「いいわよ、その調子! ほら頑張って!」
「はぁ……はぁ……」
洞窟の中、アズリアの声援とミルトンの息遣いが聞こえていた。加えて、ぴちゃんぴちゃんと跳ねるような水音が響き渡っていく。
足場の悪いぬかるんだ地面の上で、ビキニアーマーを着させられたミルトンは延々と緋色のスライムの攻防を続けていた。
単調なやりとりではあるものの、ミルトンの攻撃力は大したことがなく、逆に防御力が無駄にあるせいで、緋色のスライムにダメージを与えられず、受けることもない不毛な戦いとなりつつあった。
しかし、戦闘経験の浅い駆け出し冒険者のミルトンにとって、これほど都合のいい修行もなかったことも確かだ。少なくとも、弱小のプレーンスライムと戦い続けるよりもずっと良い経験になっていた。
一般的な冒険者ならば格上のモンスターと戦い続けるのはリスクが高すぎる。ダメージも蓄積するし、長引けば長引くほどに状況は不利になる一方。その点、ダメージのないミルトンにはそのリスクがない。
おまけにミルトンの攻撃力では万が一にも倒してしまうこともないため、体力が続く限り、格上のモンスターと戦闘し続けられる。
無論のこと、体力が続く限り、という点は強調される。
「うわあぁっ!」
足をよろめかせてミルトンが体勢を崩す。受け損ねたらしい。いくらダメージがないとはいえ、衝撃までを受け流すには至らなかったのだ。
「あ~らあら、またつまづいちゃったのね。またペナルティよ」
アズリアがそう言うやいなや、地面から湧き出るようにしてスライムが現れ、ミルトンの足元からまとわりついてくる。ただでさえ不安定な体勢だったこともあり、ミルトンの体はぬかるんだ地面に倒れこんでしまう。
「ひぃぃっ、も、もういやだぁぁ!」
地面の上には既にスライムがカーペットのように広がっており、あっという間にミルトンはスライムの中へと取り込まれ、地面に張り付けられ、立ち上がることもできなくなってしまう。
すると、うにょうにょ、ぬちょぬちょとスライムがミルトンの体の上を這っていったかと思えば、股間のあたり、まるで無防備なミルトンのおちんちんの回りを取り囲んでいく。
ミルトンが初めて緋色のスライムに襲われたときと同じだ。
ぬっちょぐっちゅ、にちゅぬちゅ。ミルトンのおちんちんを絞り上げるような動きを繰り返し、その度にミルトンは体をよじる。
しかし、スライムに拘束された身体は逃げることを許さず、一切の抵抗もできないまま、ミルトンはおちんちんを延々と責め立てられる。やがて哀れなほど勃起したおちんちんからドピュッ、ボピュっと、僅かな精液を漏らす。
「ひぃぁぁっ♡ も、もう出ないのにぃぃ♡」
こんなものかと思ってしまうような量。おそらくそれまでも何度も搾り取られて精液の供給が追い付いていないのだろう。
緋色のスライムが精液を美味しそうに取り込むと、ミルトンの身体を拘束していたスライムはそのままミルトンを起こし、離れていった。
そうして先ほど同じようにミルトンと緋色のスライムが対峙する形になる。
「はぁ……、ひぃ……♡」
顔を真っ赤にさせて、足も生まれたての小鹿のようにガクガク。
おちんちんも勃起したままの状態で、先端からはトロリとした汁が滴る。
「いつまで呆けてんのよ。ほら、攻撃くるわよ?」
「くぅ……!」
アズリアの分身である緋色のスライムは容赦なくミルトンに襲い掛かる。
戦うための訓練だとアズリアは言っていた。それは確かで、ミルトンは身体で攻撃の仕方や防御の仕方を習得していた。何なら、森でプレーンスライムを倒していたときよりも強くなっている。
だが、どちらかといえば、スライムに弄られている回数の方がずっと多い。
強くするという口実で、ミルトンをいじめ倒すのが目的なのは明白だった。
ペナルティと称して誤魔化しているだけに過ぎない。
それでもミルトンは強くなろうと必死で戦う。
そばで眺めるアズリアはその健気さをただただあざ笑っていた。
ふと、ミルトンは横目で洞窟の壁に掛けられたソレに視線を寄せる。
【名前】ミルトン・フェイルローズ
【レベル】8
【種族】豸イ迥カ 人間
【ステータス】
攻撃力:17
