※この作品はR-18です。

プリキュア SS   作:扇 漱真

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なんかリリアンとニャミーが怪盗とお姫様モチーフみたいだよねって言う話です。


ユキまゆ 『今宵貴方を攫いに来る。』

「まゆ?」

 

 とある日のアニマルタウン。学校の事で聞きたいことがあったわたしはまゆの部屋まで呼びに来てみたら、そこにはまゆはいなかった。

 お手洗いかしら? 部屋に入って辺りを見回すと、ふと目に入ってきたのはまゆの机の上にあった1冊のノート。本当はいけないんだろうけれど、何ともなしにそのノートを開いてしまった。

 そこに書かれていたものは───

 

 …………

 

『だ……ダメだよ……悟くん……っ』

 幼い微熱を下げられないまま。

 甘い匂いに誘われた僕は。

『犬飼……さん……っ』

 僕はただ昂った気持ちだけで。

 

 …………

 

「うっっっっっっわ」

 

 心の底から声が出た。

 びっくりした。

 え、あの子やっぱりここまで妄想してたの? 

 確かにあの二人を見てる時の顔は普通じゃなかったけれど、ここまで来てたの? 

 いやいやいやいや。こんなことある? 

 なんでa○koとス○ッツなの? あの子いくつよ。

 

 …………

 

『やっぱりダメだよ!』

 押しのけられた思いと僕は、深く深く青ざめる。

『私達は……友達……だから……』

 その言葉はきっと崩してはならないもの。

 僕と犬飼さんの大切な繋がり。

 

 …………

 

 この子拗らせてるとは思ってたけどまさかここまでとはね。いやホントにまゆってこの二人でここまで妄想してるとは思わなかったわ。っていうか、このノートよく見たら机の上に5冊ぐらい並んでるんだけどどういう事? 全部こんなな内容なの? 

 

 …………

 

『ごめん……僕はその友達の関係を壊したいんだ……っ』

『ぁ……』

 遂に僕は君に触れてしまった。そんな強引に肩を掴む気なんてなかったのに。これじゃあ、汚い男と変わらない。僕の気持ちは真っ直ぐだと伝えても君は分かってくれるのだろうか。

『壊してでも……君を……っ!』

『さとる……くん……っ』

 

 …………

 

 中々焦れったいわね。テトラポット昇りなさいよ。いやまぁ、確かにこうして見てるとまゆの気持ちも分からなくもない。だからってスピッ○とかa○koに走るのはどうかと思う。いやいや、そんなことよりまゆを探しに……

 

「あ」

「あ」

 

 部屋に戻ってきたまゆと目が合った。

 

「(え、ユキ。それもしかして覗いたの? もしかしなくても覗いた? え? 見た? 私の妄想ノート覗いちゃった? ごめんね。ユキ。私ずっと二人が早くくっついちゃえばいいのにってずっと思ってたの。でも、二人の仲を引き裂くようなことは絶対にしたくないからこういう殴り書きで妄想するしかなかったの。でも、わかって欲しいの。ユキ。私だって一人の女の子。綺麗な恋愛を望むし、恋する人が身近にいたら応援したくなっちゃうの。だからいっぱい恋愛ソング聞いたんだ。a○koとかスピッ○とかSC○NDALとかうたかた花火とかポラリスとかも聞いたんだ。でもやっぱりカブトムシが一番かなって、あの曲やっぱり季節的にもピッタリで私あの二人見てるとずっと頭の中で流れるの。だから歌詞もそのまま乗せてしまうの。テトラポット登ってる方も良いかと思ったんだけど、危ないかなって。あ、でもユキにこんなに話したって分からないよね。だから最初は聞いてみようか)カブトムシ!!??」

「えぇ。乗ってるわね。歌詞が」

 

 ひっくり返った亀のように手足をワチャワチャ動かして何かを誤魔化そうとする。十中八九このノートなんでしょうけれど見てしまったものはもうどうしようも無い。

 

「あああぁ、あのね、そのノートはね……」

「それよりも、誰かと電話していたの?」

「ふぇ?」

 

 まゆの手に持っているのはスマートフォン。件名を見れば『いろはちゃん』と書いてある。まゆはわたしの言う通りだと頷いた。

 

「あ……うん。今、いろはちゃんに呼ばれてニコガーデンに行こうって」

「ニコガーデンに?」

「最近起きてる事件について兎山くんが……って」

 

 最近起きている事件。特に目立ったものは無いはずだけれど、新聞もテレビも一通りは目を通してるつもりだけと、直近でそんなに危ない事件などこのアニマルタウンでは起きてない。

 

「えと……ユキ? 一緒に行こう?」

「えぇ、わかったわ」

 

 …………

 

「物が盗まれる?」

 

 所変わってニコガーデン。悟の開いた新聞紙にそんな記事が乗っていた。『アニマルタウンで靴が不自然に消える』という、なんともオカルトじみた事件。その記事を見るなり、いろはとこむぎがよく分からないと一緒に首を傾げる。

 

「そう。最初は靴とか箒とか大したものじゃなかったんだけど、最近は鞄とか……車が消えたって言う話もあるんだ」

「く、車? そんな大きなものまで無くなってるの?」

「あ、それ見た事ある。一晩で三台も車が消えたってニュース。ね、ユキ?」

「えぇ、あったわね。そんなの」

「僕はこの事件。ガルガルの仕業かもしれないと睨んでるんだ」

「ぅえ!? そうなの!?」

 

 こむぎが驚くと、悟はそのまま頷いた。

 

「まぁ、たしかに。車が無くなってるのはそうかも。でも、そんなことする動物っているの?」

「うん。靴とかを盗む動物って言うのは少なからずいるんだ。例えば、イタチとかね」

「イタチ?」

「そう。実はイタチやキツネが人の靴や小物を盗む事件が普通にあるんだ。ただ単にコレクションとして集める個体も居るらしいよ」

「へぇ〜。それなら、なんで今回の事件がガルガルの仕業かもしれないって思ったの?」

「うん。盗まれたものや無くなったものがどれもこれも宝石みたいに光るものだったんだ」

「あ、それって……!」

「そう、もしかしたらキラリンアニマルを探しているのかもしれないね」

「でも、キラリンアニマルって9匹、皆ニコガーデンにいるよね?」

「光るものを集めてるって事は、無意識にキラリンアニマルに似た物を集めているのかもしれない。だから、このガルガルを早く元に戻してあげて誤解を解かないと街のものがどんどん無くなってしまうかもしれないんだ」

