「もうわたしに関わらないでっ!」
言葉なんて覚えたくなかった。そう考えていたことを思い出した。『人間』はこんな簡単に『関係』を壊すことができる。たった一言、言葉を発しただけで、こんなにも簡単に。だから『人間』は嫌いだった。
「ま、待ってユキ!」
まゆの静止も聞かずに窓から飛び出した。この程度の高さなら余裕で降りられる。何も人の姿でいる必要は無い。両方の姿に成れる事の便利さをこんな所で感じるとは思わなかった。
「もう知らないわよ。まゆなんか……っ」
わたし達は喧嘩をした。
ただ単純な意見の相違。気持ちのズレ。お互いの食い違い。理由なんて瞬間だけでいくらでも出てくる。だから、わたしの言う事を聞かないまゆに嫌気が差した。子供のような理由で大人びた怒り方をしてわたしは窓から家を出た。
…………
『人間』だろうと、猫だろうと『関係』ない。わたしはまゆに必要とされたいだけなんだ。それなのにまゆはわたしと一緒に戦うって聞かない。だから大声を出してしまった。
傷つけなくない。
傷ついて欲しくない。
危ない目に遭わないように、遠くに置いておきたいんだ。それを聞いてくれないまゆなんてもう知らない。好きな人ならそう願うのが普通じゃないの? わたしが間違ってるって言うの? どうしてまゆは───
「っあ〜……もうっ……」
誰にも聞こえない程度に怒りを含んだため息と猫パンチ。物に当たる必要なんてない。自分が悪いのは分かっている。押し付けがましいのも分かってる。まゆがそう望んでない事もわかってる。何も解決しない気持ちのままわたしはずっとアニマルタウンを彷徨っていた。
「いろはっ! あそこで座ってるのって……?」
「え……? あ、ユキちゃんだ。何やってるんだろう。お〜い! ユキちゃ〜ん! 何してるの〜?」
振り向けばそこには制服姿の犬組がいた。
「あなた達……」
「こんな所で何してるの? 今日学校にも来なかったし、まゆちゃんに聞いても分からないって言われちゃったし」
「あぁ、もう学校終わりなのね」
気づけば夕方。まゆ達が帰ってくる時間になっていた。どうやらわたしは 夕方までこの街を練り歩いていたらしい。
「やっぱり何かあったの?」
「別に……大した事じゃないわ……」
「……そっか」
話せば楽になるのでしょうけれど、いろははともかくこむぎにだけはこんな所を見られたくない。絶対後からつつかれるから。絶対に。
「ねぇ、こむぎ」
「ん?」
「先に帰っててくれる?」
「うぇ!? どうしてわん!?」
「私、ユキちゃんの話を真剣に聞きたいんだ。きっとこれはユキもまゆちゃんも悩んでる事だと思うから、二人きりで聞きたいんだ」
「う〜……」
そう言ってこむぎは唸る。理解しているのか、いないのか。恨めしそうにわたしを見るのではなく、ずっといろはを見ている。こむぎもそういう顔をするのね。ならやっぱり少し納得いってないのでしょう。まぁ、らしいと言えばらしいけれど。
「わかった。いろはが言うなら先にお家に行ってる」
「ありがとう。帰ったらいっぱい遊ぼうね」
「絶対?」
「絶対」
「ゎん……」
名残惜しそうにこむぎはいろはにハグをして足早に去っていった。本当、こむぎは『人間』になっても素直なのね。
「はい。これでいい?」
「頼んでもいないのだけれど……」
「こむぎには話したくないって顔してた。って言えば分かりやすいかな?」
「っ……」
バレていた。察せられたという方が正しいのか。本当にこの子はいろいろ侮れない。まぁそれでもこの状況を作ってくれたのは好都合ね。今はいろはの気持ちを汲んででもこのモヤモヤを軽くしたかった。
「……喧嘩、と言えば喧嘩なのでしょうけど、お互いの押し付け合いだったかもしれないわね」
「押し付け合いって?」
「わたしも、まゆも、プリキュアに成れるようになってお互いの気持ちを知り合えたと思ってたけど胸の内に秘めてた事までは考えられなかった。わたしはまゆを守りたいだけだった。でも、まゆも同じだった」
「ユキちゃんを守りたいって?」
