後編は亮も社会人になってからの話になります。
部屋に作った本棚を眺めながら、麗さんは難しそうに唸った。
「んー。いかにもわたしの本棚ではない感じが出ている……」
「そうですか?」
「亮くん、海外文学ばっかりなんだもん。ハードカバーのやつとか、すごい厚さだよねこれ……」
麗さんが一冊手に取る。
「ガルシア・マルケス「百年の孤独」ですね」
「……本当に読んだ?」
「読みましたよ。生まれる子供が同じ名前だったりして、お世辞にも読みやすいとは言えないですけど」
「ふーん……」
「麗さんは本入れないんですか? 結構、漫画読んでそうですけど」
「わたし、本は集めたくないの。すぐに売っちゃうタイプ」
「カズレーサーみたいですね」
「あの赤い人?」
「そうそう。本をすぐに売るらしいです」
「ふーん……あ、もうこんな時間。準備しないと」
なんでもない会話をした後、麗さんはキッチンへと向かった。
本格的に独り立ちをした麗さんは、新たにマンションの一室を借りた。前のところよりも広く部屋も二つある。そして僕のために本棚を設置してくれたのだ。
同棲するため、荷物をこうしてどんどん運んでいる。そして今日、その作業は大体終わったのであった。
月日が流れるのはあっという間だった。まだ少しだけ肌寒い頃の、春。麗さんは社会人になり、僕は大学生になった。
ついに「学生の彼氏」となってしまった。麗さんは笑ってくれたけど、正直、不安はある。だけど麗さんを幸せにするって決めたから、もう迷わない。前へ進むだけだ。
★
大学生になってから、生活のサイクルが変わった。バイトも在宅ワークも増やして、出来るだけ金銭面で貢献できるようにしている。料理もこっそり練習して、簡単なやつなら自分の分ぐらいは作れるようになった。ただ麗さんは作るのが本当に好きみたいで、基本的に作らない日はなかった。
麗さんは「好きなことしていいのに。一生に一度の大学生だよ?」なんて言っていたけれど、今の僕は麗さんのためならば、なんだってやりたいと思えた。
意外にも、最初の頃は社会人と学生の壁を感じることはあまりなかった。麗さんも特別なにかが変わった、というわけでもない。毎朝きっちりとしたスーツを来て出勤する姿も、見慣れてしまうものだった。
周りの人達も変わっていく。高校時代の友人はそれぞれの進路に進んだ。お隣だった恵理さんも、社会人となった。
ただ、事件……というと大げさだが、気になる出来事が一つある。
五月。GW前のことだった。
★
新人の歓迎会をする、というよくある飲み会であった。招待された麗さんは「あーあ。今日帰り遅くなるのかなー」「残業いやー」「連休前なのに憂鬱になっちゃうー」なんて愚痴りながら、その日出勤していた。麗さんは飲み会が好きじゃない、典型的な最近の若者のようだ。
夜の九時のことだった。突然、麗さんから電話がかかってきて「亮くん、迎えに来てくれる?」なんて言われて、びっくりした。
「どうしたんですか?」
「だって、酔っているし。一人で帰るの怖いもん。亮くんと一緒がいいもん」
何故か子供っぽい口調になっている。麗さんのビジュアルだとギャップがあるのに、何故だか似合うというか、可愛く思えてしまう。
「わかりました。待っていてください」
「やったー。早く来てね!」
「はいはい」
世話のやける人だな、と思いつつ悪い気はしない。
電車を乗り継いで、飲み屋へと向かう。駅の近くにある、大衆的な飲み屋だった。階段を上がって、店員に会社名を告げると、奥の引き戸の部屋へと案内された。
中へと入る。和室で、酒の臭いが充満していた。知らない大人がたくさんいて、臆してしまいそうになるが、仕方ない。
「えっと、麗さんを迎えに来ました」
名乗った方がいいのかなとか思ったが、女性従業員が「あらぁ、噂の年下彼氏?」「可愛いわねー」「ふうん、こういうのが好きなのねー」などと囃し立てられる。完全に酔っぱらっているな、この人達……。
新人だからか、麗さんは出入口が遠い奥の方へ座っていた。やっぱり座る場所とか、そういうのしっかりしているのかな。
「亮くん♡ ねえねえ、手貸してー」
「自分で立てないんですか……。あなたも酔っているなあ」
やれやれと思いつつ、麗さんに手を貸して立ち上がらせる。その時だった。
「なにー? もう帰っちゃうのー? 寂しいなぁ」
隣に座っていた、三十代ぐらいだろうか。そんな男が甘ったるい声を出しながら、麗さんに向かって手を伸ばし――あろうことか、胸に触れた。僕はほとんど反射的にその腕をパチン、と叩いて弾く。男は眉を寄せて、大声を上げた。
