※この作品はR-18です。

スイーツに恋しない   作:松本まつすけ

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第1話

 右を向いても、左を向いても、けたたましい。

 ゲーセンなんて大概何処もこんな感じだ。

 

 周囲から包み込まれるかのようなギターやドラムやピアノやら、あらゆる楽器を模した電子音の奏でる爆音、轟音、雑音の中、ほんの目と鼻の先から流れてくる音楽に気を集中させる。それがこのアーケードゲームのルール。

 

 クラシックコンサートなどでは有り得ないだろうこの環境で、テレビでもバラエティ番組くらいでしかあまり流れることもないだろう不規則に偏ったジャンルのこれに耳を研ぎ澄ませてそのリズミに乗り、精巧に模倣し音を刻むのだ。

 

 それは視認される音楽の世界。書き起こされた譜面をなぞる楽器の演奏とはまるで違う世界。このゲームのプレイヤーに楽器による演奏のスキルは必要とされない。

 

 動的に目の前を目まぐるしくおおよそ高速で移動していく譜面をなぞるだけ。動体視力であったり、反射神経であったり、記憶力であったり、あらゆる要素を兼ね備え、流れてくる音楽をただただ追従する。

 

 その光景は、この世界を知らない人間からしてみれば、まるで宇宙からの攻撃に応戦するかの如く、常識とは少し離れた世界のようにも映る。クリアの条件は精巧であること、そしてその報酬はリザルトのみ。

 

 他にはあってせいぜいプレイヤーのカスタマイズ性を広げるための要素の提供くらいのものだろうか。自分のキャラクターの衣装を着替えさせたり、ネットワーク上の対戦相手に発信するコメントを編集したり、おおよそ大体はゲーム本質にそこまで首を突っ込まない程度のものばかりだ。

 

 馴染みのない人間には到底理解できないのだろう。金払った上で得るものは電子データ。いかに苦労したところで対価とも思えない実物以外の何かしか残らないのだから。そのデータにどれだけの価値があるのか、それは本人にしか分からない。

 

 音楽が終了した頃、ゲームのモニターに煌びやかな演出と、パーフェクトの文字。スコア欄には1と沢山の0が並ぶ。

 

 ラストステージをものの見事に飾り、ハイスコアを達成し、小さくガッツポーズを作り、息をすぼめるように唸る。不意に後ろを振り向き、またゲーム画面に目を戻し、リザルト表示を進ませて消し、ゲームオーバーの画面まで進めると、数歩下がる。

 

 今度は左右も確認し、また数歩進み、ポケットから取り出したパスケースをゲーム筐体の読み取り機器に押し当てる。そしてまた、ゲームが始まる。

 

 このゲームに終わりと言える目的はほとんどない。

 

 ゲーム内に収録された楽曲を選択し、演奏し、こなし、クリアする、ただそれだけ。

 

 一応定期的にイベントが設けられて、用意されたミニゲームであったり、お題であったりをこなすことによって、また新しい楽曲が追加されていくこともあり、それを目的とすることもある。

 

 そして新しい楽曲をクリアするためにまた練習したり、満足するまでハイスコアを目指すのが大体だろう。いずれにせよ、根本的なところで音楽で遊ぶというコンセプトが外れることはない。

 

 同じようなジャンルと思われがちなパズルゲームや格闘ゲームのように乱入といった要素はそうはないが、いまどき、大概のゲームはオンラインで繋がっており、全国にいる同じようなライバルと顔を合わすこともなくスコアを競い合うことも時にはある。

 

 一昔前であれば、百円玉一枚持っていけば乱入してくる対戦相手に勝ち続ける限りは閉店間際までだって居座ることもできたが、昨今ではてんでそういった光景は見かけない。

 

 騒音の鳴り響く賑やかしいこの空間も実際のところは衰退しつつあるといっても過言ではないのかもしれない。要因などいくらでも考えられる。

 

