはヒーローなんだ。皆を助けないと。
【戦え】
倒さないと。敵を。
【戦え】
違う。わたしはヒーローに。
【戦え!】
倒さないと。
【戦え!!】
敵を倒すんだ。
【戦え!!!】
「ッッッ───!!!!」
…………
「ましろさん! おはようございますっ!」
綺麗な敬礼を朝の挨拶と一緒に決めてくれるランニング帰りのソラちゃん。笑顔が眩しくて目に染みる。太陽にも負けていないね。その輝きは。
「おはよう。朝ごはんちょうど用意できたよ」
「はい! ありがとうございます! ……あぁっ! でも、朝ごはんのご用意を任せてしまったんですよね! 明日はわたしがしますからね!」
「私もちょうど今目が覚めたから、ついでだよ。気にしなくていいのに」
「いいえ! ヒーローたるもの出来ることは一人でこなします!」
「もう〜、ふふっ」
いつもの問答。いつもの朝。
今日もいつも通りのソラシド市の一日が始まる。
…………
「ソラちゃん。最近ランニングから帰ってきても全然息が切れてないね」
「そうでしょうか?」
エルちゃんにミルクを与えているましろさんがふと思い出したように口を開きました。言われてみれば最近はランニングもウォーミングアップとしては物足りないと感じていていました。
「体力が付いてきたんですかね。もう少しランニングの距離とかペースを考えた方がいいかもしれませんね」
そう。最近【物足りない】。
トレーニングの日々。
ランボーグを浄化する日々。
ましろさんとの楽しい日々。
皆との楽しい日々。
なんて事ない日を過ごしているはずなのですが、わたしの心は何かを欲している。何をするにしても体力が有り余る。もっと、別な何かを求めている。最近はそんな感覚に苛まれる。でも、そのパズルのピースが見つからない。今はそれを探しているような日々が続いています。
(物足りないって……わたしは何を求めてるんだろう……)
自分に問いかけ、手のひらを見る。そんなもの分かるはずないのに。多分今分からないだけで、きっとこれから答えを見つけられる。ちゃんとした答えなら……わたしがヒーローになるための答えだといいな。
「なぁに? そんな顔して。そんなに深刻な問題?」
「え? あ、いえ! そんな事ないです! 大丈夫です!」
ぐっと拳を握って笑顔を向ける。エルちゃんを抱いているましろさんは本当に女神のような顔で笑っている。そうして今日がはじまった。わたし達の普通の日常が。
…………
「ランボーグ!!!」
そうは言ってもランボーグ達はわたし達のことなんて知らない。事ある毎に現れては街を荒らしていく。アンダークにはもう少しわたし達の事情を知っておいてほしいものですね。
「ウィング! バラタフライ!」
「プリズム! スカイも!」
「遅れました! 状況は?」
「うん、さっきまで街で暴れてたんだけど、私達が来た途端に急に動きを止めたんだ」
バタフライの視線の先を見ると確かに破壊された街の真ん中で人型のランボーグが立っている。若干大きい人型、サイズは2メートルほどだろうか。しかし、微動だにせず眼前のわたし達を睨みつけている。まるで、わたし達を待っているかのような。
「なんだか、不気味ですね」
「さっきまでは暴れてたんだけど」
「でも、倒さないと被害は広がるかもね」
わたし達が構えるとランボーグも雄叫びをあげる。
「ランボーグ!!」
それと同時にわたしが踏み込む。
「先行します!」
「私達は左右から。行くよウィング!」
「了解!」
「援護するよ!」
ウィングとバタフライが左右に展開。プリズムは後方からの支援。その手前に既に前に出たわたしがランボーグの目の前まで来ていた。
「っあぁ!!」
正拳突きを繰り出すとランボーグはしっかりとわたしの一撃を受け止めた。
「なッ!? ───ぐっ!」
そのままランボーグに蹴り飛ばされ壁を突き破る。
「もらった!」
しかし、バタフライの攻撃すらも避けてしまう。
「なっ……っい!?」
「ちょ! ……バタフライっ!?」
避けた攻撃を受け流し、バタフライの足を掴んでウィングへ綺麗にぶつけて見せた。敵ながらとても綺麗な流れの動作。隙もないちゃんとした動き。さっきまで街で暴れていたとは嘘に思えるほどに。
しかし───
「捉えた……!」
既にプリズムの放った光弾がランボーグの後ろにあった。それに合わせる為にわたしもランボーグへ向かって走り出す。もう既に避けられるような距離ではない。わたしも既に目の前まで辿り着いた。
「はぁっ!」
ぶつかる衝撃、爆発音。完全に捉えたわたしの攻撃とプリズムの攻撃。手応えアリ。多少のダメージぐらいならあるはずですが。
「…………ランボーグ……!」
「なぁっ!?」
効いていない!?
元から直撃を受けても平気だったのか!
「スカイ! 離れて!」
「しまっ……!」
わたしはまた吹き飛ばされる。
…………
「───っ!?」
戦闘中に気を失っていたのかわたしは壁の中で目を覚ました。
戦闘は!?
ランボーグはどうなった!?
ましろさん達は!?
瓦礫に埋もれた体を起こして周りを見渡すと、そこには惨劇が広がっていた。
「っましろさん!」
変身解除にまで追い込まれた、ましろさん、あげはさん、ツバサさんが倒れている。しかもランボーグは何故かミラージュペンを回収している。その為の対人戦用のランボーグだったのか。
「……っ……」
「あげは……さんっ……」
「ぁ……くっ……スカイ……」
「───」
ましろさんの首を掴んだまま、ランボーグはこちらを睨む。四人でも敵わないのに今わたし一人だけで太刀打ちできるのかも分からない。でも、ましろさんを助けないと……! あの人だけは失う訳には……!!
