幻想的な雪が降り続けるクリスマスの日。インフィニット•ストラトス学園で行われているクリスマス会は、一学校のイベントとは思えないほどに豪奢だった。
体育館に列になって並べられている染み一つないテーブルクロスがかけられた長テーブルには、色鮮やかなサラダ、山盛りのフライドポテト、女子にはたまらない宝石のように輝いているスイーツ、そして中央に置かれている、存在感溢れる七面鳥の丸焼きだった。
少しリッチなカジュアルな格好の男子生徒や、まるでお姫様のように着飾った女子生徒はそんな豪勢な料理に舌鼓を打ちながら友達同士の会話に勤しんでいる。中には服をはだけさせ行為に勤しんでいるカップルもいた。この世界ならではだ。
「お、織斑くん。こっちにジュースお願い」
「、、、はい。ただいま」
この作品の主人公、織斑一夏も生徒会の仕事として給仕に励んでいた。しかし、この様子は明らかに異常だった。
「ねえ、、織斑くんやつれてない?」
「何かあったのかな、、?」
その顔には隈が出来ており、頬も若干凹んでいる。髪にも艶がない。しまいには目にも精気がなかった。
「るーるるる、るるるーー、、、」
しまいにはそんな不気味な歌を歌い出す始末だった。
遠巻きに見ている生徒達も、「箒ちゃん達に振られたのかな?」「チャンスだけど、とてもそんな空気じゃない」と触れず触らずのスタンスだ。まぁ暗黒讃歌を歌っている主人公はちょっとね。
そんな一夏だが、仕事はしっかりとしていた。給仕もそそなくこなすし、何かトラブルがあればその都度対応する。前世では社会人として過ごしていただけあって、そこら辺の切り替えはしっかりとしていた。
だが、、、一夏の心の中は、まるで前世の頃のように暗澹としていた。
♢♢♢♢♢
ー帰りたい。
クリスマス会にスタッフとして参加して数時間。俺の心の中はそれ一色だった。いや、ここまで来たのなら最後まで参加する次第ではあるけどさ。
他のスタッフの方(大人)には心配されて、顔色だけでも明るくしたほうがいいとメイクまでしてもらった。これでいつも通りに見え、、、ないな。みんなヤベェ奴を見たような顔をしているし。
(箒達、、、来てないのか)
軽く周りを見渡してみたが、俺の恋人達は一人も来てなかった。また心にモヤモヤが溜まる。
(多分、、これは俺への罰なんだろうな)
箒の好きだった人の真似をして、純潔まで奪って、、、俺最低野郎過ぎないか?
『いや、〇〇さんは芝居なんてしてなかったじゃないですか。処女だって、あっちから捧げてきたんですし』
ガイちゃん、、、悪いけど今は貴方と話す気になれない。
『聞いて。貴方に伝えたいことがあります。この世界はーーーーー』
ガイア様、、ごめんなさい。
俺はテレビのチャンネルを切るように無理矢理ガイちゃんの念話を切ると、会場の見回りを始めた。仕事だ、、仕事をすれば忘れられる、、、。
「ほおおおぉ、、随分とやさぐれているじゃないか織斑くぅん?」
「お前は、、、」
何やらねちっこい声が聞こえたので、振り向くとそこには、綺麗に並んだ四人組、、、四馬鹿だ。
「君が箒さん達に振られたと聞いて確認してみたが、、どうやらホントみたいだね」
「あんなに偉そうにしていたのに、ざまあないんだな!」
「しょ、しょ、所詮お前のその程度の人間だったんだろ!」
「まぁ俺はこうなると分かっていたけどな!」
ギャハハハと笑う四馬鹿だったが、今は構う余裕が無くてこの場を離れようとする。いや、平時でもあまり相手にしてなかったような、、いや、していたのか?よく分からなくなってきた。
「ふふん。やっと自分の身の程を知ったようだな。これに懲りたら一生教室の隅で縮こまっているがいい!ハハハハハ!!!」
「ーーーーーほお?そのセリフ、そっくり貴様に言ってやろうか?」
ピシリと会場中が凍る。四馬鹿だけではなく、俺や他の生徒達も。もう誰が来たかは分かるよな?
