「めうめうっ、あのねっ! ファンキーこたぬきさんってなあに?」
「ずいぶんとぽんぽこりんしそうめう……もしかしてファンキーコタめう?」
「そうそう、こたぬきさん! なんだか聞きなれない曲流れてるなーって思ったらお父さんがそれはこたぬきさんだよーって教えてくれたの」
「相変わらずのスイーツ変換脳めう……。ファンキーコタはインドネシア発祥の高速ダンスミュージックのことめう。通称、すっとこどっこいミュージックとも言うめう」
「すっとこどっこい?」
「そうめう。一度聴いたなら分かると思うけど、ビートが独特で、そういうふうに聞こえるめう。ものすっごいすっとこどっこいしてるめう」
「そういえば、ずぅーっとずったずったかた聴こえてたよっ!」
「このすっとこどっこいはファンキービートっていうめう。他にもカウベル系のスッコンスッコンというパーカッション鳴らしたり、急に曲を遅くしてまるで別の曲みたいに変身しちゃうダウンビートも特徴の一つめう」
「パーカッションって前にめうめうが教えてくれたよね。叩くといい音がする打楽器さんだったよね!」
「そうめうっ! ちなみにカウベルはもーもーの牛さんにつけるベルのことだけど、この場合は楽器用に改良されたベルのことめう。普通のベルみたいに中に鳴らす金属が入ってなくて、木琴や鉄筋みたいに棒で叩いて鳴らすめう」
なんだなんだ、突然音楽の授業が始まったぞ。
突然に闖入者にも驚いたが、芽兎めうの知識量は一体どうなっているんだ。本当に中学生なのか?
ぺらぺらと次から次へと芽兎めうの口から音楽知識があふれ出してくる。
中学生に教わる高校生もどうなのかと思うが、この知識の波には敵わなかったのか目を回し始めている。
「えーっ、ダウンビートもカウベルさんもないファンキーコタもあるの?」
「そもそもファンキーコタも古い呼び方で、今風に言うとファンコットと言うめう」
「うーん、よくわかんなくなってきたよぉ~ あたまがこんがらがってきたよぅ」
「むきゅ!? まりり服はぬぎぎしちゃだめう! しゅーもくがえらいこっちゃっちゃめうっ!」
一体何を思ったらこんな行動に走るのか。
混乱した果てに、目の前の女子高生が突然自分の服を脱ぎ始めた。その行為に一体どんな意味があるというのか。
ここが人の集まる場所だと分かっててやっている行動とはとても思えない。
むしろ、本当に混乱しているのかと疑いたくなるほど丁寧に一枚一枚脱いでいく。恥じらいというものがないのだろうか。
当然のことのように、公衆の面前の女子高生が服を脱ぎだしたことで、周囲の目が一気に集中してくる。
なんだなんだとざわつき始めている。一体何処まで脱ごうというのか。これではまるでAV撮影か何かと勘違いされてしまうじゃないか。
「大丈夫だよ! 絶対大丈夫だよっ!」
何がだ。
※ ※ ※
「じゃあね、めうめう! 教えてくれてありがとう! また明日ーっ」
「バイバイめうー」
先ほどの一騒動は何処吹く風で、颯爽と現れた女子高生は颯爽とまた去っていってしまった。そして芽兎めうと二人取り残されるが、その空気はなかなか複雑で、次の一言が思いつかない。
「……勝負は、めうの負けめう」
先制されて、芽兎めうが口を開く。第一声はそっちで良かったのか? いや、変に引きずるとかえって言葉に詰まるか。
「あれは、やり直しじゃないのか?」
「一回勝負って言っためう。だからやり直しもないめう」
そういえばそんなことを言っていたような気がする。
「負けは負けめう。それに賭けを始めたのもめうめう。だから……なんでも命令してもいい、めう」
そう、拗ねたように言われると気が引けるものだ。
そもそもが、おかしな賭けだった。
