TSして親友と結ばれそうだったのにキモおじさんに寝取られた 作:運命は、英語でいうとディスティニー
side.内田(夏)
「会社に行く電車の中で痴漢っぽいことされた…」
とユヅが言うので、心配になった俺はユヅの家まで迎えに行き、一緒に通勤することにした。
俺が近くにいれば電車の中で何があっても守ってやれるだろう。
俺の家とユヅの家は一駅分しか離れていないので、俺が少し早起きすれば済むことだ。
そうしてしばらく一緒に通勤していた。
ある日の朝、ユヅの家の前に着いてもユヅが出てこなかった。
いつもなら準備を済ませて待っているというのに。
寝坊か?と思っていると、すぐにユヅが出てきた。
「あっ……。う、内田? もう朝だもんね、ごめんすぐ準備する」
やはり寝坊したのか。
眠そうに目をこすりながらそう言って、扉を閉めた。
前は中で待っててと言って家に入れてくれたんだけどな。
あいつも色々と女になったってことか。
俺は扉の前で燦々と降り注ぐ太陽の元、ただ待ち続けるしかなかった。
……
たまたまユヅと会社で会った。
ユヅとは部署が違うので、普段はほとんど会うことはない。
場所はというと、トイレの入口である。
お互いがトイレから出てきたところをかち合ったのだ。
が、どうやらこちらには気づいていない。
ぶつぶつと呟いている。
なんだ?
体調でも悪いんだろうか。
声をかけようとした時。
「もー…なんであんなに出すかな…垂れてきて、さいあ、く──あっ」
俺と目が合う。
驚いているのは会社で俺に会ったのが、珍しいからなのだろうか。
気まずそうにしているのは気のせいだろうか。
「あ、はは…内田じゃん。会社で会うなんて珍しいね。あたし今ちょっと忙しいから。それじゃ」
と言って取り付く島もなくそそくさと行ってしまった。
……
今日はたまたま仕事の帰り道にうまそうなシュークリームを売っていたので、
ユヅのために買っていってやろうと思う。
三度の飯よりシュークリームが大好きなユヅのことだ、きっと喜ぶだろう。
早くユヅの喜ぶ笑顔が見たくて、早歩きになる。
なんだか最近、本当にユヅのことばかり考えてるな。
『
あの時のユヅの顔は、いつまでも俺の頭から離れなかった。
ユヅの家の前に着いて、メッセージを確認する。
メッセージは前もって送っていたが、既読にならない。
寝坊の時のことを思い出して、もしかしたら寝ているのかもしれないと思い至る。
今日のところは帰るか──そう思ったけど。
買ったシュークリームの賞味期限は今日のうちに食べなきゃならない代物らしい。
仕方ない。
俺はインターホンを鳴らした。
…でも、反応がない。
部屋にいないのだろうか。
ん?
もう一度連絡しようとした時、ふと気づいた。
ドアから少し離れた床の隅。
何か落ちている。
これは…この形状、ディルドか?
それにしてもかなり大きめのサイズだが、
ぬめぬめしていて、まるで先程まで誰かが使っていたような。
なんでこんなものが──と思っていると、後ろから声をかけられた。
ユヅだ。
「、──あ、れ?なんで、内田がいるの?」
「ユヅ。今、帰ったのか?ああ、シュークリームを買ってきたから、食べないかなって」
「え、あたしのために? 嬉しいっ! ありが、と、……っ!!」
屈託のない笑顔を見せるユヅの視線が、
俺の顔、続いて俺の見ているものへ移っていく。
落ちていたディルド。
ユヅは「えっ」と声を上げ、目を見開く。
どんどん顔が青くなっていく。
「なんか、ここに落ちててさ。誰かのいたずらかな」
「し、しらない……こんなのあたし知らないよ。気持ち悪い。ねえ、早く部屋入ろ。お腹空いたんだ」
「…そう、だよな。じゃあさっそく食おうぜ」
2人で食べたシュークリームはすごく美味かったが、しばらくユヅは上の空だった。
それにしても。
帰ってきた時のユヅは、顔が妙に赤くほてっていて、髪も少し乱れて、
大きな瞳をとろんとさせて、なんというか…色気のある顔をしていた。
女の顔をしていた。
あいつ一体どこで何をしていたんだ…?
……
今日は立て続けに仕事が入って、慌だしい1日だった。
家に帰っても何もする気が起きず、ベッドに直行する。
スマホの着信音と蒸し暑さで、目が覚める。
そのまま眠っていたらしい。
全身汗まみれだ。
着信音の相手はユヅからだった。
時間を見ると、夜中の12時。
明日も仕事だと思うが、こんな夜中に何かあったのか?