【見つけた】
「え……?」
【見つけた】
誰かがわたしの中で囁く。
【見つけた】
自然と体に力が湧く。
有り余っていたものが溢れるように。
【見つけた】
呼んでいる。わたしの中のもう一つ。
ずっとずっと呼んでいる。
【見つけた】
こんな状況で一人で何を考えているのか。
【見つけた】
違う! 今はましろさんを助けないといけない。
【見つけた】
早く動けこの体。
ましろさんを見殺しにする気か。
【見つけた】
余計な考えは捨てろ。
ましろさんを助ける事だけを考えろ。
【見つけた】
もう皆は立ち上がれない。
【見つけた】
わたし一人でも勝てるか分からない。
【見つけた】
それなのに鼓動は早くなるばかりで。
【見つけた!】
わたしが求めていたものがそこにあって。
【見つけたッ!】
なら、わたしのしたい事は───
【戦え】
「ッッ!!??」
わたしの足はランボーグへ向かっていた。
…………
「っ……ぁ……スカ……イ?」
ランボーグに捕まっていはずの私はいつの間にかスカイに抱えられていた。ランボーグからそれなりの距離離れていたはずなのにいつの間にか私を抱えてランボーグからも距離をとっていた。一瞬でここまで来たの? どうやって? そうやって頭を巡らせているとスカイの顔が見えた。
「っ……!?」
「…………ましろさん。下がっていてください。後はわたしがやります」
知らない。そんな顔。スカイは怒りに溢れている。でも、目には光が灯っていて理性はなくしていない。怒っているようにも、笑っているようにも見えるその顔は私の知ってるスカイの顔じゃないみたいで。
「まっ……て、スカイっ、貴方……っ」
「行ってきます」
低く体勢を取り、一瞬で敵の方まで距離を詰めた。拳と拳がぶつかり合う凄まじい衝撃破。爆風のような風が起こる殴打の応酬に私達は吹き飛ばされないようにしがみつくのに必死だった。スカイは笑っている。まるで求めていたものを見つけたかのように目を輝かせている。さっきまで私達四人でも相手にならなかったのに今スカイが一人で互角以上に渡り合っている。信じられない光景。一歩一歩の踏み込みで地面が抉れている。その光景にあげはちゃんもツバサくんも圧倒されている
「まだですっ! もっと! もっとですよッッ!!」
違う。ヒーローはそんな顔をしないよ。ソラちゃん。ヒーローは楽しそうに闘うことなんてしないはずだよ。
「スカイッ!」
呼びかけても振り向かない。ずっとランボーグと殴りあってる。何かおかしい。ソラちゃんじゃないみたいで怖い。
「っ!?」
「っが!」
ランボーグの一撃で壁に激突するスカイ。もがくようにすぐに立ち上がってランボーグへ走り出す。
「まだだ! まだ!!」
笑っている。スカイが。戦いながら。そんなのありえない。そんなのソラちゃんじゃない。私の知ってるソラちゃんじゃない。敵に殴られて喜んでいる。敵を殴り飛ばして喜んでいる。そんなの違う。それは違うよ。ソラちゃん。
「くはっ! さすがのパワーですねッ! でも、それだけは返してもらいますよッ!!」
ランボーグの拳を受け止めると、私達のミラージュペンを握りしめそのまま引きちぎる様に蹴り飛ばした。それを私達に返すことなく、その場に落とす。そして、吹き飛ばしたランボーグの方へゆっくりと駆け出した。
「ソラ……ちゃん」
まって、そっちに行かないで。
君はそっちに行ってはダメなの。ソラちゃん……。
「あっはははははははははは!!!」
空に舞う青と舞い散る赤。
私の知らないソラちゃんの色と私の知ってる血の色。
血を撒きながら戦うその姿は死神を見ているようで私は足がすくんでいた。でもそれよりも、私はソラちゃんが戦いながら笑っている事に驚愕している。この世の終わりのような感覚。でも、あの子は笑ってる。天真爛漫。少女のように。何にも縛られずに笑っている。
「ランボー……グ……!」
「なっ! 逃げるのですか! させませんよ!」
「スカイ! 待って!」
取り返してもらったペンを拾い、彼女の背中を追いかける。
「待ってましろん! 一人じゃ危ないよ!」
「ごめん! あげはちゃん達は怪我してる人達を助けてあげて! 私はソラちゃんを何とかするから!」
「っでも!」
「いいからっ!」
「今は任せましょう、あげはさん」
「っ……わかった」
二人のペンを投げ渡し、私はソラちゃんの方へ駆け出した。
…………
あぁ。生きている。
今そう実感できる。心の奥の奥に潜めていた感情なんだろうか。わたしの【求めて】いたもの。今は考えるよりも体が動く。今この瞬間に感情なんて役に立たない。今この瞬間を誰にも邪魔されたくない。目の前の敵以外全てが邪魔だ。研ぎ澄まされていく刃を目の前に突き立てられているような。体が鬱陶しい。肉体が要らない。こんなにも気持ち良い戦いは初めてだ。
なのに。
なんでこんなにも虚しいのか。
感覚が違う。正解を見つけたはずなのに、何かズレている。ハマらないピースを片手に握っている。
このランボーグはわたしの全力を受け止めてくれる。
全力で蹴り飛ばしても仰け反らない。
全力で殴っても退かない。
まだだ。まだ力を出し切っていないんだ。今わたしは不正解なのか。ならもっとだ。もっと、もっと、戦いたい。この体がぶっ壊れるまで。ここら全てを更地にしてまでも。
「スカイ! 待って!」
誰かがわたしを呼んでいる。誰なのかは分からない。わたし以外の全てが邪魔だから聞こえない。今この一瞬が愛おしい。破壊も破滅も壊滅も全部今に集約して、爆発しそうな程にタノシイ。これを待っていた。【求めていた】。心の奥できっとどこかで。吹き荒れる悲しみがこの胸を掠める。殴る度にどこか虚しさと悲しさを覚える。
「待って! ソラちゃん!」
誰かがわたしを『そら』と呼ぶ。
【戦え】
そうだ。戦わないと。敵を倒さないと。
『あの人』を守れない。
【戦え】
『あの人』?