 自宅ないし、携帯電話やスマートフォンなどで手軽気軽に遊べるいわゆるソーシャルゲームも増えてきたし、わざわざアミューズメント施設まで出向いてアーケードゲームに小銭を散財しようなどと思う世代が減ってきたこともあるだろう。あの手のソーシャルゲームは課金制で無料で遊べるものも多い。遊ぶたびに金のかかるアーケードゲームなど言語道断だろう。

 

 じっくりと遊ぶのなら据置型の家庭用ゲーム機、コンシューマゲームなどもまだまだ人気が根強い。クオリティの高さもさることながら、何十時間と言わず、何百時間何千時間と遊べる。同じほどの時間をアーケードゲームで遊ぶとなると誇張表現なしに、新作のゲーム機もソフトも複数購入できるだろう。

 

「ピローン」

 

 筐体から軽い電子音が流れる。

 

 画面を見ると対戦相手が現れたようだ。それを皮切りに一人また二人と対戦相手が増えていく。このスコアを競うというゲームの特性上、複数人対戦は比較的当たり前で、よほど時間帯が極端でなければ、オンラインで他プレイヤーとマッチングしないこともそうそうない。

 

 音楽が始まるまでのほんの少しの間に対戦相手達のデータが見れる。個性豊かなハンドルネームであったり、あらゆるカスタマイズされきったキャラクターであったり、まるで何も弄られていないデフォルト状態であったり、それは様々。ここから読み取れる情報はそこまで多くはなく、実際そこまで重要とも限らない。

 

 対戦相手の誰かが選曲したであろう楽曲が流れる。一応ゲーム上では有名な曲だが、おそらく知名度は一般人にそこまで知られていないであろう激しい曲が、夥しい譜面の波と共にゲームの中を支配する。

 

 これは前述のイベントで追加される曲で、しかもイベントの最後の方で登場するため立ち位置の関係上、ボス曲とまで呼ばれる曲だ。曲の長さなどいずれも大抵は二分程度のものなのだが、体感してみるとその倍くらいに感じられることもある。

 

 この曲も例外ではなく、降りかかる譜面は相当な物量なこともあり、時間が停止している錯覚も起きるくらいだ。

 

 しかし、終わってみればあっという間。言葉通りに叩きだしたスコアは9を先頭に様々な数字が羅列される。間違いなくハイスコアで、紛れもなくベストスコアだったが、対戦相手達のスコアと比較するといずれよりも劣り、あろうことかマッチングした誰よりも自分のスコアが下。つまりは最下位。

 

 ほんの数箇所をズラしてしまっただけでこの差だ。

 

 トップのスコアを叩きだしたプレイヤーは本名をそのままローマ字表記にしたような平凡なハンドルネームで、誰が使うかも分からない結構なマイナーなキャラクターをアイコンにしていた。

 

 正直、マッチングの段階でノーマークだったが、あからさまに完璧に近いコンピュータのようなプレーをしていたようだ。

 

 さすがに対戦相手を映し出すカメラなどはこのゲームには搭載されていないので向こうの様子は伺えないが、機械のような無表情で一つの作業をこなすようにプレーしていたのかもしれない。せいぜい、若干ニヤっと表情を変えていたくらいだろう。

 

 このように、人間とも思えないようなプレイヤーも全国に相当な数存在する。

 

 少しゲームを齧った程度の初心者から見たら何か反則的なことをしているんじゃないかとさえ思えてくるくらいに信じがたく、未知の領域に足を踏み入れた仙人とさえ認識されることだろう。

 

 ネットワークに繋がったオンラインゲームでは実は非常にありがちな話で、広い広い世界にいる人間が狭い狭い一つのゲームという範囲内に集約させていることもあってか、この人外の存在はある種、初心者狩りのような役割を果してしまっている場合もある。

 

 ちょっと対戦して自分の腕前を見ようなどという考えがいかに浅はかであるか。

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