お待たせしました。投稿です。
「一夏、早く!チケットが売り切れてしまうぞ!」
「分かったから落ち着けって箒。」
箒に手を引かれながら、俺は受付へと向かう。その後ろをやれやれといった感じでセシリア達が続く。
夏休みが始まって数日後、俺たちは都内の科学館へと来ていた。そこではとあるアーティストの展示会が開催されている。そのアーティストは木彫りで様々なものを作る人で、SNSで大変バズっているらしい。
「それにしても以外ですわね。箒さんがあの方のファンでしたなんて。」
「そうか?侍ガールと木彫りって結構マッチしていると思うんだが。」
そういうものでしょうか?とセシリアが可愛く首を傾げる。
そう。何を隠そう箒はこの展示会のアーティストの大ファンで、SNSもよくチェックしているらしい。その事を知ったときは、「箒もSNSを見るのか!?」と仰天したものだ。
「それにしてもあの人の作品ホント細かいよね~。最初見た時はびっくりしたもん!」
「流石日本人。手先が器用だな。」
シャルとラウラもワクワクしているようだ。自分の国の人が褒められて何だか嬉しいね。
「一夏、早く入ろう!」
「分かったからいい加減落ち着けって箒!」
箒のやついつになくハイテンションだな。ん?そう言えば鈴が大人しいな。
「、、、、、。」
「鈴、大丈夫か?」
「あ、一夏。」
何だか鈴の元気がない。どうしたのだろうか?食べ過ぎか?
「あー、ちょっとね。私ってあまり芸術に詳しくないじゃない?だからあんまり楽しめないんじゃないかって、、。」
なるほど、気持ちは分かる。俺も前世で両親に無理矢理美術館に引っ張られていった時、全然楽しくなかったもんな。あの時は美術品が全部石に見えたものだ。だけど今はーーーーーー
「鈴。」
「ふえ?」
「あまり強要するつもりじゃないが、人生楽しんだもの勝ちという言葉がある。もし楽しもうと思って鑑賞したら、案外その気になってしまうものかもしれないぜ。」
「一夏、、。」
「それにもしそれでも楽しめなかったら、俺が話し相手になってやるからさ。だからそんなに暗い顔をするなよ、鈴。」
これは俺の身勝手なエゴかもしれないが、俺は鈴に楽しんで欲しかった。そうやって楽しんだこと、意欲的に取り組んだことは、きっと自分の糧になると思うから。
「ーーーそうね。そういえばあんたってそういうやつだったわよね。」
そう言って鈴は顔を上げる。その顔は笑顔だった。
「ありがと一夏!あたし、少しは楽しんでみる!」
「おう!そうだな鈴!」
ルンルンとしながら展示会場へと向かう鈴。あの様子なら大丈夫そうだな。
「お見事ですわね。一夏さん。」
「そうか?ただかっこつけただけだと思うが。」
「いえ、確かに貴方はかっこよかったですわ。」
そう言って二コリと微笑むセシリア。会場の雰囲気も合わさって、まるで名匠が作った芸術作品のようだった。
「ホント、一夏って優しいよね~。」
「る!?」
なんといつの間にか近寄っていたシャルが俺の右腕に抱きついてきた。おおお、マシュマロのような柔らかいものが俺の右腕にいいいいい!?