「た、確かに。それはちょっとヤバいかも」

「イタチやキツネだったら、きっと穴蔵に巣を作ってる。また山に探しに行かないといけないね」

 

 それを聞くとこむぎは勢いよく体を弾ませた。

 

「わん! 皆でピクニックわん!?」

「も〜こーむーぎ〜?」

「えへへ、楽しみだわん! ね? ユキ?」

 

 嬉しそうに尻尾を振るこむぎとは裏腹にユキは呆れながらやれやれと首を振った。

 

「ガルガルを探しに行くんでしょう? 遊びじゃないにゃ」

「ぅええ〜。皆とピクニック行けると思ったのに〜」

「じゃぁ、こむぎちゃん、僕がお昼ご飯作ってから行こうか」

「ほんとに! 食べるわん! 悟のご飯は美味しいから好き!」

「ありがとう。こむぎちゃん」

 

 …………

 

 まだ目覚めない。誰も。何も。こんなに集めたのに。誰も目覚めない。らしきものを集めるのがダメだったのか。なぜ誰も目覚めない。キラリンアニマルよ。

 早くキラリンアニマルを目覚めさせて、ニコガーデンに…………。

 

「グルルッ……」

 

 頭が痛い。誰かの声が流れ込んでくる。

 人間が憎い。暴れ回りたい。違う! 僕は……っ! 

 

「なるほどねぇ」

「ガルッ!?」

「アンタが例のガルガルかぃ?」

 

 ガルガルの前に降り立つザクロ。ガルガルが集めたものを見るなり怪しげに口を歪めた。

 

「人の物を盗むなんて悪いヤツだね。でも、気に入ったよ! もっと暴れてきな!」

 

 ザクロは自分の手を上に掲げる。

 

『獣よ! 闇を纏って吠えなさい!』

 

 …………

 

「そういえば、何にもなしに山奥まで来ちゃったけど、何か手がかりがあるの? 悟くん」

 

 いろは達一行はとりあえず、登山準備を終え、それらしき山へと歩き始めていた。

 

「うん。この山を管理してる人達の話を偶然学校で聞いてね。不法投棄が増えてるって言う話があったんだ」

「あっ! もしかして……!?」

「そう。そこに行けばガルガルがいるかもしれない」

「さっすが悟くん! 頼りになるよ〜!」

 

 いろはと悟が楽しそうに会話する中、その中に入ろうとするこむぎを全力で止めて瞳をときめかせているまゆ。そしてそれをちょっと不安そうな顔で見るユキ。

 

「いいよいいよ! 二人とも! 良い距離感だよ〜! 何気ない会話が積み重なって花開く時の儚い思い出に……」

「やっぱり貴方も大概よ。まゆ」

「まゆ〜、離してよ〜〜」

「ほら、まゆもこむぎもいい加減に……っ!」

「わぅ!」

 

 すると、こむぎとユキが同じ方向を向く。

 

「こむぎ」

「ガルガル……いやもっとゾワゾワする。ガオガオだワン!」

「え!?」

 

 まゆが驚愕すると、ユキとこむぎは一直線にガオガオーンの場所へ駆け出した。

 

「いろはちゃん! ガオガオーンが出たって!」

「わかった! 先に行くね、悟くん!」

「うん。気をつけて!」

 

 …………

 

「ガオガオォォォォ!」

「あ、いた!」

 

 ユキとこむぎについて行くと道端でガオガオーンに遭遇した。細長くしなやかな毛並みの体。悟の予想通りにイタチのガオガオーンだった。

 

「ありゃ? 見つかった?」

「ザクロ!」

「その子を元に戻して!」

「なんでだぃ? アタシはコイツが気に入ったんだよ。見せておやり! お前の力を!」

「ガオガオォォォォ───!」

 

 ガオガオーンは吠えると同時にフレンディ達の間をすり抜けて攻撃する。すれ違いざまの爪の斬撃にフレンディ達は反応しきれない。

 

「速い……っ」

「わぅぁ!」

「きゃっ!」

「っ!」

 

 ニャミーとリリアンですら反応しきれない速度し、鋭い鉤爪の斬撃があちこちから飛んでくる。移動した場所へ振り向けばもうそこには居ない。

 

「速いっ……なっ!?」

 

 ニャミーの後ろに回り込んだガオガオーンは、その爪を立てている。

 

「ニャミーシー……うぁっ!」

「ニャミー!」

「ん?」

 

 咄嗟のシールドすらも間に合わない。弾き飛ばされたニャミーはザクロの隣まで吹き飛ばされてしまった。体勢を立て直して互いに視線を交えた瞬間───

 

「ニャッ!」

 

 先制を取ったのはユキの爪だった。しかし、それすらも読んでいたかのようにザクロはちゃんと受け止める。

 

「血の気の多い子だね。アタシは嫌いじゃないよ?」

「わたしはあなたのことが嫌いよ」

「そう……それなら……!」

「それより、ガオガオーンに盗られたものは取り返さなくていいのかい?」

「は? 何を言っ……っ!?」

 

 ガオガオーンを見るとその手にはシャイニーキャッツパクトがあった。

 

「にゃっ!?」

 

 キャッツパクトの力を失ったユキは猫の姿へ戻ってしまう。

 

「おやおや。随分可愛い姿じゃないかぃ」

「っ……離しにゃさい!」

「ユキ!? ユキを返してッ!」

 

 リリアンが声を荒らげるとザクロは楽しそうに口を歪ませる。

 

