とある砂漠の王国にて。
「おい、起きろ!」
男の怒鳴り声で牢の中の一人の青年が叩き起こされる。
その青年は一糸纏わぬ格好で手枷を嵌められ、人権など無いも同然だった。
「処刑の時間だ。来い」
「う……うー!うっううう!おうああいおいああい!(待ってくれ!僕は何もしてない!)」
「うるさい!黙れこのクソがッさっさと立て!この国の掟だ、極刑に処される物は自らの足で処刑台に登らなければならんというのも知らんのかこの屑!」
「いああ!いああ!!(嫌だ!嫌だ!)」
青年は必死に命乞いするが聞き入れられるはずもなく、首根っこを掴まれ無理矢理立たされる。
「歩け」
青年は自分が今から死に向かって歩を進める事を実感すると同時に、恐怖のあまり尿意を催し始めた。
「おっ……おいえ!おいえいあええ!(トイレ!トイレに行かせて!)」
「ああ!?うるせぇさっさと歩けこのタコッ!」
兵士は容赦なく青年の尻を思い切り蹴飛ばす。
当然、青年はろくにバランスも取れず地面に転げ落ちてしまう。
しかし兵達はそんなこと気にせず、青年を引き摺って無理やり立たせると顎で指図をする。
『歩け、死に向かって自らの足で歩け』と。
「うあ……あ……」
かつて、何の罪もなくただ平和に暮らしていたこの青年は一体何をしたというのだ?
何もしていない。
何故こんな目に遭わなければならないんだ?
運悪く見てはいけないものを見てしまったが故の口封じ。
そもそも青年は本当に何も悪いことをしていないというのに。
だからこそ誰もがカバーストーリーに騙され憎悪を向ける。
だがもうどうしようもない。
青年にはもはや逃げる術はなく、また逃げられるような状況でもない。
青年はもはや生きる希望等無かった。
よろよろとした足取りで兵達の蔑む視線を受けながら陽射し刺さる牢の出入口の階段を上る。
嗚呼、これが無罪放免だったらどれほど良かっただろうか。
だがそれは叶わない。
青年はこの国で王族殺しを犯した極悪人という事になっている。
万が一逃げ仰せたとしても、袋叩きに遭うのが関の山。
青年には死以外に選択肢はないのだ。
その様子を影から覗く者が居た事をまだ彼らは知らない。
数刻後、青年は自らの足で階段を登り切り、出入口を通る。
その眼前には幾多もの人が青年を待っていた。
皆一様に青年を睨みつけ、あわよくば青年の命を奪うために待ち構えている。
そしてその群衆の中にいた一人の少女が叫ぶ。
「さっさと首を刎ねなさいよ!こいつは王族を殺した奴なんだから!」
「そうだそうだ!王族は我らが兄弟に等しい!即ち私の家族を殺したという事!死ねッ!死ねッ!」
群衆はその言葉を皮切りに一斉に叫び出す。
中には石を投げる者までいる始末だ。
一方青年は震えていた。
これから死ぬという事にでもあるが、自分にありったけの罵声を浴びせる群衆の姿を見たからだ。
「ああ……ああっああううう!!!」
瞬間、恐怖に刺激された膀胱が限界を迎え、青年の陰茎から黄金色の液体が勢い良く放出される。
「うわぁっ汚ねぇッ!漏らしやがったぞコイツ!」
「くっさ!臭いわ!早く死に腐りなさいこのクズ野郎め!この恥知らず!」
「この外道!お前なんか生まれてこなければよかったんだ!」
「この糞尿垂れ流し野郎!生きてんじゃねえよこの変態!」
「この人殺し!お前みたいな奴がいるから俺達が迷惑すんだよ!」
「とっととくたばれこのカス!死んじまえ!」
「死んじまえ!!」
「死ね!」「死ね!」「死ね!」
自分の死を望む声の大合唱。青年は自分の命を刈り取る刃が自分の方にゆっくりと迫ってくるのを感じた。
「や……いあ……いあ……」
嫌だ。
まだ死にたくない。
助けてくれ。
誰か。
頼む。
そう考える度に尿は流れ落ちる。
自らの恐怖心を体現しているかのように。
「ひぃっ……ひぃぃ……」
「ただでさえやかましい上に漏らしまくりやがって!」
兵士は青年の尻を再び蹴り上げ、青年は悶絶。
よろよろと前に押し込まれる。
そんな事を両手で数え切れないほどに繰り返した後、遂に処刑台の上に辿り着く。
たどり着いてしまう。
青年は何度目かの失禁。
それを見ていた民衆は飽きること無く嘲笑する。
だが青年はそれに気づかない。
いや、気づく余裕すらないのだ。
(ああっ……うんこ……うんこ漏れる……!)