『あの人』って誰だっけ?
【戦え】
戦わないと『あの人』を失ってしまう。
【戦え】
わたしはヒーローなんだ。皆を助けないと。
【戦え】
倒さないと。敵を。
【戦え】
違う。わたしはヒーローに。
【戦え!】
ヒーローなら敵を倒さないと。
【戦え!!】
敵を倒すんだ。
【戦え!!!】
「戻ってきて! ソラちゃんッ!!」
「ッッ!!??」
モノクロだった視界に青空が見えた瞬間。わたしの世界は色を取り戻した。目の前にはランボーグの拳。さらにその目の前にはにはわたしをずっと呼んでいたましろさん。なんでわたしの前にましろさんがいるのか分からない。でも、これを止めないとましろさんは怪我じゃ済まない。
「ましろさん! 下がって!」
「きゃぁっ!」
ましろさんを後ろに下げて、ランボーグの拳を受け止める。さっきまで軽く感じていたはずなのに一撃が重い。全く違う敵を相手してるような。でも、ここから一歩でも退いたらましろさんが危ない。それだけは許されない。
「ぐっ……っああぁ!!」
もう一度思い切り殴り飛ばして、ましろさんの方へ振り向く。見れば今にも泣きそうな顔をして手足が震えている。ペンも取られてまともに戦えないはずなのにどうして。
「っなんで出てきたんですか! 危ないってわかるでしょう!? どうかしたんですか!? 貴方は!」
「っそれはこっちのセリフだよ! あんな顔して戦って!! 普通じゃないよ!! 私の知ってるソラちゃんじゃないっ!!」
「は、はぁ!? ……だってわたしはましろさん達の為に───っ!?」
ボロボロのましろさんの後ろを見る。わたしはその景色に驚愕した。周りに広がる破壊された建物。踏み荒らされた地面。まるで天変地異でも起きたかのような景色にわたしは息を飲んでしまった。
ましろさん達の……為に? 今わたしはそう言ったのでしょうか?
「なん……ですか、これ」
「全部ソラちゃんとランボーグがやったんだよ」
わたしが……? これを……?
周辺の建物は半壊なんてものじゃない。
地面なんて抉れてるなんてものじゃない。
「ソラちゃん」
その景色で呆気にとられていると、ましろさんが真剣な瞳でわたしを呼ぶ。
「ごめん。上手く言えないけど、今ソラちゃんがやってる事は、ソラちゃんが目指してるものとは遠くかけ離れてる事だと思うの」
「かけ……離れてる……」
「私が頼りないのはよく分かってるの。でも、ソラちゃんには絶対戦いながらそんな顔して欲しくないっ……!」
涙ぐんだましろさんと一言かわしただけで、体に疲れが重りのようにのしかかってきた。護るために戦っているはずなのに、何がいけなかったのかわかならい。でも、今目の前にある光景は、わたしが破壊した街と絶対に悲しませてはいけない人を悲しませているという事実。
わたしの目指すヒーローはきっと、そんな事はしない。困ってる人がいるのなら、泣いてる人がいるのなら、必ず手を差し伸べるはずだ。それなのに今は逆になっている。差し伸べる手が大切な人を悲しませている。
「わたしは……」
血にまみれた拳を見て、自分の心に問いかける。
そうか。わたしは飲まれていた。この状況に。何かしないといけないって飲み込まれてた。
嗚呼……そうか。わたしは狂っていた。求めるものなんてなかったはずなのに、ましろさん達との日々に足りないものを求めてしまった。それは恐らく今のような瞬間だ。わたしはきっと戦い合う相手を求めていた。でもそれは違う。それではただの狂人だ。わたしは戦いを求めない。そんなものは要らない。
「ありがとうございます。ましろさん」
「ソラちゃん……?」
拳を握ると、ぶっ飛ばしたランボーグが帰って来ていた。
「ランボーグッッ!!!!」
「ソラちゃんッ!」
「ッ───!!」
またランボーグの拳を受け止める。今度は一歩も退かない。不思議だ。さっきまで鉛のように重かった体が羽毛のように軽い。ましろさんに名前を呼んで貰えたからだろうか。誰かのために。あぁ、これだ。これが私の求めてたもの。誰かに必要とされている。それがましろさんならなおのこと。わたしは今、貴方を護る戦士となる。
「ましろさん。もう大丈夫です」
「ソラ……ちゃん……」
振り向いて笑顔を見せる。ましろさんはまだ呆気にとられていたけれど、すぐに笑顔になり頷いてくれた。もう呑まれない。引っ張られることもない。わたしは、ましろさんを護るヒーローに。
ましろさんを泣かせてしまった罪は今償います。
今度はましろさんを笑顔にしてみせる。
「ヒーローのっ……出番ですっ!」
今一度、ランボーグを殴りつけるとそのまま前へ出る。吹っ飛んでいる最中のランボーグへ追い討ちをかける。水切り石のように飛び跳ねるランボーグを再び殴り飛ばして、さらに追い駆け、蹴りあげる。
「ランボォォォグッ!!」
「っ!?」
宙に浮いたランボーグは体勢を立て直し拳に渾身のダークエナジーを収束。禍々しい力を得て、わたしへ向かって振りかぶっている。正面から撃破しに来た。なら受けて立つまで!