防御力:112(+100) スライムアーマー
【スキル】無し
【状態】螟芽ウェ
それはミルトンの持っていたスクロールだ。見違えるようにとまではいかないにしても、その情報は確かに書き換わっており、鍛えられている実感が沸いた。
ところどころ読めない文字があるのは相変わらずだったが、元々安物だから調子が悪いだけだろう、とミルトンも納得していた。
日の当たらない洞窟の中は時間経過もはっきりとせず、どのくらい長いこと修行しているのかも分からなかったが、そのスクロールに書かれた情報だけがミルトンにとって唯一心の支えになっていたといっても過言ではない。
「よそ見しちゃダメよ」
「ぅわ……っ!」
次の瞬間にはまた緋色のスライムの体当たりにやられ、そしてまたペナルティという名のミルトン嬲りが始まる。かれこれこの流れも何度目だったか。
百で足りる数なのかすら分からないが、スライムに弄られ続けたミルトンの身体は少しずつ開発されていったのは間違いない。
「うわぁぁっ♡ ふわぁぁあ♡」
ちょっとした刺激だけで射精してしまう身体になっているのがその証拠だ。
こうして、アズリアの術中にハマっているとも知らずに、ミルトンはまんまと調教されていくのだった……――
※ ※ ※
※ ※
※
アズリアによるスライム稽古が開始されてどのくらい経過したのかは分からない。
ただ、ミルトンは小休止を挟み、どうにか呼吸を整えられていた。
依然として緋色のスライムにダメージを与えることはできていなかったものの、強くなれた実感だけは沸いていた。
【名前】ミルトン・フェイルローズ
【レベル】21
【種族】豸イ迥カ 人間
【ステータス】
攻撃力:33
防御力:127(+100) スライムアーマー
【スキル】螟芽コォ
【状態】正常
スクロールを見ると、まるで見違えるようだ。
ただスライムと延々攻撃と防御の繰り返しをしていただけで、こんなにも強くなれたなんて、ミルトンも自分の成長に驚きを隠せない。
「うふふ……随分と強くなってきたわね」
「あ、ありがとう……ございます」
相変わらずのビキニアーマー姿で、ミルトンはほんのり誇らしげに答える。
何百回スライムにおちんちんを責め立てられたかも数えていないが、一応は感謝の気持ちがあったのも確かだ。
未だ、どうしてスライムであるアズリアがミルトンを強くしようとしたのかという理由も分からず、半信半疑の状態ではあるものの、これならきっとそこいらのモンスターにだって負けないはず。そんな希望も芽生えていたくらい。
「じゃあ、稽古はこの辺りにして……」
カラン、カラン。洞窟の地面の上に金属製のソレが転がる。
いつから持っていたのか、はたまたずっと隠し持っていたのか。
ミルトンには当然見覚えがあった。ソレは自前のショートソードだ。こんなものでも手ぶらでいるよりかはずっとマシな代物。
「どのくらい強くなったか、本格的に見てあげる。その剣で私に一振りでも攻撃を当てることができたら洞窟の外まで連れてってあげるわ」
「ほ、本当ですか!?」
喜び勇んでミルトンは自分の剣に飛びつく。硬い感触が手になじむ。
アズリアには敵わないことは散々思い知らされている。だから逃げようにも逃げられないことも理解できていた。
これはミルトンにとってもう、またとないチャンスでもあった。
ずっと逃げ出したくても逃げ出そうとしなかったのは、それができないと思っていたから。だが、今こうして、一振りでも当てられたならここから逃げ出せる。
ミルトンの中に希望がワッと湧いたような気がした。
「防具もそのままでいいわ。痛いのはイヤでしょ? さ、掛かってきなさい」
アズリアが手のひらで来い来いと誘う。
武器もある。強い防具もある。アズリアに勝てる見込みはなくとも、たった一振り。たった一振り当てるだけでいい。
「たあぁぁっ!」
ミルトンが踏み込み、剣を振りかぶる。
距離は十分詰めた。このまま振り下ろすだけで当たる。腕も軽い。
シュンっ。カラン、カラン。
「えっ?」
そのとき、何が起きたのかはミルトンには分からなかった。
