※この作品はR-18です。

スイーツに恋しない   作:松本まつすけ

3 / 13
第3話

「うおいっ! めう! あんた本気出しすぎっ!」

 

 そう文句を言い放つ金髪の子。

 

 ピンクの少女に見とれてしまっていたが、こちらの画面も評価はSSランク。エクセレントには及ばないが、黄色一色でノーミスには変わらない。同じ曲でここまでついてこれたなら十分だろう。青譜面だが。

 

「にゅはは! めうの体が熱くなってきためう! オーバードライブめう! トライブーストめう!」

 

 すっかりハイテンションになったピンクのゴリラは最高難度の曲で勢いがとどまることなくとうとうプレミアムアンコールステージまで行き着いた。

 

 通常のプレーではこのゲームは1回で3曲までしか遊べないが、プレーの成績によってゲージが溜まり、そのゲージがMAXになるとアンコールステージという名の1曲がおまけされ、さらにアンコールステージにのみ出現する楽曲でノルマをこなすことにより、さらにプレミアムアンコールステージという次なるステージが待っている。

 

 何度かプレーしていれば素人でも一応は辿り着けるものだが、成績さえ良ければ簡単な曲でも構わないから狙ってそのステージまで進めようとしたら普通は難易度の低い曲を選択するものだ。

 

 逆を言えば、途中で失敗してしまうとその時点でアンコールステージへの道が閉ざされるので、よほどの自信がなければ、ましてや1曲目に高難度なんて選べない。

 

「すっかいすくれいぱーめうーっ!」

 

 いつの間にか二人のゲーム筐体の周りにはギャラリーが出来上がってきている。

 

 それもそうだ。あれだけ賑やかに騒いであれだけのプレーを見せているのだから。もはや早くも軽いアイドル化しつつある。

 

 ギャラリーの中にはどうやらあのゴリラを知っているものもいるらしく、やたらと馴れ馴れしくも距離を置いてテンションを上げている。

 

 確かにあれだけの腕前を持っているのなら有名でない方がおかしいか。こちらの方では見かけない顔だが、きっと彼女の地元ではさそがし大賑わいしていることだろう。

 

「はーっ、やれやれ……、めう、アタシ疲れたから先に帰るよ?」

「オッケーめう! めうはもう少しプレアンのスコア詰めしとくめう」

「あんたもほどほどにしときなさいよ」

 

 どれくらいやっていただろうか。ずっと集中して見ていたわけじゃないから分からないが、金髪の子が音を上げた様子。

 

 しかし、まだまだやるつもりなのかあのピンクの少女は。本当にゴリラ並みの体力じゃないか。一体あんな小さくて華奢な体の何処にそんなスタミナがあるというのか。

 

 ゲームなんて現実の疑似体験だというのにあれではまるで本物のドラマーにさえ見えてくる。まさか本当にドラマーじゃないだろうな。しかし、あんな中学生がバンド活動なんてするだろうか。

 

 一応世の中には小学生バンドなるものあったし、テレビデビューを皮切りにメジャデビューしてアニソンとか歌ったりなんてこともあったし、決してありえないものではない。

 

 それにしても凄い熱気になったものだ。元々こういう場所は常日頃から音量的な意味で相当騒がしいものだが、こうも人でごった返して賑やかになると居心地を悪くする人も少なからずいる。

 

 特に一人で訪れた人なんてそうだ。誰にも邪魔されることなく、集中してストイックにスコア詰め作業している最中なんかに集団で群れて入店してきた連中を疎ましく思うことが多いだろう。

 

 それこそ、犯罪紛いの手段で追い出すくらいに。

 

 大概の場合、集団で行動している連中に限って、ディープにゲームを楽しむことがなく、そういう場所に入り浸っている自分達に酔いしれているということも珍しくはない。

 

 空いているゲーム筐体でゲームをプレーしている人の物まねのジェスチャーしてゲラゲラ騒いだり、周囲を確認することもなく友人間で回しプレーの連コインなど、マナー違反も目立つ。