「そう。そういうふうに言われてわたしは混乱しちゃって、ありもしないことを言ってしまった。そこから全部すれ違いになっちゃって、わたしはこうして一人になったってこと」
真剣に聞いているであろういろはの顔が少し嫌になる。やはり『人間』は分からない。分からないから、まゆともこうなった。
「ユキちゃんの言いたいことはわかるよ」
「……?」
「その気持ちは、まゆちゃんでもユキちゃんでも『関係』ない。皆『同じ』だからね」
「『同じ』……?」
「うん。二人とも気持ちが『同じ』だから、まゆちゃんもユキちゃんみたいにビックリしちゃったんじゃないかな」
「……っ……それは」
その時のまゆの顔を思い出す。心にもないことを口にした時のまゆの顔はとても悲しそうな表情だったのを覚えている。かくいうわたしもきっと『同じ』顔をしていたと思う。
「思い当たる節、あった?」
「あなた、察しが良すぎて怖いわ」
「だってユキちゃん、分かりやすいもん。猫の時も人の時も。まゆちゃんのことしっかり見てるからね」
「っ……」
いろはの笑顔になぜか急に恥ずかしくなり少し顔を逸らす。
「私も動物観察は得意だから」
少し意味ありげにいろは言う。
その顔はわたしでもあまり見た事ない顔をしていた。
「いろは……あなた───っ!?」
「? ……ユキちゃん?」
言いかけた瞬間、全身の毛が逆立つような感覚が来た。
「いろは、ガルガルよ」
「ぅえ!? どこ!?」
「こっち! きっとこむぎも感じてるわ!」
「あぁっ! まってユキちゃん!」
こんな時に。なんて空気の読めない。
…………
「あ、こむぎちゃん!」
「ん? まゆっ!」
いなくなったユキを探していたらこむぎちゃんに出会った。でも、同じ時間に学校から帰ってきたのに、なんでまだ制服なんだろう。いろはちゃんもいないし……。
「こむぎちゃん。いろはちゃんは……?」
「ぅえ!?」
私が聞くとこむぎちゃんは、ギクリ、と身体を震わせた。何かまずいこと聞いちゃったかな? ユキのこと何か知ってるかと思ったんだけど。
「さ……さっきまで一緒だったわん! あ、いや、先に帰ってきたわん!」
「えぇ……?」
どっちなんだろう。なんでこんなに慌ててるんだろうこむぎちゃん。そんな何も無いところで犬かきするぐらいには慌ててる。なんでだろう。もしかして……
「ユキ……見つけてくれたの?」
「わぅ!?!?」
人の姿の時は無い耳と尻尾がピン、と立ったように見えた。探してくれてたんだ。優しいなぁ二人とも。
「どこに居たか教えてもらってもいいかな?」
「わぅ……わぅ……え……と……」
「?」
あんまりにも珍しい反応に私もつい首を傾げてしまった。いつもなら直ぐに教えてくれるのに今は何かを迷ってる。まるで……いろはちゃんに秘密にしてって言われたみたいに。
「ユキ……は、いろはとお話してるわん」
「いろはちゃんと……?」
「うん。ユキが悩んでるから真剣に話を聞きたいって二人でお話してる。ねぇ、まゆ」
「なに?」
「やっぱりユキと喧嘩しちゃったわん?」
「え……」
こむぎちゃんの顔は、すごく悲しそうで、すごく心配そうな顔で俯いていた。私とユキにまでそんなふうに接してくれるこむぎちゃんの心が暖かくて私もつい自分の胸に手を当ててしまう。心臓が脈打って心が冷たい。こむぎちゃんはこんなに暖かい子なのに。
「うん。実は喧嘩しちゃったんだ。私が頼りないからユキを怒らせちゃったの」
「まゆ……」
「せっかく、ユキと『同じ』事ができるようになって、ユキの隣に立てるようになって、毎日が楽しくて、私が少し舞い上がっちゃってたんだって今更気づいた。『人間』なのに、動物の気持ちが知れるってこんなに嬉しい事なんだって分かったのに」
私はこむぎちゃんの心に当てられてつい話し出してしまった。それでも、こむぎちゃんは真っ直ぐに聞いてくれている。やっぱり私達の事を心配しててくれたんだね。こむぎちゃん。ありがとう。
「ユキは……まゆこと大好きだよ?」
「え?」
