スライムの女が、そっと腕を伸ばす。
ピンク色をしたその手は、ねっとりととろけており、透き通る。
「ボウヤ、私の名前はアズリアよ。覚えなくてもいいけど、よろしくね」
アズリアと名乗ったスライムの女は、そのままゆっくりとミルトンのおちんちんを覆いつくしてへばりつく、緋色のスライムに手をかける。
すると、そのスライムはアズリアの手にぺっとりとくっつき、まるで最初から同じものであったかのように同化する。
ニュルニュルニュル。アズリアの手と同化したスライムが集約していき、大きなボールのような手が出来上がる。その中にはミルトンのおちんちんから吐き出された白く濁ったものがぷかぷかと浮かぶ。
そうしてアズリアの腕を伝って、ポンプのように白いソレが運ばれていく。やがてアズリアの体内の方へと収まると、上機嫌な態度を見せた。
「うふふ……ボウヤのドーテー汁、美味しかったわ」
アズリアが煽情的に見下ろす、その先にはヒクヒクと悶絶したミルトンが仰向けに仰け反っていた。どうやらスライムを同化して吸収する過程でも、ついでとばかりに搾り取られていたらしい。
ミルトンのおちんちんの先から小さくまたピュっと漏れ出す。
スライム単体に絞られていたときとは比較にならない強烈だったのは間違いない。
「ああ、ごめんね。ザコザコおちんちんのボウヤには強すぎちゃったのかもね」
鼻で笑って、憔悴するミルトンを眺める。
ごめんね、と言いつつもその表情に謝罪する態度は微塵もない。
肉厚のあるぷるんぷるんのボディはただただ不敵な笑みを浮かべるばかりだ。
「ちょっと、勿体ないわ。こんなにピュッピュと垂れ流しっぱなしなんて」
依然として、ミルトンは全身に力が入らないのか、おちんちんを空に向かって突き立てたまま、弱々しい噴水のように白いおしっこを漏らす。
アズリアにとってはそれが勿体ないという認識らしい。
「はひぃ……はひぃっ」
まるで瀕死の羽虫。ピクピクと震えてはいるが、動く気配はない。
こんな様では、捕食してくれとでも言わんばかり。
意識も朦朧としていることだろう。
「ねえ? 逃げないの?」
クスクスと笑いながらアズリアが問いかける。ミルトンは返事する余裕もない。
おちんちんの先端はまだ白いソレがはみ出している。
アズリアはそれを眺めているだけで、ジュルリと舌なめずりしてしまう。
「お願いごと、聞いてあげたんだから別にいいわよね?」
抑えきれない感情を吐露するように、アズリアは返事の来ないと分かっている問いかけを続ける。そして、ねっとりととろける半液状の腕をミルトンに向けて伸ばす。
握る、という表現が正しかったのかもしれない。
アズリアの手はぬちょりぬちょりとミルトンのおちんちんに渦巻くようにまとわりついていき、絞り込む勢いでギュウゥゥと圧縮されていく。
傍から見たら、ミルトンのおちんちんの先がまたスライムに呑まれて、上下に吸い付かれているだけにしか見えなかったことだろう。それこそ先ほどまで緋色のスライムがやっていたように。ただ、ソレとは比にならなかった。
「ああああああぁぁぁぁああぁっっ!! おちんちんとれりゅうぅぅぅぅっっ!!」
突然カッと目を見開いたミルトンは絶叫した。動けないはずの全身をガクガクと揺らし、何秒と持たず、プチっと糸が切れるように白目を剥く。
アズリアの半透明な手の中には最後の一滴まで絞り切られたミルトンの白いおしっこが玉のように塊になっているのが明瞭に見えた。
もうとっくに緋色のスライムに絞られて空っぽと思われていたが、まだそんなに残っていたのかという驚きもある。根元から一気に出し尽くし、アズリアもご満悦だ。
ふと、そんなときだ。
さっきミルトンが緋色のスライムに襲われたときに地面に放り出された鞄から、何やら荷物が散乱してきていた。ナイフにランプに非常食に、そしてスクロール。
何の気なしに、アズリアはそのスクロールを拾い上げた。
見た目だけなら何のことはない、羊皮紙でできた巻物。しかし、どういうわけか不思議な魔力を感じ取り、興味がわいたようだ。
するするとスクロールを開くと、文字がじわじわと浮かび上がってきた。
【名前】ミルトン・フェイルローズ