「はっ!」
空へ羽ばたき、わたしも拳を力いっぱいに握る。
「スカイ───」
「ランボォォォォォォォォグ!!!」
「───パンチッ!!」
ぶつかる二つの衝撃波。せめぎ合う衝撃のせいで少し押されてしまう。でも、わたしはもう退けない。ましろさんの涙を消してみせる。
「っあぁああぁぁぁぁ!!」
「ラン……ボォォグ!?」
「はぁぁぁ!!」
わたしの押し込んだ一撃はランボーグを貫いた。
…………
「っはぁ……はぁ……はぁ……」
ランボーグが消滅するのを見届けて、地面に降り立ち膝を着く。疲れが一気にやってきた。ランボーグを浄化したのに、全くその気になれないわたしは、ただ無くならない疲労感を感じ取ることしか出来なかった。
「ソラちゃん!」
「大丈夫!? ソラちゃん!」
「ソラさん!」
「み、皆さん……」
ましろさん達がやって来た。手足が上手く動かない。さっきまでの反動がやってきたかのように体と心が追いつかない。
わたしはあの時何をしていた?
なんで戦いながら笑っていた?
求めるものがそこにあって、それを見つけたからなのだろうか。それならもうわたしの求めるものはもう……。
「……」
と、わたしは消滅したランボーグの方を向く。この心の穴をなんと言う。こんなものを抱くような者になった覚えは無いと言うのに。
「ソラちゃん……?」
「あ……ははは。皆さん無事でなによりです……」
「っ〜〜〜! バカっ! バカバカバカ!! ソラちゃんのバカぁぁ!」
「うぉぁっ!?」
ましろさんは涙を流しながらわたしに抱き着いてきた。抱きしめ返すと体が震えているのがわかった。また怖い思いをさせてしまったのですね。わたしはやっぱり未熟者です。ましろさん。ごめんなさい。
「ましろんがこの感じならソラちゃんも無事だね」
「よかったです。幸い怪我をしている人達は居ませんでした。街も全部元に戻ってますよ」
「はい。ありがとうございます。二人共」
わたしの肩で泣きじゃくるましろさんの頭を撫でるわたしを見て、あげはさんもツバサさんも安堵の息を漏らした。それとは裏腹にわたしの心は煮え切らないまま、光に背いている感覚を拭えなかった。
「ましろ〜ん。帰ろう?」
「……っ」
ましろさんは無言で首を横に振る。わたしもそろそろ変身解除したいのだけれど、ずっと離れてくれない。
「ましろさん……」
いや、離れられないのはわたしの方だ。抱きしめてくれるましろさんを今は離したくなかった。
そして、その日の帰り道はわたしの方がましろさんの手をずっと握ってずっと身を寄せて帰った事だけは覚えていました。
…………
「……ふぅ」
借りている自室のベッドに倒れ込み。目を伏せる。今日のランボーグとの戦いを振り返る。どうすれば良かったのか。何をしたら皆の役に立てたのか。そんなことを振り返る。倒した敵の事は忘れない。次の戦いに生かすために。だから、今日の事を振り返る。
【見つけた】
違う。そうじゃない。それはわたしの望んだ形じゃない。わたしはヒーローになる。わたしの憧れたヒーローはそんな考えを持って誰かと戦ったりしない。
【見つけたっ!】
忘れろ。忘れろ。あんなのはわたしじゃない。きっとランボーグに引っ張られたんだ。まだ修行が足りない証拠だ。自分はまだ未熟なんだ。
【戦え】
違う……わたしは…………。
【戦えっ!】
『ソラちゃん!!』
「っ!?」
悪夢から覚めるように閉じていた目を見開く。別に痛くもない胸を抑えていた。鼓動が激しくなって、さっきの戦いを思い出すと身体が熱くなる。情報が処理しきれない。この感情の名前も知らない。汗が止まらない。怖くて堪らない。あの時の自分は何をしていたのかようやく理解した。そんな事は絶対にあっちゃいけない。その考えはもうただのランボーグと同じだ。誰かに……誰かに相談しないと……でも、誰に? ヨヨさんじゃない。エルちゃんでもない。あげはさんでもツバサさんでもない……なら……。
「っ……ぁ……」
処理しきれない気持ちを抱えて、気づけばわたしはましろさんの部屋の前にいた。
…………
「押しかけてしまってごめんなさい。ましろさん」
「ううん。大丈夫だよ。どうかしたの?」
私の部屋の扉の閉まる音。ドアの前に立っているソラちゃんの顔色は少し暗い。ランボーグはちゃんと倒したし、私達のペンも取り戻してくれた。それなのに、さっきとは裏腹に浮かない顔をしている。ソラちゃんは私達のために戦ってくれた。私達四人でも太刀打ちできなかったランボーグを一人で倒した。確かにあの時のソラちゃんは普通じゃなかった。前に黒くなったのと同じような雰囲気だった。目の周りが赤い。さっきは泣いてたのはわかってる。でも、それは私達が無事でよかったと泣いていた。多分今の雰囲気はそういうのじゃない。
「あの……ましろさん……わたし……」
「うん。ゆっくりでいいよ」
不安そうにもたつかせるソラちゃんの手を握る。また泣き出しそうな声を出し、今の気持ちの告白を待つ。あの雰囲気、多分ソラちゃんも自覚してなかったように見えた。暴力的で、怒りだけに染っていた様な。そんな雰囲気。あのまま戦っていたら、町ごと破壊しかねないと分かったから、私はソラちゃんに呼びかけて、ソラちゃんはちゃんと戻ってきてくれた。だから何も悪くない。ソラちゃんは何も。