「ユキね、こむぎと話す時、ず〜っとまゆの話をしてくれるの。まゆと色んな所に行ったとか、まゆとお料理したとか、お話には必ずまゆがいて、その時のユキの顔はす〜っごい嬉しそうで、ず〜っと笑顔なんだよ!」
「こむぎちゃん……」
「だから、こむぎ達と『同じ』だよ! 喧嘩しても直ぐに仲直り出来る! まゆもユキもどっちもお互いの事が大好きなんだもん!」
「……」
つい、他の人からそういう風に言われる経験が無いせいか、心が溢れて仕方なかった。だから、私はつい涙を流してしまう。
「わぅ!? ごめんまゆっ! 悪口言ったんじゃないよ!?」
「うんっ……大丈夫。ありがとう。こむぎちゃん。そんなふうに励ましてくれるとは思わなかったから」
「えへへ……なんか照れるね」
「私も、ユキと仲直りしたいな……でも上手に出来るかな」
「出来るよ! まゆとユキならきっと───わん!?」
「? 、こむぎちゃん?」
「まゆ! ガルガルわん!」
「えっ!?」
「こっちわん!」
「あ、うんっ!」
ユキ。来てくれるかな。
…………
「いたっ!」
「あんな所に!」
先に着いたのはユキといろは。そして公園の池に立つ一体のガルガル。石像のように微動だにせずじっと何かを待っている。しかしその眼光はこちらを確実に捉えていた。
「犬飼さん!」
「いろはっ!」
「こむぎと……悟くん!?」
「まゆ……」
「ユキっ……」
ここで全員合流。悟はどうやら道端で合流したらしい。全員がガルガルの方を向くと、微動だにしなかったガルガルは大きく翼を広げた。
「ガルガル───!!!」
雄叫びと共に、いろは達もパクトを構える。
「みんな行くよ!」
「わん!」
「えぇ」
「うんっ!」
『ワンダフルパクト!』
『シャイニーキャッツパクト!』
…………
「ガルガル〜〜!!」
「うわわっ! いきなり来たよ!?」
ガルガルはいきなり翼を広げて飛び立ち、フレンディ達へ突貫してきた。慌てるフレンディとワンダフルをよそにニャミーは顔色ひとつ変えることなく目の前にバリアを展開する。
「ガルッ!?」
鋭くも早い一撃ながら、ニャミーのバリアの前には無力。あっさり受け止められたガルガルを見るなり、ニャミーはフレンディ達へ視線を流す。
「フレンディ。ワンダフル」
「わぅ?」
「な、なに?」
「ここはあなた達に任せるわ」
「「え? ……うぇぇぇぇぇ!?」」
ニャミーはフイッ、と顔を逸らすとガルガルを受け止めていたバリアがフレンディ達の方を向いた。そうすればもちろん。ガルガルは自然とフレンディ達の方へ突き飛ばされる。のっそりと起き上がったガルガルは当然フレンディ達へ視線を向ける。
「ほら、あとよろしく。わたしはリリアンと話があるから」
「「うわ〜〜ん! ニャミーの鬼〜!」」
「わたしは猫よ」
「ガルガル〜〜!」
「「うわぁぁぁぁぁん!」」
二人を見送るなり、ニャミーはリリアンの方を向く。唖然としていたリリアンもニャミーの視線を受けると真面目な顔に戻った。
「わたしはもう、関わらないでと言ったわ」
「……うん」
「それでもあなたはわたしの傍に居たいって言うの?」
「え……?」
ニャミーからの言葉が意外だったのかリリアンは目を丸くした。てっきり怒られるものかと思っていた。
「昨日のあなたの言葉。嘘が無いのは分かっていたわ。わたしを守りたいって。わたしの隣に立ちたいって言葉。それは全部ホントだったのは分かる。だから、わたし、少し驚いてしまったの。だから、そのせいでありもしないことをまゆに言ってしまったわ」
「ユキ……」
ユキの瞳が揺れていた。自分自身の為に今までやってきたのはまゆ自身もわかっている。だから、その苦しみを一人で背負って欲しくなかった。こうして一緒に隣に立てる力を手に入れて。ユキと二人でこうして居られるのなら、まゆはそれ以外何もいらなかった。
でも、言葉が上手く出てこない。ユキへ返す言葉が上手く。まゆは少し俯いて胸に手を当てる。
「でも、私の気持ちは変わらない。まゆには無理をして欲しくないし、傷つくような事もして欲しくない。それだけは変わらない」
「っ───」
まゆは言いかけると、深く息を吐いてユキの目をしっかりと見据えた。