【レベル】2
【種族】人間
【ステータス】
攻撃力:3
防御力:2
【スキル】無し
【状態】意識不明 / 疲労困憊
「へぇ、ミルトンって言うんだ。プッ。何この数値。こんな弱いものなの?」
文字列を認識できるのか、アズリアはそこに浮かび上がるミルトンの情報を読み取って思わず笑ってしまう。少ない情報ではあったが、それでもとるに足らないほどに弱い生き物であることは理解できた。
「こんなんじゃ放っておいただけで死んじゃうじゃない。可哀そ」
そこに転がっている、全裸で白目を剥いて、おちんちんをヒクヒクとさせたソレに視線を向ける。このままでは、他の野生のモンスターに見つかり、無残に食い殺されるのが目に見えていた。
「しょうがないわねぇ……うふふ♪」
アズリアは何を思ったのか。不意にまた笑い出し、動きそうにもないミルトンの身体へ、ニュルリと手を伸ばした……――
※ ※ ※
※ ※
※
ピチョン。
天井から雫がしたたり落ち、その水音が反響する。
そこは、洞窟の中のようだった。水の中にいるみたいに冷たく湿っぽい。
そんな中でミルトンは目を覚ます。衣類は一切なかったが、代わりに体の表面を何か柔らかなものが包み込んでおり、妙に心地よかった。
それはまるでスライムのような……。
そこまで気付いて、ミルトンは慌てて上半身を起こす。
ぬちゃぁ。地面と身体との間に粘性のある糸を引く。
力を入れても引きちぎれないくらい弾力もあり、ミルトンの身体はスライムのようなソレで張り付けにされていた。
「くぬぬぅ……」
立ち上がろうとすると、スライムの重さに負けて、腰が下りてしまう。
ぬちょり。糸に引っ張られるようにして、ミルトンの身体が地面に戻る。
「あら、やっと起きたのね、ミルトンくん」
遠目から声を掛けられ、ミルトンはキョロキョロと首を動かす。
すると天井からだら~んと垂れ下がる緋色の女体があった。上半身だけでコウモリのようにぶら下がるソレには見覚えがあった。
「あ、アズリア……」
「覚えててくれたのね。嬉しいわ」
にゅろろろんと天井から伸び、地面へとベチャッと落ち、大きな水たまりになったかと思えば、それはすぐさま半透明の女性の姿へと変貌する。
忘れようもない、ミルトンを襲った巨大なスライム女、アズリアだ。
「特製のベッドの寝心地はいかが? 人間って体温が下がっても死んじゃうんですものね。ホント、弱い弱い」
やれやれとオーバーなリアクションを見せる。その瞳には笑みを含んでいる。
「一体ボクをどうするつもりですか? それになんでボクの名前を……」
「――食べるためよ」
ミルトンの言葉を断ち切る勢いで凄みの効いた一言に、ミルトンは顔面蒼白になり、おびえ切った表情でじたばたと暴れだす。しかし、スライム状のソレはミルトンの身体にまとわりついたままで、思うように動くことができない。
「ひ、ひぃぃ……!」
「あは! あっははっ、ビビっちゃって。冗談よ冗談。……半分だけね」
言葉尻を聞こえないくらい弱めに、アズリアはニヤニヤと笑って見せる。
何処までが本気か分からないが、もがくミルトンを見下ろし、顔を近づける。
そして徐に、いつの間に持っていたのか、スクロールを突き出した。
「これ見させてもらったわ。アンタとっても弱いのね。こんなに弱くっちゃいつ死んでもおかしくないわよ。だからね、ちょっと鍛えてあげようと思ってね」
「ぇ……?」
ポカンとした表情を浮かべ、唖然とする。
そのスクロールに書いてあるのは相変わらずのミルトンの数値だ。
散々森の中でプレーンスライムを倒し続けて大して変わらなかったままの数値。
そんなものを改めて鼻先に突き付けられて、ミルトンもカァーっと顔が熱くなってしまう。こんなものを他人に見られたとなればこれ以上恥ずかしいことはない。
「なんで、なんで、なんで……」
歯の根が合わない調子で、ミルトンが言葉の続きを紡げない。
そんなミルトンを横目に、アズリアはその体にまとわりついていたスライム状のものを取り払う。
急に素肌が露出したことで冷気にさらされ、ビクリとする。覆いかぶさっていたスライムの下は一糸まとわぬ全裸だということを思い出させられた。