すぐに通話をつなげた。
「ユヅ? こんな夜更けにどうした?」
「……」
スマホの向こう側からは、何も聞こえない。
電波が悪いところにいるのか?
いや、微かにベッドの軋む音や衣擦れする音が聞こえてくる。
「ユヅ? どうしたんだ?」
「…ちょっと、何勝手にっ…‥んッ…‥あ、う、内田? ごめん急にっ」
「え?いや全然いいけどさ」
「な、んかちょっと……あッ…勝、手に通話かかっちゃった、みたいでっ……」
「そういうことか…でも、声の様子が変、じゃないか?」
「えっちょっと……やっ…ぁッ、……んんッ…そう、かなっ…」
音声が乱れていて、はっきりとは聞こえないけれど。
普段話すユヅの声とは、様子が違っている。
どことなく苦しそうな声。
いや──セックスするときに漏れ出るような、苦しみとも
そして、時折聞こえるリップ音。
まるで今この瞬間──誰かと
「…………」
「あ、うちだ? はぁっ……ごめん、ね、…ンッ……もう今日は眠、いから、切るねッ…おやすみ」
ブツっ──と、通話を切られてしまう。
何だったんだ。
もしかして、いや、もうあれは確実に──
頭の片隅にいて離れない
……
ある日の朝、家の玄関がびしょびしょに濡れていることがあった。
誰か勝手に打ち水でもしたのか分からないが、妙な匂いがしていたのが気になった。
それを朝一緒に通勤するときに、ユヅに話してみたら、
「え? ああ…さあ、誰が、そんな変なこと。おかしな人もいるよね、ほんと」
と言っていた。
打ち水ってそんな変なことだろうか。
……
ユヅと久しぶりに買い物に来た。
年々暑さを増している気がしてならないが、今年の夏は異常に暑い。
日々死人が出るレベルでグングンと最高気温を更新し続けている。
そのうちデスバレーも追い抜けそうである。
そんなタイミングでユヅが「冷蔵庫壊れた」と言うので、
少し遠い駅にある家電販売店まで来ていた。
「んー、まあどうせだったらちょっと大きいやつにしたっていいかも」
ということで、それなりに大きくデザインと機能性に優れたものが割とすぐ見つかった。
問題はお値段だが、ちょっと値段交渉したらかなり値引きしてくれたので即決した。
当然家まで持っていけないので、後日家に直接届けてもらう。
「内田の顔は初対面だと結構怖いからね、得したかな? へへ」
「それってあんまり褒めてないよな…」
にへらと笑うユヅは、やっぱり可愛かった。
どちらかというと、モデル並みに美人なユヅのこの笑顔に、
店員がデレデレしていただけだと思う。
仕草も話し方も本当に女っぽくなったものな。
最近のユヅはよくスカートを履いている。
夏らしい白のオフショルカットソーに、黒のロングスカート。
前まではちょっとした露出も嫌がっていたが、
今は肩出しや短めのスカートぐらいなら全然着ている。
栗色の髪を高めのポニーテールで結っていて、普段は隠れてるうなじがセクシーだ。
女性らしさ溢れるしなやかな長い手足に、本当にモデルや女優のようだと思った。
そんなスタイルも抜群な美女と休日に出かけている。
漂うオーラがキラキラしている。
なんか今更ドキドキしてきた。
デート、してるみたいだ。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」
「ああ、待ってるよ」
思ったよりも早く目的のものが買えたので、
適当に近くのアウトレットに寄っていくことにした。
昼飯は何がいいかな。
ユヅは何だかんだいって味覚はまだ男っぽいようで、
豚丼だのカレーだの味の濃いものが好きだ。
うーん、び◯くりド◯キーにするか。いや、ポ◯の◯も捨てがたい…
考えながら、近くのベンチに腰掛けて、ユヅを待つ。
──30分近く待っても、戻ってこない。
流石に心配になって、何度かメッセージを送った。
すぐに既読がついて、
『ごめん、急にお腹痛くなっちゃって。もう少し待ってて』
どこかでナンパでもされているのかと焦った。
腹痛って、また何か変なものでも食べたのだろうか?
ていうか冷蔵庫が壊れて、普通に腐ったものを気づかず食べていたとか、ユヅならあり得そうだ。
まだかかるなら、薬でも買っておいてやろうか。
そうこうしているうちにユヅは来た。
結局、メッセージからさらに20分後に。
「おお、大丈夫か? 無理すんなよ。今日はもう帰るか?」
「………」
俺の前に来ても、ユヅは何も喋ろうとしない。
なんだ?