「私は……守って欲しいとか、助けて欲しいとかじゃない。私はユキと二人でガルガルと向き合いたいの。もう守られてばかりの私じゃないよ。ユキ」
「……」
二人で。とまゆは言った。ユキは自分の中で幾度が反芻させる。その言葉を意味を深く捉えるか、浅いまま受け入れるか考えるために。しかし、その言葉は深く受け入れた。ニャミーはふっ、と頬を緩めるとリリアンの手を握る。
「仕方ない。構ってあげる」
「うんっ。二人なら怖くない」
…………
「ちょちょちょ! ほんとに暴れ回ってる!」
「わぅん!? これじゃあお話も出来ない〜!」
「なんで、こんなに攻撃的なの〜!」
「……あのガルガルはいったい……」
ガルガルの体は基本的に黒い。だから形を見て判断するしかない。しかし今回のガルガルは見たことがない。形状的には鳥なのだが、悟が頭の中の図鑑を広げても完全に一致するものが現れない。しかし、目を凝らして観察すると元々のガルガルの体色が見える。
「白……顔はもしかして……赤色……そんな鳥って……」
更に条件を搾って頭の中の図鑑を広げる。そしてある一種の鳥類へたどり着いた。
「白い体に赤い顔……まさかあれはトキ!?」
驚愕したのも束の間、悟が咄嗟に出した声に反応してガルガルは悟へ気づいてしまった。
「っしまった!」
「悟くん!」
「ガルガルァァァァ!!!」
『リリアンネット!』
掛け声とともにリリアンの糸がガルガルを捕縛する。
「リリアン! ニャミー!」
「ごめんね、ありがとう二人共!」
「お話、終わったわん!?」
「えぇ、後は任せなさい! リリアン!」
「うんっ!」
リリアンは糸を解除するとガルガルの前に立つ。突然の事でガルガルも立ち止まってしまった。
「落ち着いて! 私達は貴方を傷つけるつもりはないの!」
「わたし達は何もしないわ!」
「ガルゥ……」
「……」
一瞬睨み合うが、すぐさま行動を起こしたのはガルガルの方だった。
「ガルガルァァァァ!」
「っ!」
「きゃ!?」
その嘴をまるで刃物のように振り、二人を凪ぐ。後転して受身をとるニャミーとリリアンの後ろから悟が口を開く。
「きっとそのガルガルは『人間』を怖がってる! その防衛本能みたいなものから見境なく攻撃しているだと思う! 落ち着くまでは距離を取った方が良い!」
ガルガルは止まらない。悟の言う通りでまるで『人間』を怖がっているように暴れ回っている。トキが絶滅したのは人間の移住開拓が原因の一つとされている。だから、フレンディ達がどんなに呼び掛けても『関係』ない。怖いものが目の前にあるのだから。
「分かった! ありがとう悟くん! ……ワンダフルッ!」
「わん!?」
フレンディが呼ぶと、ワンダフルはしなやかな身のこなしで攻撃を避けながらフレンディの元へやってきた。
「どうしたわん!? フレンディ!」
「ガルガルと疲れるまで本気で追いかけっこだよ! 行ける?」
「もちろん!」
「よし、行こうか!」
「わんっ!」
二人はハイタッチすると、二手に分かれて走り出す。周りを囲うように走り出した二人をガルガルはやたらめったらに攻撃する。躊躇いなどない野生の本能で二人を仕留めようとしてくる。何度も何度もクチバシで地面を抉る。
「ガルっ!」
「こっちだよ!」
「ガルっっ!!」
「こっちこっち!」
「ガァぁぁルァァァ!!!」
点の攻撃が通じないとわかった途端にガルガルはクチバシを大きく横に薙ぎ払うように首を動かした。フレンディは反応しきれずにバリアの展開も間に合わない。
「フレンディ!」
「ぐっ!? ……うわぁ!?」
「ガルガルァァ!」
吹き飛ばされながらも体勢を直し、ガルガルのクチバシの一刺しを躱す。しかし、やたらめったらに攻撃しているガルガルの体力が削れる気配もない。暴走しているせいか、疲れていようがお構い無しだ。周りが怖いから拒絶する。怖いものを遠ざける。その気持ちはリリアンも知っている。『人間』だってそうなのだから。
(だったら、直接受け止めないとガルガルは止められない……!)