「それとも弱いままでいたいの? ミルトンくん」
状況はミルトンにとって最悪。
逃げ場が何処かも分からない洞窟の奥底で、装備どころか衣類もない。
スライム一匹すら倒せそうにないのに、目の前には人型の巨大スライム。
そのスライムに何をされたのかを忘れるほどミルトンもマヌケではない。
心はとうに屈服している。敵うはずのない相手を前にして何ができるのか。
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、生存するための手段を模索する。
「強く、なりたい……」
心の底からの願望でありながら、それは命乞いだった。
そのとき、生存本能だったのか、はたまた目の前に官能的な裸体を晒すアズリアがいたからかは定かではないが、ミルトンは完全なる無防備のその状態で、小さなおちんちんを勃起させていた。
それを汲んでか、アズリアは鼻で笑うようにフッと吹き出す。
「あっはっはっは! 分かったわ。それを合意とみなしてもいいのね?」
徐に、アズリアは手を持ち上げ、指揮者のように動かす。すると、その指揮に従うようにして、周囲に隠れていたであろうスライムたちが一斉に動き出し、ミルトンの体へと飛び掛かる。
べちょ。ぴちゃ。ぬちゃ。
再びミルトンの体がスライムまみれになったかと思いきや、不定形で半透明だったはずのスライムは次第にぐにゃぐにゃと形を変え、色も固さも変質していく。それはもうあっという間のことだった。
ミルトンの体にまとわりついていたスライムは鎧のような形状になっていた。固さも申し分なく、カチコチに強度を保っている。
元がスライムだったと思えないほど金属の質感も再現していた。
「ザコザコのミルトンくんに私からのプレゼントよ」
何なら、スライムに溶かされた装備より上質に思えた。近くの町でもこんなに良い装備を整えるのは難しいだろう。
「な、なに、これぇ!?」
ただし、鎧は鎧でも女性用の露出度の高いビキニアーマーだったのだが。
カバーできているのは貧相な肩回り、薄い胸板の辺り、そして腰回りだけ。筋肉隆々な戦士ならば見映えしただろうが、細身なミルトンにはかえって弱々しさを強調してしまう。
何より、一番肝心な股間部分に関しては完全無防備。腰の回りはしっかりしているのに、まるで穴の空いたオムツみたいに不格好で、ミルトンのみすぼらしいおちんちんは丸出しだ。
「よく似合ってるわよ。……くくくく」
「こんな装備、恥ずかしいです……」
縮こまるように、局部を隠しながら赤面する。どのパーツも身体にフィットしており、完全に張り付いてしまっているようで脱ぐにも脱げない。
「そんな装備でも防御力はお墨付きよ。ほら、見てみなさい」
【名前】ミルトン・フェイルローズ
【レベル】2
【種族】人間 繝「繝峨く
【ステータス】
攻撃力:7
防御力:102(+100) スライムアーマー
【スキル】無し
【状態】螟芽ウェ
再び突き付けられたスクロールの情報が更新されていた。
防御力の数値が驚くほどの変化しているのは一目瞭然だった。
明らかにミルトンの身に着けている鎧は高性能であることが分かる。
「す、すごい……本当に強い……」
ただし、ミルトンは見落としていた。
アズリアに装備させられた鎧のことばかり意識がいっており、その他の情報の中に崩れた文字が混在してしまっていることに。
例え視界に入っていたとしても読むことは叶わなかっただろうが。
「そのアーマーをつけていれば多少の攻撃は痛くもないわよ。安心安全が保障されたところで、さっそくだけど稽古の時間といきましょうか」
何処か不穏な笑みを見せつつも、アズリアは腕を振るう。
すると、肘から先がボトリと切断されたように落下する。その腕だったものは湿った地面の上にべちゃりと着地したかと思えば、形を変えていく。
それはミルトンにも見覚えのあるものだった。
「そ、それは……さっきの……!」
そう。森の中でミルトンに襲い掛かった緋色のスライムそのものだった。
「この子くらいは余裕で倒せるようにならないとね」
そういってミルトンへ向けて肉片スライムをけしかけるのだった……――