「んだぁ、このクソガキ! やんのかぁ!」
「っ!」
なにか言い返そうかと思ったけど、出来なかった。こんな人でも、麗さんが勤める会社の人間なんだ。僕のせいでトラブルになったらマズイ。
一触即発とした空気になったが「こらこら、やめなさい」と、別の方向から男の声が聞こえて、胸に触った男は舌打ちをしながら身を引いた。
「すまないね。社員の教育がなってなくて」
止めてくれたのは、四十代ぐらいの男だろうか。入口の近く、上座に座っているし、年齢的にも立場がある人間のような気がした。発言の内容的にも、この男や麗さんの上司なんじゃないだろうか。
「い、いえ」
「タクシーは手配してあるから、それに乗っていってね。送っていくよ」
「どうも……」
麗さんはもたれかかってくるから、ほとんど引っ張っていくような形で連れ出す。いくら酔っぱらっているとはいえ、この人が上司だったら、この状況は中々に失礼だ。目の前でイチャイチャしているように見えるし。小声で麗さんに告げた。
「麗さん、この人、上司ですよね? ちゃんとお礼言わないと……」
「えへへー。亮くんのにおい♡」
聞いちゃいない。この人、ちゃんとやっていけるかな……。
というか触られたことにも気がつかないくらいに酔っているなんて、危なすぎる。酒に吞まれるなとは、まさにこのことか。
危ない階段をなんとか降りると、お店の前にはタクシーが止まっていた。麗さんの上司に手招きされて、麗さんをタクシーの中へと入れた。代わりに僕がお礼をちゃんとした方がいいだろう。
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
「いやいや、迷惑かけたのは我々なので。ああ、それとこれ」
名刺を渡された。役職は本部長と書いてあった。やっぱり上司なのか。簡単に挨拶した後、僕もタクシーの中へと入った。
麗さんの上司は運転席の窓を軽く叩き、開けさせた。
「それじゃあ、この二人をよろしくお願いします」
見ると、会計のためのお金を渡していた。僕は慌てて声を上げる。
「そ、そんな、悪いですよ」
「いいって、いいって。迷惑かけた上、ちょっかい出すところまで見られちゃったからね。本当に、すまないね」
「そ、それは……」
「言い訳するわけじゃないけど、麗さんは美人だからね。独身の若手社員はつい意識してしまうんだ。でも、二度とああいうことがないようにするから、許してくれると幸いです。特に、さっきの社員には強く注意しておくので」
「……よろしくお願いします」
「はい。では、失礼するね。良い連休を」
麗さんの上司はそう言って、元の階段を上っていった。ふう、と俺は息をつく。タクシーに行先を告げる。車はゆったりと走り出した。
……社会に出れば、この手の問題があるとは聞いていた。だけど実際に目の当たりにすると、ショックであった。麗さんはあの男と連休開けてからも、顔を合わせるのかもしれない。仕事の絡みが多ければ、一緒に仕事することだってあるのだろう。そんなことを考えるだけで、鬱屈としてしまう。まあ、管理しているあの人がちゃんと理解して、知ってくれていそうだから、まだ大丈夫かもしれないけど……。
麗さんは僕の肩にもたれながら、すやすやと寝息を立てていた。疲れているのだろう。麗さんの手をぎゅっと握った。
「休んでいてください、麗さん」
僕がずっと、守りますから。
★
「ううー。なんか、フラフラする……」
次の日の朝。せっかくの連休初日だというのに、麗さんは二日酔いとなっていた。もどしたりはしていないから、そこまで重症ではないけれど、今日はあまり動けないだろう。僕は粥をつくって、麗さんが横になるベッドに向かった。
「お粥、作りましたので」
「ごめんね、迷惑かけてばっかりで」
「……ああいうこと、よくあったりするんですか?」
「ああいうこと?」
「その……触られたりとか」
「え? うんうん、ないよ」
「そうなんですか」
酔った勢いってやつか。それはそれで厄介だ。
「なにかあったの?」
「むしろ、麗さんがなにも覚えていないのがね……」
「うっ。正直言うとね、昨日、亮くんが迎えに来た時には、もう記憶がおぼろげなんだよね……」
「迎えに行くのはいいんですけど、危ないですから、お酒には気をつけてください」
「う、うん。気をつける……」
苦手なのがわかっているのに、勢いで飲んでしまったのだろう。危なっかしい人だ。
★
「亮くん、こっちこっち」
