※この作品はR-18です。

スイーツに恋しない   作:松本まつすけ

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第5話

 店によって筐体のメンテナンスの状態は大幅に変わることもある。そういうのを考慮せずいきなり高難度でハイスコアを狙おうとして、ボタンが埋まったり、誤反応で落としてしまったりしたら目も当てられない。

 

 特にこのゲームはボタンも大きくバネの調子に左右されるし、見た目が可愛いゲームなので子供でもプレーすることはあるため、乱暴に扱われがちで本当にメンテナンスの酷いところとなると無反応だってありうる。

 

 見た目よりも結構デリケートなところがあるので、湿気を防ぐために筐体の中に乾燥剤を入れたり、バネを取り替えたりなどと面倒な手間を掛けることも多々。

 

 ところによっては稼動している期間も十何年とあるので、最近では機械そのものが不調気味で、変なところで処理落ちが頻発したり、運が悪いと画面が丸ごと停止してしまうようなバグも確認されている。

 

 ある程度は客側も許容しなければならないが、スコアを詰めるときにそういったバグが発生してしまうと裁判を起こしたくなるほど怒りを覚えるし、大変心臓に悪い。

 

 色々と懸念してみたが、ボタンの調子も悪くないし、酷い処理落ちはなさそうだ。

 

 1曲を終えるとゲーム画面内の端の方にゲージが表示され、ピコンと小粋な音を立てて満タンになり、ギャルゲーのような、はたまた少女マンガのようにキラキラとしたキャラクター達がわらわらと現れて、漫才のようなとても軽い会話を交わしていく。読み進めていくと、何事もなくいつものゲーム画面に戻る。

 

 そして適当な曲を選び、適当なオプションをつけてはまたいつものようにゲームを始める。その繰り返しだ。

 

 後ろにいる芽兎めうの様子を伺いつつも何プレーか終えた後、デデン!という大げさな効果音と演出と共に「???」と書かれたバナーが画面内に突如登場する。躊躇なく選択するとまたギャルゲーのような展開で物語が進んでいき、待ちに待っていたソレが姿を現す。このゲームのラスボスだ。曲名は読めない。おそらく造語だ。

 

 難易度は最上級。このゲームでこの曲と同じレベルの曲はあれど、このレベルより高い曲はない。

 

 このゲームの難易度といったら、全国大会出場者がその会場でクリア失敗し、製作者側が謝罪するという逸話があるくらいだ。そんなゲームの新しいボス曲というのだから期待せざるをえない。事前に先駆者がプレーしたところを録画しインターネット上にあげられた動画やそれらについたコメントなどを見る限りでは弱いのか弱くないのか判断に困る賛否両論なところがあり、どうともいえなかったが、さて。

 

 曲のスピードはなかなか速い。美しい旋律が流れたかと思えば、激しく叩きつけるような滝が降り注ぎ、次の瞬間には突然表記にはなかった減速が行われ、スピードが半分にまで落ち、譜面そのものものろのろと落ちてくる。

 

 ここはぬるいだろう、などど思ってはいけない。ゆるやかに右へ左へと回されていき、徐々に徐々に、その密度が濃くなり、キレイな階段のようなそれが猛烈に襲い掛かり、そこから突然スピードが元に戻され、また怒涛の滝が舞い戻ってくる。事前のコメントによればここを耐え切れば勝ちゲーなどと書いてあったがそれはとんでもない。

 

 きめ細やかな旋律にあわせて、鋭い譜面が降り注ぐ。先ほどの密度に比べればそうでもないのかもしれないが、捌ききるには目が追いついたってどうしようもないくらいで、わけの分からないものが降っているよう。こんなものが、立て続けに何度も何度もやってくる。これらは安易にこぼすことができない。

 

 コンボを繋いでゲージを一定まで溜めなければクリアにならないのだが、この曲は譜面の数が多すぎてゲージを1つ溜めるにも計算上では相当数コンボを繋がなければならず、また1回ミスしたときのゲージの減少量は上昇を上回る設定だ。

 

 下手をすれば、序盤の滝の時点でゲージが空っぽになってしまえば、このままゲージがクリアに至るどころか空っぽ付近で増えたり減ったりを繰り返すだけも当然ありうる話。さすがは最高レベルなだけはある。

 

「むっきゅん! 初見で銅のほしめう! すっごいめう!」

「一応事前に予習しておいたしな。初見じゃないよ」

「そりでもすっごいめう!」

「さあて、次はEDだったか……」

 

 この高難度の次ぐ曲なのだからさぞかし恐ろしい曲なのだろう、などということは思っていない。

 

 そもそもこのゲームではボス曲の後にエンディング曲がくるのはほぼ恒例行事で、ボスより強いという前例は今のところ前作くらいしかない。むしろ前例があるから疑わしいのかもしれないが、ストーリーの展開からしてこの後にそれほどヤバイものが来るようには思えない。

 

 そもそもこの曲がラスボスだと分かっている理由も、次がエンディング曲が分かっている理由も至極簡単なことで、もうすぐ発売するこのゲームのサウンドトラックに収録される曲リストに空欄が二箇所残っていたからでもあり、また既に動画も上がっているからでもある。ただ一応、まだエンディング曲の動画は見ていない。

 

 どのゲームでもまあ大体共通認識だろうが、このゲームは公式サイトからネタバレ禁止令が出ている。そのためストーリーの中身やその文章といったものをネット上にアップロードしないようにと釘刺されている。その禁止令は案外素直に守られており、実際にネット上でそれほどネタバレを見た記憶はない。

 

 ただ、ストーリーそのものではない曲と譜面に関しては逸早く動画として上がってくるので事前に予習などもできてしまう。ところが、エンディング曲に関してはちょっと別問題だ。

 

 分からない人には当然分からないのだが、曲が流れている横でムービー形式でゲームの内容が若干ネタバレしているパターンがある。危惧するまでもないことなのかもしれないが、一応ネタバレを避けるという意味あいで動画は見ていない。おそらく全く意味のないことだと思うが。

 

 先ほどから饒舌に喋りかけてくる後ろの芽兎めうが、ストーリーの内容ばかりは全くの無言になるのもそういうことだろう。こいつは中学生のくせに案外空気を読める奴のようだ。

 

「そういえばこの店ってもう一台あったっけ?」

「ぽぷぷ? こっちにあるめう」

「熱帯いける? 無理ならいいけど」

「ふみゅぅ? めうと勝負するめう?」

「どうせフォルダから選ぶだけだし、それに見てるだけじゃ退屈だろう?」

「むひゅひゅ……、その勝負のったなりぃ~! めうの腕前を見てつけてやるめう~!」

 

 正直あまり自信はないが、ここまで年下に気を遣わせておいてほったらかしにするのも返って気分が悪い。ネットワーク対戦ならまだしもあまりリアルにゲームで対戦することはしない方だが、まあいいだろう。付き合わせたんだから付き合わせてやろうじゃないか。

 

 芽兎めうがもう一つの筐体に向かう。早速とゲームを進めて対戦の準備を整える。

 

「ロカマチ待機めう!」

「よし、始めるか」

 

 このゲームの対戦はスコアで競い合う。どの曲のどの譜面でもカンストの値は決まっているので、確実に勝利を目指すならばあえて簡単な譜面を選ぶのも手段ではある。また曲によっては判定設定も異なるので、簡単なレベルであってもスコアが伸びないということもありうる。

 判定とはスコアを左右する要素だからな。見た目は同じであってもひとつ曲を変えただけでフレーム単位のズレにより恐ろしい差が生まれる。レベルだけでは難易度を判別することはできないのがこのゲームの難点といえる。

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