何の確証もない真っ白な頭から導かれた考えでここまで来たが、ここまで来てからその方法が分からないということに気付く。
「どうしよう……、このおちんちん……」
もしかしたら一生とれないのかも、と背筋をゾクリとさせるような想像をしてしまったアリスだが、そこでふと、テーブルの足に目がいった。
先ほどまではずっとテーブルの上ばかり見ていたし、テーブルの上の小箱にしか気付かなかったが、テーブルに突っ伏したアリスが足元をよくよく見るとテーブルの足元にも何やら小さな箱が置いてあった。
先ほど薬が入っていた小箱によく似ている。
なんだろう、と思い、そっと拾い上げ、箱を開く。
するとやはり先ほどと同じように薬の小瓶が入っていた。
「小さく、なりたい?」
この小瓶にも手紙がついており、アリスがそっと読み上げる。これもまた可愛らしい文字だ。他には何も書かれておらず、言葉が逆であること以外は先ほどの小瓶と変わったところはない。
アリスはこの言葉の意味をどう受け取ったのか、すぐさま瓶の蓋をきゅぽんと開けるとためらいもなくコクコクと飲み始めた。
今度の薬も色々な味がいっぱい広がってくる。摘み立てのイチゴのように甘い味かと思えば、ヤマブドウのような酸っぱい味が広がり、ピーナツのような香ばしい味へと変化していく。
「お願い、小さくなって……」
まるでお祈りするかのように、アリスはじっと目を瞑る。
薬を飲み干して、リンゴジャムのような味を口の中で堪能しつつも、変化を待った。
そして、その変化はすぐに起こった。
「はぅ……っ、これ……、きゅぅぅ……!」
おなかの下を締め付けられるような感覚。おなかの中を絞られるような感覚。
変な薬を飲んだせいでおなかを壊してしまったのかとアリスが不安げにおなかをさする。
「ぁ……、また……、これ……ぁぁぁぁ」
次の瞬間、アリスのおちんちんの先がまたむずむずしだしたかと思ったそのとき、アリスの中に残っていたそれを全部一滴残らず搾り出すように勢いよく、どぴゅどぴゅ、ドクドクと白いソレが噴射される。
「ぅひぁぁぁっっ!」
ビクンビクン。背筋を震わせながらも、おなかの中から無理やり絞られるように、アリスのおちんちんの噴水はとめどなく溢れてきていた。
ビュルル、ドクドク、ピュッ、と次第に勢いがなくなるにつれて、アリスのおちんちんはまるで風船のように縮んでいき、とうとう空になって打ち止めになる頃にはアリスのおちんちんはすっかり消えてなくなっていた。
「おわった……の?」
アリスの周りはもはや洪水のように水浸し。全部アリスの出したソレだ。
だが、おちんちんはなくなっても、まだアリスの変化は収まっていない。今度はおなかだけじゃない。手も足もムズムズとして、きゅうっと締め付けられるような感覚に襲われる。
ヒュン。
「……え?」
突然、アリスの目の前にあったテーブルが大きくなる。
ヒュン。
ふと見上げればアリスの背丈よりもずっと大きくなっている。
違う。テーブルが大きくなったわけじゃない。アリスの体がどんどん縮んでいっているのだ。
ヒュン。
アリスの体が床に落ちるように、また小さくなっていく。
「わっ……ぷっ!」
ドボン。
小さく、小さく、ネズミよりもずっと小さくなったアリスはドロリとした水の中に落っこちていった。
小さくなってしまったアリスは、自分で作ってしまった洪水の中に飲まれてしまったのだ。やけにねばっこくて、手をバタバタさせてもがくも、身動きが取りづらい。
体中を丸ごと飲み込むアリスの海。どっちが前で、どっちが後ろか。そもそも上はどっちで、下もどっちだ。
残念だけど、アリスは泳ぐのが苦手。何故ならアリスの家の近くには海がないから。泳げるほど深い川もないから。泳ぐ練習だってしたことがない。せいぜい、お風呂の中にもぐったことがあるくらいだ。