「返して欲しかったら自分で取りに来な。まぁ、もっともアンタにそれが出来るかって話だけどね?」

「ッ……!」

「誰かを失う悲しみも知らないガキが、少しはこれで懲りるんじゃないかぃ?」

 

 血相を変えるリリアンとは裏腹にニヤケ面のザクロ。その挑発に乗ってしまい、リリアンがその爪を構えるとフレンディがリリアンの腕を掴んだ。

 

「っ!?」

「まってリリアンッ!」

「っなんで! 離して!」

 

 ザクロはその光景に笑い出す。

 

「っははは! こんな所で仲間割れかぃ? まぁ、悔しかったらちゃあんと取り返しに来るんだね! ガオガオーン!」

「にゃぁっ!?」

「ユキッ!!」

 

 放り投げられたユキはガオガオーンが掴み取り森の奥へ連れ去られた。

 

「待って! ユキッ! ユキぃぃぃ!」

 

 リリアンの叫びも虚しく木霊する。

 ザクロ達が見えなくなると力無くその場に崩れ去った。すぐさまフレンディが寄り添い小さな声で呼びかける。

 

「リリアン……」

 

 フレンディが肩に手を載せようとした瞬間、その手は大きく振り払われる。リリアンのその瞳は紅く煮えていた。

 

「いっ……!」

「っ何で止めたの! フレンディ! ユキが捕まったのに! 私は───」

「っリリアンは今あの子達に何しようとしたかわかってるの!? あんな顔、あれじゃガルガルと同じだよッ!」

「そんなの関係ないッ! 私にはユキが必要なのッ! 貴方にこむぎちゃんが必要なように、私にはユキが必要なの! 勝手に決めないでッ!」

「だからって、殴りかかろうとするのは違うよ! 暴力じゃ何も解決しないよ! 虚しいだけだよ!」

「そんなのは分かってる! でも、あんなふうになったら話し合いなんてしてる場合じゃないの! すぐに助けないと! 私はッ……私は……っ……」

 

 言葉と共に顔を俯かせて、涙を零す。納得いかない。自分のしようとした事も理解している。それよりも、ユキが捕まってしまったという思いが勝り、自分を制御できなくなっていた自覚もあった。だから納得がいかない。失敗した。俯きながら興奮している自分を抑えるように深く息を吐くと、リリアンは立ち上がる。

 

「ごめん。今は独りにして欲しい……」

「まゆちゃん……」

「まゆ……」

 

 フレンディとワンダフルには目もくれずリリアンは何処かへ歩き出した。どこへ行くとも分からずにただ歩を進めている。

 

「ワンダフル! フレンディ!」

「悟くん……」

「さっきの鳴き声、ガオガオーンだよね? …………あれ? 皆は?」

「二人は……っ……」

 

 あとから遅れてやってきた悟に事情を話したフレンディ。

 

「そんな事が……っでも、犬飼さんは正しいよ。そうなって欲しくないのは誰だって……」

「それでも、その時のまゆちゃんのことは考えてなかった……! 私のせいでまゆちゃんを傷つけちゃって……っ……なのに」

 

 変身解除しても泣きそうな顔はそのままに、まゆとユキの事を探しに行くと立ち上がる。

 

「私やっぱり行ってくる」

「待って犬飼さん、もう辺りも暗いから危険だよ!」

「いろは……」

「そんなこと関係ない! 今動かないと一生後悔するッ! 行こうこむぎ!」

「う、うんっ」

 

 ……

 

『まゆちゃん! まゆちゃ〜ん!』

 

 誰かも分からない声が私の名前を呼んでいる。くたびれてへたり込んでいた所にうっすら目を開けてボロボロの自分の服が目に入る。顔を上げればもう夜だった。私は一体どのくらい歩いていたのだろうか。

 それなのにユキは見つからないし、ザクロも見つからない。やっぱり私はダメな子なんだ。独りじゃ何も出来ない。ただの出来損ないの役たたず。

 

「ぁ……」

 

 そういえばさっき誰かに呼ばれていたことを思い出した。声を出そうにも疲れていて声が出ない。

 体が重くて動かない。独りは寒くて動けない。

 

『いろは! こっちだよ!』

『あっ……いたっ! まゆちゃんッ!!』

 

 目を開いて、上を見上げると、見知った顔が心配そうにこちらを覗いていた。いろはちゃんにこむぎちゃん、そして兎山君も。

 

「まゆちゃん!」

「いろはちゃん……?」

「よかった……見つかってよかったほんとに……っ」

 

 今にも泣きそうな顔で私を抱き締める。暖かい。体温とかじゃない温かさ。なんか私がずっと欲しがっていたもののような感じ。

 

「ごめん……私、まゆちゃんの気持ち考えないであんなこと……」

「ぇ……」

「私も同じ立場だったら多分あぁなっちゃうって、すぐに分かったの。でもっ……だから、まゆちゃんもそうなって欲しくないって気持ちでいっぱいで……だから……」

「違っ……違うのっ!」

「まゆ……ちゃん?」

 

 私はつい動揺来て声を荒らげてしまった。

 

「私も……そんなのじゃ……なくて……っ」

 

 いろはちゃんの気持ちを考えなかったのは事実だし、ユキが連れ去られてしまって焦っていたのも事実。だから、謝るのは絶対私の方。いろはちゃんじゃないのは分かってる。だから、驚いてしまった。いろはちゃんが謝ってきてくれたことに。

 

「わたし……私の方が、皆のことを考えてなかった。ユキが捕まって頭に血が昇って、なんにも考えられなくなってた……」

「うん。まゆちゃんが辛いの。よく分かる。だから……手伝えないかな。辛いのを一緒に背負って、ユキちゃんを一緒に取り戻したい」

「いろはちゃん……」

 

 繋がれた手が温かくてホロホロと瞳から心が溢れてきてしまった。情けない自分とこんなにも誰かのために一生懸命になれるいろはちゃんとこむぎちゃんの心が温かくて、溢れてきてしまった。

 でも、私の心は決まってる。そうすべきだと自分で理解している。

 

「ごめん。いろはちゃん。ユキは私一人で取り戻す」

「っでも……」

 