青年は最後の力を振り絞り、必死に足を前に出し処刑台に登る。
だがもう遅かった。
ブリョッ……
「あ……」
小便とも、屁とも明らかに異なる音が肛門から響く。
一度緩んでしまった括約筋はすぐに元には戻らない。
「あ……あ……あうう……う……」
ブリョ……プチチ……ブチッ!ブリョッ!!
「ううーーーーッ!!!!」
叫んだ。
精一杯に紛らわしたつもりだった。
だが衆目の目線は彼の股から伸びる茶色い一本の太く長い立派な糞に釘付けだった。
青年はただでさえ羞恥心で顔中真っ赤だったがこれ以上にないぐらいさらに顔を紅くし、涙を浮かべながら糞を漏らし続ける。
そしてついに、青年の肛門から飛び出した糞が地面に堕ちる。
ビチャリと音を立てて異臭を放つソレを青年は見つめる事さえ出来なかった。
再び群衆の罵声が響き渡る。
「うんわッ!?何だあれ!」
「おいッあのクソ野郎のケツから何か出てきたぞ!」
「なんだありゃあ気持ち悪りィな!」
「汚ッたねぇ!」
青年は耳を塞ぎたかった。目を閉じて現実逃避したかった。
しかしそれは許されない。
「オラッどう見たってアイツの糞だぜ!罪人にはお似合いだな!ギャハハハ!!」
市民の軽蔑する笑いがこだまする。
青年は今すぐにでも消えてしまいたいと思った。
その願いが届いたのかは分からないが突然青年は後ろから襟首を掴まれ引きずられるように歩かされる。
そして処刑台の上に立たされると、目の前のギロチンに首をかけるよう顎で指示される。
青年は恐る恐るを向けてみた。
すると視界に鉄の刃が入る。
瞬間、青年は本能的に死を感じ取った。
「あ……ああっ!あうううっ!!」
恐怖が脳裏を支配する。
「うううぅ……うーーっ!!」
青年は泣き叫びながらもなんとか逃れようと体をよじるが、当然無駄に終わる。
ただただ怯え、涙を流し、糞まで漏らす。
それが彼の運命なのだと言わんばかりに。
死刑執行人はそんな哀れで惨めな青年の様子をゴミを見るような視線を向けながら容赦なく青年の首を掴みギロチンに押し付ける。
青年はもはや抵抗する素振りを見せなかった。
いや出来なかったと形容していい。
もう助からないと悟ってしまったのだろうか、青年の全身の力は抜けきり、股間からダラダラと尿と糞便が垂れ流されていた。
もはやどうしようもない。
取れる手段という手段も無い。
(死にたくない……まだ生きていたいっ!)