「わたし……あの戦いでっ……我を忘れてしまってました……っ!」
「っ……」
その言葉はソラちゃんとって世界の終わりのようなセリフだった。その時に私は少しだけ目を伏せた。
「ただ目の前の敵を倒そうと、暴力だけを考えてしまって……私は、その時目的なんて何も無くてただ敵を叩きのめしたいと、ずっとそれだけで頭がいっぱいで……!」
後悔するかのように、懺悔するかのように、ソラちゃんは自分の気持ちを解き放つ。ヒーローになりたいソラちゃんにとって、戦いに飲まれることは確かにあってはならないこと。でも、必ずしもそうではないといけないわけではないから私はあまり深く考えなくて良いとは思う。でも、ソラちゃんは違う。真っ直ぐで、忠実な子だから、そう考えてしまう。
「わたし、『楽しかった』んです……」
「え……?」
「どれだけ攻めても倒せない。わたし達が全員でかかっても太刀打ち出来ない。そのとき、心が叫んだんです。【見つけた】って」
そういう事だったんだ。怒りに飲まれながら、感覚に呑まれながら、少し理性を保っていたあの時のソラちゃんはやっぱり戦いを楽しんでいた。確かに苦しい戦いは何度もあった。でも私達で乗り越えてきた。一対多でないと倒せない敵も何体もいた。一対一で真っ向から勝負するような敵は確かにいなかった。全く同じ実力で、全く同じ力量で、戦い合える敵を見つけてしまったソラちゃんはその『殺し合い』のような感覚に飲まれてしまっていた。
「ヒーローになりたいのに、わたしはっ……戦いを楽しんでしまいました……っ! 敵を倒す事を気持ちいいと思ってしまった! これじゃあっ、ランボーグと同じです! これじゃ……ただの……っ」
「っ……ソラ……ちゃん」
さっきまでの出来事を懺悔するソラちゃんに私は何故か圧倒されて、言葉も出なかった。それのせいなのか今まで握っていた手が痛いくらい力が入っていたのにも気づかなかった。
「ましろさんっ……!」
縋るように引き寄せられた手と顔を上げたソラちゃんは私の知ってるような雰囲気ではなかった。
「っ……!」
その顔は感情が処理しきれない私の知らない顔だった。
「さっきの戦いを思い出すと、体が熱くなるんです。もっとっ……もっとっ……! って、ずっと体が叫んでるんです」
その声は私の手を握り潰すような勢いで笑っていた。
「『コレ』、どうすればいいですか?」
その瞳は涙を流していて蒼くなかった。
…………
「いいんですか。ましろさん」
「うん。ソラちゃんが辛いなら私も背負うよ」
目の前のソラちゃんから逃げきれず、ベッドに押し倒された私は上に被さったソラちゃんの瞳から逃げられなかった。むしろその逆だった。逃げたくなかった。今の状態のソラちゃんに向き合いたかった。あの時、『戻ってきて』と伝えた時私の声だけは聞いてくれたソラちゃんの気持ちを知りたかった。
「ましろさんだけなんです。こんなわたしを見せられるのは」
「分かってるよ。辛くない?」
「辛いです。心臓が爆発しそうで、なんにも分からなくて、ましろさんだけが欲しくて」
乱れた息を吐きながら、ジリジリと私との距離を詰めてくる。今のソラちゃんは理性が崩れかけているのを必死に止めているような状態なのかな。何かを我慢しているように歯を食いしばっている。それはまるで獲物を見つけた獣の瞳。それならそれで構わない。醜い姿を見せたくないなんて考えなくてもいいのに。
「あのランボーグを倒せなかったら、わたしはましろさんを失うんじゃないかって怖かったんです……」
「うん」
「だから、あの時ランボーグに捕まったましろさんを見た時何もかも見えなくなって、苦しそうなましろさんの顔だけが写ってて……」
「うん」
「助けなきゃ、助けなきゃ、って思って……」
「うん」
「なのに、敵と戦うのが楽しくて、殴り合うのが気持ちよくて……」
「うん」
言葉を連ねる度に私を押さえつけている手に力が入る。少し痛いけど、ソラちゃんはこれよりももっと痛かったハズなんだよね。それなのにボロボロになっても戦ってくれた。弱い私の代わりに、戦ってくれた。
「自分がなんなのか分からなくなってしまって……」
「うん」
「そうしたら、ましろさんが私の名前を呼んでくれて……」
「うん」
「その声で、自分がなんなのか思い出せたんです」
やっぱりあの時に見せてくれた笑顔は嘘じゃなかった。ちゃんと私達を見つけてくれたんだ。ソラちゃんならきっと答えてくれるって、戻ってきてくれるって、信じてたもん。私は。ただの戦闘狂じゃない。『守る』為に戦ってくれた。矛盾を背負ってまで私達のために戦ってくれた私のヒーローだもん。
「情けないです。わたしは……」
「ソラちゃん……」
「一人で戦って、一人で泣いて、ましろさんにこんな酷いことをしている。これじゃ、ヒーローなんて語れません」
「……」
こんなにも真っ直ぐな子でもあんな風になるんだ。ううん。きっと頭の隅では考えてた。ソラちゃんだろうと私だろうと、きっとあぁなってしまうのでは無いかと考えてた。澄み切った青空が広がるこの裏腹な世界で、ソラちゃんは真っ直ぐに生きようとしている。