というか、口をモゴモゴさせて、何か入ってるのか?
「お、おい。大丈夫なのか?」
「……っ!…ンクッ……はぁっ…また、飲ん、じゃった…っ」
「え?」
「え。ぁぁ、ごめん。ごめんね内田。たくさん待たせちゃって。なんか変なもの食べたかな?はは、あたしドジだから……」
顔が赤い。耳の先まで。
いつか見たあの──色気のある顔。
エロい顔だ。
呼吸が荒く肩を上下させて、お洒落な服装が乱れている。
よく見たら胸元が少し開いているオフショルダーで隠れるギリギリのところに、まるでそこに赤い華を咲かせたような…点がいくつも見え隠れしている。
それは俺も若い頃によくやった──
「ゆ、ユヅ。お前、それ……」
「、──っ!」
──トイレで、何をしていたんだ?
心臓が跳ね上がった。どくん、と鼓動が胸の内から響くように。
聞かなきゃいけない。
でも、勇気がない。
今のままの俺じゃ、これ以上ユヅに踏み込むことは…
「あ……まあユヅのことだから、また変なもの拾って食ったんだろ? はは…」
そう取り繕うような俺の言葉にユヅは……
一瞬、何かに失望したような切ない顔をした。
すぐにその顔に笑顔を貼り付けて言った。
「ばか」
……
最近ユヅと連絡が取りづらくなった。
向こうから連絡が来ることが極端に減ったし、何かあったのかと心配してこちらから連絡を送っても上手くはぐらかされる。
『あー、ちょっと最近また風邪気味でさ。季節の変わり目だからかな?移したら悪いから、また今度』
『何か、買い物とか薬とか持っていこうか?』
『いや、大丈夫。自分でなんとかできるから』
いくら体調が悪いと言っても、ずっとこんな様子じゃ変だ。
職場には来ているようだし。
以前は買い物に行くとか、どこそこに付き合ってくれとか、飲みに行こうよとか、かなり頻繁に連絡が来ていたのだが。
ならばと、職場で会いに行ってみたこともある。
「悪い悪い、なんかちょっと忙しくてさ」
「そうなのか。じゃあ、暇になったら飲みに行かないか?」
「あーー…そう、だな。うん、暇になったら」
どうにも歯切れが悪かった。
ユヅの部署は時期によっては忙しいけど、周りの人らはそんなに忙しそうじゃないのが気になった。
「はぁ……」
何か、心境の変化があったのかもしれない。
もしかすると、仲良くなった男が出来て、今頃は……
ああ、やめだ。
こんなことを考えていてもラチがあかない。
今日仕事が終わったら、会いに行こう。
……
茹だるような暑さの中で、元気に蝉は鳴き続ける。
7日間で死んでしまう命で、精一杯の声を上げ続ける姿には感銘を受けるばかりだ。
今年の夏は去年の夏よりもずっと熱くて、
当然クーラーの設置されてないこの喫煙所のプレハブは、熱気がこもってサウナのようだ。
滲み出る汗を我慢しながら俺はタバコを吸い込んで、喫煙所を後にする。
いつもよりも重い足取りで、ユヅの家に向かう。
コンクリートが熱さで溶けて、足にまとわりついているのように、足が前に進んでいかない。
もし会ってくれなかったらどうしよう。
もし思い切り拒絶されたらどうしよう。
もしかして俺は何かやってしまったのか──
とうとう部屋のドアの前までやってきた。
今まで何度も来続けた、ユヅの部屋。
あいつが性転換したときも。
買い物の付き添いに来たときも。
一緒に通勤する朝にも。
飲みに行った帰りに送り届けた夜も。
なのになぜだろう、今はまるっきり──別の部屋みたいに見える。
「内田」
それでも、この顔を見れば、何も変わっていないのだと気付いた。
女であろうと、男であろうと。
友達なのだと。
「最近忙しそうだから、淋しくて会いに来たんだよ」
「あ…そっか、ごめんね。色々バタバタしてて…上がってきなよ」
「ああ。お前さ、やっぱりなんか変わったよな。最近」
「え…そ、そうかな。どんな風に?」
「可愛くなった」
「っ……へ、へーそうかな?そんなことよく恥ずかしげもなく言えるね」
「友達だからな」
ユヅは笑う。
俺も今きっと笑えている。
どんな形になっても、俺はこの子を支えたい。
そう思った。