在宅ワークをしていると、ベッドの上で麗さんがそう言って手招きをするので、僕はパソコンを閉じて、横に座った。テレビはつけっぱなしで、旅番組が放送されていた。
「ほら、一緒にテレビみよ」
上体を起こした麗さんが僕の腕に抱きつく。柔らかい感触。赤いパジャマ。ほんのりと甘い香りが、鼻を刺激した。
「そんなに根詰めなくていいから」
「麗さんの力になりたいだけですよ。やっぱり頑張って働いているところを見ると、焦っちゃいます」
「いいんだよ、そんなこと。気持ちは嬉しいけどね。わたしは、亮くんが例え収入ゼロになったって、受け入れられちゃうんだから」
「それはそれで、ちょっと問題ですけどね」
「そうなの?」
「ニートになった僕を受け入れたら、ヒモですよ。麗さんは騙されていることになります」
「亮くんになら、騙されてもいいかなー」
「なにいっているんですか」
麗さんが甘い声を漏らしながら、僕にからみついてくる。パジャマのボタンがいくつか外されていて、爆乳の谷間がこれでもかと見せつけられる。深い、深い谷間だ。指なんて簡単に、すっぽりと入ってしまうだろう。
そう思ったから、僕は試しに人差し指を胸の谷間に突っ込んだ。柔らかな感触と共に、指が吸い込まれるように谷間へと消えていく。上下に動かすたびにポヨン、ポヨンと爆乳が波打って面白かった。
「ん♡ もう、なにしているの」
「指を入れています」
「すぐおっぱいにちょっかい出すんだから」
麗さんはそう言いながら、パイズリするみたいに、おっぱいを両手で掴んで僕の指を愛撫した。なんかエロい。
「気持ち良い?」
「うん。柔らかい」
「ねえ、亮くん」
「ん?」
「指より気持ちよくなれるもの、挟まないの……?」
色っぽい声を出してそんなことを言うから、思わず生唾を飲んだ。
「た、体調は大丈夫なんですか」
「うん。平気……だけど」
「だけど?」
「亮くんが、ほしいなって……♡」
そう言いながら、麗さんはパジャマのボタンを外していった。ブラをつけていなかったみたいで、溢れんばかりの爆乳がポヨンポヨン、と弾みながら現れた。昨日の光景が一瞬だけ横切る。僕は欲張りだ。男に触れられただけで、こんなにも許せない気持ちになる。
「ん、あ♡」
爆乳を両手で揉んで、乳首を舌で撫でる。先端がツンとしてきたところで、口に含んで吸い上げた。
「あ、あ♡ 亮くん、い、いい♡ あ♡」
おっぱいを愛撫しただけで、麗さんが大きな声を上げる。両腕でぎゅっと俺の頭を抑えて来た。ものすごい大きさに、溶けるような柔らかさ。この胸を好きにしていいのは自分だけだ。そんなことを思いながら、上から下へとおっぱいを堪能するように揉む。
「ん、あ♡ ねえ、亮くん」
「?」
「もしかして、胸、誰かに触られた……?」
僕は手を放して、どう言ったものかと考えた。だけど別に隠すことでもないだろうと思った。
「誰かわからないですけど。まあ、はい」
「そっか」
「なんでわかったんですか?」
「その時のこと、覚えてはいないけど……さっきの亮くんの感じと。それと、胸のこと、ちょっと言ってきていた人がいたから。で、でも、他の女性社員とか、怒ってくれていたし」
「本当に、前からこういうことなかったんですか?」
「うん。大丈夫。心配?」
「麗さん、魅力的ですから。煽情的でもあるので、心配ですね」
「せ、煽情的って……美人、とか。可愛いって言ってよ」
「可愛いは可愛いですけど。しょうがないじゃないですか。こんなエッチなもの、持っているんですから」
僕はそう言って、麗さんのおっぱいを再び揉む。
「あん♡ もう……♡ でも、そんなわたしのおっぱいが、君は好きなんでしょ?」
「そうですよ。だから、指より気持ち良くなるもの、挟んでください」
「ふふふ♡ えー? どこかなー?」
白々しい声を上げながら、麗さんは僕の勃起したペニスに、ふわふわのおっぱいを挟んだ。ポヨンポヨン、と両腕で上下にこする。とろけそうなほどの柔らかさと快感。麗さんは先端を舌で舐めながら、満足げに笑った。
「挟んだだけで、亮くん、顔がきもちよさそう」
「麗さんの、すごく大きくて柔らかいから……」
「もっとしてあげるね、パイズリ♡」
気持ち良い力加減も場所も知っている麗さんは、そう言ってパイズリを激しくしだした。ジュボジュボ♡ と強いフェラチオをしながら、おっぱいが激しい動きで上下していく。唾液と柔らかな肌の感触と体温が交じり合い、ペニスを甘く痺れさせた。
「もう、我慢出来ない」
「あ♡」