「わたしなんか───っ?」
ソラの口癖をましろの人差し指が止める。
「またソレ。めって言ったよね?」
「でも……」
「なら、ヒーローじゃなくてもいいんだよ」
「……ましろさん?」
「今はヒーローじゃない。『ソラちゃん』として、私を見て」
「っ───!」
その暗い顔の頬に手を添える。そう、これはきっと私の願い。『そう』なった時に『そう』ならないようにしてあげようと考えていた私の願い。
「っ……ましろ、さんっ」
今にも飛び込んできそうな顔。私にぶつかって破裂してしまいそうなその表情はきっと何かをずっと我慢していた。スカートの中に入ってくるソラちゃんの足と私の顔の横で押さえつけられている手がずっともどかしくて仕方ない。まだ遠慮してる。頑なに、意地らしく。でも、それでいい。それが貴方だから。悪くさせるのは私からでいい。
「おいで、ソラちゃん」
「っ───ましろさんっ!」
「んっ───!?」
噛み付くように私に向かってきた。でも、痛みは感じない。いつもしてるみたいに優しく触れてくる。
「んっ……ん、っ……ふぁ、んんっ……!」
でも、中で這いずる舌は荒い。グルグル口の中を巡って、歯型もなぞられて、やたらと私の舌と絡めてくる。息が切れそうになってもソラちゃんは離してくれない。むしろ頬を掴んで無理やりねじ込んでくる。拙く絡めてきて口の周りが汚れていく。何となくわかるのは綺麗なものを汚したくなるって言う気持ちだけ。今のソラちゃんにそれがあるかどうかは分からない。ただ単に私を欲しがっているだけの可能性もある。
「っは……ましろさんっ……」
「あ……」
離れたソラちゃんと私を繋ぐ白い糸。煮え切らないソラちゃんの手は私の胸を掴んでいる。
「ましろさん……嫌だ。って言ってください。でないと……わたしっ……止まれないですっ……!」
「んっ……!」
ぎゅう、と胸を掴む手に少し痛いくらいに力が入る。今のソラちゃんも大概だけど、こんな事されてるのに興奮してる私も大概だ。瞳が垂れて、ソラちゃんの息に合わせて私もずっと荒くなる。そんな所を掴んで否定しろなんて出来ないよ。ソラちゃん。私、今嬉しいんだよ? ソラちゃんが【求めて】きてくれて。弱いソラちゃんをぶつけられるのは私だけだって言ってくれて嬉しんだよ? だから、私は止めない。止まらない。貴方に理由がいるのなら私がその理由になる。
「いい……よ? ソラちゃん。来て……」
「ッ!」
ソラちゃんのリミッターが外れるのが見えた。容赦なく私を押さえつけて貪りに来た。噛み付くようにキスをして、確かめるように私の首筋に顔を擦る。
「んっ……んむっ……! っ、は……っ、ましろさんっ……ましろさんっ……!」
必死に縋るソラちゃんは確かに普段とは違う雰囲気だった。でも、これでいいなら私もこれでいい。ソラちゃんの方がずっと苦しかったんだと思うから。私をこうするだけでソラちゃんが苦しくなくなるならそれでいい。求め方が分からないなら私から行けばいい。こうしてればソラちゃんの気持ちが伝わってくる。きっと今のソラちゃんは自分の本能に自分の気持ちが追いついてないと思う。
「ましろ、さんっ……!」
こういう時のソラちゃんは目に光が灯っていない。舞い降りた堕天使の様に蒼いのに黒くなる。まるで曇り空。光の外にいるのは今日の出来事のせい。いつもは青空の下に居るのに、今日は光の外にいる。カーテンから差し込む光すらソラちゃんを避ける。乱雑に捨てられた服の重なり方、私しか見えていない君の顔。受け入れきれない気持ちで涙を流す君の顔。脱がされて興奮してる私も。もう逃して貰えないのは理解した。多分求められ過ぎて殺されるかもしれない。それぐらいソラちゃんは今不安定なんだと思う。
「うん」
口角が上がりそうになる。おかしいね。ちょっと笑えてくる。こんなに興奮してるソラちゃんを見るのは初めて。
「いいんだよ。ソラちゃん。何も気にしないで。ソラちゃんのしたい事だけしていいからね」
「ほんっ……とに、そういうの、卑怯ですから……ねっ」
「ん……」
堪えきれなくなった顔を向けて、私の顔を掴んでまたキスをする。我慢が無くなったソラちゃんの手はずっと私の胸を触ってる。最初はあんなにぎこちなかったけど、今はもう違うんだね。私の弱い所を知ってる触り方。私が声を漏らしてしまう触り方。つい口を隠してしまう。そういう反応をすれば君は私を求めてくる。
もっと。もっと。って。
今はそれでいい。
雨音が聞こえる部屋の中。
私とソラちゃんはゆりかごの中で二人きり。
光の届かない。薄暗い。
君の瞳は曇り空より青黒く。
外は風が吹き。ソラから雨が降る。
熱を冷ましたいと君は私を求めてる。
今はただそれだけでいい。
…………
「ゃ……んっ……!」
ましろの首筋にかかる息。撫でるように服の中に手を入れて乳房を掴む。胸の突起を転がして、摘んで。ましろの反応を楽しんでいるソラ。
「っ……ん……っんん……ソ、ラちゃ……っ」
「ましろさん、可愛いですよ。凄く。もっと見せてください」