 抗議しようとしたいろはちゃんを首を横に振って止める。

 

「その後のガオガオーンを元に戻すのは手伝って欲しい。その時にいろはちゃん達の力を借りたいの。ガオガオーンだけは四人じゃないと元に戻せないから」

 

 なるべく自信を持って答える。これは私が決めたこと。もし独りになったとしても、私だけで解決出来るように考えていた事。でも、いろはちゃん達が協力してくれるなら、私が1人じゃなくて皆でまた向き合うことができるなら。きっと。

 

「考えはあるの?」

「うん。ユキを取り戻すだけなら、ね」

「……うん。わかった。絶対ユキちゃんを取り戻して、あのガオガオーンを元に戻そう!」

「ありがとう……いろはちゃんっ……!」

 

 …………

 

「……」

 

 暗い。またこんなところへ来てしまった。誰にも見られない孤独な場所。別にそんな程度、前にも経験している。誰も信じられないし、誰も信じたくない。孤独なんて慣れている。独りで居ることになんてもう慣れている。

 

「……?」

 

 なら、この目から零れる雫はなんなのか。体も冷たい。心も冷たい。雪山になんていないのに何もかもが冷たく感じる。早く一人で逃げ出す手段を考えないと。

 

「っ……」

 

 やられた足がまだ痛む。よりにもよって後ろ足。人の姿に成れたとしても、機動力が落ちる。かと言って四足歩行だと、地面を蹴り上げることが出来ない。せめてキャッツパクトさえあれば、アニマルの力を借りて脱出できるのに。どうしてわたしは……こんなタイミングでしくじるのかしら。怪我のせいで体が動かない。この小さい体だとどうしても。

 

「…………まゆ」

 

 居ない誰かを呼んでしまう。頼ってはいけないはずなのに。ごめんなさい。まゆ。わたしのせいで……。

 

 シャン。

 

「……?」

 

 シャン。

 

「この音……」

 

 誰かが鳴らす、鈴の音。いや、この音はもう少し違う。わたしの知っている音色。これはタンバリンの音色。

 まさか……ッ!? 

 

 シャン。

 

「ガル……?」

「へぇ?」

 

 ザクロとガオガオーンが振り向いた先。信じられない光景が目の前にあった。

 

「まゆ……!?」

「よくここがわかったね」

「皆に協力してもらったの。ここはその子の隠れ家だって教えてもらった」

 

 まゆが、正確にはリリアンが、目の前にいた。たった一人でガオガオーンを相手にできるわけが無い。わたしは信じられなくて唖然としたまま止まってしまった。

 

「1人かぃ? 怖がりのくせによくもまぁ」

 

 ザクロが呆れ気味に言ってもまゆの瞳の色は変わらない。しっかりとザクロを真っ直ぐに見据えている。

 

「もうこんなことはやめて。この子も苦しんでる」

「ふぅん? なら、大切な相方は見捨てるっていうんだね」

「もちろん返してもらう。でも、この子も元に戻す」

 

 そう言って、リリアンはアミティーリボンタンバリンを構えた。

 

「どっちも助ける。だから、ここに来たの!」

 

 …………

 

「そうかぃ! なら喰っちまいな! ガオガオーン!」

『ヘルプ、キラリンアニマル。ペンギン、ライオン』

「ガオガァァァア!!」

 

 タンバリンから音色を奏でる。輝きを手に入れたリリアンは低い体勢をとり、ガルガルの攻撃に合わせて踏み込んだ。

 

「ガル───!?」

 

 リリアンは軽い衝撃波と共にガルガルの攻撃を避ける。キラリンアニマルの重ねがけ。そんな事をしたら体への負担が大きくなるのは分かっている。しかし、そうでもしないとこのガオガオーンからは逃れられない。

 

『いいキラ? リリアン』

 

 頭の中で呼び出したキラリンアニマル達が話しかける。

 

『この力を二つとも使っていられるのはきっと長くないキラ。あんまり長引かせると君の体に何が起きるかわからない。だから、なるべく短期決戦でいこうキラ』

「うん。わかってる」

『リリアン、震えてるキラ……やっぱり怖いキラ……?』

「……」

 

 心配そうにアニマルが声をかける。

 確かに手足が震えている。上手くいかないかもしれない。自分の巻き添えになるのかもしれない。でも、何もしないで諦めないと決めたから。任せてくれたいろは達の為にもリリアンは瞳の色を強くする。

 

「ううん。今はユキの方がもっと怖い思いしてる…………だから、怖くないッ!」

「ガオガォォン!!」

 

 リリアンはひたすらにガオガオーンの攻撃を避け続ける。壁を蹴り、天井を駆け、地面を滑る。ライオンの加速能力にペンギンの滑走能力を加えた高速移動。その攻撃の最中にユキとユキのパクトの位置を把握する。

 氷を滑るスケーティングの様にガルガル達の一撃の間をすり抜けていく。その中で目を凝らして探し出す。まゆの大切な友達を。

 

(居た……見つけたッ!)

 

 一番奥のザクロの隣にユキが、ザクロの手にはシャイニーキャッツパクトを握られている。それらを確認するとしっかりリリアンに意識を向けさせるようにタンバリンを鳴らしてガオガオーンの前に立ち止まる。

 

「貴方の言う通り。私は怖がりだし、誰かを失う悲しみは分からないかもしれない。でも───」

 

 リリアンは再度アミティーリボンタンバリンを構えて、キラリンアニマルの力を呼び出した。

 

「独りになる寂しさなら私だって知ってるからッ!」

「まゆ……」

『ヘルプ、キラリンアニマル! スワン!』

『っ!? だめキラ! リリアンッ! 三体同時は!』

「ユキは返してもらうッ!」

 

 アニマル達の言葉を意に介さずスワンの翼がリリアンに宿る。瞳の動向を絞り再度、救出ルートの確認。この洞窟内にいるガオガオーンの間をすり抜けて、ユキを助け出し、パクトも回収する。そして、外に居るフレンディ達の所へ戻る。フレンディ達には無理を言って来ないでもらっている。自分の力で解決したいと、だからこれだけは失敗出来ない。

 

「っ調子に乗るんじゃないよ! ガオガオーン!」

「ガオガォォン!!」

「ッ……!」

 

 シャン! 