それを察したリリアンは辺りを見回した。今回のガルガルは鳥。だったら、空中に的が出来れば直ぐに飛びついて来るはず。それを狙って、ガルガルの動きを止める。
「こっちだよ!」
セリフと共にリリアンは木の上から大きく空へ飛び立った。標的を探していたガルガルはリリアンとその目で捉えると迷いなくクチバシを突き立て突っ込んだ。
「ガルガルァ──ー!!」
「ッ───!」
目にも止まらぬスピードで飛んできたガルガルのクチバシをリリアンは既のところで回避し受け止めた。猫の動体視力を持ってすれば容易い事だが、その一撃は鋭くて強くよく見ればリリアンの脇腹が赤く滲んでいる。
「リリアンッ!」
「痛……っかまえた!」
「ガルガルッ! ガルガァ〜〜〜!!」
「怖くないよっ! 怖くないからねっ!」
ガルガルはそんな事はお構い無しに暴れ続ける。羽をばたつかせ、身体を大きく揺らす。目の前にあるもの全てに恐怖し、全てに歯向かおうとしている。相手の好意もわからない。どんな気持ちなのかも分からない。ニャミーには少し思い当たる節がある。でも、今はそんなことを考えてる時間はない。
『リリアンネット!』
暴れるガルガルを抑えようと、リリアンは自分事拘束した。痛みを堪えてリリアンは叫ぶ。
「ワンダフル! フレンディ! 今だよ!」
「っ、行くよ! ワンダフル!」
「ぅわんっ!」
「リリアンッ!」
フレンドリータクトを急いで取りだして二人は構えた。その前にニャミーが一人でガルガルを抑えているリリアンの援護に入る。
「一人で無茶しすぎよ!」
「ごめんニャミー! 手伝って!」
「言われるまでもないわ!」
ガルガルは更に暴れ出す。
「ガルガルガァァァァ!!!」
「大人しくしてっ! 大丈夫だからっ!」
「なんて力っ……!」
「二人とも! 避けて!」
「「っ!?」」
振り向いたニャミーとリリアンの傍にはワンダフルとフレンディが来ていた。
『プリキュア・フレンドリベラーレッ!』
浄化の輝きがガルガルを包んでゆく。先程まで大暴れだったガルガルは途端に落ち着きを取り戻し元の姿へ戻ってゆく。しかしそれは同時に空中に居たフレンディ達が下へ落ちることを意味している。
「きゃあ!」
「え、うわぁ!」
「わぅん!?」
「にゃ!?」
『ッ……リボンバリアッ!』
咄嗟にフレンディがリボンバリアを展開。四人の着地を保護した。
「だ、大丈夫!? 皆!」
「こ、怖かったわん……」
「助かったわ……フレンディ……」
「っ……うっ……」
元に戻ったキラリンアニマルを抱えたリリアンはいつの間にか変身解除されてまゆに戻っていた。しかし、その表情は大丈夫と呼べるものでは無かった。先程の一撃が深かった為、プリキュアの力でも治癒しきれなかった。服の上からでも分かるほどに血が滲んでいた。
「っ……まゆっ!?」
「まゆちゃんッ! しっかりしてッ!」
「みん……な……ごめ……なさい……私……っ」
「まゆっ!? まゆッッ!」
…………
「ん……」
「起きた?」
「……ユキ……」
まゆが目を開けた。わたしはとりあえず悟られないように息を吐く。ぼうっ、とわたしを見つめるその目は自分の状況を把握しきれていないようだった。
「私……確か……ガルガルと……」
「そうよ。すみれさんには傷は見せないようにして誤魔化しておいたわ。まずは傷をすみれさんから隠しながら治しましょう」
「そっか……ありがとうユキ……」
「体起こせる?」
「あ、うん。動くだけなら……」
言いながらまゆはゆっくり体を起こす。少し痛みが走ったのか苦悶の表情を一瞬浮かべたが、わたしはとりあえず洗面器に貯めたぬるま湯にタオルを入れる。
「体、拭いてもいい? そのままじゃお風呂も入れないでしょう?」
「うん。お願い。まだちょっと痛くて、自分じゃ出来ないや」
生ぬるいお湯が私の手に浸る。タオルを絞り、まゆの手を取る。汗で汚れているであろう腕を拭いていく。
綺麗な肌に刺繍や手芸の傷がある指。
細い腕に暖かい体温。
私は、これを守りたかった。これ以上傷つかないように守りたかった。それなのに、この子は私の隣に居たいと言ってくれた。わたしはそれを信じきれなかった。
「ユキ……?」
いつの間にか手が止まっていた。自分に対する怒りとか、不満とか、焦燥というものなのかしら。よく分からない気持ちが溢れている。しかも、その矛先は自分だから誰にも何も解決できない。