取り押さえているましろの足の隙間に自身の足を入れて、膝でましろの蜜壷を押す。そうすれば不思議と彼女の腰が浮く。ほんの少し膝を押し込むだけで小さく強ばる様に腰が跳ねる。
「っ、や……それっ……ぁんっ……!」
艶のある声がついに漏れた。それを聞いたソラは妖しく口角を上げる。
「そんな声を出して、本当にいやらしいですね」
その鋭い瞳がましろを余計に興奮させる。言われて嬉しいなどと、マゾになってしまったように身体が熱い。ソラに体を良いようにされているという事実がましろを満たしている。
「ましろさん。こういうの好きですよね」
「や、ぁ……言わないでぇ……」
解かれた髪と解いた髪。
煽り煽られ、二人の密度は増すばかり。
服を一枚一枚剥かれる度ましろの心臓は大きく跳ねる。下着だけにされて、直接胸を触られる。その反応を見る度にソラは舌なめずり。さっきの戦闘の時のように目付きが変わってしまった。
「ほんとに、煽るのが上手ですね。ましろさん」
「そんなっ……つもりないっ……あっ……」
首筋に唇を当てる。ましろの肌を汚すようにソラは舌を這わせる。汚すだけで済まない。それはソラもましろもよく分かる。取り押さえていた手がいつの間にか繋がれていた時、二人は悟った。逃さないのと逃げられないのを。
「そんな顔……出来るんですね。ましろさん」
「誰のせいでこんなになってると思ってるの……」
「わたしのせいなら嬉しいです」
「そんなの……最低だよ? ソラちゃん」
ましろの艶のある表情に息を飲むソラ。極上の獲物が目の前にいる。高嶺の花が地に伏せている。自分が触れれば穢れてしまい、他の誰にも渡せない。それでいい。それがいい。自分で汚すものなのだから自分の物でいい。そんな感情がソラの中に渦巻いた。
「ソラちゃ……んっ!? んんっ……ん……」
最低と聞いた瞬間、ソラは一気にましろへ溶け込んだ。雑にシャツを脱ぎ捨てて、下着を外して、床へ投げ捨てる。邪魔くさい前髪を上げて、ましろのように生まれたままの姿になる。
「ましろさん、後ろ向いて」
「ん……」
言われるがままましろはソラへ背中を向ける。今日は後ろからしたいようだ。沢山揉まれたせいで少し大きくなったお尻を撫でられるとましろは少し反応して跳ねてしまう。
「あ……んっ」
「ましろさん……綺麗ですよ」
「へんたい……」
破裂しそうな程に反り立つ逸物がましろの視界に入ってきた。それを見ると自然と息が荒くなる。これからどう犯されるか想像するからだ。恥ずかしそうに両足を擦り寄せると図らずしもソラを誘う魅了の女になってしまう。
「ココとか」
「んぁぅっ……」
掴みかかるように鷲掴みにされたお尻と勇ましく勃ったそれを蜜壷の入口に押し付けられる。あと少し力を入れれば挿入ってしまう。そんなに大きなもので自分の膣内を突かれたらどれだけの快感がやってくるか分からない。ましろの蕩けていた目は見開いて、ただただ逸物だけを見つめてしまう。それに気づいたソラは嘲笑するように口を開いた。
「そんなに見つめてこれが欲しいですか?」
「ち……が……」
「えぇ? さっきからずっとわたしのコレばっかり見てますけど?」
確かにそうだ。そればかりが目に入る。今日はソラの雰囲気に気圧されたまま、自分がいいようにされていることに興奮を覚えている。ソラの触れる部分が熱い。ソラに見つめられると興奮する。自分の恥ずかしい部分を晒している。
「はぁ……はぁ……」
涎のように蜜壷から蜜が垂れる。勝手に腰が左右に揺れてしまう。あれが欲しい。あれが欲しい。と懇願するように。
「ましろさん?」
「ち、が……私は……」
「説得力ないです……よっ!」
「ゔぁ゙っ!?」
ズン! 、と奥まで急に差し込んできた。子宮の入口から全身に伝わった快感のせいで痙攣が起きる。軽く達してしまった所から帰って来れない。うつ伏せになっているので枕に顔を埋めて悟られないようにする。
「っ〜〜〜!?」
「あれ? もしかして今挿入れただけでイきました?」
「っ……っっ……!? っっ……!?」
自分でも何故これだけでイッたのか分からない。足が痙攣して上手く体勢を変えられない。ソラはずっとそんなましろを見て笑っている。
「これ、好きですよね? ましろさん?」
「っひぁ! ま、まって……ソラちゃ……っ、いまはそれっ……だめ……だからぁ……!」
ソラはましろへ被さるように体を倒して腰を前に突き出した。その体勢はましろの子宮口を押している。ソラが体重をかける度にましろは逆に快感で縮こまる。
「ほらましろさん。ぎゅぅ〜ってされてるの分かります?」
「っ……! っっ……!! っっっ〜〜〜!!」
下腹部を押されるとましろは二度目の絶頂を迎える。それを見てソラはまた軽く笑う。
「っはは、そんな所開発した覚えはないんですがね?」
「まっ……て、こんなのっ……知らな……っい……!」
もう我慢なんて吹き飛んで、ソラの腰は動き始めた。肉と肉がぶつかる音。粘り気のある水の音。上から被さるように押し付けて、ソラはましろを犯す。
「あぅっ……! ソラ……ちゃ、激しい……っ、よォッ……!」
「ましろさんが煽ってくるのが悪いんですからねっ……!」
