その部屋に一つだけある鏡台の上に、ちょこんと小さな薬の小瓶が置いてあった。「飲んでください」などとは決して書かれてはいなかったが、何故だかアリスはその小瓶を手にとってみたくなった。ひょいと持ち上げるが、やはり特に何も書かれてはいないし、そもそもラベルだって貼ってはいない。
小瓶の蓋をキュポンと空けると、何やらいい匂いが漂ってくる。どんな匂いかは分からないけれど、なんかいい匂いだ。飲んだら死んでしまうような猛毒ではないだろう。きっと面白い薬なのだろう。世間知らずなアリスは好奇心をくすぐられた。
小瓶を口元に運ぶと、クイっと斜めに傾ける。中の薬がコクコクとアリスの喉を通っていく。
その変化はとても早かった。小瓶の中身がまだ半分と残っているのに、見る見るうちにアリスの手が、足が、首がぐいぐいと伸びていく。天井にゴチンと頭をぶつけても尚、アリスの体はまだまだどんどん膨れ上がるように大きくなっていく。
部屋の中が窮屈になるくらい大きくなっても、アリスの体は止まることなくギシギシと家中をきしませながらも大きくなっていくばかり。とうとう入れきれなくなった足が部屋から飛び出していく。両腕も苦しくなって窓の外から飛び出してしまう。
なんということだろう。
小さな小さなアリスは、あっという間に大きな大きなアリスになってしまい、小さな小さな家の中から動けなくなってしまった。まるで家がアリスの服にでもなってしまったかのよう。
もしかしたら力いっぱい暴れたら家を壊して抜け出すこともできたのかもしれないが、ここはアリスの家ではなくシロウサギの家。まさかそんなことができるはずもなく、アリスは途方に暮れる。
「おーい、おぅい! メアリー、扇子はまだかい! 手袋は何処だぁい!」
家の外からあのシロウサギの声が聞こえる。アリスは窓から飛び出した腕を伸ばし、丁度アリスの目の前にある大きな窓、とはいってもアリスからしたら顔ほどの小さな窓だが、それを開く。窓越しに家の玄関を見下ろすと、やはりあのシロウサギが慌てた様子でピョンピョンしている。
「一体何をしているんだいメアリー!」
痺れを切らしたのか、シロウサギが玄関に飛び込んでいく。しかしその先には部屋がない。そこは丁度アリスの足と足の付け根。目の前に広がるのは部屋ではなく、アリスのスカートとパンツ。どうしたってシロウサギは家の中に入ることができない。
「なんだいこれは。メアリー・アン! メアリー・アンは何処だ」
何も知らないシロウサギはアリスのそこをぐいぐいと押していく。しかし、そんなことをしてもビクとも動かない。何故ってアリスが身動きをとれないのだから当然だ。しかしそんなことが分かるはずもないシロウサギはやはりグイグイ、グイグイとアリスのそこを一生懸命体ごと押し付けるように体当たりを続ける。
そんなところを誰にも触らせたことのないアリスは不思議な気分。痛いわけでもなければ、痒いわけでもない、ただ、足と足の付け根をそんなにグイグイとされてしまうと何故だかもどかしくて仕方なくなる。何故だかしてはいけないようなことをしているような気分になる。
たまらずアリスは窓から飛び出た腕をサァーっと玄関に回し、体当たりを続けるシロウサギとヒョイとつまむ。
「ややっ! なんだなんだ! 体が浮いてるぞ!」
そして、そのままシロウサギの門のところまでポイと投げてしまう。ちょっと乱暴だっただろうか、などと思いながらも、アリスは一安心する。あのよく分からないもどかしいものがなくなったのだから。
「なんだいなんだい今のは!」
シロウサギがギョっとして飛び跳ねる。それもそうだ。突然玄関にいたと思ったらいつの間にか門に飛ばされているのだから。しかし、それで諦めるシロウサギではなかった。
「玄関がダメなら窓だ! 窓から入ろう!」
シロウサギがピョンピョンと家の横側、窓の方へ回っていく。しかしそこはアリスの腕が飛び出している。どうやったって入れるわけがない。
「うひゃあ、なんだいこれは! メアリー・アン! 家に入れておくれ!」
しかしそうは言われても、シロウサギの家の中はアリスがギチギチに詰まっていて入れそうにもない。入れてくれなんて頼まれても入れられるわけがない。
腕の隙間からシロウサギが無理やり入ってこようとしてくるが、もふもふの白い毛皮の体はアリスにはくすぐったくて仕方ない。たまらずアリスは反対側の腕を伸ばしてシロウサギをまたヒョイとつまむと、門のところまでポーイと投げてしまう。
「うわぁー! ……イテテ、一体なんだっていうんだ!」
シロウサギの顔といったら、キツネにでもつままれた顔をしてる。
「おぅい、ビル! ビルはいるかい!」
困り果てたシロウサギがとうとう助けを求めて叫びだす。
「ヘイ、ダンナ。呼びやしたかい?」
「おおビル、来てくれたか! ちょっと助けてほしいんだ!」
「ヘイヘイ、ダンナのためなら一肌脱ぎやしょう」