普段はちくわパフェだけのお遊びみたいな賭けだったのに、突然本気で勝負だなんて。しかもなんでも命令できる権利を賭けるというのも芽兎めうにしては妙なものだ。つまり、よほどお願いしたいことがあったとも捉えられる。そこまでして、してほしかったお願いとは一体なんなのか。
「さあ、命令するめうっ!」
「そう、か。命令、命令ねぇ……、急に言われると思いつかないけど……、そうだな、じゃあ芽兎めうに命令しようか」
「めぅ……」
「命令してくれ」
「むきゅっ!? それってどういうこと、めう?」
「言葉の通りだよ。芽兎めうが命令するんだよ。なんでも命令を聞くんだろ?」
「で、でもこれじゃあべこべめう……」
よほど予想外の返しだったのか、戸惑ったような顔を見せる。
今回の勝負、芽兎めうだってきっと本気で負ける気がなかったはずだ。
勝てるはずの勝負で負けて、負けたはずの勝負で勝者の権利を得る。こんな複雑なことはない。
「あのハプニングがなけりゃ確実に負けてたしな」
「でも……でも」
「不服か? あの状況、どう見たって実力では勝ってただろ?」
「ぅぅ……めぅ……、たしかに芽兎は実力で勝ってたと思うめう。そりはもう、けっちょんけっちょんで圧倒的に完膚なきまでに叩きのめせるくらい、勝ってたと思う、めう。でも……」
「でも?」
「そりでも負けたのはまりりのハプニングのせいだけじゃなくて、そんな圧倒的に実力で負けてるって自覚してるのに、最後まで本気で戦いに挑んだからめう! 自暴自棄に捨てゲーしてたらこんな結果にはならなかっためう!」
「そんな過大評価されてもなぁ」
「違うめうっ! 過大評価じゃないめうっ! 負けるのが分かってても手を抜かないなんて、普通はしないめう!」
「ちょっとトイサイダー村のスコア詰めがしたくなっただけだよ。気まぐれ気まぐれ」
「そんなの……、ウソめう。いっつも保守的なクリアラーなのに……」
「じゃあ、聞くけど、勝つ気満々でこの賭け勝負を挑んできたってことは……、それってつまり、最初から何かを命令するつもりだった、ってことだよね?」
「ふみゅぅ……」
「一体、何をしてほしかったのかな?」
「みゅみゅみゅぅ~……でも」
何故だか芽兎めうは俯いて、湯気でも吹き出しそうなくらい茹でだこのように耳まで真っ赤にさせる。その顔ときたら、素手で触ろうものなら焼きごての如くジュゥッと熱そうだ。
「もう一度言う。芽兎めうに命令する。命令してくれ」
「ほ、本当に、命令聞いてくれる、めう? なんでも、聞いてくれるめう? 聞くだけめう?」
「ああ、ちゃんと聞くし、もちろん従うよ」
「えっと……めう……、その、じゃあ、命令するめう」
※ ※ ※
目の前に建つ、威厳すら感じられるほど古めかしい木造の家。
大きく「兎月堂」と書かれている。どうやらお店らしい。
まず店先で目についたのはキレイに陳列された判子の数々だった。普通、判子というと文房具屋などでクルクル回る棚にズラリと一周するように並んで置いてあるものを想像するが、目の前の判子は一つ一つが丁寧に箱にしまわれていて、とても丁重に扱われている。
それもそのはず。ここ、兎月堂は判子屋で芽兎めうの家だ。
聞くところによると、日向美商店街で最も古く、地元の歴史書にも名前が載っているほどの歴史のある店らしい。遡れば、安土桃山時代から続く老舗中の老舗。判子の他にも博物館でしか見られそうにない骨董品が沢山並んでいる。
いつの時代のものとも分からないガラスのランプや地球儀、果てや高そうな壷、刀などなど。店の雰囲気には驚くほど馴染んでいるが、はたしてこれらは店に並べていいものなのだろうか。
大蔵出しした際には、有名な考古学者が直々に訪問してくるようなこともあったらしい。