「そんな……っ事、ただ、わたしっ……はぁっ……!」
嗚呼、最悪だ。
本当に最低だ。
ソラは自分を呪い出す。さっきまでのランボーグとの戦いの感覚が今になって戻ってきた。体は熱くて、目の焦点が合わない。ましろの声だけがソラの中に響いて、何も分からない。好きな人をこんなにする事に意味なんてない。愛も何もないただの性行為。けれど、汚れるましろを見る程に昂る自分を止められない。最初から、こんな事を【求めて】いたのだろうか。汚れるましろを、受け止めてくれるましろを、【求めて】いたのだろうか。
「ましろさんっ……ましろ……さんっ……!」
「ソラちゃん……っ、ソラちゃ……!」
後ろから犯す時は決まってソラに余裕が無い時。どちらかがピンチになって、どちらかを助けた時。それが密かな二人の時間の合図だった。大切な人を助けた、大切な人を自分に刻んで存在を確かめる。それが二人にとっての性行為。そういう意味合いを持っていた。
今もそうだ。ソラがましろを呼び、ましろがソラを受け止める。どちらともなく【求めて】。どちらともなく受け入れる。体に刻まれた痕も、腟内に出された欲望も、互いの存在を確かめる意味があった。
愛も知らず揺れるゆりかごの中。生まれた意味も無くなって、ただひたすらにソラはましろを貪り出す。
「あぁっ……! ましろ、さんっ……!」
気持ちが良い。自分の大切にしていたものを汚すことが。それが人なら尚のこと。打ち付ける腰は強くなり、口から出る熱が余計に熱くなる。体の下からせり上ってくる快感と想い人の喘ぎ声と自分がなんなのか分からなくなるその感覚が今のソラを作っている。
「ソラ……っ、ちゃ……んっ!」
「すみませっ……ましろさっ……出、るっ……!」
「あっ……! ソラちゃ、そらちゃ……んっ! っっ……っっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「ぐっ……あぁっ……!」
上がってきた白濁をましろの腟内へ押し込む。1度跳ねるだけでは全て出し切れない。脈打つ度にましろの腟内へ注がれる。しばらく止まることはなくましろの腟内が満たされた頃、ようやく腟内からソラが引きずり出される。
「っはぁ……はぁ……はぁ……」
「っ……ぁ……ぅ……」
余韻で痙攣しているましろを見ると余計に昂りそうになる。しかし、今日はここで打ち止めらしい。逸物の元気も無くなってきた。疲労感に浸っていると、自然と離していた手に気づく。腰を振るのに夢中になっていていつの間にか手を離していたらしい。何かに夢中になると何かを忘れてしまう。【求める】ものが目の前にあると周りのものが見えなくなってしまう。それもまたソラが未熟な証。そうして、行くあてのない未熟者の手はましろの手に自分の手を被せるように握る。
「ごめんなさい、ましろさん。でも……わたしは……」
「う……ん。大丈夫だよ。ソラちゃん。伝わってるから……」
「ましろさん……」
「ん……っ」
伝わっていても、不安そうに口を吸う。
そう伝えるしかないこともわかっている。
それでしか伝わらないのもわかっている。
ただましろは、必死にすがりついてくるソラの感情をただ優しく受け止めるしかなかった。
…………
「さぁ! エルちゃん! ツバサさんにくるくるキックですよ!」
「えるぅゥ〜!」
「ちょ、プリンセス!? いきなりソファからジャンプしないでくださ……うわぁ!」
翌日。昨日のことが嘘のようにソラちゃんは元気になった。昨日起きた事、私の部屋での出来事はなかったかのように、今日も晴れ渡る青空のように笑っている。昨日の今日で立ち直れないかと思ってたけど、よかった。
何だかちょっとやりすぎな取っ組み合いのようなじゃれ合いを見ていると、あげはちゃんが飲み物を置きながら隣に座る。
「ましろん」
「ん〜?」
「昨日。ソラちゃんとなんかあった?」
「なんで?」
一瞬とぼけて時間稼ぎ。さすがあげはちゃん。侮れないなぁ。顔には出てないつもりだったけど、そうはいかないみたい。でも私は言わない。私の中だけに留めておきたいから。
「昨日の帰り、ずっとソラちゃんがましろんから離れなかったから、何かしたのかな〜って思ってさ」
「ううん。何でもないよ。昨日はソラちゃんが疲れてて甘えただったな〜って」
肘をついてまたソラちゃんに視線を戻す。あげはちゃんはそれ以上は聞いてこない。それを知ってるから私は濁った言い方をした。あげはちゃんは分かってるのか分かってないのか、私を見つめる。
「そっか」
そう言って、あげはちゃんもソラちゃん達の方に視線を向ける。
「はいエルちゃん、まこといちしきせんぷうきゃく〜!」
「えるえるぅ〜!」
「ちょ、なんですか! なんでですか! なんで僕に攻撃させるんですか! ちょ、ほんとにっ! 別に僕は最強の戦士なんて目指してませんから!」
しょうね〜ん。そんなんで根を上げてたら小さな巨人になれないぞ〜」
「ほん……とに! 僕はそんなモノ目指してませ〜ん!」
ほんとになんの話をしているのか分からないソラちゃん達を見て、私はただただ戻ってきた日常に笑顔を咲かせていた。
終わり───。