初見では特徴的な癖があったりで捌きづらい譜面もあるので、あまり誰もプレーしないようなマイナーな曲を選んでかく乱させる戦法をとってもよかったが、おそらく芽兎めうには通用しないだろう。無難に中難度で妥協しておくことにした。
早速と芽兎めうが乱入もとい、マッチングしてくる。とりあえずいつものように対戦相手のデータを見てみる。やはりというべきか、ゲーム内で行えるライセンスと呼ばれる検定試験のようなものを片っ端から全て合格していた。これはもう間違いなく、油断を許さない強敵だろう。ゴリラめ。
曲が始まる。集中せねば。ミスをしないだけでは勝負に勝てない。より精度を高めなければより高いスコアは得られない。一切のミスをせず、完璧に譜面をなぞる。それを心がける。密度は先ほどのラスボスに比べてしまえばスカスカもいいところだ。あれが滝ならばこちらは小雨にも満たない。
それが終わるのはあっさりだった。画面内に二人分のスコアが表示される。
「ぁ……」
後ろの方で芽兎めうの呆気に取れる声が聞こえた。
「1グレためう……」
「残念だったな」
「負けためう……」
結構落ち込んでいるようだが、明らかに僅差だ。これを負けと言っていいのかは正直分からない。
「もっかい勝負めう!」
ふんふんと鼻息荒めに言う。まあそうだろうな。負けず嫌いなんだな、こいつは。
次の曲を選択する。今度も同じくらいの難易度だ。
「むっきゅん! 勝っためう~!」
「よくソフランで光らせたもんだな」
「むっふっふ~」
そんな調子で勝ったり負けたりあるいは引き分けたりを繰り返しながらも、ゲームのストーリーは進展していき、いよいよエンディングを飾る曲が登場する。まさにエンディングにふさわしい曲だ。
「おめでとうめう!」
「ああ、なんだかここまで長かった気がするよ」
当初の目的も案外滞りなく果たせた。新しい店も開拓できたし、芽兎めうには感謝しなければならないだろう。昨今はこういった店は閉店していくところが多く、なかなか新しい場所を開拓に乗り出すのは難しい。
その上、たまたま見つけた店にやりたいゲームがあるかといえばそうでもなかったりする。
オンラインに繋いだ機種をネットを介在してアップデートするだけで済ます機種が増えてきたこともあって、結構な問題にも発展してきている。時代の流れといえばそれまでだが、今まで通りにゲームを稼動してきた店には大打撃他ならない。何せ、新しいゲームを仕入れられないも同然なのだから。
なにぶん、ネットワーク環境を整えるにも負担は掛かるらしく、個人経営の店なんかではまず入荷しないこともある。環境がなかったらなかったでサポートが一切ないから更新もされない。昔のゲームなら一度ゲームの筐体を置いておけば、中身の基盤を店側が購入して入れ替えるだけで済んだが、今はもはや古い。
電子マネーの導入もかなりの反響が大きいらしい。今までは一般的にコインでプレーするものだったが、この手のゲームは認識できる硬貨が決まっている。
100円玉かせいぜいあって50円玉。10円玉や5円玉、1円玉と細かい小銭を認識できるようにできていない。そのため、値上げの微調整が利かない。今まで100円だったゲームが突然200円になれば当然客足は遠のく。しかし120円、150円という細かい値上げができないため、収支に響く。
その点、電子マネーは事前に客が課金した金額から一定の額を差し引くだけなので細かい値段の調整が可能となる。時代は進化をするものだ。こうも便利になるとは誰が思っただろうか。
ところが、これがネックだった。電子マネーという性質上、ネットワーク環境がない店ではまず対応がつかない。そして現金がその場で払われるわけではなく、後日まとめての収入となるのでラグがある。さらにいえば、電子マネーを利用している店側は定期的にゲームを提供している会社に収入の分け前を返さなくてはならない。
従来のゲームならそう、一度ゲームの筐体を購入してしまえば後は稼動し続けてる限りは常に金が入ってくるのだから筐体分の値段を超えればいずれ収入になるだけだったが、電子マネーはそうはならない。
稼動し続けてる限り、電子マネー分の金額が定期的に差っ引かれるのだからそれまでよりもずっと収入が細くなる。儲けた分の何割かがゲーム会社に還元されていくのだから、とどのつまり、ゲームが沢山遊ばれれば遊ばれるほど店側の負担にもなりうる。
負のスパイラルという奴だろう。閉店が相次ぐのも仕方がない。長年親しまれた老舗ですらあっさり閉店してしまうくらいなのだから相当酷い状況に陥っているのだと思う。
こんな田舎で、大型のショッピングモールができて、気兼ねなく遊べるということは本当に奇跡に等しいことだと思う。よくぞ時代に取り残されず新時代に踏み切ったものだと関心するくらいだ。悲しいことだが、古いものがいつまでも大事にされていくなんて時代はもうとっくに終わってしまったのだろう。
時代の波になんて勝てるわけがないんだ。
「そういえば、ここにはビースト置いてないんだな」
「怪盗終わってないめう?」
「いや、ナイトメアごと終わらせたが、駆け足だったから青と黄譜面の未クリア埋めてなくてな」
「そりは残念めう……。めうは終わったけど、ここにはびすすは置いてないめう」
「あのゲームもまだまだ稼動してから1年も経ってないしな。むしろ近所にあってよかったくらいだ。やっぱり田舎だとこういうところがあるしね、まあ仕方ないよ」
「むむむぅ……」
何かを言いたげに芽兎めうが唸り声をあげる。なんだろう、変なことを言ってしまったのだろうか。
「そういえば、小腹すいてないか? ちょっとしたものなら奢れるが」
乗りかけた船とはいえ、ここまで付き合わせてしまったこともあるし、お礼もしておきたいという気持ちもある。ここはそうだ、年上として何か一つくらいは振舞っておくべきだろう。
「めう? で、でも悪いめう……めうは別に……」
「いいから奢らせろ。今日の勝負は芽兎の勝ち越しだからな。お前の勝ち。そういうことで」
「みゅぅん……」
「好きなもの、なんでも奢ってやるからさ」
「ほ、本当になんでもいいめう?」
「ああ、奢れる範囲のものならな」
「じゃ、じゃあ……」
※ ※ ※
目の前にあるものが一体なんなのか。認識するに難い。
大きなガラスの器に生クリームにバニラアイスが盛られ、そこにイチゴとバナナを添えられ、とろけたチョコレートをかけられたソレは、おそらくメインであろう、ちくわそのもの。それが一本まるごと突き刺さっているパフェ。
このちくわがとんでもない存在感を放っている代物ははたして、パフェと呼んでいいものなのか。
「ち・く・パ♪ ち・く・パ♪ C・K・P♪ C・K・P♪」
一方の芽兎めうはこれを前にして陽気に歌を口ずさんでいる。
なんでも、ここの名物で、ちくわパフェというものらしい。芽兎めうはちくパちくパと連呼しているが、果たしてこのパフェは人気があるものなのだろうか。なんでも奢ってやると言ったが、まさかこんな際物を注文されるとは思わなかった。
てっきりチャスコ内のフードコートか何処かに立ち寄るかと思えば、もちゃちゃにまたがる芽兎めうの先導の下、さくら野地区を離れ、連れて行かれた先はお隣の日向美地区というなんともひなびた感じをかもし出す商店街にある喫茶店、シャノワールだった。穴場にもほどがあるだろう。