だって、ショートソードを思いっきり振り下ろしたはずなのに、目の前にいるアズリアは避けもせず、そこにいるのに全くの無傷。
そもそも、今の金属音は何だったのか。
まるで、ミルトンの背後にショートソードが落ちたかのような音だった。
「あ、れ……?」
腕が軽い、というのは比喩的表現ではなかった。
より正確に言えば、ミルトンの肘より先はなかった。
ショートソードを持っていたはずの両腕ごとなくなっていた。
まるで脆く、ちぎれてしまったかのよう。
「どうして……? ボクの、腕は……?」
状況を理解しがたく、ミルトンは振り返って自分の背後に何が落ちたのかを確認する。すると、そこに探しているものがあった。
ショートソードを握りしめた自分の両腕だ。
振りかぶったつもりなのに当たらないのも当然の話。何故ならショートソードはミルトンの背後に落ちてしまったのだから。
「なんでボクの腕が? どうしてこんなことに……」
唖然としたあまり、硬直してしまったミルトンに対し、アズリアは堪えきれそうにない笑いを一気に吹き出す。
「あっはははははははっ! 『どうして?』って? ずっと気付かなかったなんて、本当アンタって子はおばかさん♪」
自分の両腕が溶けている。その事実を受け入れられない。
ほんの少し前まで湧いてきていた自信ごと溶かされ落ちた。
「ミルトンくんの肉体は少しずつ私の肉体に浸食され、作り変えられていたのよ。今のあなたはもう人間であって人間じゃない。いわば、スライム人間よ」
「え? だって、ボクは、稽古して強くなって……それで……」
ミルトンの精神が瓦解していくかのようだった。絶望という言葉が相応しい。
口調がだんだん弱くなっていき、表情が引きつる。
逃げたい。逃げなきゃ。早く、早く。
途方もない恐怖に駆られ、ミルトンはアズリアに背を向けて、逃げ出そうとする。
が、しかし。一歩、二歩と進もうとした途端、膝から下が崩れ落ちる。
それは比喩的表現などではない。ミルトンの両足がドロリとスライムのように溶けて落ちていたのだ。
バランスがとれなくなり、ミルトンの体は固い地面へと叩きつけられる。
ビチャ。そんな音を立て、痛みもなくただミルトンの体が歪む。
まるで、形が不安定なスライムのように。
すぐさまミルトンはミルトンの形に戻るが、両腕と両足はない。
逃げようにも這って動くしかない。
「た、たすけ、いや、いやだぁ、だ、だれかぁ……」
言葉にもならない言葉を吐息のように吐き出し、必死になって地面を這うが、当然そんなのろのろとした動きで逃げ切れるはずもない。すぐ背後にはアズリアが迫る。
「うふふふふ……逃がすと思う? 面白い余興だったわ」
最初からアズリアはミルトンを逃がすつもりなんて毛頭もなかった。
稽古と称してミルトンを玩具のように弄び、自信をつけさせたところで一気に身も心も壊すつもりだったのだ。
「安心して。まだ人間の部分もあるから」
その言葉の通り、ミルトンの肉体にはまだ完全にスライム化していない部位は残っていた。ミルトンにとっては、だからどうしたとしか言いようがないが。
「ほぅら♪」
アズリアがミルトンの身体を起こし、正面を向かい合うようにして、そのまま壁にトンと押し付ける。するとミルトンの背中は壁にぴったりとくっつく。
それは言葉通りの意味で、今は別にスライムがまとわりついているというわけでもないのに、ミルトンの肉体は壁に貼り付けられた状態となっていた。
その状態だと、当然ミルトンは完全に無防備な状態をアズリアに晒すことになる。
腕もなく、足もない。壁にくっついているからそもそも動けない。そして、スライム化していないミルトンのおちんちんは無様なほど大きく勃起していた。
「あらあらら~、こんなときでも大きくしちゃってまあ」
ミルトンを見下ろしながらアズリアがせせら笑う。
こんな状態でも勃起してしまうほど責め立てたのは他でもないアズリアだ。
散々弄り倒されて、調教されきったミルトンのおちんちんは情けなくもアズリアに向けてピンと勃ってしまう。
「『鍛えて』あげた甲斐があったわ」
唯一人間として残された部位といえた。無論それも意図していたのだろう。