「情けないわね。わたしってば」
小さく呟いた。本音はあまり言いたくない。
この子に迷惑になってしまうから。
「そんな事ないよ。ユキ」
「え?」
「私ね、嬉しいの。ユキの好きなものとか、嫌いなものとか、楽しいって思うものとか、怖いって思うものとか、そういうのを知れて嬉しいの」
「まゆ……」
「だって、前まではこうやって言葉すら交わせなかった。一方的に私がなにかを押し付けてるんじゃないかって思う時もあったの……だから───」
「そんな事ないっ!」
つい、わたしは遮ってしまった。まゆの言葉を。しかし、これは心からの本心だ。押し付けられてなどいない。そんな不快感は全くない。わたしは貴方だから、受け入れるし、与えたい。それはずっとずっと変わらない。
「ユ……ユキ?」
「わたしはっ……わたしの方こそ、押し付けてしまったわ。まゆの気持ちなんて考えないで……」
関わるな、とわたしはあの時言っていた。
でも今度は、もう知らない、と言ってしまった。
「でも、まゆが隣に立つようになってからは、もっと酷くなりそうだった。無理に私と同じ事をしないで欲しいってそう思うのが余計に強くなった……だからもっと、ちゃんと守りたかった。貴方をっ……もっと……ちゃんと……」
わたしは言葉と一緒に下を向いた。まゆの顔を見れない。でも、手は離したくない。言葉を綴る度に背中が重くなる。まゆに嫌われるんじゃないかって怖くなる。私にはこの子しか居ないから。まゆだけが、わたしの拠り所だから。
「ありがとう。ユキ。私の怪我がこれだけで済んだのもユキのおかげだよ。ユキが一緒にガルガルを止めてくれたから私はこれだけで済んだんだから」
「でも……っ……」
気づけばわたしの方が泣いていた。
『人間』だからとか『関係』ない。
痛い訳でもないのに。苦しい訳でもないのに。
こんな所をまゆに見られたくないのに。
拭っても拭っても出てくるものは止まらない。言葉を交わしただけでこんなに嬉しいとは思わなかった。こんなに優しさを感じるとは思わなかった。
「ごめんなさいっ……ごめんなさい……まゆ」
守れなかったとか、傷つけたとか、そういう感情は何処かえへ消えて、ただひたすらに私はまゆに謝り続けた。心を忘れそうになったことを。まゆの気持ちを蔑ろにした事を。
「私こそごめんね。ユキ。私とユキが『同じ』気持ちだった事に驚いちゃったの。だから、気づかせてありがとう」
あぁ、もう嫌になる。だから『人間』は嫌いなんだ。こんなに簡単に『関係』を築けてしまう。気持ちを言葉にするだけで伝わって、戻ってしまう。でも、これはわたしが『人間』に成れたからできた事で、猫のままでは出来なかった。まゆと『同じ』になれたから今こうして気持ちを分かち合える。
「私の為にありがとう。ユキ」
澄んだ水より柔らかい。
あなたの優しさに触れて。
出会った頃の時のように。
心が溢れて止まらない。
優しい歩幅で寄り添って、傷痕がわたしの心から消えていく。まゆはこれよりもっと痛かったはずなのに。
喧嘩した後の仲直りの仕方がわからなくて、闇雲に子供みたいに突っぱねてしまった。こんな簡単に私を許してくれるまゆはもうわたしよりもずっと大人だった。
届きそうで届かない距離に居たはずのなのに。まゆは自分からわたしに寄り添い触れている。
…………
「落ち着いた?」
「……うん」
ひとしきり泣いた後、わたしはまゆの膝の上にいた。
「綺麗な顔が台無しだよ?」
「しょうがないじゃない。あんな事言っちゃって、まゆと仲直りできなかったらどうしようかと思ってたんだから……っ……」
「ふふっ……ユキは泣いてても綺麗だね」
怪我をしているのに、まゆはわたしに笑いかけてくれる。その見せる笑顔にどれだけ安心を抱いたことか。
「? 、キャッツパクトが……」
わたしの涙の一雫で突然シャイニーキャッツパクトが光出した。その光はまるで蝶のように宙を舞い、まゆの傷口へ注がれる。
「え、あ! 傷が……!?」
その輝きが消えるとまゆの傷口が完全に消えていた。わたし達は顔を見合せて慌てふためいた。
「え……え!? なにこれなにこれ! なんで傷が消えたの!? ねぇユキ!?」
「お、落ち着いてまゆっ! でも……完全に消えてるわ。これもパクトの力……? それとも、メェメェのいうニコガーデンの力なのかしら……?」
理由は分からないがまゆの体から傷が消えた。それが奇跡だろうがなんだろうが、わたしにはどうでもよかったがひとまずはニコガーデンの奇跡だと思い感謝はしておく。