 リリアンは大きくタンバリンを上へ放る。そしてそれと同時に加速のために低く体勢をとる。

 一瞬ですり抜ける。立ち止まらずに駆け抜ける。

 これを同時に行うのは容易ではない。それでもやらなければならない。ユキが独りで泣いている。

 そんなことはもう無くしてあげたい。もう一人になんてさせない。まゆもユキも孤独の寂しさはずっと知っている。だから、隣に誰かがいる温かさも知っている。

 

(絶対助ける!)

 

 地面を抉り、羽ばたき、踏み込み、駆け抜ける。ソニックブームを作り出し、タンバリンに気を取られている隙にガオガオーンの間を右へ左へ滑る様にすり抜けていく。

 

「早い───なっ!?」

 

 舞うようにユキの元へ辿り着くと、同時にザクロの隣を駆け抜けパクトを奪い去り同時にユキを抱き上げた。

 

「なんてヤツ……」

「助けに来たよ。ユキ」

「……別に待ってにゃい」

 

 零れそうな雫を隠すユキがいつも通りの態度を取ることを確認して、頬を緩めるリリアン。

 そしてザクロと向かい合い、その眼光を鋭くする。

 その少女のものとは思えない殺気にザクロは鼻で笑う。

 

「はっ、怖がり娘かと思ったけど意外と大胆じゃないか」

「……確かに、貴方達は凄く怖い思いをしたのかもしれない。理屈じゃ覆せないことを体験したのかもしれない。でも……だからって、自分が地獄を見たからって他のだれかにそれを押し付けていいってことにはならないと思う」

「へぇ……言うじゃないかぃ。小娘がっ! ……!?」

 

 ザクロがその爪を立てようとした瞬間、自分が『リリアンネット』で拘束されていることに気づいた。

 

「いつの間に……!?」

「さっき、ユキを探してる時に仕掛けたの。あなた自身も私を目で追えてなかったことは確認できた。だから気づかれない程度に足元からゆっくり仕掛けたの」

「ち……ガキがっ! ガオガオーン!」

「ガオガオオオ…………オン?」

 

 更にはガオガオーンにも『リリアンネット』の拘束がされていた。しかも全員拘束されている。1本ではなく、何重にも重ねられている。あの移動の最中ガオガオーンに『リリアンネット』を仕込んでいた。移動系のキラリンアニマルの三重の重ねがけ。自身の体への負担など度外視した戦法にキラリンアニマルもザクロも驚愕している。

 

『凄いキラ……こんな事が出来るなんて……』

「ち……ただのガキじゃなかったか……」

「貴方達がニコアニマルの皆をガルガルにしてるのも、他の動物達をガルガルにしてるのも許せないけれど、それ以上にユキに手を出した事はもっと許せない。今度また同じことをしたらその時は───」

「っ!?」

 

 

 ───容赦はしない。

 

 

 ギリリ、と研ぎ澄ませた爪と突き刺すような紅い眼光を見せる。その瞳は最早少女と呼べるものではなく、狩人の瞳だった。その眼差しにザクロの背筋に寒気が走る。武者震いにも似た寒気。そして、リリアンのその手にも『リリアンネット』が仕掛けられていて、上に放り投げたタンバリンがリリアンの手に戻ってきた。同時にガオガオーンに張り付いていた『リリアンネット』も解除。タンバリンを鳴らして自分の方へ誘導し始める。

 

「君はこっちだよ!」

「へぇ、良い瞳じゃないかぃ。ゾクゾクするよ。喰って来な!! ガオガオーン!!」

「ガオガオォォ!!」

 

 …………

 

 まゆはキラリンアニマルのペンギンだけは解除せず、床を滑りながら洞窟の出口へ向かう。でも、まゆ一人だけじゃ、この数はどうにもならない。わたしが早くプリキュアにならないといけない。

 

「まゆ……下ろして。わたしも戦うわ」

「その足の怪我じゃ無理だよ」

「でも……っ」

「大丈夫だよユキ。私達はひとりじゃないんでしょ?」

「え……?」

 

 笑顔を向けるまゆとは反対にわたしは首を傾げてしまった。そして、洞窟を抜けて、森へ出る。ある程度進んだ所でまゆは反転してブレーキをかけた。しかし、目の前には既にガオガオーンがいる。窮地に立たされていた。しかし助けなど来ない。誰もいない。わたしはまゆのとった行動に不安を抱きまゆを呼びかける。

 

「まゆ……!?」

「大丈夫。怖くない、怖くない……二人共ッ!」

『リボンバリアッ!』

『プニプニバリアッ!』

「ガオッ……!?」

 

 ガオガオーンの四方を囲むようにフレンディ達のバリアが展開された。

 これはフレンディとワンダフルのバリア。まさかここで待っていたなんて。よく見たら、ニコ様もいるじゃない。もしまゆが失敗していたらどうなっていたか。

 

「ありがとう二人共!」

「上手くいってよかったよ。お疲れ様。リリアン」

「ユキも良かったね〜! ……って、ユキが足怪我してる!? 大丈夫わん!?」

「これぐらい問題ないにゃ」

「あ、ちょっとユキっ……」

 

 わたしはまゆの腕から脱出してパクトの力で人へと変わる。

 

「わたしだって、足でまといにはなりたくないわ」

 

 シャイニーキャッツパクトを構えて、わたしもプリキュアへ変身した。

 

「ガオガオーンは四人じゃないと戻せない。呑気に休んでなんていられないわ」

「無理はしないでね。ニャミー」

「分かってる」

 

 隣に居てくれる。

 ただそれだけで。わたしはまだ戦える。

 

「ガオガオォォォォ!!」

 

 バリアを突破したガオガオーンが迫ってくる。スピードとパワーは今だ健在で、全員回避はしているが、その場の地面にクレーターができるほど。

 