「ああ!?ズルいですわシャルさん!」
更にはセシリアも俺の左腕を掴んだ。あああああ柔らかいぽよんぽよんが感じられるうううううううう。
「シャルさん、ホント抜け目ないですわね、、!」
「ゴメンね~。僕たちってスタートが遅かったから頑張らなきゃなって♪」
「ぐぬぬ、、。」
「おおいシャル!私がのけ者になっているんだが!?」
俺を挟んできゃいきゃいと騒ぐセシリア達。こんな美少女が俺を取り合って嬉しいやら恥ずかしいやら。
「ああっ!?何をしてるの二人共!抜け駆け禁止よ!」
「一夏、早く!」
「分かったから大声出すなよ二人共、、ホント。」
会場のショーケースには様々な作品が並んでいる。それにしても凄いなコレ、、本物そっくりだぞ。
「一夏一夏!この目玉焼き本物みたいだ!」
「おお、本当だ、、。え、コレ透明じゃないの?マジで?」
「一夏一夏!このコーヒー、まるで本当に注がれているみたいだ!」
「コーヒー豆から注がれているな。まるで時間が止まったみたいだぜ。」
箒が終始興奮しぱなっしだった。本当にこの人の作品が好きなんだな。まあ、気持ちは少し分かる。こんな見事な作品を見せられたらそりゃファンになるよな。
「一夏、これ見て!」
「お、なんだなんだ、、、おお、コレはテレビでやっていたやつだな。水が入っているように見えて、実は錯覚だったやつか。」
「これは本当に木なのか、、?ちゃんと湯気が出ているんだが?」
ラウラの気持ちも分かる。それほどまでにコレは「本物」だったからだ。
汁の表面に浮かぶ具材。
並々と注がれている汁。
そして確かに感じられる熱。
ーーーーー全部、そこにある。でもこれは、木だ。木でしかない。
「なんかさ、飲んだ気になるよね。」
シャルが笑う。
俺は小さく頷いた。
俺はもう一度その作品を見る。
温かいのに冷たい。生きているのに静止している。
「彫刻というのは、”止まった時間”を永遠にするための魔法なのかもしれないな。」
俺の言葉に、二人は意を得たりとばかりに頷いた。
それから俺たちは、作品を手で触ったり、木彫りと本物を見分けるクイズで頭をひねったりと思う存分展示を楽しんだ。クイズでどっちが正解かでセシリアと鈴がバチバチと火花を散らしていたのがヒヤッとしたけど、、。
「一夏、早く!次のクイズに行こう!」
「おう!」
箒は終始笑顔だった。展示作品も良かったけど、彼女の笑顔を見れただけでも来たかいがあったな。
「いやー、楽しかったな!」
「ああ!来てよかったな。」
数時間後、駅前の喫茶店で俺たちは展示会の余韻に包まれていた。
窓の外では夕日がビルの隙間に沈みかけ、テーブルに並んだアイスコーヒーの氷が、ゆっくりと音を立てていた。
「それにしてもさっきの卵のやつ、ホント凄かったよね~。どれも凄かったけど、あれが一番好きかも。」
シャルがアイスコーヒーを口にしながら、朗らかに笑う。彼女、鑑賞中ずっと驚いた顔をしていたからな。
「確かにあれは俺も好きだな。なんか食べられないのに食べ物の形をしているの、ちょっと複雑だけどリアルだった。」
自分でも、なぜあの作品が印象に残っているのか、まだうまく言葉にできなかった。俺に語彙力があれば、、!
「私はクイズが良かったな。どれも分かりづらくて、楽しめた。」
「ラウラさん、ずっとクイズに集中していましたものね。」
そのやり取りにテーブルが明るい笑いに包まれた。
その時、ずっと黙っていた鈴が呟いた。
「、、、、、私ね。美術鑑賞がずっと苦手だったんだ。」
全員の視線が自然と鈴に向く。
「美術館とかに行ってもさ、何がよくいいのか分からないし、先生が”ここがポイントです”って言うの逆に冷めちゃって。でも、今日来てよかった。」
「何でですの?」とセシリアが聞くと、鈴は小さく笑う。
「なんか”分からなくていい”と思えたの。あの目玉焼きの作品、全然わからなかったけど、「お腹すいた」って思った瞬間、ちょっと楽しかった。」
その感想にみんなが頬を緩める。セシリアはふっと笑って「それが一番正しいかんそうなのかもしれませんわね。」と言った。
街の外に明かりが灯り始める。美術館で見た奇想天外な作品が、まだそれぞれの心の中で揺れている。
コーヒーの香りと共に、夏休みの小さな会話が、夕暮れへと溶けていく。
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