そう言って颯爽と何処からともなく現れたのはなんとも大きなトカゲだった。ザラザラでテカテカとした鱗を持ったあのトカゲだ。大きいとは言ってもシロウサギよりもちょっと背が高いくらいで、今のアリスと比べてみれば小さいこと小さいこと。
「家に入れなくて困っているんだ。なんとかしてくれないかい?」
「ヘイ、お安い御用さ」
舌をチロチロとさせながらも、そういうとトカゲのビルが意気揚々、トッコトコ歩きで玄関まで歩いてくる。
「おやおやなんだい、カーテンかい? こんな玄関にあっちゃあ邪魔だなあ」
玄関をくぐったトカゲのビルがヒョイ、ヒョイとアリスのスカートの中をくぐり、さらにはアリスのパンツをもスルリと脱がしてしまう。
「ずいぶんとまあ狭い扉だあ。こりゃあ狭いぜ」
さすがのアリスも声は聞こえても、トカゲのビルが何をしているのかまでは見えない。スカートをめくられ、パンツを脱がされてスースーしててたまらないが、アリスの腕も長いけど、長くはない。窓から伸ばしても玄関の中まで伸びても、パンツを穿きなおせるくらいまでは届かない。
「ひゃっ!?」
アリスが思わず声をあげる。
アリスには何が起こったのかが分からなかった。
トカゲのビルが、アリスの中ににゅるんと入り込んでいったのだ。
細い体のビルはいともたやすく、するりするりと奥へ奥へと滑り込むようにアリスの中へ侵入していく。ビルの体はザラザラの鱗でいっぱいで、そんなものが肌をすれようものならとんでもない。
「ぁ……、ゃ、な、なに……?」
それもアリスの中。そんなところ、誰にも触れられたことなんてないし、自分でだって触ったことがない。アリスの身体で一番敏感なところ。それを遠慮もなしにビルがズリズリと入ってくるのだから、アリスにはたまったものではない。
急いでビルをどうにかしようとしても、もうビルは尻尾もつかめないくらい奥に入り込んでしまい、いくら手を伸ばしたところでどうにも届かない。ギシギシ、ギシギシと軋む家を気にする余裕もなく、ググっと手を伸ばしても、もう中に入ってしまったビルには触れることすらできない。
なんとか手が届いても、せいぜいアリスの入り口に指先が掛かるくらいだ。
「ひぃっ……ん! ゃ、やめ……、動かないで……っ!」
しかし、そうこうしているうちのアリスの中のビルは暴れるように溺れるように、しっちゃかめっちゃかに動き回っている。その度にザラザラの鱗がアリスの中を刺激して止まない。一体どんな体勢で、どんなことをしているかも想像できないが、ぐちゃぐちゃ、ぬちゃぬちゃとしめっぽい音が聞こえてくる。
これはビルの手だろうか。足だろうか。尻尾だろうか。それともチロチロの舌だろうか。それらが全部アリスの誰も触れたことのないその場所をめちゃくちゃに、ぐちゃぐちゃにする。
「ぁひ……っ、刺さった? かまれたの? なに、なにしてるの……っ?」
ビルがそこで何をしているのか全く見ることもできないアリスは不安でしかない。ビルにされるがまま、アリスの体がビクビクと跳ねる。
いつの間にか玄関の床はぬるぬるの洪水が出来上がっていた。
ガタガタ。アリスの身体が震えて、家ごと揺れる。
早くビルをなんとかしなきゃ。そうしようと思っているのに、アリスは自分の入り口をただ触れるばかりで、ビルのところまでは全く届かない。どうにかしようと爪先で触れて、自分で刺激してしまう。でもこうしないとどうにもならない。
中ではビルの体が、外ではアリスの指先が、アリスのそこを刺激し続ける。
「はぁ……、ぁぁ……、はぅぅ……、出ていって……、ビルぅ……!」
そんなことを言っても、中のビルに聞こえるわけもなく、アリスは何一つ抵抗できないまま、アリスの中で暴れるビルを好き放題にさせてしまう。
身動きも抵抗もままならないアリスはただただ悶えることしかできない。
アリスの身体が震える度にまたガタガタ、ギシギシ、家が壊れてしまうんじゃないか、というくらい、あちこちが揺れ、外にいるシロウサギからしてみればハラハラドキドキと、もうたまったものじゃない。
「ビル! 一体何をしているんだ! 家が壊れてしまうじゃないか!」
何も知らないシロウサギが、またピョンピョンと玄関まで跳んでいく。その勢いはもうまさに飛んでいくようで、玄関をくぐって、勢いあまり、シロウサギの頭がアリスの中にズボリとハマりこんでしまう。するとどうだろう。中にいたビルが押し上げられるように、さらにアリスの奥へ突き刺さる。
そこはアリスの中でも奥の奥。子供を生むための大事な場所の入り口。
そこへ今度はビルの頭がズブリと深く深く挿入る。
「―――――――ッッ!!」
シロウサギが、アリスの中からズズッ、スポンと頭を引き抜いたそのときだ。
プシャアアァァッ。それはとてつもない勢いの鉄砲水のようだった。シロウサギは玄関の外まで吹き飛ばされて、ビルはまるでロケットのようにピューンと遠くまですっ飛んでいく。