「っ……!」

 

 着地をしている間にもうガオガオーンは次の攻撃に入っている。

 

「しまっ……痛っ!」

「ニャミーッ!」

 

 まだ残っている足の痛みのせいで避けられない。直撃を覚悟してわたしは目を閉じる。

 

「ッ!」

「ひにゃっ!?」

 

 急に体が軽くなったかと思えばいつの間にかリリアンがわたしを抱えて飛んでいた。まるで怪盗に攫われたように。月夜の夜も相まってわたしはリリアンの顔を見つめてしまう。

 

「足、まだ痛いんだよね。大丈夫。私が絶対守るから」

「…………にゃぅん」

 

 その真剣な顔付きについ腑抜けた返事が出てしまう。その凛々しい顔を見てしまうとわたしの胸は高鳴った。身を委ねてしまうほどに強く真っ直ぐな眼差し。身を翻し、ガルガルと向き合う。

 

「ごめん! この子は渡せないの! 私の大切な家族だから!」

「ガルガルァァァア!!」

 

 囚われ姫のようにわたしはただ抱えられている。いつか見た時の光景とは逆になった景色がそこにあった。

 しかし執拗にわたしとリリアンを狙ってくる。ワンダフルとフレンディには目もくれずひたすらにわたし達を攻撃してくる。

 

「なんでリリアン達ばっかり……!?」

「これじゃ、キャッスルも使えないよ! フレンディ!?」

「さっき、リリアンが一人で助けに行っちゃったから標的がリリアンになってるんだ! 私達で助けよう!」

「わんっ!」

 

 フレンディとワンダフルはすかさずわたし達の目の前へ立ち塞がってくれる。恐らく装飾の多いわたし達を狙い始めている。もしくはさっきリリアンが引き付けてくれたアミティーリボンタンバリンのせいかもしれないけれど、今はガオガオーンの動きを止めるしかない。

 

『リボンバリア!』

『プニプニバリア!』

 

 再度バリアを展開して足止めしてくれた。これなら、キャッスルを使う隙を作れる。

 

「ニコ様! …………っ!?」

「っ危ない!」

「ガオガオォォォォォォォォ!」

「わん!?」

「しまった!」

 

 ガオガオーンのパワーが上がっている。足止めされていたはずのバリアを軽々と打ち破った。

 

「っ!」

 

 鋭い鉤爪の斬撃が飛んでくる。リリアンもわたしを抱き抱えたままじゃ動きも制限される。どうすれば。

 

「! ……リリアン、わたしに考えがあるわ」

「え、でもその怪我じゃ……」

「大丈夫。足は使わないわ。だから、──────」

 

 リリアンはわたしの案を聞くと少し驚いたように目を開いたが、しっかりと真剣な顔で頷いてくれた。

 

「うん。わかった。二人なら……」

「怖くない。でしょ?」

「ガオガオォォォォ!!」

 

 ガオガオーンは一直線にわたし達に突っ込んでくる。

 

「リリアン! ニャミー!」

「大丈夫! なんとかする! ニャミー!」

『ヘルプ、キラリンアニマル。スワン!』

 

 リリアンの腕の中に収まっていたわたしはタンバリンを使いスワンの力で高く飛翔リリアンは左右に展開。繋いでいた手には『リリアンネット』の蔦。突っ込んできたガオガオーンの目の前に網状に展開して、捕縛する。

 

「ガオッ!? ……グルルルッ……ガオガオォォォォ!」

「ニャミー! 拘束して!」

「分かってる!」

 

 スワンの羽を羽ばたかせ、ガオガオーンの周りを旋回する。抵抗してくるガオガオーンの攻撃を避けながら、手足を『リリアンネット』で縛り付ける。正面の動きはリリアンが止めてくれる。わたしはこれ以上暴れないように手足を縛り付ける。

 

「いいわよ! リリアン!」

「うん! ニコ様お願いします!」

 

 拘束されたガオガオーンは狙い通りに蔦が絡まって身動きが取れない。ワンダフルの隣にいたニコ様はその声に応える。

 

「皆にニコの力をッ!」

『ひらけ! ニコエボリューション!!』

 

 ニコ様とわたし達四人の掛け声に反応し現れたダイヤモンドリボンキャッスルが開場する。解き放たれたニコ様の力はわたし達を新たな絆の戦士『ダイヤモンドリボンスタイル』へと変化させる。

 

『届け! 私たちの想い!』

 

 そして、心を一つに手を結び紡いだ。

 

『プリキュア・エターナルキズナシャワーッ!』

「──────!!」

 

 無数の絆の力が飽和してガオガオーンを包み込む。

 忌々しい闇の力が浄化され、ニコアニマルが元の姿に戻り、リリアンの腕に収まる。

 元に戻ったニコアニマルはぼんやりとフレンディ達を見つめるとゆっくりと起き上がった。リリアンとフレンディが目を合わせると、キラニコトランクを取り出した。

 

「おいで」

 

 心地よい鈴の音を二回鳴らして、ニコアニマルをニコガーデンへ迎え入れる。元に戻ったニコアニマルを優しく撫でてその扉へと誘う。

 

「おうちに、おかえり」

 

 安からに眠るように、ニコアニマルはトランクの中へと吸い込まれて行った。わたし達全員が変身解除をすると、全く同時に地面へへたり込んだ。

 

「終わった〜……凄い疲労感……」

「わぅぅ……もうお散歩する体力なんてないよ〜」

「もう夜だから無理だよこむぎ。それよりもお母さん達になんて説明しようかな」

「そうだね。ママになんて言ったら……」

「そこは上手にやるしかないわね」

 

 後からやってきた悟と共に下山する中、全員で親への言い訳を考えるのに必死だった。

 

 …………

 

「おぉ〜い、ザクロ〜。またアイツらにやれたのか?」

「…………」

 

 ザクロが一人でたそがれていた時、トラメが後ろからやってきた。

 

「なんだよ、無視かよ」

「……」

 

 リリアンの顔が脳裏に浮かぶ。あの狩人のような瞳よりももっと自分に向けた悲しそうな顔が。

 