床がこんなことになっているなんて大誤算だ。こんなことになるならあんなに出さなければよかったとアリスは後悔した。しかしかといってもう遅い。アリスはアリスの海の中、ブクブクと沈んでは浮き、溺れては流され、顔中、体中、果てや体の中までべちょべちょにしてしまう。
海なんて生まれてこの方行ったことはないけれど、アリスはもう海なんて行くものかと決心した。
「ぷはぁ……っ!」
何処をどう泳いできたのか、アリスは水面にまでようやくして辿り着いた。でも、まだまだ足もつかないほどの広くて、白くて、ねばっこい海が何処までも続いている。このままではまたアリスは海に沈んでしまう。
バシャバシャバシャ。どうしようどうしようとアリスがそうこうしているうちにも、波は押し寄せて、アリスの身体を押し流そうとしてくる。慌てて、もがいて、一心不乱にアリスが水面で暴れていると、何やら向こうから何か大きなものが波に流されてきた。
大きくて、透明で、中身が空っぽ。それが先ほどアリスが飲んだ薬の入っていた瓶だったのだろう。それに気付いてか気付かずか、藁にもすがる思いで、アリスは大きな瓶に手を掛け、スポンと中に納まった。
これで一安心だろう、とアリスは波に打たれる瓶の中で一息、ひゅう、とつく。
頭の先から足の先までベトベドのぐちょぐちょになったアリスの瓶詰めの出来上がりだ。冷たくなく、妙に生暖かく、アリスが凍えるようなことはなかったが、さすがのアリスもこんなべちょべちょ姿でいるのは嫌だ。早く乾かさないと。
しかしかといって、ぬちょぬちょアリス。瓶の中から出ても外はやっぱり海。せめて陸があればいいのに、と真っ白な海の水平線の向こうまで視野を投げる。
するとどうだろうか。何やら海の向こう側に明かりが見えた。それはまるでお祭りのような明かり。
きっとあれは島だ。そう確信したアリスは瓶の口から身を乗り出して、その場所を目指し、海を掻き進んでいく。波に流されながらも、まるで追い風のようにアリスは少しずつ、また少しずつ、島へと近づいていく。
島の浜辺に大きな焚き火が見えた。きっとこれがさっき見えた明かりの正体。しめた、焚き火があれば服を乾かせるはずだ。アリスの心が躍るよう。バッシャバッシャと、ぐちょぐちょ瓶詰めアリスは島の浜辺に目掛けて泳ぎだす。
ザパァン。瓶詰めアリスが浜辺に打ち上げられる。瓶の中から這い出したアリスの目の前には、大きな大きな焚き火と、それを取り囲うように、沢山の鳥たちがどっしりと座り、会議をしているようだった。
図鑑でしか見たことのない鳥ばかりだ。さすがのアリスも名前までは覚えていない。
「やーやー、やー。女の子が流れてきたねー、モア氏」
「けーけー、そうだな、ドードー様」
「ほーほー、ほほほ、ずいぶんとお疲れのようだね、バライロガモちゃん」
揃いも揃って鳥たちはホロホロと鳴く。まるで鳥の合唱団。
「お嬢さん、どちら様?」
「わ、わたし……、アリス」
「コケーコッコッコ、アリス。アリス。アリス。いい名前だ。覚えよう。三歩歩く前に覚えよう」
ご機嫌そうに、鳥の中の一匹が羽をファッサファッサとさせながらも、アリスの名前を連呼する。
なんだか楽しそうに鳥たちが会話しているけれども、もうくたくたで焚き火の前にくるのが精一杯。
「おやおや、アリス。疲れたのかい? 眠いのかい?」
「うん……、わたし、疲れたみたい……」
暖かい焚き火を前に、うとうととしてきたアリス。
鳥たちに囲まれて、浜辺に寝そべり、重いまぶたをゆったりと閉じる。
「おやすみ、アリス」
誰かが言った。優しい声で、誰かがそう言った。かさなるように、また誰かが言い、またそれに重なるように、誰かがそう言った。輪唱の子守唄のように優しい言葉がアリスに掛けられる。
そして、すっかり安心したアリスは静かに、寝息を立てる。
また、誰かが言う。
「おやすみ、アリス」