「体……治っちゃったね」
「まさか、こんな簡単に治るなんて思わなかったわ」
「ごめん……ね? ユキ。せっかく体拭いてくれてたのに……」
「いいのよ。別に。というかそれどころじゃなかったから……」
「ね、ユキ」
「なに? まゆ」
「お風呂、入らない?」
「え……」
しまった。
ここでその単語が出てくるとは思わなかった。
「え、あ、む、無理にとは言わないよ!? 体拭きも中途半端だったし、ユキも今日はいっぱい汚れちゃったからどうかな〜って思っただけ!」
慌ててまゆは訂正した。慌てふためいていても、その傷が塞がったことに変わりはない。でも、本当に塞がっただけなのか。表面だけで中身はもしかしたら傷のままかもしれない。
「ユキ? やっぱり……っ?」
わたしはちょっと不安になりながらもまゆに抱きついた。
「…………入る」
「が、頑張れそう?」
「…………うん」
「嫌だったら直ぐに出ようね?」
それでもわたしは首を横に振る。
「…………頑張る」
…………
一雫落ちる音と水を撫でる音。やっぱり慣れない水の中はまゆが居るから落ち着ける。最近になってようやくお湯に浸かる安らぎがわかってきたような気がする。気がするだけなのだけれど。でも……
「ふぅ……」
まゆが気持ちよさそうにしているのならそれに超したことはない。
「まゆ……痛くない?」
「ん? うん。痛くないよ」
それでも落ち着かない。この気持ちは。
まゆに触れないと落ち着かない。
「ねぇ、こっちきて。まゆ」
「なに?」
「ちゃんと確かめる」
「う、うん」
まゆを背中から抱きしめる。ちゃんと確かめるようにまゆの体に手を当てる。
「っ……ふ……んっ……」
怪我があった部分、その周り、他の所も確認する。まゆは何かを堪えている。それが何なのかは分かっている。
「ね、ねぇ……ユキ……触り方……」
「嫌?」
分かっていて聞くとまゆは少し困惑する。お互い何をしてるのは分かっているから、わたしは構わずまゆに触れる。脇から滑るように上へ手を流す。まゆはちゃんと感じてくれる。つい体が引けているのがわかる。でも、後ろから抱きしめられているのだから、体の密度が増すだけだ。
最低だ。傷が治ったから。わたしは調子に乗っている。そういうのも悪い癖だ。
「いやじゃ……ないけどぉっ……」
軽く胸に触れるとまゆは愛らしく猫のように喘ぐ。人の口から「にゃあ」と聞くのはこんな時ぐらいだろう。小ぶりでも確かに感じられる柔らかさ。幾らでも触っていたいぐらい触り心地が良い。水の中じゃなければね。
「…………」
「っ……ユキ?」
「やっぱりお風呂出たい……」
「ああああああ! ごめんね! ユキ! 頑張ったもんね! シャワー浴びて湯船に浸かったもんね! もう出ようね! 部屋でゆっくりしようね!」
その時のまゆの慌てっぷりを見て、わたしは少し笑ってしまったことを覚えている。
…………
「ん〜……」
「大丈夫? 痛くない?」
「えぇ、大丈夫」
まゆが慌ててわたしをお風呂から部屋へ連れ出して今、どらいやーで髪を乾かされている。痛くないように優しく撫でて、水をはく。程よく暖かい空気がふわふわして、瞼が少し落ちそうになる。
「ねぇ、ユキ?」
「なに?」
まゆはドライヤーを消して櫛で髪をとかす。
「ユキと私は『同じ』気持ち……なんだよね?」
「えぇ、そうね」
少し声のトーンが落ちたように思えた。まだ何かを引き摺っているのかしら。思い当たる節はない。そう考えていると、まゆの頭がわたしの背中を押した。
「私が……ユキと仲直りしたい言っても……『同じ』気持ちになってくれる?」
震えている声。伝わる鼓動の速さ。そして、なによりわたしの心が踊ってしまった。振り向けばそこには年相応の赤い女の子。恥ずかしいとか慣れていないとか、そういうのが混じった顔。
「それって、どういうこと?」
分かっていても聞きたくなる。
あなたの口から言って欲しい。
振り向いて、髪を撫でる。
耳にかけて、耳をなぞる。
唇に触れればまゆはわたしの手を取り手のひらへ吸い付いた。
「さっきの……続き……」
シたい、と最後のセリフは目で訴えてくる。蕩けていないちゃんとした眼差し。少し不安の混じった瞳に睨まれて緩んだ頬は戻らない。紡いだ手だけは離さない。ゆっくりまゆを押し倒し、わたし達はこんな所で『ナカナオリ』。