その思考が脳内をぐるぐると回り続けるだけだった。
そして執行人の男は力を入れ、青年の首を挟み込み固定する。
「うあ……ああ……」
「では」
無慈悲にも死刑の宣告が為され、沸き立つ民衆。
そして次の瞬間。
鈍く、重い物が地に落ちる音がした。
頭は胴体から切り離されていた。
宙を舞い地面に転がり、支えを失ったことで身体前のめりに倒れこむ。
処刑場は静まり返っていた。
誰もが呆然としていた。
先程までの喧騒は何処へやら、まるで時が止まったかのように人々は硬直したまま動かない。
「……うぇ……?」
青年は状況が分からなかった。
状況が分からないのは青年だけではない。
周りの者は皆、突然の出来事に硬直していた。
落ちていたのは処刑人の首だった。
その傍らには、先程まで何処にも居なかった筈の少年が血に染まったナイフを片手に佇んでいた。
「いやぁぁぁッ!!」
民衆が悲鳴を上げ一斉に逃げ惑う。
「な、何が起こったんだ……!?」
「おっおっ俺達は何もしてないぞォ!」
「誰か!早く衛兵をたらふく呼べェッ!!」
「助けてくれェーッ!!」
青年はただ訳も分からずその様子を眺めることしかできず、その間にも青年の背後では少年と衛兵の剣戟が繰り広げられていた。
否、正確に言えば一方的な殺戮だった。
首も動かせない青年の目からは彼らの動きは捉えられない。
ただ、少年の勇ましい声はそのままに衛兵らしき者たちの呻き声がどんどんカサを増していく。
民衆は地を這うネズミの様に姿を消し、バタバタと衛兵の斃れる音が耳に入る。
そしてとうとう少年以外の声は一切合切聞こえなくなった。
少年が発する音のみが残る、静寂に似て静寂ではない空間。
少年が近づく音が聞こえる。
嗚呼、幻覚にしては悪くない。
多少の鬱憤晴らしをして死ねるのだから─
カチャリ、と器具が外れる音が聞こえ、首を挟み込んでいた圧迫感から解放される。
「うぇ?」
「『うぇ?』じゃねぇよ兄ちゃん、助けてやったんだからもうちょっとなんか無いのかよ……って轡ハメられてんのか?立ちな、それも外してやっから」
「あ、あう……」
青年は言われた通りに立ち上がる。
すると少年は慣れた手つきで轡を外し、呼吸を開放する。
その瞬間、青年はようやく気付いた。
自分は助けられたのだ。
生き延びる事が出来るのだ、と。
その瞬間青年の身体からは力が抜け、その場にへたり込む。
「お、おい!大丈夫かアンタ!?」
「いっいえ……大丈夫です……ただちょっと腰が抜けちゃって……」
少年は青年に手を差し伸べ、彼はその手を握り返し、起き上がる。
青年はその時初めて少年の顔を見た。
自分よりまあまあ年下だろうか、まだあどけなさを残しながらも眼光は鋭く、精巧な彫刻を思わせるほど整った顔をしている。
また、なんというかやけに艶めかしい。
身体つきもよくよく見たら鍛え抜かれており、筋肉質でありながらもスラっとした体躯をしている。
青年はその美しさに見惚れてしまっていた。
というかもう興奮しきっていた。
今までの人生でここまで美しい顔の男に出会った事が無いし、こんな美少年が自分の命を助けてくれたのだとそう思うと嬉しさよりも先に、何か得体の知れない感情が湧き上がってくる。
実を言うと青年の身体で唯一疲れ切って無いどころか非常に元気な箇所が残っていた。
股間である。
極限状態から解放された影響かその陰茎はあまりにも熱く、硬くそそり立っていた。
少年はおろか青年自身もそれに気づいていなさそうな様子だ。
「あっ……」
「どうした?調子が悪いのか?」
心配する少年に対して青年は返事を返そうとする。
「いや特にそんなことは……あっ」
その時青年はようやく自分が全裸であることを再確認し、自らの股座のモノを理解する。
それに気づいた瞬間であった。
「あの……」
「ん?どうした?」
「その……あっ……あっ♡イク♡射精るっ♡」
「へ?出るって何が?」
次の瞬間なんと青年の陰茎からドクドクと白濁液が噴き出した!
「うぇええッ!?」
「ほわぁぁぁ♡ごめんなさっオ゛ッイグ♡」
青年は思わず叫びながら謝ろうとしたが、その瞬間気を失った。
「………………噓でしょ?」
少年は呆然としていた。
目の前の青年がいきなり射精したのである。
しかも何故か自分の方に向けて。
「こいつ本当に無実なんだよな……?」
少年は青年を介抱しながら考える。
しかしすぐに答えが出るはずもなく、ひとまず青年を抱え上げ、どこかへと去っていった。
この先彼らがどうなるかは、まだ我々自身も知らない──