四馬鹿はギギギギと壊れたブリキのように首を動かす。何かの間違いだ。そんなはずはないーーーーー顔がその気持ちを表していた。
「貴様ら、、、クリスマスの日にまで問題を起こすとはな。もうここまで愚かだと笑うしかないな。ん?」
だがそこには鬼教官がいた。現実は無情である。
「いや、、それはその!違うんです!!」
「だっす!だすだす!!」
「ほう?何が違うんだ?」
「た、ただ俺たちはこい、、織斑君と仲良く話していただけで!!な、そうだよな織斑くん!!!」
嘆願の籠った四つの視線に晒されながら、俺は今日一番の笑顔で口を開いた。
「彼らは俺が恋人に振られたと馬鹿にしてきましたね。正直傷つきました」
「「「「織斑くぅぅぅぅん!!!???」」」
他の生徒達に迷惑がかかるし、コイツらには罰を受けてもらおう。決して図星をつかれてイラついたとか、友達みたいに馴れ馴れしくされてムカついたとかではない。
千冬姉が指を鳴らすと、いつもの体育教師が。コイツらは数秒で取り押さえられた。
「離せぇぇえ!!田中家の嫡男である僕にこんな狼藉許されないぞ!!」
「おでたちはこの日をすっごく待ち望んでいたんだな!」
「ほ、ほ、箒ちゃん達と仲良くなって、更にはイチャラブエッチできるはずだったのに!!」
「こんな事で台無しになるなんてやだぁ!!」
「ーーーほう?"こんなこと"だと?」
千冬姉が絶対零度の視線を向ける。あ、ヤバい。草タイプではないのに「効果は抜群だ!!」になりそう、、、。
「お前達には、"道徳"というものを一から叩き直さなくてはいけないな。喜べ、クリスマスは美人な女教師と一緒にいられるぞ?」
「いやだぁぁぁぁぁ!!!?」
そのまま四馬鹿達は体育教師にズルズルと引きずられながら連行されていった。女子からは拍手喝采が湧き上がったな。男子は震えているが、、、。
「全く、、面倒な知人を持つとお互い苦労するな?一夏」
「、、、そうだな」
「どうした一夏?」
「、、、、、」
千冬姉が励ましてくれたのに、俺は、、、。
いたたまれなくなって、その場を離れようとすると、千冬姉に頬を挟まれて顔を無理やり向けられた。
「よく聞け一夏。聞く気が無くても聞けよ?」
「ふぁ、ふぁい」
「、、、事の顛末は更識姉から聞いた」
「!!」
思わず逃げ出しそうになったが、頬を強く挟まれているためそれは叶わなかった。というか自由になったとしても、世界最強から逃げられる訳ないよな、、。
「まぁ、関係が多少ギクシャクするのは仕方ないだろう。この私にだって経験はない。だが、、、お前はそれでもこの事実を隠しておくのは不誠実だと思ったのだろう?自分を慕ってくれるあいつらに申し訳ないと」
「ふぁあ、、、」
そうだ。もしかしたら俺たちは十年、数十年と共に過ごすことになるかもしれないんだ。もしかしたら、墓場までずっと。
まぁ、、そんな未来は来ないだろうけどな。何しろ俺は、、、。
「落ち着け一夏。私は話を聞けと言った」
千冬姉は真剣な目で俺を見つめる。次第に俺の心は、水をかけられたかのように落ち着いていった。
「お前はあいつらを為に自分の重要な秘密を打ち明けたんだ。付き合っている男が、絶対に知られたくない秘密を告白してくれたんだぞ?そんなやつに惚れない女なんているものか」
ま、犯罪に関してはそうではないだろうな、と千冬姉は一言付け加える。
そうだろうか、、、こんな、、、陰キャでオタクな俺が、心から誰かに愛してもらえる事なんて、、やっぱりこのまま諦めーーー
「一夏!」
どうしたんだよ千冬姉そんな大声出して、、。会場のみんなもビクッってなったじゃないか。
「私には前世のお前が、女にモテてなかった事は聞いた。だから"恋"というものにピンと来てないと思うから教えてやる。私の特別授業だ。耳をかっぽじって聞けよ?」
千冬姉が俺の頬から手を離す。
「一夏、恋というのは理屈じゃないんだ。この人と一緒にいて楽しい。安心する。ずっと一緒にいたい、、、本能で感じる事こそが恋なんだ」
「本能、、、」
「ああ。私は前のお前がどんなやつなのかイマイチ分からん。だけどな織斑一夏」
ーーー光が差し込んでいく。深い闇の中に、一筋の光が。
「ーーー好きなんだろ?他でもない、お前自身があいつらを好きなんだろ?だったら諦めるな。最後の最後まで足掻け!それが「織斑一夏」という人間だろ!?」
そうだな、、、俺の人生、上手くいかない事ばかりだった。だけど、、、いつもうずくまっていたばかりじゃない。その度に、、立ち上がってこれたんだ。
ああ、、そうだよ。どんな形になろうとも、俺は、、彼女達と向き合わなくてはいけない。
ーーーだって好きなんだから。理由はそれだけで充分だ。
「決心はついたか?」
「ああ、、、ありがとう千冬姉。俺、、、最後まで諦めない」
「そうか。まぁ砕ける気持ちで言ってこい。もし振られたら、、私がお前を貰ってやる」
「ええ!?」
「冗談に決まっているだろう馬鹿者。、、ほら、来たぞ」
会場の中心から歓声が上がった。見ると、、、豪華なドレスを身に纏った箒達がいた。
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