意識的にせよ無意識的にせよ、目指すべき頂上の高さを思い知らせるのだから、出会うことは悲劇に近い。無論、そんなことを気にせず純粋に楽しむエンジョイ勢もいるわけだが。
何にしても才能の差、努力の差というのは何処かしらで歴然としてしまう。
世の中には、何年も掛けて上り詰める人もいれば、驚くべき早さで上達する人もいる。これはゲームの世界に限った話ではないが、熟練プレイヤーを打ち負かす初心者がいても珍しくないのが世界だ。
中には上り詰める道のりで精神をきたすような輩も少なくはない。
自分が上達するためだけにアーケードゲームを私有化するかのごとく気に食わない初心者プレイヤーを独断でアミューズメント施設から追い払おうとするような犯罪染みた行為にまで及んだり、自分の腕前に絶対的な自信を持ち自分以外のプレイヤーを見下してお山の大将のように振る舞ったりと存外、世間一般からみると常識が欠如しつつあるようにも思える。
アミューズメント施設なんて娯楽のためにあるのだから、そうそう殺伐するような場所ではないはずだ。しかし、いつ喧嘩が始まるかも分からないほどピリピリした空気も否めない。これでも昔よりマシという。
さすがに毎日が毎日喧嘩三昧なことはないし、あまりディープにのめりこまないライトな層も出入りすることも最近では多くなってきたので、昨今では言うほど殺伐などしていないのかもしれないが、少なくともこう思う。世間一般の常識からズレた世界だと。
「へぇー、こんなところにゲーセンできてたんだ」
「そうめう。めうが発見した穴場めう!」
出入り口付近で、ゲームの爆音に負けまいと声を張り上げる二人の女生徒らしき声がふと耳に届いた。
納得ならないリザルト画面をスキップしながら横目に見ると、そこには金髪のチャラそうな制服姿の女子高生らしき女の子と、ピンク髪をした何やら派手な色合いの服を身にまとった背の小さい子、多分中学生らしき女の子が揃って入店していた。
この中では喋ってる声は聞こえはするものの、さすがに会話の内容までは耳に入ってこない。
しかし見かけない顔なのでおそらく初めてこの店に訪れたくらいのことは見てとれた。
ピンクの髪の少女の方が嬉々として興奮気味に金髪の女子高生の腕を引っ張っている。何、別に珍しい光景じゃないはずだ。別にここは学生立ち入り禁止というわけでもないし、気軽に訪れてこそアミューズメント施設だ。
とはいえ、この薄暗い店の中、爆音の鳴り響くこの場所に女子高生や中学生がうろつくというのも不釣合いな気はする。これもある意味時代の流れというものなのだろうか。
「ここにはびすすもぼるるも置いてあるから楽しいめう」
「ちょ、そんなひっぱんなって! 分かった分かったから!」
ピンクの少女は随分と乗り気な様子。対して、金髪の子の方はまだこういう場にそれほど馴染んでいないようにも見えた。
「いぶぶ! これでセッションめう」
「はいはい、今日は付き合うって言ったもんね。で、あんたどっちやんの?」
「もちっ、今日はこっちめうっ」
二人が向かったのはギターを模したゲームとドラムを模したゲームだ。
この二つのゲーム筐体は連動していて、言葉通りにセッションプレーが可能となる。
一時はキーボードとも連動できたらしいが、あいにくとキーボードのゲームの方は難易度の高さゆえか、今ではバージョンアップもされず実質セッションも不可。ネットで検索して探さないと見つからないくらいに希少なものとなっている。
かといって、このギターもドラムも簡単なゲームかといえばそうでもない。
ギターはピックの代わりにピッキングレバーを倒して起こしてを繰り返し擬似的にオルタネイトする一方、もう片方の手でネックの位置にある5種類のボタンを本物のギターのように抑えたり、離したりを巧みにこなす必要がある。
ピックとネックの動作を合わせなければならないため、ちょっとでもズレるとミスと判定されてしまうし、ネックの離すタイミングもなかなかシビアなもので、次の譜面がきたときに別のネックに触れたままだと違う音として扱われるのでやはりミスとなってしまう。
それを片手の指先に求められるので運指が重要視される。難しいレベルの曲となるとそれだけで指が吊ってしまうくらい激しい動き方もある。
ドラムに至ってはセットが一式揃っている。楽器店で打っている電子ドラムの見た目とそう変わらない。ゲームから剥がせばそのまま本物のライブに持っていけるんじゃないだろうかというくらい本物のそれに近い。
ちゃんとシンバルもペダルもついていて、実際に操作する箇所は7つのパットと2つのペダル。両手と両足を器用に動かさなければならない。単純な難易度もさることながら、体力も問われる。簡単なレベルの曲ならいざ知らず、高難度ともなれば絶えず腕は振り続け、足も交互に踏み続けるということも稀ではない。
どうやら金髪の子はギター、ピンクの少女はドラムをやるようだ。慣れないうちは相当苦戦することだろう。
「パッセー」
ドラムの方の画面に少女のプレイヤーネームが虹色に表示される。いや、目の錯覚だろうか。
あのゲームではプレイした曲の難易度、プレーの上手さに応じてポイントを獲得でき、多くポイントを獲得できた曲上位50曲分の合計がそのプレイヤーのスキルのポイントとなり、このポイントによってプレイヤーのネームカラーが変動していくシステムだ。
そして虹色は最高クラスのネームカラーのはず。そんな馬鹿な。
「デイドリフルコンの一網打尽でいぶぶ二等兵めっためたなりー」
正気の沙汰か? ピンクの少女が曲の選択画面で青いクリップの曲を選んだ。あの曲はこのゲームをやり込んでいるもので知らないものはいないだろう高難度の曲だ。
低レベル譜面に設定しても素人には相当キツイはずだが。あろうことか、譜面選択画面で紫色をした難易度を選択している。あれはこのゲームでも一部にしか存在しない最もレベルの高い難度だ。まさかそんな。
そうこうしているうちに曲が始まる。
イントロはポツポツと軽いジャブのように譜面が降る。だが、それもほんの少しだけ。曲が開始すると同時に画面中央にレーザービームのような怒涛の譜面が落ちてくる。これもまだ軽いものだ。
ダダッ、ダダッとまたえらく小刻みな譜面が落ちてきたのも束の間、画面右端にレーザーのようなものが何度も何度も落ちてくる。無論これも譜面だが、ピンクの少女はそれをほとんど片手で軽く処理している。いや、おおよそ片手で処理しなければならないのだ。
何故なら右側に青いレーザーが降り注ぐ傍ら、左側にも細かい譜面が落ちてくる。右の青に集中しつつも交互に、交互に、手を切り替えなければここはこなせない。言うだけなら簡単かもしれないが、このきめ細かい連打を裁くのは並大抵のことではない。譜面を丸暗記したって普通なら腕が追いつかない。
なんだこの少女は、ゴリラか。
「エクセレント!!」
ゲーム画面の中でクマとスピーカーを融合させたような電子ボイスのマスコットキャラが声を張り上げる。こんな馬鹿なことがあってたまるものか。
あの少女が、まさかあの曲で一切のミスも出さないエクセレントという評価をとるなんて。
画面端に付いている曲の達成率を表記するゲージも黄色一色。1度でもミスすればその部分だけが青になるはずなのに、1ミリも青が見当たらないなんて。これはなんだ、白昼夢か?