『自分が地獄を見たからって他のだれかにそれを押し付けていいってことにはならないと思う』

 

 あの時の顔は完全に慈悲の顔。自分達を哀れみ、思いやり、同情されていた時の顔だ。年端もいかない、自分達よりも短い命に馬鹿にされた。ザクロの心に深く刻まれたそれを何か諭すような言葉だった。

 

「ならこの怒りは、どこへ向けたらいいんだい?」

 

 星空に手を当て、握り潰す。爪がくい込んで手のひらから血が零れる。散々見てきた赤い血。自分の中にも人間の中にも流れるもの。

 

「ねぇ、トラメ」

「ん?」

「アタシ達って『仲間』だよね?」

「当たり前だろ。俺達は『仲間』だ」

 

 そう。『仲間』。

 ザクロの思っている『それ』ではない。

 

「なら、いつか。アンタにも味わわせてやるよ」

「ぉ?」

 

 手のひらの血を投げ捨てると、ザクロは立ち上がる。

 

「帰るよ。トラメ」

「は? ……っおい! なんだよ! せっかく迎えきてやったのに! 待てよ! ガオウ様に言いつけるぞ!」

 

 …………

 

「あ〜〜〜も〜〜〜! ほんとに良かったよ〜! ユキ! 一時はどうなるかと思ったよ〜!」

「ちょっ……と、まゆってば落ち着いて……」

 

 家に帰ってきてからというものの、ずっとまゆはこの調子。ユキは少し嫌がるも、本心では安心しているので右手と左手で動作が違う。

 すみれには怒られはしたが、なんとか誤魔化すことに成功した。というよりは許して貰えた。

 そうして戻ってきた部屋に入った瞬間、まゆはユキに縋るように抱きついた。いつものように猫吸いのように頭を擦り付けて来る。これではどっちがネコか分からない。

 

「ほんとに……っ、よかったよ……ユキ」

 

 震えた声と共に、腕の力がほんの少し強くなる。ユキはあとから聞いた話でまゆが本当に動揺していたといろはから聞いていた。それこそ、いろは達に反論するほどに。ユキはそんな思いをさせてしまったこと。1人で解決できない弱い自分を呪った。

 

「ご───」

 

 喉元まで昇ってきた謝罪の言葉。しかし、ここで謝ったとしても貴方はどうせ許してくれる。そう感じるし、そう分かってしまう。だってそれがまゆの優しさだから。

 

「今日はユキのして欲しいことなんでも聞くからね!」

「え?」

 

 まゆの言葉にユキは固まってしまった。だが、顔は本気の顔をしている。余程自分に負担をかけたと思っているのだろう。ユキは今日の事はもう微塵も気にしていないのに。

 

「……ほんとになんでも言っていいの?」

「うん! だって、今日はほんとに酷い思いさせちゃったからちょっとでもユキが安心するなら私なんでも……」

「………………じゃぁ、ん」

 

 と、ユキは両手を広げた。

 

「ユキ?」

「吸って」

「え?」

「吸って」

「………………え?」

 

 突然のユキの甘えっぷりにまゆは固まってしまった。

 吸う? 吸うっていうのはそういうこと? 

 頭の中でぐるぐる回る。真面目な思考と邪な思考。ユキの顔を見るに多分邪な思考の方が正しい。

 

「い、いいの……? 足……大丈夫?」

「何でもしてくれるんでしょう?」

 

 迎え入れる準備は万端。両手を広げたユキに吸い込まれるようにしてまゆは恐る恐るその腕の中へ入っていった。

 

「んっ……」

 

 とりあえずの挨拶のような口付け。顔を離して見合うとユキは頬を少し染めている。

 

「こっちの意味で……いいんだよね?」

「えぇ、そうよ。もっとして」

「っ……!」

 

 上目遣いのユキに刺激されてしまったまゆはそのまままるで呑み込まれるようにユキの上に被さった。

 

「ねぇ、ユキ。やっぱり怖かった?」

 

 啄むように、確かめるように、二人は互いの唇を擦り合わせる。ユキの腕がまゆを逃げないように閉じ込めてくる。服にシワができるほど握っていて爪がくい込んでいる。

 

「…………かもしれないわね。本当は痩せ我慢していただけかも」

 

 首筋に舌が這ってきた。猫の毛ずくろいみたいに丁寧に舌を這わせる。そんな事はしなくて良い、とユキはまゆの顔を掴んでまた舌を絡めてくる。突然の事で少し驚きくぐもった声がユキを昂らせる。

 

「やっぱり怖かったんだね……良かった」

 

 口を離すと透明な糸が二人を繋ぐ。まゆの言葉にユキはゆっくり首を傾げた。

 

「良かった?」

 

 まゆはゆっくり微笑んでユキを抱き締める。

 

「だって、助け出した時、本当になんでもなさそうだったからすごい心配してたんだよ? 皆に弱い所を見せなくないのは分かるけど、私の前でだけはこうして甘えてくれるから」

「……まゆ……」

 

 ごめんね。ありがとう。とユキの頭をゆっくり撫でてくれる。甘やかされるのは慣れているが、心配されるのは慣れていない。いつもとは違う心の温かさに少しむず痒くなる。でも、この温かさはあの時から貰ったもの。あの場所から攫って(すくって)くれたまゆの温度。

 だから、ユキはちゃんと逃さないよう抱き留める。

 

「まゆ、暖かい」

「ふふっ、ちょっと子供みたいだね」

「からかわないで」

 

 少しむくれるユキの顔。まゆはふっ、と顔を緩めてしまう。

 

「でもね。ユキがどうしても弱った時は私が傍に居てあげたいの。だから、ユキ。どうしようもなくなった時は私に頼ってね?」

 

 優しく微笑みかけるとユキはそれにちゃんと応えてくれる。

 

「なら、責任もって最後までシて」

 

 そう言ってまた両腕を広げた。

 

「う、うんっ」

 

 そうしてまゆはまたユキの中に溶ける。

 