 

 逆に、こういう集団で行動している連中も縄張り意識を持っていて、自分たちのグループの外で何かがあると敏感に嗅ぎつけてくることもある。これがどういうことかって、ゲームに深く入り浸る気がないから他の真面目にプレーしているゲーマー達を見下しており、またゲーマーを陰湿でひ弱なものと認識しているから強気な態度に出てくるのだ。

 

 これもまた一触即発の空気の要因だろう。傍から見たら子供の喧嘩のように幼稚極まりない話なのだが、運営している側からすれば営業妨害の負のスパイラルでしかないだろう。酷い均衡状態もあったものだ。

 

「おい、そこのお嬢ちゃん」

「めう?」

 

 ギャラリーの波を割るようにして、ゲームをプレーし終えようとしていたピンクの少女の前にいかにも不良ですと自己紹介しているかのような風貌の学生らしき男たちが三人ほど現れた。

 

 どうやら縄張り意識の強い集団の方が現れてしまったようだ。

 

 既にギャラリーの何人かがどよどよとざわめき、ひそかに数人ほど逃げ帰っている様子も伺えた。

 

「楽しそうだなァ、おい。だがちょっとうるせえんだけどォ。みんなの場所だろォ?」

 

 ああ、ああ、なんて分かりやすいヤツだ。

 

 舌っ足らずで声を張り上げて威嚇している。いかにも頭の悪そうな口調で、多分何も考えていなさそうな喋り方だ。とうとう周囲はスマートフォンを構え始めた。

 

 パシャパシャと騒音の中でも聞こえるくらいのシャッター音がここまで聞こえた。

 

「なんですか? 暴力で訴えるのですか? 店員呼びますよ?」

 

 ギャラリーの一部が少女の前にさえぎるように現れる。なんだアレは。あの少女の親衛隊か何かか? ただでさえ面倒くさい状況に第三者が加わってきた。

 

「っせぇ! んじゃねェぞルァ!」

 

 何を言っているのか、多分近くにいても分からなかっただろうが、とりあえず何か吼えていた。

 

「マナーを守ってくださいよ。マナーを。小学生ですか?」

 

 冷静っぽく振る舞う。いかにも己の正義同士の対立のように思えるが、この光景の滑稽さは正直見るに堪えない。

 

 こういう雰囲気が一番苦手だ。一見して不良が悪で、それに噛み付いてきた奴が正義と思われがちだが、こういう場に置いて争いごとはいずれにせよ迷惑行為でしかない。

 

 喧嘩に発展したら面倒くさい。というか、今にも発展してしまいそうだ。

 親衛隊らしき男は大分強がっているが、かなりビビった様子を見せている。

 

 ああ、これも駄目だ。弱気な態度を見せると相手がすぐに調子に乗ってくる。調子に乗ると感情が高ぶって何をしでかすかも分からない。

 

 ギャラリーが嫌な方向にざわめきはじめている。

 

 暴力沙汰に走りそうなのに、誰も止めようとはしていない。

 

 中には怖くてどうしたらいいのか分からないのもいるだろうが、むしろこのまま喧嘩をおっぱじめて楽しいものを見せてくれと言わんばかりの連中も半々。

 

 おそらく一番ぽかんとしているのは少女だろう。

 

 台風の目とはよくいったもので、この二人の男がギンギンに険悪なムードをかもし出している中でずいぶんと違う空気をただよわせている。

 

 まあ、見た目も小さいし、何やら派手な格好もしているし、場違いといえば場違いな気はするが。それでもさすがに自分が原因で争いごとが起きようとしていることくらいは理解しているだろう。

 

 ああ、面倒くさい。しかし面倒くさい。

 

 だが、視界に店員の姿が見えてしまったことだし、仕方ない。ちょいと踵を返して、軽く小走りでその場を後にし、もの知らずな店員の肩を叩いて、怪訝そうな顔に向かって人差し指をちょいちょいとしながら一言二言を添える。

 

 そして、また踵を返して、タッタッタと渦中に飛び込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。