僕は麗さんを押し倒して、バックの体勢で挿入した。ズブズブズブ♡ と強引に一つになって、麗さんが仰け反りながら大きく喘いだ。
「ん、あああああ♡ 亮くんの、来た……♡」
ズンズンズン、といきなり激しく、何度もピストンした。いきなり奥を何度も突き上げられた麗さんは大きく喘ぎ、顔を赤くした。
「あ、あ、あ、あ♡ 亮くん、そんなに、焦らなくても……♡」
後ろからおっぱいを揉む。絞るように、乱暴に揉んだ。それでも麗さんは感じてくれて、シーツをぎゅっと握りしめた。グチョグチョの膣はしつこいくらいに、ペニスへ絡みついて来た。狭い中を何度も、何度もカクカクと突き上げる。
「あああ♡ おっぱい、気持ち良い♡ きも、ちいぃ♡」
「麗さん、麗さん!」
「君だけの、おっぱいだからぁ♡ マンコだからぁ♡ だから、もっと好きにして♡」
淫靡なことを口にする麗さんに、理性は呆気なく壊れた。僕は激しい腰振りをやめず、独占欲を剥き出しにするように、野性のような荒々しいセックスをした。両手で大きく実ったお尻を掴み、パンパン! と大きな音を立てながら叩く。
「あ、あ♡ お尻も、全部、好きにして♡ 亮くんなら、わたし、きもちいいから♡ 二人で、きもちよくなりたいからぁ♡」
誰にも渡さないように。快感を刻み込むように、奥を乱暴に突き上げる。それでも気持ち良い。麗さんのマンコは受け入れてくれる。ぎゅっと締め付けて、むしろもっと激しくてもいいと言わんばかりに、キュンキュンと絡みついてきた。
「麗さん、こういう叩かれるのも、好きなんですか」
「ん、あ♡ そ、それは……♡ あ♡」
「ほら、どっちなんですか」
僕も変なスイッチが入って、お尻を何度も叩いた。柔らかなお尻が波打って、パンパン!と大きな音を立てる。
「ああ♡ 好き、です♡ ん、あ♡ 亮くんに、乱暴にされて、わたし、興奮している♡あ、ああん♡」
セックスがラストスパートへと入る。ピストンをするたびに肌と肌がぶつかり合い、叩いた時と同じくらいの音が鳴る。ベッドがギシギシギシ! と激しさを物語るように軋み出し、僕は絶頂の階段を上っていく。
「出そう……!」
「あ、あ♡ いいよ、このまま、このまま♡」
「ああああ」
「来て、来て♡ ん、ああああああああああ♡」
ビクンビクン! と麗さんの体が震える。同時に、僕のペニスも射精して、中だしする。麗さんのおっぱいを両手で鷲掴みしながら、射精の快感に浸る。
「はあ、はあ……♡ えへへ、なんか、癖になっちゃうね♡」
麗さんは照れたように笑って、そう言った。
★
「誕生日おめでとう、亮くん。これで君も、二十歳だね」
「……えっと、はい」
「大人、大人」
「そうなんですかね……」
今日は奮発して、机の上にはデリバリーで頼んだピザと、ビールが置かれている。大きめなコップに入れられたビールはもちろんアルコール入りで、特にルール違反をしていない僕は人生で初めてお酒を飲むことになった。
いただきます、と恐る恐るビールを口にする。鋭い苦みとツンとしたアルコールが鼻に染みた。
……美味しいのか、これ? と疑問に思いながら、普通に飲んでいる麗さんを見る。
「どう?」
「正直、あんまり……」
「亮くんはお酒好きにならないかもね」
「かもしれないですね。そんなに興味があるわけでもないですし。麗さんはどうですか? あんまり飲んでいるところ、見たことないですけど」
「んー、普通。恵理とかと遊ぶ時に、ちょっと飲むくらいだから」
「恵理さんはどうなんですか?」
「お酒好きだよ。すっっごいアルコールに強いの」
まあ、なんかわかる気がした。大人な雰囲気の恵理さんとお酒はよく似合う。赤く火照ったりしたら、すごく色っぽいだろう。胸の谷間まで赤くなったりして――。
「今、ちょっとスケベなこと考えていたでしょ?」
「え? ち、違いますよ」
「怪しい」
「本当に違いますって」
「……今度、恵理も呼んで三人で飲もっか」
「え? いいんですか?」
「ほら、喜んだ」
「なっ!? ちょ、今のは卑怯ですよ、麗さん!」
「ふふふ♪ 冗談、ちょっとからかっただけ。亮くん、わかりやすくて正直者だね」
「……勘弁してください」
「でも本当に、今度は恵理も呼ぼうかなって。いいでしょ?」
「それは、もちろん」
「えへへ。それじゃあ、決まりだね」
社会人になっても、僕達は僕達だった。飲み会の件もあったし、なにも変わらないというわけにもいかないし、不安がないわけじゃない。それでも、今の僕に出来ることは、全力でやっていこうと思った。