「ぁ……んっ……ふ……ん……」

 

 舌を絡めるのは慣れてきた。最初の頃はお互い慣れなくて舌を動かすのが精一杯だった。今はもうそんなことは無い。髪留めが解けて、ユキの顔に髪がかかる。

 

「ん……っ……ふふっ……」

「ユキ?」

 

 ユキはその髪を拾い絡める、猫じゃらしを弄ぶネコのように。その艶やかな顔にまゆは息を飲む。ネコの状態でも人に成ってもその美しさは揺るがない。同性だって異性だって見惚れてしまう。

 

「もっと……シて? まゆ」

「っ……」

「あ……」

 

 今一度、首筋に唇を当てて、腰から手を下ろしていく、腰、お腹、下腹部、命の宿る苗床へ。ユキの滑らかな肌に手を滑らせる。手が移動する度にゾクゾクと何か体に走ってくる。つい声を抑えようと口を覆ってしまう。

 

「っ……んっ……や、まゆ……そこ……っ……」

「これ、こうやってゆっくり撫でられるの好きだよね。ユキ」

 

 そして、たどり着いた蜜壷の入口。分かりやすいくらいに濡れたその入口に指を当てる。

 

「あっ……! ……っ……」

 

 つい漏れてしまった声を抑えて、ユキは上目でまゆを見つめてしまった。

 

「動かすよ?」

「ぅん……」

 

 下から上へ、上から下へ、ゆっくり撫でていく。

 

「はぁ、っ……ぁぁ……」

 

 まるで体が溶けるように、この感覚だけは未だに慣れない。子供を作る以外の交尾の仕方。しかも同性での性行為。そんなもの前までは知識でしか無かった。

 

「は……んっ……ぁ……ま、ゆっ……!」

 

 それでも、見て聞くだけじゃなくて実際に感じて、体験して、経験して初めて知った。相手の心が流れてくる行為だということが。

 

「ユキ、可愛いよ」

「にゃぁっ……それ……だめぇっ……!」

 

 耳元で囁かれると流石のユキも蕩けてしまう。大好きな人に犯されているんだ。そんなものは当たり前だ。まゆが言葉を綴ると、段々と腰が上がっていく。

 

「ユキ大好きだよ」

「わたし……っも……まゆ……がすき……っ!」

 

 ナカの天井を撫でられてユキは限界に近づいた。

 

「ま、ゆっ……わたしっ───っっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 

 ユキは大きく体を仰け反らせて、まゆの温かさに包まれた。

 

「っはぁ……はぁ……」

「ユキ……」

「ま、ゆ……傍に……居て……まゆ……」

「うん。ずっと一緒だよ。ユキ」

 

 余韻に浸ったままユキはまゆへ縋り付く。この温かさだけは一生忘れられない。あの雪山から連れ去ってくれたまゆの温度はユキの宝物になってしまったのだから。

 

 …………

 

 翌日ニコガーデンへやってきたわたし達は昨日助けたニコアニマルの様子を見に来ていた。

 

「メェメェさん。昨日のニコアニマルさんは何処にいるの?」

「はい、お待ちしておりました。皆様。あちらで他のお仲間さんと遊んでおります。ご案内致します」

 

 どうやら、弱っていた昨日のニコアニマルはちゃんと回復したらしい。わたしの足の傷も大したものでは無かったし、盗んでいたものもどうやら持ち主の所へ帰って行ったらしい。それはそれでおかしな話だけれど。

 まぁ、でも今は、まゆが笑顔になってくれているだけで良い。あんな余裕のない顔はもう二度とみたくない。これからは、私がしっかりするべきだ。

 

「熱い視線を送るわね。ユキ?」

 

 隣から厄介な声が聞こえてくる。あまり言葉にしないで欲しいものね。嫌な所ばかり弄ってくるこのユニコーンは。

 

「なによ、動物観察なんて趣味が悪いわよ。ニコ様」

「昨日のまゆ! すっごくかっこよかったもんね! いろはから習った、かいとぅ? みたいだった!」

 

 次いでこむぎといろはがやってきた。

 

「何で怪盗なのよ」

「わん? だって、しゅばば! って動いたり、びゅ〜ん! って飛んだりしてたわん!」

「そんなのあなた達だって出来るでしょう」

「そして、ユキはずっとまゆの事見てたわん!」

「なっ!? なんでそんなところばっかり見てるのよ! こむぎ!」

「ふっふっふっ、こむぎ、その怪盗に因んでこういう時にね。うってつけのセリフがあるのですよ」

「わん?」

 

 得意げに指を振りながらそう言って、いろはがわたしの前に立ち腕を組んだ。

 

「まゆちゃんはユキちゃんの大事なものを盗んでいきました」

「うぇ!? ナニナニ!?」

「……何よいきなり」

 

 無駄にドヤ顔なのが腹立つけど、一応最後まで聞く。

 

「それは……ユキちゃんの〜心ですッ!」

 

 ズビシッ! 、とオノマトペが聞こえてきた。こむぎが隣でいろはへ黄色い声をあげる中、まぁだいたい分かっているセリフが飛んできたので適当にあしらった。

 

「はぁ……馬鹿な事言わないで」

「ひどいっ!? めチョック!」

 

 そんなもの。もうとっくに盗まれてる。

 むしろ捧げているぐらい。

 

「いろはちゃ〜ん! ニコアニマル、元気になったよ〜!」

「あ、は〜い! こむぎ、挨拶しに行こう!」

「わん!」

 

 いろはとこむぎは手を繋いで走り出した。入れ替わるようにまゆがわたしの前にやってきた。

 

「いろはちゃん達と何話してたの?」

 

 小首を傾げるあなたの笑顔に絆されて。

 わたしはあなたに攫われた。

 さながら囚われ姫のよう。

 

「いいえ。なんでもないわ」

「なら、ユキも一緒に行こう」

「えぇ」

 

 盗られた心はすぐそこに。

 貴方の傍にいつまでも。

 わたしはあなたの手を取って。

 いつまでだって、何処までも。

 同じ光の方へ。

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