「ユ……キ……」
「仕方ない。構ってあげる」
「ん……」
塞いだ口から漏れる声。もう何度も聞いてるのにこればっかりはずっと飽きない。しかしわたしは上の空。いろはと話してた時、彼女に勘ぐられた事がずっと気になってる。そんなに分かりやすいのかしら? わたしって。まゆといる時ぐらいしか表情なんて表に出さない。まゆ以外に表情を見せても仕方ないから。まゆ以外には興味はない。まゆが好きなものを好きになり、まゆの嫌いなものを嫌いになる。それがわたしの生き方だ。だから……いやそうか。それだから、他の人に見られてもわかりやすいと言われてしまうのか。
「あぁっ……!」
首筋に舌を這わせて確かめる。
服の中をまさぐって弄ぶ。
まゆの体に異常はない。やっぱり傷は完治している。シャイニーキャッツパクトの力か、それとも何かしらの奇跡なのか。わたしには分からない。まゆが生きているならそれで。
『人間』でも動物でも『関係』ない。
皆『同じ』……か。わたし達はつい最近まで違う存在だった。『人間』と猫。全く違う生物の『関係』だった。それなのに今はこうしてより触れ合える『関係』になった。だから余計に、まゆへの気持ちが溢れてくる。願う事ならまゆのもつプリキュアの力を消したいぐらいだ。でも、まゆはわたしと二人で向き合いたいと言った。それがまゆの願いならわたしはそれを受け入れる。まゆの哀しみもまゆの傷も全部受け入れてどこまでも───
「もぅ……ユキっ!」
「にゃん?」
ぐるぐる考えているとまゆの両手がわたしの顔を包んだ。
「他のこと考えてる……」
「ぇ……あ……」
「ちゃんと集中してくれなきゃ……やだよ……っ」
「っ……!?」
本当に。この子は。
「ユキ……? きゃあっ!」
「全く。本当にあなたは煽るのが得意ね」
「だっ……て、んんっ!?」
まゆが何かを言いかけたがお構い無しに今一度押し倒して口を吸い塞ぐ。足を広げてずぶ濡れになったソコを顕にする。するとまゆは大きな声で猫のように鳴いた。
「あら、もう欲しがりさんなのね」
「ちちち、違っ……まって、そんないきなりそこは……んにゃぁ!?」
つぷ……、と指を沈めるとまゆの体は反り返った。感度が良い体だから、少しの刺激でそうなってしまう。本当に敏感な子。わたしの気持ちにも、自分の心にも。だから守りたいとか、傷つけなくないとかすぐにそういう風に考えてしまう。そんなまゆもわたしも大概だ。
「まゆのナカ、あったかいわね」
「まっ……まって……っ、恥ずかしっ……! んんぅっ!」
膣を指で撫でながら、わたしの舌はまゆの胸先。この姿でも猫舌らしく、ザラザラが程よい刺激になるとかなんとか。まゆのナカはどんどん溢れてくる。わたしの指を溶かしてしまいそうな程に。
「ユキっ……ゆきぃぃ……!」
求めてくれば口を吸う。まゆはほんとにキスが好きなのね。してる時だけはわたしを離してくれないもの。そんな蕩けてる顔がわたしも好き。
「ゆきっ……ゅきぃっ……!」
「ん〜?」
「ぃ……くっ! んにゃっ……! っ、んっ……っっっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
一際強く指を差し込んであげると、まゆはイキ果てた。膣が締まって、指を離さない。さっき待って反り返っていたまゆは今度は縮こまっている。
「っはぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
そのだらしない顔も好きよ。まゆ。
「ゆ……き……」
「まゆ」
「ん……」
終わりのキス。暫くは余韻に浸るのかしらね。
…………
「えへへ……ユキ〜♪」
「なによ……もぅ……」
ピロートークなんてものはなく。まゆはずっとわたしにしがみついて顔を擦り付けて来る。さっきからずっと上機嫌なのはなんなのかしら。可愛いわね。もう一度楽しみたいわね。
「えへへ……機嫌直ったね。ユキ」
「……もぅ、そんなのとっくに直ってるわよ」
わたしの髪を絡め取り、気持ちよさそうに顔に当てる。大人なんだか、子供なんだか。まぁ、もう『関係』ないわね。『人間関係』の仲直り。
えぇそうね。
きっとこの仲直りの仕方は、わたしとまゆだけね。
「大好きだよ。ユキ」
「えぇ、わたしも大好きよ。まゆ」
確かめ合うキスはおやすみの挨拶。
またあした。日が昇るその時まで。
ずっとあなたを愛してる。